Vierne & Franck: Vn Sonatas@Alina Ibragimova,Cédric Tiberghien |

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Vierne & Franck: Violin Sonatas
Ysaÿe: Poème élégiaque in D minor, Op.12
Franck, C: Violin Sonata in A major
Ⅰ. Allegretto ben moderato
Ⅱ. Allegro
Ⅲ. Recitativo-Fantasia: Ben moderato
Ⅳ. Allegretto poco mosso
Vierne, L: Violin Sonata Op.23
Ⅰ. Allegro risoluto
Ⅱ. Andante sostenuto
Ⅲ. Intermezzo: Quasi vivace
Ⅳ. Largamente – Allegro agitato
Boulanger, L: Nocturne
Alina Ibragimova (Vn), Cédric Tiberghien (Pf)
フランク & ヴィエルヌ: ヴァイオリン・ソナタ集
イザイ: 悲劇的詩曲 Op.12
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
ヴィエルヌ: ヴァイオリン・ソナタ ト短調 Op.23
リリ・ブーランジェ: ヴァイオリンとピアノのための夜想曲
アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)、セドリック・ティベルギアン(Pf)
アリーナとセドリックの過去録音
アリーナはセドリックとの協演が殆どだが、キアロスクーロ四重奏団の一員でもある。多くはないが以下のリンクには彼女、そしてセドリックがどういった演奏をするのか、その側面は少し記してあるので参照されればと思う。





このアルバムについて
端的に言うと、この録音は、ベルギーのヴァイオリニスト=ウジェーヌ・イザイを中心とした人脈のうち、フランク、ヴィエルヌというフランスを代表するオルガニスト/作家の作品、しかも生前のイザイに深く関与した作品たちだけ抜き出して点描したテーマアルバムだ。
イザイは1800年代後半において最も高名なVnのヴィルトゥオーゾで、当時の著名作家の代表格であるフランツ・リスト、クララ・シューマンらとは密な親交があり、彼らはイザイの演奏会に足繁く通ったという。また著名なPfで、指揮者、作家でもあったアントン・ルービンシュタインとは演奏ツアーを同行するなどパートナーシップ関係にあった。一方、Vnの指導者としての要請もあり後進の育成に尽力した。イザイの弟子としてはナタン・ミルシテイン、ユーディ・メニューインらがとても有名だ。
当時の音楽家、作家たちの交友関係については他に詳しいのでそちらに譲る。なおこのアルバムの中心と思われるフランクのソナタは次のサムネイル(クリックで評へ)の通り相応に聴いてきたが、このところ余り余裕がなく買っていなかった。












イザイ: 悲劇的詩曲 Op.12
Poème Elégiaqueは邦題を悲劇的詩曲という。献呈先はフォーレ。イザイは後に詩曲と称される同等規模の作品を9つ書いているがこれはその最初の曲。

A-B-Aの三部形式で、最初のA部は短調ではあるが美しく耽美的な旋律だ。これは献呈先のフォーレが用いた技法に近い離散する属音を使った和声が奏功していると思う。ここでのアリーナの弦は幻想的でふくよか、そして音が細かい。
一方のセドリックの伴奏はとてもソフトだが芯がしっかりしていて抜かりはない。中間のB部は非常に沈痛な曲想で、哀悼の鐘が響くなかを通過する葬列を描いたものとされる。イザイは作曲するとき、シェークスピアのロミオとジュリエットの中でジュリエットの亡骸と墓の場面からインスパイアされたという。Pfの低域弦の連打で鐘、Vnのさざ波の様な連続する不安定なフラジオレットが葬送列の沈痛な歩みを模しているようだ。
イザイはこの部分の調性をショパンの葬送ソナタを範にとり変ロ短調に決定したとされる。野太いG線を更に太くヴィオラのように弾くアリーナ、そして非情で悲愴な低域の連打を繰り返すセドリックのタッチは正確無比。なお記録によれば、この作品はイザイ自身の葬儀においても実際に演奏された。
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
フランクがイザイの結婚を祝して書いて献呈された名曲。そして実際にイザイの結婚披露宴で演奏された。この曲に関しては前掲のサムネールに示したように今まで色んな録音を聴いてきた。曲の成り立ちや構造等は詳述しない。
冒頭で少しだけ述べておくと、この曲は循環形式と称される全4楽章形式。速度指定は順にAllegretto ben Moderato ▶ Allegro ▶ Recitativo-Fantasia (ben moderato) ▶ Allegretto poco mosso となっており、要するに、少し速めから中庸~速め~中庸~少し速め、といった感じでテンポ取りを弾力的にすることで前後楽章での曲想の違いを際立たせている。

アリーナはとても静かで丁寧、かつ気品に溢れる弦裁き、セドリックのPfは極めて柔らかくて真綿で包んだように優しい。ここをゆっくり弾くと間延びしてダルな印象になりがちだが、そうではなく瞑想的で美しい和声が際立ち、逆にいい意味での緊張感が持続しているのだ。鍵となる2楽章はインテンポよりは少し急ぎ足だ。非常に熱情的な弦裁きを見せるアリーナの躍動的な姿が目に浮かぶよう。
対するセドリックの伴奏は非常に理知的でありながらアリーナのテンペラメントにきっちり寄り添ってシンクロする。この楽章でよくありがちな荒れた弾き方とは無縁で、激情が迸っているけれどもトレースが極めて精密なのだ。
3楽章レチタティーヴォ・ファンタジア(Recitativo-Fantasia (ben moderato) )は、まさに歌唱するかのような揺蕩うアリーナの弦が幻想的で出色。各弦が半オクターブくらいキーが下がった感じの安定感、そして襞の深いヴィブラートが聴く者の耳をとらえて離さない。ここでもセドリックの打鍵の精緻さが光っていて完璧なトレース。時々入る独奏カデンツァにも聴き入ってしまう。
最終楽章はロンド形式のソナタ。一転して晴れやかで明媚、思いっきり飛翔する二人の音が豊かに交錯してわくわくハッピーな気分になる。楽器がアンセルモ・ベローシィオからJBグァダニーニに変わったか、またはナイロン弦がガット弦に変わってしまったか、くらい音色が違って聴こえる。それほど明媚でふっくらした音はこの祝婚曲にぴったりとマッチするのだ。かたやセドリックが弾くスタインウェイも、ファツィオリかベーゼンドルファーに変わったかの如くの柔らかくて太めの胴鳴りが聴こえる。名俳優はその声色や表情を使い分けることで様々な役に対応するが、この二人はまさに、そのような名人芸を想起させられるような弾き分けをしている。
ヴィエルヌ: ヴァイオリン・ソナタ ト短調 Op.23
フランクのソナタが書かれてから20年近く経ち、フランクの弟子であるルイ・ヴィエルネにより書かれたのがこの作品。

フランクは自分の教室の生徒だった若きヴィエルネの才能に最初から気が付いていたようで、音楽やオルガンについて熱心に指導したようだ。そして、1900年以降、ノートルダム聖堂の主席オルガン奏者を務めるまでになる。
実は、イザイはヴィエルネにこのVnソナタの作曲を委嘱していた。
それは若年期のヴィエルネが、意外なことにVn演奏にも秀でていて、またVnのための優れた作品をいくつか書いていたことに由来する。もちろん献呈先はイザイだ。なお、ヴィエルネは幼少期から白内障を患っていて視力が弱く、後年は殆ど視力を失い失明状態だった。また、家族の相次ぐ死、自身が重篤な交通事故に遭うなど苛烈な人生であったが、その精力的な活動から生み出された秀逸な作品は割と多い。
この曲は私にとってあまりに斬新で、最初は耳が慣れず奇異な印象だった。だが、数回聴き返しているうちに耳に馴染んできてヴィエルネの構想が徐々に分かってきた。1楽章は厳格なソナタ形式で、少々ワイルドでエネルギッシュで荒削りの第1主題、メロウで叙情的、飛翔感の強い第2主題から成る。なお、叙情的な表現および設計についてはフランクやイザイの気風が取り入れられ、メロウな風情が充満する。
ここでもアリーナの音の出し分け、セドリックの弾き分けが明確で、ヴィエルネの音楽設計、狙いを忠実に再現していると思われる。2楽章は未成熟な小さなソナタ、つまりソナチネか変形三部形式。他の多くの作品での緩徐楽章に相当する。メロウな導入部と第1主題は静謐で流れるような美しい旋律。しかし、第2主題がかなり苛烈でデモーニッシュな響きであり、この部分に関しては緩徐とは言えないだろう。ヴィエルネはオルガン作品でもそういった傾向があるが、優しい部分と苛烈な部分を併置することが多いが、この楽章も同様のパターン。3楽章はインテルメッツォ(間奏曲)との明示があり、速度指定はQuasi Vivace=程々に速く。シンコペーテッドで速度感のある独特の韻を踏む旋律が爽やか。和声は不規則で途中で9度もしくは11度という跳躍にすぎる場面もあって独特の浮遊感と緊張感が漲る。
最終楽章はLargamente–Allegro agitato指定、ソナタ形式でもロンド形式、あるいは三部形式でもなく、巨視的には二部形式に聴こえ、A-A'-B-B'のような構造。その冒頭のA部はラルガメント(幅広く緩やかに)指定で、ライナーノーツによれば2楽章の第2主題に再帰しているとのこと。確かに同じような和声で強いエモーションは似た雰囲気ではあるが旋律自体は違う。B部はアレグロ・アジタート(速く激しく)指定で、確かに高速スケールが煩瑣に展開される。※フィルアップのブーランジェは割愛
まとめ

録音評
Hyperion CDA68204、通常CD。録音は2018年1月11日-13日、ベニュー定番で名門のヘンリーウッド・ホール(ロンドン、イギリス)。これもまたハイペリオンの特徴であるブロードな帯域幅で歪感が少なく、そして癖や刺激の少ない均整のとれたニュートラルな音色。さりとて、ナローレンジではなくて、よく聴き込むと超高解像度で上下に極めて広い周波数帯をカバーしている。そのためアリーナのVnはごく小音量のppから最大音量まで、またセドリックがたまに繰り出す怒涛の打鍵まで歪感が一切ない状態でまるまる克明に捕捉されているのが分かる。ヘンリーウッド・ホールの暖色系の残響音も豊かで、とても美的な録音。

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