古畑祥子 ショパン・ピアノコンサート@神奈川県民ホール |
今回のリサイタル
今回は昨秋10月にサントリーのブルーローズで開催されたオール・ショパン・プログラムと同一内容だった。よって曲目などは下のリンクを参照のこと。

Nocturne Op.48 No.1 C minor
今回は昨秋のブルーローズと同一内容だったことから、前回とは違う着眼点から少しだけ述べておきたいと思う。

ノクターン ハ短調 Op.48-1は、元々やるせない風情のショパン特有の感傷的な作品。古畑さんの弾き方は瞑想的。だが、展開部での明転以降はホール空間全体にピュアな主旋律、そして慟哭のような左手のどろどろとした非和声の連打を共鳴させる。中間部からのやるせない表情、そして強くても荒れない打鍵はさすがと言わざるを得ない。これがサチコ・ワールドの序の口。
Waltz Op.64 No.2 C# minor
プログラムの最後は前回同様に英雄ポロネーズなのだが、この一つ前の曲がこれ。古畑さんの今回の真骨頂が垣間見られるワルツの個性的な秀演。彼女はこの曲に限らず、時折斜め上を見やっては微笑んでから諧謔なスケールを弾いたりする。その仕草は独特と言っていいのだが、この曲においては特に音にも現れて来ていて非常にチャーミングなのだ。以下がこの曲の冒頭の譜面。ワルツに典型のアウフタクト(弱起)であることが分かる。

まとめ
前述のワルツの例にあるように、斜め上を見やる仕草、俯いて瞑想する仕草、顔、肩を左右に振る仕草…などなど、熱情/情感の高ぶり、つまりテンペラメントがまず心に湧き立ち、それが演奏技巧を通じて鍵盤に伝播されて音楽の表情なり外形が形成、すなわちアーティキュレーションが生まれる。今回の古畑さんはブルーローズの時よりもテンペラメントからアーティキュレーション発露へのシンクロナイズが極めて俊敏でディレイがなく、ほぼリアルタイムにレスポンスしていた。これによって旋律・和声の切れ味が鋭敏で、強弱対比のコントラストが明瞭、シームレスな曲想の連結(パッセージ)が微視的にも鮮明かつドラマティックで、とても良い演奏だった。
今般、息が詰まるような生活を余儀なくされているなか、素晴らしいショパンを聴いて感銘、勇気をもらうことが出来た。このような制約の多いなか、リサイタルを敢行された古畑さんに深く感謝したい。本来であれば現在の母国=ドイツのご家族のもとへ一刻も早く戻られればよいのだが・・。

