MusicArena Awards 2019 |
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・2019年度前後にリリースされたCD/SACD(国内盤・輸入盤)
・演奏面/音質面ともに優れたもの
・前衛的な取り組みであると認められるもの
以上の観点から評価して以下の各賞を選考するものとする
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グラス: メタモルフォーシスⅡ 他
アン・アキコ・マイヤース(Vn)
江口玲(Pf)
クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
レーベル:Avie

ゲルマン系アメリカ人の父親/日本人の母親を持つアン・アキコ・マイヤースは極めて有名なソリストで、米国ではクラシック界のスーパースターの一人とされている。これは近現代作品を集めた意欲的なアルバム。極めて私的という点においてはまさにそうであろうと思うし、アンに近しい周囲の作家たちが大集結して持てる力を発揮したとも言えるだろう。作家の素の個性を表出したというよりは、アンの内的な情景あるいはシンパシーを、こういった素晴らしい作家たちの手を借りて音楽的感性で描き切ったというアルバムだと思う。アンは音楽の素晴らしい表現者であるとともに、齢を重ね、人間性という点においても共感できる部分が多い人と思った。

フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
ヴィエルヌ: ヴァイオリン・ソナタ ト短調 他
アリーナ・イブラギモヴァ(Vn)
セドリック・ティベルギアン(Pf)
レーベル:Hyperion

不世出のVnヴィルトゥオーゾであったイザイ。その彼を中核とした人間関係を真摯に追って、その足跡と彼らの作風の特質を見事に描き切っている優れたテーマアルバムだ。フォーレの薫陶と息吹を感じるイザイの悲劇的詩曲から始まり、 フランクの名作=イ長調ソナタ、そしてフランクと同じオルガン系統の作家であったヴィエルヌのト短調ソナタを並べており、それぞれの共通点、また全く異なった局面をつぶさに味わうことが出来た。そして何といってもアリーナとセドリックは若い演奏家でありながらこれだけ難しいテーマに立ち向かったこと、その重厚な演奏設計、そして高い完成度の演奏を成し得ているのが素晴らしい。

21のハンガリー舞曲集WoW 1
16のワルツ Op.39
シプリアン・カツァリス(Pf)
エレーヌ・メルシエ(Pf)
レーベル:Warner Classics

カツァリスとメルシエが弾くブラームスのワルツ/ハンガリー舞曲の全曲。このアルバムは、ハンガリー舞曲とワルツを続けて収録したものではなく、それぞれ順序を並べ替えつつ最終的には全曲を網羅。曲想や調性が似ている、あるいはテーマ性に共通点があるなど、そういう基準でグルーピングしているようだ。エレーヌ・メルシエは初めて聴くピアニスト。カナダ生まれでパリ在住、欧州で広く活動しているようだ。カツァリスが探していた連弾の相手としてはベストマッチだったようで、事実素晴らしい演奏を繰り広げている。少々硬めにチューニングされたピアノのディテールは恐ろしいほど明晰、少々ソリッドな二人の演奏スタイルと合っていてなかなかの好録音だ。

ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 Op.8
ロマンス ヘ長調 他
アラベラ・美歩・シュタインバッハー(Vn)
ローレンス・フォスター(指揮)、ケルンWDR交響楽団
レーベル:PentaTone Classics

これは、アラベラ・シュタインバッハーが彼女の家族が愛してやまない作曲家、R.シュトラウスに捧げたトリビュート・アルバム。録音だが、軽量でフローラルな音場空間が特徴的で、明るく華やいだ印象の音調となっている。さりとて帯域ごとの強調感は殆どなく低域から高域までブロードで稠密だ。SACDレイヤーの解像度は驚異的で、boothの弦のディテールを余すところなく再現している。最近のペンタトーンの音質は更に進化している。音楽ファン/オーディオファイルを問わず広くお勧めできる一枚。

夢想、ベルガマスク組曲(全曲)
サティ: グノシエンヌ第1番 他
アリス=紗良・オット(Pf)
レーベル:DG(Deutsche Grammophon)

ASOことアリス=沙良・オットのナイトフォールと題したテーマアルバム。ASOの録音は今まで何枚か聴いてきている。今からその評を読み返すと、わりと辛い書きぶりが散見される。最初の入りはレヴリー。なんか今までのASOとはまるで違う。最後、ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ。高度に調和した演奏上のロジックが、深いエモーションを醸成し、聴くものの心の奥底を抉る。久し振りに聴くアリスは実は大きく成長していた。

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