Arvo Pärt: Spiegel im Spiegel@Hudson, Klinger, Kruse |
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鏡の中の鏡~ペルト作品集
・鏡の中の鏡(ヴァイオリン&ピアノ版)
・アリヌーシュカの癒しに基づく変奏曲(ピアノ独奏のための)
・アリーナのために(ピアノ独奏のための)
・鏡の中の鏡(ヴィオラ&ピアノ版)
・モーツァルト=アダージョ(ヴァイオリン、チェロとピアノのための)
・鏡の中の鏡(チェロ&ピアノ版)
ベンジャミン・ハドソン(ヴァイオリン、ヴィオラ)
セバスティアン・クリンガー(チェロ)
ユルゲン・クルーゼ(ピアノ)
アルヴォ・ペルトは、一部のマニアの間でブレークしたエレーヌ・グリモーが弾いた「Credo」を作ったエストニア出身の現代作曲家だ。
アルバム名にもなっているSpiegel im Spiegel(シュピーゲル・イム・シュピーゲル)は鏡の中の鏡と訳され、同名の童話をミヒャエル・エンデ(Never Ending Storyで有名)が書いているが、このアルヴォ・ペルトの曲とは無関係と思われる。何かの映画や、去年の何かのTVCMにも使用された曲で、割と耳にしている人も多いかと思う。
この曲はピアノ独奏曲が原型でそれにVn、Va、Vcが部分的な主旋律を重ねるという形態の最小アンサンブル曲だ。楽譜は手元にないので確定的なことは言えないのだが、幼少期あまり得意ではなかったソルフェージュの思い出と共に耳で採譜してみた。
下のE(ミ)から2音下がってC(ド)に至り、ここから上昇音階に転じて1音ずつ上がって上のEまで到達すると今度は2音下がり、2音上がって下降音階に転じ、登って来たスケールを逆に辿って元のEに戻るというゆっくりとした一定速度の旋律で出来ている。4/4拍子とするならば主旋律は全音符となり、ピアノはその1/4の四分音符で規則的で中性的なアルペジオ(分散和音)を刻む。これが数度繰り返され一つの「鏡の中の鏡」が静かに終わる。そう、繰り返される主旋律の一つ一つのユニットは譜面上、上のE(ミ)の音を分水嶺としてほぼ鏡面対称になっているのだ。
鏡の中の鏡以外にはモーツァルトのPソナタ・ヘ長調K.280の二楽章からのトランスクリプションなどが入っているが、もう一つのハイライトは「アリーナのために」だ。これは以前に門光子のコンピレーションで非常に気に入った曲だがユルゲン・クルーゼの極めて内省的なPfによる演奏は珠玉もの。なお、アリーナとはペルトの娘の名前だ。
ペルトのオリジナル曲はどれもが静謐で優しく、かつ最小限の音符を厳選し尽くした究極のSimplificationが最大の特徴。繰り返し現れるゆったりとした簡素な旋律は耳に残るし、残像としてフラッシュバックしやすく、そう言った点ではミニマル音楽と言えなくはない。疲れ果てて帰宅して眠る前にゆったりとした時間を取り戻すためには好適な一枚だ。これを聴いて是非癒されて欲しいもの。
(録音評)
Brilliant Classicsレーベル、BRL8847、SACDハイブリッド。音質は驚くほど新鮮で無駄がなく、良質な残響および直接音が豊富に含まれる。さりとて過度に高解像度に振ることなく刺激的な音は効果的に抑制されている。これは多少オフマイク気味で楽器を狙って録った効果だろう。
CDレイヤーは音が少々硬い印象だがすっきりとした澄んだ味わい。SACDレイヤーはふくよかなPならびに弦に包まれるような優しさと自然な残響が特徴で、癒しという点においてはSACDレイヤーが勝る。
本当は音像定位もステージ音場も素晴らしいのであるが、そう言ったオーディオ的、分析的な聴き方をしない方がこのアルバムの真価が発揮されるであろう。
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また両作品を愛する身としては、あの鮮烈なイメージの連続する短篇集からこのように簡素な旋律が生まれてくるとは、逆立ちしても考えられませんし、セールスを考えてか、こういった適当な扱いをする業者のやり方には、どうにも遣り切れないものを感じてしまいますね。