Dubois: Concertos@M.Coppey,Jean-F.Heisser/Orchestra Poitou-Charentes |

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Théodore Dubois:
Fantaisie-Stuck for cello & Orchestra
Suite concertante
Concerto Capriccioso
In Memoriam mortuorum
Andante Cantabile
Marc Coppey(Vc) & Jean-Francois Heisser(Pf & Cond)
Orchestra Poitou-Charentes
デュボワ:
・チェロと管弦楽のためのファンタジー・シュトック
・チェロ、ピアノと管弦楽のためのコンチェルタンテ組曲
・ピアノと管弦楽のためのコンチェルト・カプリチオーソ
・死者のための追悼~悲しい歌
・チェロと管弦楽のためのアンダンテ・カンタービレ
マルク・コペイ(チェロ:マッテオ・ゴフリラー1711年製)
ポワトゥ=シャラント管弦楽団
ジャン=フランソワ・エッセール(ピアノ、指揮)
MIRAREの昨秋の新譜から。デュボアという作曲家は、不勉強で恐縮だが名前だけしか知らなかった。今回、幸運にもこの盤に巡り会うことができた。もちろん他にも、名前しか知らないという作家は数多くいるのだが。
テオドール・デュボア[1857-1924]は、現代性に直面していた当時のフランス・ロマン主義の大いなる象徴であると、今日では認められるようになりつつあるようだ。深遠かつ感傷的で、しかし常にクリアであって、そして即効的な訴求力に満ちた彼のアイディアは様々なジャンルの中で私たちに雄弁に語りかけてくる。このCDに録られたコンチェルタンテ作品群は一次大戦直前のBelle Epoque Paris(ベル・エポック期=江戸の元禄、また高度経済成長期に匹敵する豊かに爛熟した黄金時代)の素晴らしい芸術的な瞬間を私たちの脳裏に蘇らせてくれる。勿論、私自身はその時代に生きたことも、パリに行ったことすらもないが。
デュボワのこの一連の作品はコンチェルタンテと分類され、これは協奏的な交響楽/室内楽、或いはミニ協奏曲の様な形態と考えれば間違いはないだろう。いずれも独奏楽器とオーケストラによる3楽章もしくは4楽章形式の自由な組曲となっており、演奏時間もそれぞれがコンパクト。あまり形式論にとらわれず肩肘の力を抜いて楽しみたい作品群だ。
冒頭のチェロと管弦楽のためのファンタジー・シュトックだが、とても明るく、色彩感に溢れた旋律が滔々と湧き出てくる佳作であり、和声はフランス印象楽派のそれに準じた浮遊感と空間感を伴う洒脱なもの。躍動的でしかも深刻でないメランコリーも少し帯びた伸びやかで独創的なメロディー・ラインは思わず口ずさみたくなるような浸透力だ。マルク・コペイの軽妙で味のあるVcはとても雄弁である。
次のチェロ、ピアノと管弦楽のためのコンチェルタンテ組曲は前曲よりも重厚に構築された作品であり、フランス印象楽派にロマン派の中でもドイツ系の硬い重層感を取り入れたような作風だ。独奏楽器にはVcとPf(エッセールの弾き振り)がフィーチャーされており、華麗さと表現幅という点においては群を抜いていて、デュボワのオーケストレーションにおける才能の一角を垣間見せる。但し、前述の通り、一つ一つの楽章はとてもコンパクトなので、いま暫くこの美しい音楽に浸っていたいとの願いは、すんでの所で遮られてしまう。各楽章は、旋律的にはテーマの連関を持った構成となっており、そういう点においては冒頭曲が主題とするならばその後の三つの楽章は第1~3変奏という関係にも見える。
ピアノと管弦楽のためのコンチェルト・カプリチオーソは、一転してロシア系、つまりチャイコフスキーやラフマニノフの様な憂愁に満ちた仄暗い曲想となっている。勿論、全編がそうではなく、カプリチオーソ=気まぐれに、幻想的に・・という形容詞にぴったりな、ダイナミックに揺れ動く、しかもロマンティックな作品だ。因みに、カプリチオはカプリチオーソの名詞形であり、こちらの方は邦訳を奇想曲という。冒頭は長いPfのカデンツァで始まる。この部分は確かにラフマニノフ的であり、フランスのどの作家の色にも似ていない。そして静かに寄り添うようにオケが入ってくる。その後はメロディアスで憂愁を帯びた和声に乗って流麗に展開していく。この和声だが、この曲にはフランス印象楽派、例えばドビュッシーやフォーレらにみられるような飛翔するイレブンス・コードやディミニッシュ系の和声は使われおらず、そして妙なトリックのない、ファンダメンタルでストレートな正攻法としている。たたみ掛けるようなシンプルなテーマがなんとも脳裏に残る、渋い佳作である。
こうやって何度か聴いていると、このデュボワという人の特徴や個性が徐々に明らかになってくる。何故ほとんど世に露出されていないのかが不思議なくらい、芸術的で典雅、そして整った楽しい作品たちである。
初めて聴くデュボワゆえ、演奏の優劣を語るには時期尚早であるが、少なくともポワトゥ=シャラントは香り高き楽団だし、ジャン=フランソワ・エッセールは確かな構築力を備えた優れた指揮者/ロマンティックで精妙、でも朗々たるPfを弾く人物。そしてコペイは流石と言わざるを得ないVcの名手であることは言を待たない。
(録音評)
MIRARE MIR141、通常CD。録音は少し古く2010年10月、場所は、超絶的な高音質で定評のあるTAP(Théâtre & Auditorium de Poitiers)である。プロデュースはルネ・マルタン社長自らが務めたもの。音質は超が付く高音質であり、文句の付けようのない出来映えだ。ディテールの描き込みはハイビット/ハイサンプリングPCMの限界まで使い切ったかの超高解像度でありながら、提示される広大なサウンドステージの中で高度に融合されるオケ/ソロ楽器がこれまた素晴らしい。つまりミクロには細部までちゃんと分離しつつ、マクロには全体が溶け合って一つのまとまったステージを構築するという、2チャンネル・ステレオフォニック録音再生方式の鑑(かがみ)のような音に仕上がっている。
深く遠く奥行き方向に展開されるステージ上にポワトゥ=シャラントの面々、エッセールとコペイの姿が見えなければ貴方の再生装置の分解能には問題があると言うことだ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫