SL聴き比べ:Debussy: 12 Etudes #10 |
ドビュッシーの練習曲集の3回目で最後。
ドビュッシー Claude Debussy: 12のエチュード / 12 Etudes
第10番: 対比的な響きのための #10: "Pour les sonorites opposees"
ピアノ: ポリーニ、内田光子
ここでいう対比的な響きとは、つまり対位法(英語ではカウンターポイント、独語ではコントラプンクトゥス)のことであり、右手が主旋律を弾く時には左手で対旋律を弾くこと、またその逆を行う奏法のことである。左手が和声法で言うところの伴奏に当たるコード(和音)を叩くのではなく、あくまでも旋律と旋律が重ね合わされて出て来る音で音楽を作る手法である。
これはバッハが確立した世界であってカノンやフーガ、トッカータに見られる輪奏の分散和音と対旋律進行にその範を見ることが出来る。しかしこのドビュッシーの曲は厳格なコントラプンクトゥスではなく、かなり自由な形式、即ち対位法「的」、つまり対比的なのである。中盤から後ろにカデンツァを伴う激しい展開部があるが、その前後では左手・右手とも旋回旋律の組み合わせでやるせなく曲が進む。
ポリーニはやるせない旋律をやるせなく弾き進む。テンポは鋼鉄のピアニストよろしくサイボーグの様に平坦で一定、デュナーミクも殆ど見られないので更に平坦に感じる。旋律のめりはりというか強弱がないため調性が分かりづらい。中盤のコードによるカデンツァは強く激しいし、剛直で重量のある解釈である。後半はピアニッシモに転じ、更に平坦にして均一な歩を進めていく。
内田光子はデュナーミク、アゴーギクを効かせつつ滑らかに静謐に弾き進む。対位法は旋律と旋律の隙間が多いので一個一個の音符に掛ける比重により、より自由な調性を表現することが出来るのだが内田はその真髄を体得しており、ドビュッシーのこの退廃的な曲を実に伸び伸びと解釈している。中盤のカデンツァは軽やかで無理がない。後半にはテンポを一段落とし、音符と音符の隙間、即ちサスティンを非常に美しく描き出していて、かつその「間」の取り方が絶妙だ。
三曲を通して共通して言えるのは、内田の表現は細やかで味わい深いこと、ポリーニの解釈は鈍色のフラット基調で感情表出が殆どなく冷たい表現であることだ。たった三曲ではあるが両者の特徴が明確に現れたと言える。
クールでダンディな剛直さをとるか、ウォームでエモーショナルな静謐さをとるかだが、あなたはどちらがお好みか?
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