Nielsen: Vn-Con Op.33@Lisa Jacobs,Mikhail Agrest/Bremer PO |
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Nielsen: Violin Concerto, Op.33 (FS61)
1. Ⅰ. Praeludium: Largo - Allegro cavalleresco
2. Ⅱ. Intermezzo: Poco adagio - Rondo: Allegretto scherzando
3. Halvorsen: Andante religioso
4. Svendsen: Romanze in G Major, Op.26
Lisa Jacobs(Vn)
Bremer Philharmoniker, Mikhail Agrest(Cond.)
ニールセン: ヴァイオリン協奏曲 Op.33
1. 第1楽章 前奏曲: ラルゴ - アレグロ・カヴァレスコ
2. 第2楽章 間奏曲: ポーコ・アダージョ、ロンド: アレグロ・スケルツァンド
3. ハルヴォルセン: ヴァイオリンと管弦楽のためのアンダンテ・レリジオーソ
4. スヴェンセン: ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス Op.26
リサ・ジェーコブス(Vn)
ミハイル・アグレスト(指揮)、ブレーメン・フィルハーモニー管弦楽団
リサ・ジェイコブス、およびこのアルバムについて
リサ・ジェイコブスについては、5年ほど前に右に示すフランクのVnソナタを一枚聴いたくらいで詳しくはないが、とても良い演奏だった。
なお彼女のバイオグラフィーは右のリンク先にに少しだけ触れているのでよろしければ参照のこと。この盤のライナーノーツにはアルバム収録曲に関する的確かつ簡明な解説があったので、以下、拙いが縮約して載せておく。
今回のアルバムは、ヴァイオリンとオーケストラのための北欧ロマン派後期作品集。デンマークのニールセンが中期に書いたVnコン、それと伝統的なノルウェーロマン主義の様式を踏まえたハルヴォルセンとスヴェンセンを並べている。
北欧のあちこちで台頭したナショナル・ロマン主義は、例えば、典型的にはグリム兄弟の童話、そしてピュアで汚れなき原野の光景や田舎における農耕生活などへの憧憬を駆り立てることで広まってきた。この3人の作家は全てこの北欧ロマン主義の薫陶を間違いなく受けている。彼らの作品、特にスヴェンセンとハルヴォルセンのものは親友だったグリーグの音楽の影響を受け、それと同時に北欧特有の旋律の使い方に近い格好となっている。しかしながら、ニールセンは、新しいイディオム(様式)の確立に向けた強い探求心により模索を続ける一方、相反する純粋な古典主義の様式への復古も強く希求していた。
ニールセンのVnコンは、この矛盾を明確に示している。全体は新古典主義の4部構成をとり、あたかもバロック期のコンチェルト・グロッソのような楽曲様式を想起させられ、一見単純な古典派のような、すなわちバッハとモーツァルトの両方を借用したかの主題を持つ。それでいて、あらゆる種類の和声・律動を駆使して聴く者を北欧の原野の光景の中へと誘(いざな)うのである。
ニールセン: ヴァイオリン協奏曲 Op.33
この全2楽章の大規模協奏曲に関しては上述の通り新古典主義のようでありながら、北欧ナショナル・ロマン主義的な要素も複雑に絡めた作品。
すなわち、オーソドックスな感じなのだがちょっと変わった国民楽派的とも思える、北の田園風というか氷原風というか、何かそういった冷涼な和声が塗り込められた独特、孤高のVnコンだ。
2楽章形式ではあるが、それぞれが前半と後半に別れた作りとなっているため全4楽章形式と見ても構わない構造である。
1楽章はPraeludium、すなわち前奏曲とタイトルされるが、これはあまりに長い。冒頭はラルゴの動機で始まるが、この古風で暗めの旋律は謎めいたところがあり、暫くするとリサのVnで民族楽的で郷愁を誘う主題が歌われる。デリカシーのある魅惑的な旋律。中程で一旦このパートは終わり、アレグロ・カヴァレスコの主題がリサの毅然としたVnにより導入される。これが魔術的に美しい旋律と和声=縮約の中で記した北欧の原野の光景=であり、変奏を何度も繰り返しながら断片的に現れる。こういった堂々とした広大な空間感を演出してくるのは北欧作家に共通した特徴だろうか。いや、そうとも言えないだろう。後半には長いカデンツァがあるがリサの弓捌きは唸るほど巧く、そして音が驚くほど綺麗だ。因みに、この恐ろしく綺麗な後半の旋律・和声は、ブラームスのVnコン最終楽章と雰囲気がよく似ていてデジャブ感がある。
2楽章は、前半が間奏曲、後半がロンドと作家により明白にタイトルされている。前半のポーコ・アダージョはどちらかというと緩徐楽章に相当するパートで、旋律も和声も起伏は激しくない。リサの歌い込みは朗々としながらもふくよかで柔軟な響き。次いでロンドだが、アレグロ・スケルツァンド指定で、まさに楽想記号通りスケルツォ的な、つまり諧謔な風情のフィナーレとなる。跳ねくり回るリサの弦は変幻自在にしてドラマティック。だが荒れた弾き方とは無縁で、小刻みなヴィブラート、デュナーミクの大胆な出し入れを駆使しつつ爽快な速度感を演出。浮遊するような美しいダブルストップを四方に放散しながらこの大曲が大団円を迎える。
ハルヴォルセン、スヴェンセン
ハルヴォルセンはグリーグとは親密な関係で、音楽性を形成するうえで相当の部分で強い影響を受けたとされる。なお私生活では彼はグリーグの姪と結婚している。
ヴァイオリンと管弦楽のためのアンダンテ・レリジオーソは、ちょっと翳のある重厚な動機でスタートするが、リサの独奏で奏でられる主題は明るくて煌びやか、衒いがない。全体的には落ち着いた構成で、リサは独奏パートをゆっくり揺蕩う深い襞を明確なノンレガートで紡いでいく。オケとの絡みも良好で静かなバックに精妙なVnの音粒がしっくりと溶け込んでいく。純音系の小曲でとても美しく落ち着く。
スヴェンセンのヴァイオリンと管弦楽のためのロマンスは、部分的には暗転して寂寥感のある影が形成されるが、基本は明媚かつ明晰な、ひたすらに愛らしい旋律・和声なのだ。
この作品はスヴェンセンの最高傑作と言われるだけあり、非の打ちどころのない純和音系の美しい小品。やはりグリーグ的というか北欧ナショナル・ロマン主義を代表する佳曲だと思う。リサが優しくトレースするVnは全編が円熟した極上のレガートで紡がれる。Vnのオブリガートも多く、カデンツァに相当する独奏部も後半に配され、ここはリサのピュアで綺麗な弦を堪能できる。最後を飾るに相応しい白眉の演奏であった。
録音評
Challenge Classics、CC72799、通常CD。音質はチャレンジ・クラシックスの特徴である線の細い超高解像度であり、Vnの弦の一本一本までもが見え透くような絞られたフォーカスは息を飲むほど生々しい。リサの弦捌きがいかに優れているか、またオケとソリストとのハーモニーがどのように形成されていくかが手に取るように如実に分かる音なのだ。Thiel CS7.2を中音量で鳴らしつつ聴くと、中庸の広さのサウンドステージにリサが屹立し、一歩下がったあたりから陣取るミハイル・アグレスト率いるブレーメン・フィルの面々が丁々発止の演奏を繰り出しているのが見え透くのだ。フォーマットは通常のLPCMだが、方式によらず録音はとりもなおさず素晴らしいものがある、そういった優秀録音の好例と言えよう。
ニールセンのVnコンのリサ独奏/オケ版の音源を探したが見つからなかった。だが、リサ独奏/ピアノ伴奏版が見つかった。但し一楽章冒頭の6分前後だけだ。リンク切れするまで掲載しておくこととする。
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