ショパンピアノ@古畑祥子@サントリーホール・ブルーローズ #2 |
Chopin:
Nocturne KK.IVa No.16 C♯ minor
Nocturne Op.27 No.2 D♭ major
Impromptu Op.66 C# min(posth.) " Fantaisie-Impromptu"
Étude Op.10-3 E major
Étude Op.10-12 C minor
Scherzo No.2 B♭ minor Op.31
- Interval -
Clara Schumann:
Variationen über ein Thema von Robert Schumann fis-moll Op.20
Robert Schumann:
Etudes symphoniques Op.13
Encore:
Debussy: Suite bergamasque, L.75 3. Clair de lune
Sachiko Furuhata-Kersting(Pf)
ドビュッシー: ベルガマスク組曲 第3曲: 月の光
古畑祥子(ピアノ)
今回のプログラム
昨年から今年の年初にかけての古畑さん=Sachiko Furuhata-Kersting=の日本公演は意欲的なオール・ショパンだったが、今回は写真にある通り、ショパンの愛、シューマンの愛、それを支えた女たちというテーマが掲げられた。初めての試みだが、古畑さん自身による朗読があり、そのあとに彼女がそれぞれ連関するイメージの曲を弾くという丹念な構成だった。
朗読とは即ち、ショパンのパートにおいてはジョルジュ・サンドの、そしてシューマンのパートにおいてはクララおよびロベルトの手紙が日本語にて読み上げられた。
ショパンとジョルジュ・サンドは事実婚だったことは有名。彼が結核を患って静養のため移住したマヨルカ島(=マジョルカ島)で様々な差別と疎外を受けた際、サンドが献身的なサポートをしていた様子が読み取れる、知人に宛てた手紙が読み上げられた。特にショパン愛用のプレイエルが種々の事情でマヨルカ島に移送されないときの苦悩と苛立ちが記されていた。
ところで、聞くところによるとショパンからサンド、またサンドからショパンへの手紙は破棄されたり様々な改変が施されたため現存しないという。
シューマンは妻クララと結ばれるまで相当の紆余曲折があった。旧姓クララ・ヴィーク、父親はフリードリッヒ・ヴィークで、一族から猛反対を受けながら交際を続け遂に結婚するが、その後も順風満帆ではなかった。結婚後の彼女は子宝に恵まれ忙しい日々を送った。創作活動も演奏活動も出来ないなか、ロベルトの誕生日に際しクララがロベルトにある作品を献呈した。
それがロベルト・シューマンの主題による変奏曲Op.20の楽譜。譜面に添えられた書簡が残っている。それを朗読したのちにクララの変奏曲Op.20が演奏された。次いでそれに応じたロベルトからの感謝と愛情を表明した温かい手紙を朗読、最終曲である交響的練習曲Op.13が弾かれた。
この日がクララとロベルトが誕生日を同時に過ごす最後の日だったとは非常に悲しいことなのだが。
なお、ここ暫くの古畑さんのリサイタルの様子を以下に貼っておく。
前半:ショパン
前回のオールショパンと演奏設計はほぼ同じ感じ。
遺作ノクターンの入りは遅めの出だしで、中間部からはダイナミズムが沸きだしアチェレランドをかけながら後半、コーダへ。息を飲むほどの集中力、情感表現だ。Op.27-2は一転して華やぐのだが、そこにはサチコ節※が効いていて普通のショパン演奏とは違って、激烈な緩急を伴うエモーションが半端ない。
幻想即興曲に至ると彼女の独自世界が全開。これはもう留まるところを知らない感じで畳みかけてくる。あとのエチュード2題とスケルツォ2番は上記リンクにある通りの緩急に満ちたテンペラメンタルな表現。
※小林幸子ではない
後半:クララ&ロベルト・シューマン
クララ・シューマンのこの変奏曲は、原題をロベルトのBunte Blatter(邦題:色とりどりの小品)Op.99-4からとっている。合計で7つの変奏を重ねた力作で、私の大好きな曲の一つだが、古畑さんの演奏で聴くのは初めて。実に優しく静謐な弾き方で、ある意味とても女性的、そして懐が深い。脳の障害で変異をきたし、そのあと衰弱していくロベルトの姿をクララがどう見ていたのか、悲愴な情景を想像させられるような演奏だった。交響的練習曲Op.13は、古畑さんのOEHMSからの2枚目のアルバムで聴いてとても驚いた作品。
楽曲の成り立ちや詳細については述べないが、この名作をブルーローズで再び、しかも古畑さんの生演奏で聴けるとは稀有で幸せな体験であった。元々彼女はシューマンの演奏が特段に巧くて、これに並び称されるような演奏家は現在のところいないと個人的には評価している。コーダが終了し、心の中で、密やかに快哉を送った。
※ステージ上の実写は古畑さんのFacebookから拝借
(fin)