Melody@Olga Scheps |

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Orga Scheps: Melody
1. Mussorgsky: Vivan & Ketan Bhatti: Memories of a Promenade II
2. Helbig: Am Abend (Version for Piano Solo)
3. Gonzales: Olga Gigue
4. Chopin: Nocturne in E flat major,Op.9-2
5. Twin: Avril 14th
6. Grieg: Lyric Pieces, Op.38-3 "Melody"
7. Brahms: Intermezzo in A major,Op.118-2
8. Einaudi: Una Mattina
9. Gonzales: Armellodie
10. Gluck: Orfeo ed Euridice, Wq.30: Melody (Arr. for Piano)
11. J.S.Bach: Concerto Italiano in F Major,BWV971: Ⅱ.Andante (Transcribed for Piano)
12. Beethoven: Für Elise (Bagatelle in A minor, WoO59)
13. J.S.Bach: Concerto in D Minor,BWV974: Ⅱ.Adagio
-after A.Marcello: Oboe Concerto in D Minor,S.Z799
14. Chopin: Nocturne in D-Flat Major,Op.27-2
15. Mozart: Turkish March; Concert Paraphrase, transcribed by Arcadi Volodos
-based on Rondo alla Turca, from Piano Sonata in A Major, K.331
オルガ・シェプス:メロディ
1. ビバン・バッティ&ケタン・バッティ(1981-):
ムソルグスキー: 展覧会の絵: プロムナードIIより
2. スヴェン・ヘルビッヒ(1968-): 夕べに(Am Abend)
3. チリー・ゴンザレス(1972-): オルガ・ジーグ
4. ショパン: 夜想曲第2番 変ホ長調 Op.9-2
5. エイフェックス・ツイン(1971-): Avril 14th
6. グリーグ: 抒情小曲集第2集Op.38~メロディ
7. ブラームス: 間奏曲 イ長調 Op.118-2
8. ルドヴィコ・エイナウディ(1955-): Una mattina
9. チリー・ゴンザレス(1972-): Armellodie
10. グルック(ズガンバーティ編): メロディ
(原曲: 歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」~精霊の踊り
11. J.S.バッハ: イタリア協奏曲 ヘ長調BWV.971~第2楽章:アンダンテ
12. ベートーヴェン: エリーゼのために WoO.59
13. J.S.バッハ: 協奏曲 ニ短調BWV.974~第2楽章アダージョ
(原曲: マルチェッロ: オーボエ協奏曲 ニ短調)
14. ショパン: 夜想曲第8番 変ニ長調 Op.27-2
15. モーツァルト: ピアノソナタ イ長調K.331 第3楽章:トルコ行進曲;ヴォロドス編
オルガ、そしてこのアルバムについて
オルガの演奏に関しては少ないながら何枚か聴いてきた。





国際的な舞台で活躍するソリストと言えども一個の人間なので、曲や作家ごとに得手不得手はあるだろうし、好き嫌いもあるだろう。しかしながら、ステージ演奏活動や録音メディア制作はビジネスである以上、そういった個人の志向・嗜好に拘わらず市場や消費者=リスナーが欲求する作品を演奏し続けることが求められる。市場に投入しようとする商品=演奏プログラムや録音曲目は、もしかしたらソリスト自身が不得手、また嫌いな分野かもしれないが、そこはプロフェッショナルである以上、鍛錬を重ねて克服し、市場に訴求するよう音楽表現を琢磨するであろう。
ソニー・レーベルのプロモーション・テキストによれば、このメロディとタイトルされたアルバムは普段よりオルガが愛好する曲を集めたものなんだそうだ。それが真に事実かどうかは別として、オルガの音楽への私的な嗜好の一端が垣間見られるのは興味深い。
曲目リストを眺めてみると雑多な作品が玉石混交で列挙され、一見すると脈絡がないように見える。様々な時代に生きた作家の作品がほぼほぼ均等に含まれているようで、しかもトランスクリプション(編曲)ものが多いという印象。しかし少し注意深く見てみると、実は時代性に鑑みて、それぞれの世代を代表する作家/作品を周到にチョイスし、各時代の音楽の特徴を端的に抽出して、尚且つコラージュ状にランダムに並べたと思われるような感じだ。それは、あたかもメディア・プレーヤーのプレイリストをシャッフルした後のような雰囲気だ。
以下、トラックリストを年代ごとに並べ換え、順に記してみる。
バロック期の作品
この時代からは3曲選んでいる。グルックの歌劇=オルフェオとエウリディーチェの第二幕・精霊の踊り。愛称をメロディと称するが、これは後年にフリッツ・クライスラーがVn用に編曲したときに命名したもの。おそらくこのアルバム・タイトルの由来だ(後述するが、実はもう一つメロディがある)。なんとも哀愁に満ち、それでいて凛とした佇まいが聴く者の心を捉える。
残りの2曲はバッハ作曲の協奏曲と称する独奏クラヴィーア作品。一つはイタリア協奏曲との愛称で呼ばれ、実際にはクラヴィーア練習曲集第2巻の冒頭曲=イタリア趣味による nach italienischem Gusto=の付記に由来する。落ち着いて均整の取れたフーガであり、独奏作品ではあるが左右手により協奏的な掛け合いが表現されている。もう一つが協奏曲ニ短調BWV974の2楽章アダージオ。元々がザクセン=ヴァイマール領のヨハン・エルンスト公子から強い依頼を受けマルチェッロのオーボエ協奏曲を編曲したもの。これまた落ち着いた味のある美しいメロディで古さは感じない。が、仄暗い印象が前の作品を含め通底する。
オルガの弾き方はどれも非常に理性的で静謐、過度な情感は籠めておらず、割と淡々と歩を進める。フーガ/リチェルカーレといった対位法ではなくて古典的なホモフォニーではあるが、その表現技法はピリオド的であって各声部を均等かつ精密にトレースする。意外なことにバロック期に特有の明媚でシンプル、天国的な長調の作品はなかった。
古典派の作品
この時代から2曲選んでいる。一つはPfを習っていた人なら必ずや弾いたことのあるベートーヴェンのエリーゼのために。なおベートーヴェンは端境期の作風であり古典派に含めるには賛否あるだろうが。オルガの演奏は、何らかの特徴を盛り込んだというより譜面通り抑制的に訥々と弾いている印象で、寧ろ没個性に表現したかったのかもしれない。よって驚くような仕掛けはない。
もう一つは、これもあまりに有名なモーツァルトの代表作品。実際にはPfソナタK331の3楽章ということは意外と知られていないかもしれないが。但し、これはオリジナルの3楽章ではなくて、今や世界的ヴィルトゥオーゾとして名を馳せるアルカディ・ヴォロドスの編曲版。超絶技巧を喧伝するための奇を衒ったパフォーマンス、アクロバティックすぎるとの揶揄もあるようだが、絢爛豪華なピアニズム、現代風の複雑な和声は衝撃的。オルガの打鍵はこの超難曲であっても盤石で、その超絶技巧が冴え渡りこのアルバムの最後を飾る。
ロマン派の作品
ブラームス、ショパン、グリーグを選定。ブラームスのインテルメッツォは美しい旋律が特徴だが、これがオルガにかかると多分に情緒的で優雅、まろび出る甘美さだが、過度な情感移入は皆無。中間部の哀愁な響きが堪らないのである。非常に巧い。
ショパンはいずれもノクターンでOp.9-2は超有名曲。エリーゼと似た感じで譜面にわりと忠実。だが、オルガがこれが好きだという理由が分かる気がする。ところどころ小節跨りのトリル、装飾譜がきらきら輝いて跳躍し、非常に楽しそうなのだ。Op.27-2は更に瞑想的でメロウ、浮遊感の強い名作だが、これまた素晴らしい出来栄えで、音価と音価を繋ぐ間合い、空隙の保持のしかたが絶妙。変な言い方だが休符にフェルマータ、あるいは無音に仮想的なスタッカートをかけることで別筋の和音やパッセージが聴こえる気がするのだ。
グリーグの叙情小曲集第2集からOp.38メロディはこの曲集の中でも仄暗くスローで哀しげな曲。他のブラームス、ショパンにあったロマンティックで華やいだ心象は影をひそめる。バロック期に選定した作品、そしてエリーゼと仄暗さがあったわけだが、オルガはロマン派作品についてもこれを求めるのか・・、という感じ。
現代作家の作品
現代作家(現代音楽の作家という意味ではない=現代と言わず同時代と言うことも)の作品からは6曲。冒頭のビバン・バッティ&ケタン・バッティの作品をここに含めるかロマン派に入れるか悩んだ。というのは元々はムソルグスキーの展覧会の絵のプロムナード冒頭2小節だけを借用した作品だから。言うならばその2小節からインスパイアされた変奏曲だが、さしたる変異は示さないのでミニマル音楽と言っても差支えないだろう。

喩えが適切かどうかは分からないが、竹田の子守歌にどこか通じる、暗くはないがなんだか翳がある風情。
オルガ・ジーグはグラミー賞作家=ゴンザレスが、まさにオルガのために書き下ろし、献呈した作品で、これが世界初録音。


Avril 14thとは、つまり4月14日のことだと思うが、シンプルで気負いがなく、何と穏健で華やぎのある美しい旋律であろうか。これはテレビ番組、あるいはCMだったか、何度か聴いた気がする。
エイナウディのUna mattinaはイタリア語で朝という意味。朝が憂鬱だと思って書かれた曲なのか、もの哀しい風情の短めの主題がずっと繰り返され、そのうち軽度な変奏を経て展開部へ、そして冒頭主題へ回帰していく。ゴンザレスのArmellodieは意味が分からないが、シンプルで明るめ、どこか懐かしい響きの旋律で、たおやかにして穏健。エイフェックス・ツインのAveil 14thに曲想としては似ている感じもする。
まとめ
こうして見てみると、現代作家の作品は短調と長調が交互に並んでいる。もちろん、CDの演奏順では途中に前時代の曲が挟まるので必ずしも長短がきちんと並ぶわけではないのだが。
そして、オルガの嗜好だが、それぞれの時代性に拘わらず、共通して比較的穏健でシンプルな旋律、および派手さがなく落ち着いてしっとり浸透して来るような綺麗な和声を好むようだ。

最初は好みの作品をアトランダムに並べただけの私小説的、あるいは随筆風のライトなアルバムかと思って高を括って針を降ろしたのだが、実際には彼女がどういった音楽、音、曲想を嗜好するのかを多面的かつ深く考察することができたように思う。今後の活躍に更なる期待を抱かされた一枚。
オルガの演奏はいずれもがレイショナルで奇を衒わない、どちらかというと抑制的で静謐な弾き方だ。演奏は全体的に時間軸に忠実でありアゴーギク(テンポ・ルバート)は殆ど使用しない、但し聴感上の要所となるような部分ではごく短いパウゼを挟んだりと工夫はしている。情感表現に用いる主たる技法はデュナーミクであり、打鍵圧の微細な出し入れ、マルカート基調とレガート基調の煩瑣な切替により音楽のディテールを瑞々しく描き出している。
録音評
Sony Classical 19075923952、通常CD。録音は2019年1月15-18日、ベニューは、Marienmünster, Konzertsaal "Ackerscheune"(ドイツ、マリーエンミュンスター)とある。昔からのソニー・クラシカル特有の音色は今でも健在。つまり艶消しで地味、そして骨太で少々オンマイク気味の調音なのだ。ブリリアンスが全くないのは同じ大手であるDGなどとは一線を画する。だからといって音が悪いとか古色蒼然とした蒲鉾型の周波数特性ではなく、帯域は下から上までブロードに捉えられている。ただ、付帯音が少なくて意味をなさない効果音を一切付加していないのはソニーならではの良心と言えるのかもしれない。甘いも酸いも知り尽くしたソニー・クラシカルだからこその、この野太いアングルで捉えたベルリン・スタインウェイの音とオルガの妙技を味わいたいもの。

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