naïveの秋の新譜で、モンテヴェルディ研究のエキスパート、リナルド・アレッサンドリーニ率いるコンチェルト・イタリアーノ、ソリストたちの演奏で、「聖マルコ大聖堂のための晩課」とタイトルされる一種の讃美歌作品。なお詳細な違いはあるのだろうが、晩課とは晩祷とほぼ類似の形態をとる歌曲集とみなしてよい。
http://tower.jp/item/3652632/
(ライナーのトラック・リスト)
Monteverdi: Vespri Solenni per la Festa di San Marco
1 Responsorium: Deus in adiutorium meum intende
2 Antiphona: Egregius Christi Petrus apostolus
3 Psalmus 109: Dixit Dominus
4 Sonata in loco antiphonae: Canzon ottava a 8
5 Antiphona: Doctrinam apostolicam evangeliste Marco committens
6 Psalmus 110: Confitebor tibi Domine
7 Motectus in loco antiphonae: Christe adoramus te
8 Antiphona: Ad hec disponente dei gratia
9 Psalmus 111: Beatus vir
10 Sonata in loco antiphonae: Sonata a 8
11 Antiphona: Beate sancte Marce
12 Psalmus 112: Laudate pueri
13 Motectus in loco antiphonae: Cantate Domino
14 Antiphona: Sancte evangelista Marce
15 Psalmus 116: Laudate Dominum
16 Sonata in loco antiphonae: Sonata a 6
17 Hymnus: Athleta Christi belliger
18 Versus/Responsorium: Pulchra facie et alacri vultu/Deprecare, pastor bone
19 Antiphona: Post angelicam alloctionem
20 Magnificat
(原曲ベースのトラック・リスト)
Claudio Monteverdi(1567-1643):
1 Vespro della Beata Vergine: Domine ad adiuvandum me festina
2 Egregius christi petrus apostolus
3 Selva morale e spirituale: Dixit Dominus II
- Dixit Secondo a 8 voci concertato con gli stessi strumenti del primo
Giovanni Gabrieli(1557-1612):
4 Canzoni et sonate: Canzon No.8
Claudio Monteverdi(1567-1643):
5 Doctrinam apostolicam evangeliste marco committens
6 Selva morale e spirituale: Confitebor tibi Domine II
- Confitebor Secondo a 3. voci concertato con due violini
7 Christe adoramus te
- Bianchi, Libro primo dei mottetti, 1620
8 Ad hec disponente dei gratia
9 Selva morale e spirituale: Beatus vir I
- Beatus Primo a 6. voci concertato con due violini &
3 viole da brazzo ovvero 3 tromboni quali anco si ponno lasciare
Francesco Usper(1560-1641):
10 Compositioni armoniche, Op.3
Claudio Monteverdi(1567-1643):
11 Beate sancte marce
12 Selva morale e spirituale: Laudate pueri Dominum I
- Laudate pueri Primo à 5 [voci] concertato con due violini
13 Cantate Domino canticum novum
- Bianchi, Libro prino dei mottetti, 1620
14 Sancte evangelista marce
15 Selva morale e spirituale: Laudate Dominum omnes gentes II
- Laudate Dominum Secondo à 8 voci & due violini
Giovanni Battista Buonamente(1595-1642):
16 Sonata et Canzoni, Book 6: Sonata a 6
Claudio Monteverdi(1567-1643):
17 Athleta christi belliger
- travestimento di "Deus tuorum militum Hinno con due violini"
18 Pulchra facie et alacri vultu - Deprecare, pastor bone
19 Post angelicam allocutionem
20 Selva morale e spirituale: Magnificat I
- Magnificat Primo à 8. voci & due violini & quattro viole ouero
quattro Tromboni quali in accidente si ponno lasciare
(completed by R. Alessandrini)
Monica Piccinini, Anna Simboli (sopranos),
Andrea Arrivabene, Gianluca Ferrarini (altos),
Luca Dordolo, Raffaele Giordani (tenors),
Matteo Bellotto, Salvo Vitale (bass)
Concerto Italiano, Rinaldo Alessandrini
モンテヴェルディ: 聖マルコ大聖堂のための晩課
モンテヴェルディ:
聖母マリアの晩課 - 主よ、来たりてわれを助けたまえ
Egregius christi petrus apostolus
倫理的・宗教的な森: 主は言われた II
ガブリエリ:
カンツォンとソナタ集(1615)
モンテヴェルディ:
Doctrinam apostolicam evangeliste marco committens
倫理的・宗教的な森: わたしは主に感謝する II
われらはあなたをあがめ
Ad hec disponente dei gratia
倫理的・宗教的な森: 主を畏るるものは幸いなり
ウスペル:
8声のソナタ
モンテヴェルディ:
Beate sancte marce
倫理的・宗教的な森: しもべらよ、主を讃えよ I
主にむかいて新しき歌をうたえ(カンターテ・ドミノ)
Sancte evangelista marce
倫理的・宗教的な森: もろもろの国よ、主よ讃めたたえよ II
ブオナメンテ:
ソナタとカンツォーネ集 第6巻 - 6声のソナタ
モンテヴェルディ:
Athleta christi belliger
Pulchra facie et alacri vultu - Deprecare, pastor bone
Post angelicam allocutionem
倫理的・宗教的な森 - マニフィカト I
(R. アレッサンドリーニによる補筆完成版)
モニカ・ピッチニーニ、アンナ・シムボリ(ソプラノ)
アンドレア・アッリヴァネーネ、ジャンルカ・フェッラリーニ(アルト)
ルカ・ドルドーロ、ラファエーレ・ジョルダーニ(テノール)
マッテオ・ベッロット、サルヴォ・ヴィターレ(バス)
コンチェルト・イタリアーノ 、リナルド・アレッサンドリーニ(指揮)
鬼才アレッサンドリーニ渾身のプロジェクト
モンテヴェルディの「聖マルコ大聖堂のための晩課」
聖マルコ大聖堂の楽長を務めるなど絶対的な巨匠として君臨したモンテヴェルディ。モンテヴェルディ作品にも熱心に取り組んできているアレッサンドリーニが「倫理的、宗教的な森」および他のいくつかの作品から楽曲を選び出し、アレッサンドリーニ版の「聖マルコ大聖堂のための晩課」を編み上げました。
アレッサンドリーニはヴィヴァルディの作品でも同じような編曲を手掛けておりますが、音楽的にも内容的にも自然な流れの優れたものを完成させています。ここでも、アレッサンドリーニは、モンテヴェルディが宗教的目的のために書いたこれらの作品の核心を再認識した、と語ります。非常に真摯で厳粛さすら漂う演奏に仕上がっており、聖バルバラ教会の豊かにして繊細な音響が、この演奏をひときわ輝かしくも厳粛なものにしています。コンチェルト・イタリアーノ30周年記念のために手掛けられたこの録音は、アレッサンドリーニ渾身のプロジェクトといえるでしょう。ボーナスDVDは、マントヴァの聖バルバラ教会での録音風景や、モンテヴェルディの生涯の説明のパネルなどの合間に、イタリアらしい美味しそうな食事風景なども収録された、ちょっとおもしろい内容になっています(日本語字幕なし)。
キングインターナショナル
この作品を聴くにあたっては少し注意が必要だ。すなわち、モンテヴェルディは「聖マルコ大聖堂のための晩課」という名前の作品は書いていない。そして、アレッサンドリーニも、最終トラックのマニフィカトの補筆を除き、新しい譜面は書いていない。つまり、アレッサンドリーニが既存の作品の中から選曲して組み立てたコンピレーション作品に付けられた名称が「聖マルコ大聖堂のための晩課」である。
ライナーの扉裏にあるトラック・リストには太字でタイトルが書いてあるが、出典は各行に小さく略記されているだけなので、ぱっと見にはモンテヴェルディのオリジナル作品のように映る。そして、Responsorium、Antiphona、Psalmus、Sonataなど、晩課としての体裁を明確にするために慣例の様式を踏襲しているが、実際にはさまざまな作品から引用した聖歌/器楽曲の集合体である。但し、3、6、9、12、15トラックに等間隔で挿入されているPsalmus=聖書からの簡潔なテキストの引用で「讃美歌XX番」などに相当=は全てSelva morale e spirituale(倫理的・宗教的な森)から引用しているようだ。
また、モンテヴェルディの作品群からだけ選曲したように見えるが、実際にはガブリエリ、ウスペル、ブオナメンテといった、同時代のルネサンス期に活躍した作家たちの宗教作品からもピックアップしているのも特異なところだ。キングインターの販促文にも書いてあることだが、作家は一部違っているけれども不思議と統一感があり、自然な流れとなっている。そう言われないと気が付かない、いや、言われても明確な判別は難しいところだろう。
因みに、原曲ベースでトラック・リストを書き直したバージョンを併記した。トラック番号はそのまま継承してあるので、出典作品、作家の詳細が対比しやすいと思う。更にその下には邦題バージョンを書いてみたが、いかんせん原文がラテン語であるため翻訳が困難で、わからないものは元のままとした。
モンテヴェルディは晩課(晩祷)のための作品を幾つも書いているが、アレッサンドリーニがインスパイアされたのはたぶん聖母マリアの晩課(Vespro della Beata Vergine=聖母マリアの夕べの祈りともいう。1610年作曲)であろう。因みにこのアルバムの冒頭が聖母晩課からの引用だが。聖母晩課は分量的にはこのアレッサンドリーニ版コンピレーション晩課とは比べ物にならないほど膨大であり、一回の礼拝で全て演奏することを想定されていたかどうかについては意見が割れているようだ。アレッサンドリーニは、この非実用的な巨大規模に疑問を持ったのか、あるいはもうちょっと違う雰囲気も構想されていたはずと推察したのか、その辺はライナーの解説からは定かには読み取れないのであるが、いずれにせよ今回、こういった悠久の時間を超える興味深い試みを行ったというわけだ。
モンテヴェルディや彼の生きたルネサンス期の作品にはあまり精通していないので、的確で含蓄ある物言いは出来ないが、それでも少しだけ述べる。歌唱や祈祷文としては荘厳なのは当然としても、思った以上に楽曲としても完成度が高くて、そして、作曲技法的にはバッハ以降ほどの構築性は見られないもののそれ相応の様式美が備わっており、ある意味重厚で美しい。そして厳格対位法によってもたらされる際立って浸透性の強い曲たちが多く、現代にあってもこういった目の醒めるような鮮やかな旋律/和声は得難いのではないだろうか。
個人的な白眉は9~13トラックあたり。ここは作家跨りとなるパートであるが、精妙な統一感および類似性があって非常に気に入っている。この周辺の曲たちにはどうやら中毒性があるようで繰り返し聴きたくなってしまう。和声はシンプルだが旋律の躍動感が強く、殊に主題が3拍子系を刻むあたりでは聴くものの聴感へ何かを切々と訴えかけてくるのだ。
この演奏の優劣が分かるほど本作品には馴染んではいないが、コンチェルト・イタリアーノの発する雅(みやび)な音色は出色。特にヴィオール属のすすり泣くようなノスタルジックな弦、ブライトだが荘厳な金管群は遥か昔のルネサンス期の信仰深い宗教音楽の薫りを現代に伝えているかのようであり一種独特の雰囲気を醸す楽団である。また、プサルムスやアンティフォナで独唱を担うジャンルカ・フェッラリーニの沈着でありながら温度感もある、とても安息できるコントラルトが格別に秀逸だ。
(録音評)
naïve OP30557、通常CD。録音は少し古くて2013年12月、聖バルバラ教会(マントヴァ)とある。なお、ここは歴史が古くて、マントヴァの近郊クレモナ出身のモンテヴェルディには所縁が深い教会だ。マイク: Neumann M149,TLM170、DPA 4052、Schoeps MK21,MK4V, MK4、マイクプリ+ADC: DAD AX24、Merging HORUS Audio Converter、編集機: Pyramixとある。このところナイーヴはDAD AX24とHORUSを併用している。最初、HORUSはPCMまたはDSDを遠隔のPyramixへTCP/IPで飛ばすだけに使用しているのかと思っていたのだが、従来のAX24単独使用の録音とは音質が違っているのでどこかのマイクからのA/DにHORUSを使っているものと推察している。具体的には、空気感が更にリアルに聴こえ、また音場展開の立体感が大幅に増したことからアンビエント・マイク(ノイズ・マイク)のA/Dに使用しているのではないかと思っている。とにもかくにも新世代の超高音質録音であり、今後暫くは再生システムのクォリティも含め研究してみる必要があると考えている。
バンドルされているボーナスDVDには聖バルバラ教会での録音風景などが収められているようで興味深いが今のところ未視聴。リージョンフリー(NTSC, Region All)とある。
1日1回、
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