ショパンピアノ@古畑祥子@サントリーホール・ブルーローズ |
アークヒルズ/サントリー・ブルーローズ
東横線、南北線経由で六本木一丁目駅まで。そして最寄りのサントリー・ブルーローズへ。昨年同様マチネーで14時開演。なお、今までは春の神奈川県民ホール、夏のブルーローズと二回催されていたが、神奈川県民ホールは老朽化による建て替えのため春は挙行できなくなっている。





プログラム
今年のプログラムは一部を除いて大幅に入れ替えられていた。前半がショパンのノクターン/エチュード/ポロネーズの高難度曲、後半がベートーヴェン月光、シューマン交響的練習曲という、これまた難曲ばかりで構成されていた。

Nocturne KK.IVa No.16 C # min.
Nocturne Op.9-2 E♭ maj.
Nocturne Op.27-2 D♭ maj.
Étude Op.10-3 E major "Tristesse"
Étude Op.10-4 C # minor
Étude Op.25-11 A minor "Winter Wind"
Polonaise Op.53 A♭ maj.
- Interval -
R.V.Beethoven
Piano Sonata No.14 Op.27-2 “Moonlight”
R.Schumann
Symphonic Etudes, Op.13
Encore:
C.Debussy: Suite bergamasque, L.75 3. Clair de lune
A.Piazzolla: Libertango
Sachiko Furuhata-Kersting(Pf)
ショパン
冒頭は毎年同じで、今回も遺作ノクターンの揺蕩うメロディーから始まった。重層的で起伏の大きなテンポ・ルバートは古畑さんの得意技の一つだが今年も健在、いや振幅が大きめだったかもしれない。そして今年のノクターン2曲目には著名なOp.9-2を入れてきた。インテンポより僅かに遅めで刻まれる8分の12拍子の旋律はゆったりしつつも中間の展開部では超精密な付点またシンコペーションを刻む。さすがだ。
後半はエチュードがいくつか並ぶ。別れの曲は例年通り一曲目。ちょっと遅めのテンポルバートで長周期なのは例年通り。そして今年は革命のエチュードを外し、代わりに木枯らしを持ってきた。ただならぬ緊張感、そして嵐のような高速スケール、非和声の通奏低音が緊迫感を醸し出し、何とも言えない迫力。そしてラストに英雄ポロネーズを持って来ており、これがまた大規模な作品でショパンならではの仕掛けも随所に潜む。途中の緩徐部はまさに揺蕩うスケールで弾かれるが、そこからコーダまでは急激にダイナミックレンジが拡大し、凄く激しいテンペラメント、いわば(私流の言い方だと)サチコ節が炸裂。終わったら一気に脱力してしまった。

ベートーヴェン:月光/シューマン:交響的練習曲
神秘的で静謐な入りとなる月光では、古畑さんは予測通りインテンポより遅めの拍取りで進める。が、何度もやってくる激しい展開部ではこれまた圧倒的なダイナミックレンジと極めて強い音圧レベルが発揮され、さりとて歪んで破綻する直前で統制されるという古畑さんならではの制御技術が光る。圧巻の月光だった。
今年の最後は珍しいシューマン:交響的練習曲を入れてきた。とても観念的かつ瞑想的な主旋律から徐々に変奏を重ねてエナジー感を醸成して高みへ持って行く独特の作風はシューマン作品の中でも稀有な位置付けと思う。それを敢えてラストに持ってくるとは実にチャレンジングだ。この作品は地味に聴こえるかもしれないが、打鍵、運指といった物理的技巧、情感、曲想といった表現技巧の双方でハイレベルを求められる曲。しかし、ここでの古畑さんのテンションはマックスに到達、熱気および情熱は並々ならぬものがあったろう。ほんとうに素晴らしい演奏だった。
アンコールはドビュッシーの月の光、そして敢えてもう一曲、古畑さん自らが加えてきたアストル・ピアソラのリベルタンゴ。月の光は例により幻想的で揺動する主旋律が綺麗だった。そして意外な選曲であるピアソラだが、古畑さんご本人がめっちゃ乗り乗りテンションで、それはそれは熱く激しく弾き上げていた。今夏のリサイタルも万雷の拍手にて終演。
追補:
途中では古畑さん自らがマイクを握って今回の作品群に関する選定ポリシー等を説明するのだが、それによると、ショパンにはジョルジュ・サンド、ロベルト・シューマンにはクララ・シューマン、そしてベートーヴェンにはジュリエッタ・グイチャルディという女性の存在があった。そして今回選んだ作品群を生み出すうえで彼女らが果たした役割、与えた影響は大きかったとのこと。




