自家製麺 SHIN(新)@反町 |
まずはビール
天候は朝から荒れまくり、風雨が強くて傘をさしていられないほど。だが、こんな日はきっと空いているであろうと思い、気合を入れて重装備で出掛ける。いつもより多少は空いている気はするが到着時には満席。競争率の高い限定だが何とか滑り込み。今回は復帰したご子息プロデュースの牡蠣シリーズ。彼は過去にも牡蠣醤油という傑作で金字塔を打ち立てているのだ。
牡蠣塩つけめん with バジルレモン
今回の限定がこれ。
以前の牡蠣醤油のイメージを払拭する全く新しい試みで、これが牡蠣なり、といった強い主張はない。塩味は中庸から少し強い程度。アゴと牡蠣の双方の美点を奥深いところで高バランスに引き出すことに成功している。どこにも突出したところがない。音楽の楽想記号にmolt moderato(モルト モデラート)というのがある。意味は非常に穏健にだが、まさにそれを地で行く。
この牡蠣は蒸したのか茹でたのかは不明だがとても柔らか。牡蠣に特有の臭みというかある種の癖は殆ど感じられず、また独特の苦みもある程度抑制されていてとても食べやすい。そこにバジルとレモンの風味が重畳されているがこれまた突出せず良い塩梅。バジルレモンをこれ以上強くするとエスニック風のジャンキーさが際立つだろう。ビールが進み過ぎるのだ。
ビールの肴にこの牡蠣をいただくなら、あと最低3個、望むらくは5個ほど追加で欲しい。もし単品のバジルレモン牡蠣5個セットというのがあるなら合計10個確保できることとなる。この中の2個を残せれば最後の〆に温存しておいて使うことが出来て実に好都合だろう。牡蠣とアゴの旨味に満たされながら啜っていたら箸が全く止まらず麺がすぐになくなってしまった。
スープ割り+ライス ▶ 牡蠣雑炊
そして、事前に購入していたライスの食券を行使する時間がやって来た。
取り置いていた牡蠣、醤油味の鶏チャーシュー、桜の花をライスの上に移し、牡蠣/鰹出汁でご飯をひたひたにする。麺とは違った優しい風情に癒される。この段になっても仄かに香るバジルレモンだが、このモデレートで中庸を行く風味はとりもなおさず日本料理の技法。人間の深層心理に静かに侵入して味覚を麻痺させ、密かに理性を破壊していくこの味は実に卑怯なのだ。
お店データ
自家製麺 SHIN(新)
横浜市神奈川区反町1-3-8
電話:045-548-3973
営業:11:30~15:00(夜営業は当面休止)
定休:火曜(祝日でも休業)
最寄:東急東横線 反町4分
※感染症対策の消毒は万全
カウンター席には仕切りあり
今日の一曲
ピアニストとしてのステージ活動の終焉を宣言したアシュケナージが出したバッハ/パルティータ全集2枚組。彼はピアニストとしては録音は続けて行くそうだが、このパルティータを録音し終えたということは一区切りを付けたのだと個人的には思っている。ターニング・ポイントを意味するほど素晴らしい出来映えのパルティータなのだ。余り言葉を弄しても真意は伝わりづらいので簡潔に書くと、とにかく無為自然にして外連味が一切無い解釈、そして完璧な技巧にして精緻で稠密な演奏である。
(MusicArena 2010/7/24)