Beethoven: Diabelli Variations@Ashkenazy |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2524732
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ベートーヴェン
・ディアベリの主題による33の変奏曲ハ長調 Op.120
・ヴラニツキーのバレエ「森の乙女」のロシア舞曲の主題による12の変奏曲イ長調 WoO.71
ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
有名なディアベリ変奏曲なのだが、なんとアシュケナージ初録音とある。そうなのか・・。アシュケナージは確か2004年にN響の音楽監督に就任し、去年の夏に退任している。このCDの録音年月日を見ると退任一年前と言うことになるが、最初からの契約だったので退任は見えていたこととなる。
そう言う背景があったのかどうかは分からないが、初めて聴くアシュケナージのディアベリ変奏曲は他の録音作品に比べても浮き浮きと楽しいものであり、アシュケナージに特段の思い入れのある自分としてはとても嬉しい気分である。
アシュケナージのピアニズムについては古くからの共通(音楽)趣味の友や、かつてのピアノ仲間の間でも賛否は分かれる。否定派の多くがおしなべて語るのは垢抜けない芸風とタッチの濁りだ。前者に関しては、恐らくアゴーギクを殆ど使わない譜面通りのテンポを頑なに守るがゆえの無骨さを指摘しているのであろう。また後者に関しては肯定派とはまるで逆で、肯定派曰くニュートラルで華美な面が一切無い、しかも刺激を伴わない純粋美音であると言う点。自分もこれには賛成である。恐らく、か細くて透明かつ強い打鍵の美音ではない、という事がタッチの濁りという風に捉えられているのではないか。確かに若かりし日のポリーニやアルゲリッチなどは美音と言えば美音だが荒れた歪成分が多いとも言えるのだが。(因みに歪成分とあるが、オーディオ仲間の間でアシュケナージ等ピアニストの芸風を語る事は非常に希だ・・)
ディアベリ変奏曲に関しては手元にブレンデルの演奏 http://musicarena.exblog.jp/7443737 があったので比較してみた。非常に対照的な芸風である。ブレンデルの解釈は強いアゴーギクにこれまた深いデュナーミクを織り交ぜた感情移入の強いものだ。抑揚が強いので耳には残るしテンポ感が良いので聴かせられる演奏ではある。但し、譜面上の緩徐部を速く、急速部を遅くという対比は好き好きではなかろうか。しかし、細くてガラス細工のような鋭敏な解釈であってこの演奏はベートーヴェンのトランスクリプション集であることを忘れさせてくれる、極めて洗練されたものだ。
これに対してアシュケナージの演奏はアゴーギクがとても少なめでテンポの揺らぎは殆どない。曲想の大部分は巧妙なデュナーミクで構築されていると言って過言でない。その分、タッチは緩徐部では太く感じられ、また急速部では減速は一切無しで駆け抜けるため、弦が多少荒れた感じに響くのかもしれない。
しかし、弦の芯を突く打鍵法はピアノ本来のブリリアンスと強さを引き出し、そして骨太かつ精密な運指法はさすがだと唸らざるを得ない。もうエキセントリックなヴィルトゥオージティは要らないと言外に言っているような潔さだ。幾多の年月を経てリリースされたこのCDを聴くと「疾風に勁草を知る」という諺の意味を思い知る。
(録音評)
DECCAレーベル、4758401、通常CD。録音は2006年7月29日-8月2日、イギリス、サフォーク、ポットン・ホールとある。
音質は極めて明瞭かつ骨太で響きが良い。アシュケナージの曲想にマッチした調音であり非常にハイセンスなまとめ方だ。ピアノは中央にどっしりと定位し揺るぐことはないし、直進的な残響と克明な打鍵音が程よくバランスしており好感度は高い。すぐそこでアシュケナージが弾いている様な臨場感が味わえることは言うまでもない。
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