Schubert: P-Sonata#21 D960@Khatia Buniatishvili |

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Franz Schubert:
Piano Sonata No.21 in B flat major, D960
1. Ⅰ.Molto moderato
2. Ⅱ.Andante sostenuto
3. Ⅲ.Scherzo - Allegro vivace con delicatezza
4. Ⅳ.Allegro ma non troppo
Four Impromptus, D899
5. No.1 in C Minor: Allegro molto moderato
6. No.2 in E-Flat Major: Allegro
7. No.3 in G-Flat Major: Andante
8. No.4 in A-Flat Major: Allegretto
Ständchen - Leise flehen meine Lieder (Liszt: S559a, after Schubert)
9. Ständchen, S560 (Transcribed from Schwanengesang No.4, D957)
Khatia Buniatishvili (Pf)
フランツ・シューベルト:
ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D960
1. Ⅰ.モルト・モデラート
2. Ⅱ.アンダンテ・ソステヌート
3. Ⅲ.スケルツォ:アレグロ・ヴィヴァーチェ・コン・デリカテッツァ - トリオ
4. Ⅳ.アレグロ・マ・ノン・トロッポ - プレスト
4つの即興曲 Op.90 D899
5. No.1 アレグロ・モルト・モデラート
6. No.2 アレグロ
7. No.3 アンダンテ
8. No.4 アレグレット
9. セレナード S560(リスト編)
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
カティアの録音について
彼女は10年ほど前に彗星のように楽壇に現れたグルジアの若手女流。ソニーと専属契約して短い間に数多くの録音を矢継ぎ早にリリースしてきた。私はカティアの録音を多く聴いているわけではないが、以下、少しの盤から彼女の特徴を端的に述べると、濃密なテンペラメントを伴い、それを縦横無尽のテクニックで弾き倒して行く、極めてダイナミックで派手目の芸風と出来ようか。





このアルバムのジャケットには衝撃的な写真があるが、これはミレーの著名な絵画に倣ったものと直ぐに分かる。詳細は割愛するが、カティアはおそらくは短命だったシューベルトの晩年と逝去に至る過程をイメージして演奏したアルバムなのだと想像できる。
モーツァルトもショパンもシューマンも、またメンデルスゾーンも短命であった。有名ではないかもしれないがヘンリー・パーセル、ウェーバー、ビゼー、ムソルグスキーも短命であった。今回のカティアのこのアルバムはシューベルトの死をあらためて悼んだものであるのはまず間違いないと思うが、この種のアルバムは珍しくはなくて、生誕あるいは没年からの周期年にはアニバーサリー・アルバムがかなり多くリリースされる。これが録音されたのは2018年の12月で、シューベルトの没年月は1828年11月なので没後190周年との位置付けなのかもしれない。
ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調 D960
この曲に限らず、シューベルト晩年の作品はロマン派音楽としての出来栄えがとても良く、そして聴き応えのする寂寥感ある陰翳、重量感が出色で大好きだ。カティアがシューベルトの死を想起しながら演奏したというのは非常に頷ける内容なのだ。なお、同曲については今まで以下の秀逸な演奏を聴いてきたが、今回また新たに一枚加ることとなる。



1楽章はインテンポより僅かに遅いくらいの入り、第一主題は珍しいことに随分と抑制気味で温度感を低くして弾き進める。第二主題提示と中間部はカティアのいつものエナジーが一瞬だけ発露するが、それも直ぐになりを潜め、冒頭主題の落ち着いたスケールへ回帰。2楽章の冒頭第1主題は他の演奏と比べても超スローテンポで主題の旋律ラインが聴き取れないくらい離散的、かつ究極のppp(ピアニッシシモ)に面喰う。戸外ではノイキャン付きイヤフォンでも聴き取るのが難しいほどの弱音だ。しかし、その悲嘆に暮れたような哀しみの表現は従前のカティアには見られなかった側面。中間の第2主題、トリオは少し強めのアーティキュレーションで遷移するが再び冒頭主題が再現、沈痛な面持ちで楽章が閉じる。
3楽章はスケルツォ、前楽章とは打って変わって明るい跳躍が清々しい。テクニック的にはカティア本来の超絶技巧と超高速スケールが遺憾なく発揮されるが、重量感あるテンペラメントの発露は見られず抑制気味。終楽章もスケルツォの連続と言ってよい諧謔味のある第1主題アレグロが明媚で跳躍的、そして転調を繰り返すことの色彩感が音楽全体の明度を増している。ここでもカティアのスケール、左手伴奏部のキータッチは高速で軽量、滑らかに転がるようだ。展開部でのオクターブスケールによるユニゾンを強く連打するあたりはカティアの本来的なテンペラメンタルな発露が見られるが長くは続かず、冒頭主題を静かに、そして強く再現され曲は閉じる。全体としてめりはりの効いた演奏設計、シューベルトのこの時期の苦悩、哀愁、寂寥といった心象風景を巧く描いていると思う。
4つの即興曲 Op.90 D899
これもまたシューベルトの晩年、逝去の前年である1827年頃に書き上げられたとする珠玉の4曲。詳細には述べず少しだけコメント。なお、これも私の好きな曲たちで、今まで以下のサムネイルに示すような盤を聴いてきている。




第1曲。寂しげな孤独感を記した冒頭主題、カティアが今までにない冷涼な温度感で訥々と弾き込んでいく。彼女はまだまだ若いがこういった抑制が効くのかと一種の驚きを感じる。変奏では時間差なく鋭い打鍵を聴かせ、また中間の展開部ではちょっとだけ明転して飛翔感を見せるが直ぐに引いて静かに悲し気に歌う。
第2曲。非常に速いクロマティックを含む微細なスケールが特徴で、最初は明るい雰囲気ではあるが、変奏は途中から翳りが現れるという、やはり後期作品に共通する重厚な作風。無理のないカティアの弾きぶりはさすがで、明暗が交錯する描き分けが素晴らしい。
第3曲。豊かで長めのスケールが特徴で、ちょっと変わった和音変移を見せる6拍子のゆったりした美しい旋律と夢想的な和声が素晴らしい。カティアはちょっとだけ激しいテンペラメントを出そうとするシーンがあるが、これも抑制して訥々と弾く。理性的でバランスのとれたアーティキュレーション。
第4曲。漣のように上下する細かなスケールが特徴。中間部では左手の慟哭のような沈痛なハーモニーがシューベルトの短いながらも激動の生涯の縮図のようでもある。仄暗いなかにも毅然としたベースラインが続いて、最後に冒頭主題が漣のように再現して曲は閉じる。カティアは全体的にエナジー感を強めに弾いていてなかなかにエモーショナル。
セレナード S.560(リスト編)
白鳥の歌という、シューベルトの遺作を後世に知人や関係先の出版社が編纂した歌曲集で、レルシュタープ/ハイネ/ザイドルという三人の詩人の詩による全7曲からなる大作。その第4曲がStändchen(セレナード)で、これをリストがピアノ独奏用に書き直したのがこのS560となる。欧州では白鳥の歌は、人が亡くなる直前に人生で最高の作品を残すことの比喩として伝承的に使われるワードのようで、その意も籠めてこのアルバムの最後に置いたのかもしれない。カティアは激情を封印し、最後まで慈しむよう丁寧に優しく弾き、静かな感動を誘ってアルバムは閉じる。
録音評
SONY 19075841202、通常CD。録音は2018年12月19-23日、べニューはオーストリアのホーエネムス、マルクス・シティクス・ザールとある。なおこの場所は毎年シューベルティアーデ音楽祭が開かれている場所。野太くてハイ落ちに聴こえる渋い調音が特徴で、これはここ10数年来のソニーの特質である。ウッディで血の通った暖色系のピアノには安心するし、アルバムの編集方針に照らしてもキンキンのスタインウェイでは興醒めだろうから、ちょうど良い塩梅だと思う。

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