Debussy: Nocturnes & Duruflé: Requiem@Robin Ticciati / DSO Berlin, Magdalena Kožená |
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Debussy: Trois Nocturnes
Ⅰ. Nuages
Ⅱ. Fêtes
Ⅲ. Sirènes
Duruflé: Requiem, Op.9
Ⅰ.Introït. Requiem aeternam
Ⅱ.Kyrie
Ⅲ.Domine Jesu Christe
Ⅳ.Sanctus
Ⅴ.Pie Jesu
Ⅵ.Agnus Dei
Ⅶ.Lux aeterna
Ⅷ.Libera me
Ⅸ.In paradisum
Robin Ticciati(Cond), Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
Rundfunkchor Berlin
Magdalena Kožená(mezzo) , Valentin Radutiu(Vc)
ドビュッシー: 三つの夜想曲
Ⅰ.雲
Ⅱ.祭り
Ⅲ.シレーヌ
デュリュフレ: レクイエム
Ⅰ.入祭文
Ⅱ.キリエ
Ⅲ.主、イエス・キリスト
Ⅳ.サンクトゥス
Ⅴ.ピエ・イエズ
Ⅵ.神の子羊
Ⅶ.永遠の光
Ⅷ.我を許したまえ
Ⅸ.楽園にて
ロビン・ティチアーティ(指揮) ベルリン・ドイツ交響楽団
ベルリン放送合唱団
マグダレーナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)
ファレンティン・ラドゥティウ(チェロ)
※バリトン独唱はバスのユニゾンで代替
指揮者 ロビン・ティチアーティについて
情報はそこそこあるものの、適切な和訳がなかったので本人のホームページから少しだけ拝借。
Robin Ticciati ロビン・ティチアーティ
1983年、ロンドン生まれ。
幼少期からヴァイオリン、ピアノ、パーカッションを学び、National Youth Orchestra of Great Britain=NYOに加入。その後15歳で指揮者としてスコットランド室内Oへ招聘されて3年目を過ごし、その間、ドイツ・バンベルクSOの首席客演指揮者も兼務。協演したオケは、米国ではフィラデルフィアSO、ロサンゼルスPO、クリーヴランドO、欧州ではミラノ・スカラ座、スウェーデン放送SO、ロッテルダムPO、RCO(ロイヤルコンセルトヘボウ)、ウィーンSO、LSO、ゲヴァントハウス等々。今後はバイエルンRSO、ブダペスト祝祭O、チューリッヒ・トーンハレでも客演が決定。
また、オペラの指揮も多彩でザルツブルク音楽祭でフィガロの結婚、メトロポリタン歌劇場でヘンゼルとグレーテル、コヴェントガーデンのエフゲニー・オネーギンなどでも実績を発露している。
NYO時代にはコリン・デイヴィスやサイモン・ラトルに師事、ベルナルド・ハイティンク、シャルル・デュトワからも薫陶を受けた。その後、マリア・ジョアン・ピリスおよびスコットランド室内オーケストラと欧州ツアーを敢行して各地で絶賛を浴び、2014年に初来日ツアーが実現した。レコーディングではスコットランド室内Oを振ったベルリオーズ:幻想交響曲、バンベルクSOを振ったブラームス:セレナード1番などが挙げられ、いずれも高評価だった。
今回の盤はティチアーティがDSOベルリンを振った4枚目になるらしい。彼の名は目にしていたが、その指揮を聴くのは初めてとなる。英国出身でドイツのオケでありながらフランスの印象楽派=ドビュッシー、ラヴェル、フォーレ、アンリ・デュパルク=へ造詣が深いとの前評判が聞こえていた。そして今回のデュリュフレで合唱付きの作品へ初めて臨むということらしい。今回の録音はメゾの世界的ビッグネームであるコジェナーがアテンドしていて注目だ。未聴なのだが、ティチアーティは以前にドビュッシーの忘れられたアリエッタ、アンリ・デュパルクの旅へのいざないなどでコジェナーと共演していて、今回が同じLinnからで三枚目ということになるようだ。
この盤の収録曲はいずれもフランスものでドビュッシー、そしてデュリュフレとなるが、この両者の関係性に関しては色々あって複雑。ただ、二人の間に深い親交があったか否かは不明。どちらも重厚なコーラス、オルガン付きで演奏され、デュリュフレに関しては作家自身が書いたオリジナルのオーケストラ版を選んでいる。絢爛豪華な構成でフランス印象派の音世界を表現しようという野心的な録音。
なお、マグダレーナ・コジェナーは超優秀なメゾであり、世界的に見ても稀有な存在。今更コメントはしない。なお、MusicArenaでは過去に以下を取り上げていた。
ドビュッシー: 夜想曲
第1曲は雲。ドビュッシーらしいと言ってしまえばそれまでだが、実に新鮮な音的な描写。紙面が増えてしまうので譜面は付けないが、上空を悠然と流れて行く不定形な雲の形、動きを非常に巧く再現。悠久の時の流れを形容したとも感じられる。ただ、演奏は力強くて、雲の様々なグラデーションを味わうというよりかは、白い上層雲がひたすらに強調される感じ。
第2曲は祭り。安定しない非和声と明晰なアジア風の旋律が交錯する。この時代の作家が好んで命名したアラベスクもしくはアラビア風という曲想と言ってよかろうか。中間部から後は微細なOb、そしてClやTpなどの金管隊が加わり華麗で大胆な展開。演奏と解釈が明媚すぎて眩しいのだ。
第3曲シレーヌ。ギリシャ神話に出て来る架空の動物を描いたものと言われているが詳細は不明。なんとも不可思議で幻想的な半音階進行と、今でいうところのディミッシュ・コードで下支えされる秀作だ。冒頭から夢のような女声合唱がシレーヌの声を表現しているとのことだが、ここは実に美しい。
三曲を通して言えるのはドビュッシーが若い頃の感性で、例えば交響詩 海を書く前、また牧神午後のへの前奏曲を書いた後というのが何となく得心の行く風情の楽想。この三曲に対するティチアーティの解釈は若竹のように勢いがあって実に清冽だ。しかしながらドビュッシーが印象派風に描く影というか、暗部(dark side)というか、曖昧に表現したかった領域が殆ど見えず、極端なことを言えば日向(bright side)しかない。
デュリュフレ: レクイエム
曲が多いので絞ってハイライトだけ。冒頭イントロ(入祭文)は割と落ち着いた導入。ちょっと急ぎ気味の展開部ではオケは乱れない綺麗な旋律を刻む。しかしながらコーラスが熱く強い盛り上がり、強靭な合唱だ。続くキリエは静謐かというと前曲を受けてここは今度はオケの温度感が高い。但しベルリン放送合唱団は割と冷静で中間部では訥々と進める。
このレクイエムの演奏の出来栄えの全てを支配してしまうと言っても過言ではないのがサンクトゥス。入りは綺麗な女声コーラス。だが、オケのアテンドが非常に太くて強く、言ってみれば実像系でダイナミックな解釈と演奏設計なのだ。この盤ではバリトンを起用せず男声合唱で代替するが、それが加わる中間部トゥッティでは最大音圧レベルで炸裂するエナジー感にほとほと圧倒される。これはこれでありかとも思うが、こういった全力投球型のサンクトゥスは珍しい解釈とリードだと思う。穿った見方と先入観からの物言いになるかも知れないが、ドイツ・オケの特徴が良い意味で発露され、生真面目で基本に忠実とも言えようか。
少々の違和感とともにサンクトゥスが閉じる。そして次のピエ・イエズで耳と心の救済がもたらされる。そう、ここではコジェナーが落ち着いて、そして訥々とこちらに語り掛けるように歌い上げる。これは歌唱というより、唱誦(しょうじゅ)と言った方が適する表現手法かもしれない。これは、元々がグレゴリオ聖歌のフレームワークを忠実に写し取ろうとした作家の意図を深く汲み取っているように思えるのだ。コジェナーの歌唱力、懐の深さ、そして聴く者のシンパシーを誘発するテンペラメントは凄いとしか言いようがない。ファレンティン・ラドゥティウの奏でるチェロのすすり泣きもコジェナーの歌に合っていて素晴らしい。
ティチアーティは、この後に予想外にもう一つ大きく険しい峠を設定していた。それはリベラ・メ(我を許したまえ)で、中間部で炸裂するオケ、合唱のトゥッティだ。ここだけを聴いているとこれはレクイエムではなくオラトリオではないか、との錯覚に陥るほど絢爛で豪壮、かつ超ドラマティックな絵巻物に仕立てている。何度か聴き返すと、さきのサンクトゥスと同じスキームを適用していることが理解でき、これはこれでインテグリティのある演奏設計といえる。
録音評
Linn CKD623、通常CD。録音は2019年3月19~22日、ベニューはベルリン放送協会のゼンデザール。プリアンプ、パワーアンプ、スピーカーシステムは常時稼働させているので問題はないが、久し振りにCD/SACDプレーヤーの電源を入れたら調子が出るまで時間がかかった。プレヒートに12時間、馴らしのディスクを3~4枚再生してエージングしたら調子が戻って来た。さて、この盤の音質だが、一聴すると実に地味で特徴がないように聴こえる。しかしながら微細に聴き込むと尋常ではないワイドレンジ、かつ高S/Nで、ゼンデザールのディテールに至るまで余すところなく丹念に捉えている優秀録音であることが分かる。オケは元々の音圧レベルが高く、そしてバックではオルガンが、そして大規模コーラスが躍動する難しい曲目なのだが、破綻は全くなく、逆にトゥッティの爆発的な飽和レベルにおいても各パートの分離は良好で混濁せず、ブリリアントで美しい音色を保ち、そしてこの大音響がゼンデザールの背景空間に溶け行く様を克明に捕捉している。Linnがオーディオ機器メーカーであるというだけでこのクォリティのディスクを制作し得るとは思われないが、実に勘所を抑えた好録音。