ショパンピアノ@古畑祥子@サントリーホール・ブルーローズ |
アークヒルズ到着
土曜午後に魚くにでランチをいただいた後、強い雨が落ちて来るなかサントリーのブルーローズまで。昨年同様、マチネーということで14時開演。
プログラム
今年の演奏プログラムは、古畑さんのライフワークであるショパンに、これまたピアノの巨人、フランツ・リストを後半に加えたものとなっている。いわば、ロマン派ピアノ作家の代表的両巨頭を並べた王道中の王道だ。
F. Chopin:
Waltz Op.69-2 B min.
Waltz Op.64-2 C♯ min.
Étude Op.25-7 C♯ min.
Étude Op.10-3 E maj.
Étude Op.10-4 C♯ min.
Étude Op.10-12 C min.
Polonaise Op.53 A♭ maj.
- Interval -
F. Liszt:
Consolation S.172-3 D♭ maj.
Liebesträume S.541
Variationen über das Motiv von Bach, S.180 R.24
Ungarische Rhapsodie S.244-12 C♯ min.
Encore:
Debussy: Suite Bergamasque, L.75 3. Clair de lune
Sachiko Furuhata-Kersting(Pf)
ショパン
従前からのメインラインであったノクターン、アンプロンプテュ(即興曲)を外し、ワルツ、エチュード、そして末尾は英雄ポロネーズという構成。まずはワルツOp.69-2(第10番)からスタート。暗鬱で閉塞的な主題が切々と鳴らされる。次いでワルツOp.64-2(第7番)は少し諧謔なリズムとしっとりした暗めの展開が特徴だが、ここが古畑さんの真骨頂の一つ。スタッカートで切りながら少し斜め上を見やるように深くテンペラメントを籠める。
リスト
まとまった曲数のリストは初めてだった。リスト・プログラム冒頭はコンソレーション3番。この題名は日本語翻訳では「慰め」とされることが多い。リストの作風のうち瞑想的で優しく、そして純音に近いハーモニーを伴う作品の中でも代表的なもの。古畑さんは渾身を込めた珠玉のレガートで丹念に紡いでいく。あぁ、なんて美しいピアノなのだろう。
そして更なる真骨頂が愛の夢で、これまた呪術的に柔和なパッセージは、バイタルの塊のような古畑さんには似つかない儚さだ(失礼)。ところが展開部ではエナジーが噴出し始めて極彩色のスケール/和声が奏でられる。次いで、バッハの動機による変奏曲S.180だが、これは解釈が難しく、聴く側へも一定の事前知識、ある種の忍耐を要求する曲といえよう。原曲はJ.S.バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき BWV12」、およびミサ曲ロ短調 BWV232の「十字架にかけられ/Crucifixus」とされているようだが、変形が著しくて原型を留めているか否かは微妙。非和声パートが過半を占め、かつ苛烈で急進な旋律展開が多いこの難曲をパワフルに弾き進める古畑さんの姿にはある意味鬼気迫るものがあった。
プログラム最後はハンガリー狂詩曲S.244 R106の12番。この連作では2番が有名であるが個人的にはこの12番もかなり好きだ。リストはハンガリー狂詩曲と題する作品は最初に15曲を出し、そのあと追補で4曲を書いており現在では19曲が演奏される。リストは純音系の美しい作品、また濁音を含む非和声系の前衛的な作品が相半ばするが、この曲集はハンガリー土着の民族色の濃い連作集となっている。
アンコールはこのところの定番、クレール・ド・リュン(ドビュッシー:月の光)。亢進・緊張した聴覚ならびに大脳皮質を鎮めるためには奏功する曲だと実感したし、おそらく古畑さん自身も上気し、かつ疲労した身体並びに感覚を冷却するのに最適と感じているのかもしれない。
(補遺)
プログラム冊子のスキャン画像を載せたので分かると思うが、今回からメッツラー銀行の他にもスポンサーが増えた。ステージ袖のマイクの置台には大きなテディベアが置かれており、これは何だろうと思ったら協賛スポンサーにシュタイフが入っていた。そして、スタインウェイ・ジャパンが協力スポンサーとして名を連ねる。アンコール後にマイクを握った古畑さんは、この困難な局面におけるリサイタル開催に際し関係者と聴衆への謝意を述べ、かかる難局の打開へ向けての希望、祈念、そしてこれらドイツ系スポンサーとの古くからの関係性についても言及した。満席のブルーローズは全体が温かい拍手に包まれた。