An Evening of Cimbalom@Zlatnikova, Tokyo Cimbalom Ensemble Etc. |
モンティ: チャルダッシュ(cim,Pf)
バルトーク: ルーマニア民族舞曲(Cim×2,Pf)
作者不詳(スペイン宗教曲): 「モンセラートの朱い本」~
”おお輝くおとめよ”、”おとめにして聖なるマリア様”(Hckb,Cem)
オルティス: 3つのレセルカーダ(Hckb,Fl,Vc,Cem)
ペック: ソネット1、4(Cim)(*)
ズラトニコヴァ: 母の記憶(Cim)(*)
----------- Break ------------
バッハ:
27のコラールから18番 BWV731、
キルンベルガー・コラール2番 BWV691(以上、Hckb,Cem)
クヴァンツ: トリオ ハ長調 1,2,4楽章(Hckb,Fl,Vc,Cem)
浅川春男: カプリチオ(ツィンバロムorピアノとマリンバのための~)(Cim,Pf)
リンデ: 時の狭間に~1.昔々あるところに 2.デュファイの感触で(Cim)(*)
クーチェラ: タッチ 1. Impulsivo 2.Vibrante(Cim)(*)
K.エマーソン他: タルカス~変奏曲(arr: 内橋和久、崎村)(Fl,Hckb,Cim×2,Pf)(*)
(*)は日本初演
・カテリーナ・ズラトニコヴァ Katerina Zlatnikova(Cim)
・東京ツィンバロム・アンサンブル
崎村潤子(Cim,Pf)
山本晶子(Cim)
杉江尚子(Cim,Pf)
小川美香子(Hckb)
・松尾麻里(Fl)
・小山みどり(Vc)
・佐野さおり(Cem)
2008/10/1 18:30~20:30@ルーテル市ヶ谷センター
このコンサートがあることを知ったのは、このblog、MusicArenaのこれ http://musicarena.exblog.jp/7468166/ に、東京ツィンバロム・アンサンブル代表の崎村潤子さんからお誘いを頂いたことによる。このコンサートの目玉は、ツィンバロムという民俗楽器を演奏会レベルで用いられる独奏楽器という位置にまで押し上げた功績者=カテリーナ・ズラトニコヴァ氏の初来日だ。
プログラムはルネサンス期やバロック期の古典的な作品から現代音楽、プログレ・ロックのアレンジ作品にまで至る非常に多彩かつ広汎なもので、息もつけぬほどの目まぐるしい、そしてとても楽しめるものだった。
ツィンバロムという楽器は元々馴染みが薄い上、この楽器のために書かれた作品も多くはないため普段から耳にすることは少ない。私自身はオーケストラル作品にパーカッションの一部としてほんの僅か登場し、効果音を添える程度の出番しか聴いたことはなかった。今回はそのツィンバロムと、その親戚に当たるというハックブレットと呼ばれる小型の打弦楽器も登場したが、これは聴くのも見るのも初めてで非常に興味深いものがあった。という様に非常に風変わりな楽器及び器楽編成並びに曲目であるため、共演のFl奏者、松尾麻里氏が随所で解説Mcを挿入しながらのプログラム進行であった。これは非常に分かりやすく親切な試みだ。
まず初っぱな、崎村氏が登場していきなりチャルダッシュを弾いた。大衆酒場風に~という意味のこの曲はスケートの浅田真央が大会でよく使っているラテンの曲で、導入部としては大成功。ツィンバロムという楽器の特徴がほぼ全て明らかとなった。即ち、思っていたよりもずっと音量の大きな楽器であること、マレット捌きによりpp~ffまで広大なダイナミックレンジを持つこと、ピアノなどと同様のペダルによってサスティンが掛けられること、音域は思いのほか広いこと、等々・・・。
カテリーナ・ズラトニコヴァ氏は第一部後半に登場。客席の照明も落とされ、いよいよ・・、のはずが、なかなかステージに姿を見せない。ステージ裏ではなにやら言い合いをして揉めている風だった。少々間があって、すらっと背の高いズラトニコヴァ氏が出てきた。と、若い男性が追いかけるように袖から小走りに出てきていきなりマイクを握り締め、これからズラトニコヴァさんが曲目を演奏する前にどうしてもご自身で楽器を調律すると仰るので、とのこと。
どうやら調律師らしい彼の説明によると、他のPfやCemに合わせるためツィンバロムを12音平均律で厳密に調律してあるのが気に入らないらしい。ズラトニコヴァ氏はどこから持ってきたのかチューニングハンマーを取り出しサッサと調律を始めているさなか、マイクでこの辺の解説を滔々と喋る調律師氏に向かい「Don't speak!」と一喝、黙らせて降壇させてしまった。一部始終を見守っていた会場全体が一瞬爆笑・・。
確かに微妙にチューニングすると今までホンキートンク調だった弦(どの音かは不明)がきっちりと合って美しいブリリアンスを纏ったユニゾンを奏で始めるのである。一曲ごとにズラトニコヴァ氏自身によるツィンバロムの調律風景が見られたというオマケ付き。
さて、そのズラトニコヴァ氏の独奏だが・・、今までのものとはまるで別の楽器のように重厚で深い音が出てくる。そしてその直接音を起点として同心円状に残響が空間へと浸透していく様子が手に取るように分かる。そして第一部の最後、氏自身の手になる「母の記憶」は素晴らしかった。氏が母親とプラハで過ごした日々への追憶そして感謝をテーマとした曲だそうだが、魂がマレットの先端に乗り移ったような、そして鬼気迫る演奏であった。曲風は12音技法の無調性風、シェーンベルクやアルバン・ベルクというよりは武満に近い感じか・・。
ブレーク時に玄関ロビーにて氏の3rdアルバムだというCDを2000円で購入、ライナー裏表紙にサインをしてもらった。レーベルはなんと名門SWRでこれは音が良さそうだ。
後半、小川氏のハックブレットがソロを取るバッハのコラール2題。ツィンバロムよりは小型ではあるが浸透性の強い素朴な音色はどこかノスタルジックな記憶に訴えかけてくるものがある。チェンバロと同系統の音色なのだがマレットで叩く分、不規則で不均等な力強さがあって、チェンバロの通奏低音とは違い独奏楽器として際立っていた。
カプリチオCapricioは杉江氏のPfと崎村氏のCimがデュオをなす素晴らしい曲と演奏であった。なんとヴィヴィッドで色彩感豊かな曲なのだろう。これは真に名曲と呼ばれてもおかしくない傑作曲で、今回のプログラム中でのビックリ度はナンバーワンだった。終わった後、会場の後ろで演奏を聴いていたらしい作曲者=浅川氏本人が崎村氏に呼ばれて登壇、30年ほど前にこの曲をバルトーク音楽院で書いたときのエピソードなどを紹介された。
最後のタルカスは、あの伝説の英国プログレッシブ・ロック・ユニット、Emerson, Lake & Palmerのヒットアルバム=タルカスの同名代表曲から一部を抜粋・編曲した作品。エネルギッシュで直進性の強い鮮烈な演奏で、楽器の数を考えると出てくる音量は尋常ではない大きさ。懐かしさも手伝ってか、もっともっと続きがあればいいのに、と思ってしまって名残惜しかった。
(音質評)
ルーテル市ヶ谷の音楽ホールは主要施設の地下にあり、200席ほどの小ホールだ。狭い割には残響時間は長く感じられる。竣工からは相当な年月が経っているが古さを感じさせない良好な音響。混濁や混変調が殆ど感じられないのは傾斜した側壁、台形の客席エリア形状、コンクリート製の非対称ステージエンド、不規則な天井材による乱反射などを巧く利用することで均等な残響を得ているためと考えられる。
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