Steinway Legends: Brendel |

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J.S.バッハ: 半音階的幻想曲とフーガ BWV903
ハイドン: ピアノ・ソナタ 第50番 HV XVI:50
モーツァルト: 幻想曲ハ短調 K396
シューベルト: 3つのピアノ小品(即興曲)第2番 D946
リスト:
暗い雲、夜想曲「夢のなかに」
ヴェネツィアのリヒャルト=ワーグナー
ダンテを読んで
手許にとある著書があり、その中にフランツ・リストを中心としたピアニストの師事系譜に関する記述を見つけた。ツラツラと読んでみたが、なんとブレンデルも登場するので彼から遡ってみると、大体以下のような系統図となるようである。
ブレンデルの師匠はエドウィン・フィッシャーで、他の門下生にはイェルク・デムス、そして現在は指揮者として大成したダニエル・バレンボイムなどがいる。フィッシャーはバッハ研究家としても名高い名ピアニスト。
フィッシャーが師事したのはマーチン・クラウゼという人物で、その門下生としては先に上げたフィッシャー、そしてSteinway Legens第一弾にも収録されているクラウディオ・アラウがいる。興味深いことに、クラウゼ系譜で叔父・甥の関係になるのがアラウとブレンデルということになるらしい。二人ともリストもバッハも割と好んでいるのはそういう訳か?
クラウゼが師事したのは当のフランツ・リスト本人で、つまり、ブレンデルはリスト系譜の直系のひ孫ということ、アラウはリスト直系の孫になる。尚、リストの門下生で一番有名なのはハンス・フォン・ビューローとアントン・ルービンシュタイン。
リストの師匠はアントニン・レイハとカール・ツェルニーといえるが、二人共あのベートーヴェンの愛弟子である。ベートーヴェンの師匠はご存知ハイドン、その師匠はC.P.E.バッハ(カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ)、C.P.E.バッハはJ.S.バッハの第四番目の子供、更にはパッヘルベル、ブクステフーデと遡ることが出来る。
うーん、リストに至るまでの血と、リスト以後の血が上手く混ざった結果なのか、はたまた重厚なドイツ系列とリストが融合した結果なのか(勿論、血族関係ではなく師事関係なので、そういった淡い関係の中でどこまで芸風が継承されるのかは不明)、ブレンデルは実にユニバーサルでニュートラル、そして端正なピアニズムを備えているのだ。
こういったことを念頭に置いて聴くと、プラシーボ効果も手伝ってかなるほどと頷かされる演奏なのであった。
バッハの幻想曲とフーガは元々は楽器指定無しの4声のフーガが基調だが、ピアノ独奏なので2声の対位法ということになる。ブレンデルは筋金入りのバッハ弾きであることがこの2声のフーガから良く分かる。右手と左手がバラバラに別の動機をちょっとずらしながらバランス良く弾く完璧な対位法なのだ。芸風は違うがアラウのバッハも左右2声のコントロールは完璧だった。
ハイドンは対位法を古典的交響楽まで拡張した張本人であるが、このシンプルなソナタにはバッハ時代の対位法の痕跡が深く刻まれているのがブレンデルの演奏によってつまびらかになる。実に明るく軽いタッチの好演である。
リストの演奏といえば先のミケランジェリやホロヴィッツ、若い日のアルゲリッチなどの熱くエキセントリックな解釈が印象的なのだが、ブレンデルのこのリストは極めてモデレートであり寒色系の冷静な弾き込みは大変に知性的だ。アラウのリストも色彩感は抑え気味で寒色系であり、そういった点においては共通項が見いだされる。まぁ、リストの解釈に関してはお熱いのがお好き、という人が多いのは事実であろうし、その点では意見が分かれるだろう。
ブレンデルの二枚目。
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調「熱情」
ベートーヴェン: エリーゼのために イ短調 WoO59
シューマン: 幻想小品集 作品12
モーツァルト: ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K330
ドイツの正統派ピアノ独奏曲ばかり並べた二枚目はブレンデルの、何にも媚びない毅然としたマルカート奏法がたっぷりと味わえる佳作だ。
熱情ソナタは他のスタインウェイ・レジェンズで取り上げられた多くのピアニスト達が録音しているが、ブレンデルはひたすら中庸を行く解釈であり、ひと言で言うと模範的、別の言い方をすると可もなく不可もない、ということだ。ただし、多くの場合、楽想としてアゴーギク(時間軸方向の揺らぎ)を強めに付けるのだが、ブレンデルはデュナーミク(強弱方向の揺らぎ)を入念にしかも控えめに加えて抑揚を表現している。そのためか専ら激しさが目立つ熱情ソナタが実に動的で瑞々しい演奏となっている。
エリーゼが入っているがこれはご愛敬とも言い切れない、サラリとした弾き口の中にもブレンデルのいつもの清潔な解釈が凝縮された美しい演奏だ。
幻想小曲集は、やはりデュナーミクを基調としたダイナミックな名演奏であり、このアルバム中では白眉と言える。ダイナミックにして繊細なシューマンの作風を鮮やかに描写している。
モーツァルトは賛否両論あろうが、ただでさえ単調で「つまらない」旋律が、モデレートで大人しい弾き方によって更に「つまらない」ものになっていると感じるか、淡々と清潔に流す凛とした姿勢を心地よいと取るかは個人差があろう。
(録音評)
第二弾の中では唯一のフィリップス録音。ADD仕上げも数曲含まれるが、おおかたはデジタル録音だ。他のDG盤に見られる煌びやかさが全くない、骨太なスタインウェイが生々しく捉えられている。フィリップスの名盤集であるデジタルクラシック・シリーズと殆ど同じ仕上がりと言えよう。とても潔い調音である。
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