Grieg:Lyric Pieces,excerpt Etc@Irina Mejoueva |

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Edvald Grieg (1843-1907):
Excerpt from Lylic Pieces:
1. Arietta Op.12-1
2. Melodie Op.38-3
3. Waltzer Op.38-7
4. Berceuse Op.38-1
5. Schmetterling Op.43-1
6. An den Frühling Op.43-1
7. Volksweise Op.12-5
8. Erotik Op.43-5
9. Halling Op.47-4
10. Notturno Op.54-4
11. Heimweh Op.57-6
12. Traumgesicht Op.62-5
13. Hochzeitstag auf Troldhaugen Op.65-6
14. Zu deinen Füßen Op.68-3
15. Kobold Op.71-3
16. An der Wiege Op.68-5
Transcriptions of Original songs:
17. Erstes Begengnen Op.52-2
18. Des Dichters Herz Op.52-3
19. Solveigs Lied Op.52-4
20. Lieve Op.52-5
21. Ich Liebe Dich Op.41-3
Irina Mejoueva(Pf)
グリーグ:
抒情小曲集より抜粋:
1. アリエッタ Op.12-1
2. メロディ Op.38-3
3. ワルツ Op.38-7
4. 子守歌 Op.38-1
5. 蝶々 Op.43-1
6. 春に寄す Op.43-6
7. 民謡 Op.12-5
8. 愛の歌 Op.43-5
9. ハリング Op.47-4
10. 夜想曲 Op.54-4
11. 郷愁 Op.57-6
12. 夢想 Op.62-5
13. トロルドハウゲンの婚礼の日 Op.65-6
14. あなたのそばに Op.68-3
15. 小妖精 Op.71-3
16. ゆりかごの歌 Op.68-5
自作歌曲のトランスクリプション:
17. 初めての出逢い Op.52-2
18. 詩人の心(海の永遠の動きをあなたは知らない)Op.52-3
19. ソルヴェイグの歌 Op.52-4
20. 愛 Op.52-5
21. 君を愛す Op.41-3
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
抒情小曲集からの抜粋・前半: アリエッタ~愛の歌

メジューエワの録音は今までそれなりに聴いてきたが、結論から述べると今回のこれは非常に芸術性の高い内容となっている。これまでリリースされた盤と比べても相当に出色だ。地味ながらシンパシーに訴えて来るピアノ演奏はDENON時代から聴いていて、彼女がどう成長するか着目していたら、なんとDENONレーベルを擁する日本コロムビアの音楽プロデューサー社員と結婚し日本国内に活動拠点を移すという。
DENONを去った彼女は、富山県魚津市に本拠を置くマイナー・レーベルである若林工房というところに所属し、その後多くの録音をリリースしていくこととなる。私は個人的には富山県出身なのでその報に触れて嬉しかったが、大手レーベルを離れての活動は大丈夫なのだろうかと一抹の不安は抱いた。だがその心配は不要だったようで、彼女の旺盛な音楽活動は止まらず、京都市立芸術大学音楽学部の専任講師を務めるまでに至る。日本語も闊達になり、味噌汁を毎日作り、蕎麦も饂飩も、うなぎ、すき焼き、しゃぶしゃぶなど食生活についても日本に馴染んだようだ。恐るべきは歌舞伎鑑賞が趣味だといい、それ以外にも焼物、織物その他にもかなり造詣が深く、これは日本で生まれ育った我々よりも寧ろ詳しいのである。
閑話休題。冒頭のアリエッタ。とても美しく儚い幻のような小品。以下の譜面の右手(上段のト音記号の譜)の温厚でフラット基調の旋律に着目して欲しい。簡単そうでなかなかうまく均等にゆったりとは弾けない。最終小節にかかり、長めにリタルダンドしながら左右の終わりあたりの音価にフェルマータを掛け、夢のような1分半が静かに閉じる。

前半はOp.43から3曲、Op.12から1曲を採用して終わる。Op.43-1蝶々は高速上昇スケールのリフレインが転調を重ねながら続く難曲。春に寄すは、北欧にあって暖かで明るい季節の始まりを予感させる明媚な曲。自然の営みの素晴らしさを謳歌するグリーグ特有のピュアなダイナミックな名曲。メジューエワのブロードでパワフルな打鍵が実に鮮やか。次にOp.12から民謡を挟み、有名な愛の歌Op.43-5。愛妻家であったグリーグがニーナ夫人に宛てて書いたピースなのだろうか、実に穏やかで深い喜びに満ちた旋律、そして移調を伴うドラマティックな小品。幼少期に与えられて練習した日々を思い出しつつ、一つづつ音符を噛み締める。
後半: ハリング~ゆりかごの歌

ある年の結婚記念日にニーナ夫人に献呈したと記録されている。イリーナの演奏は、この辺りが白眉、ピークであり、譜面に忠実でありながら彼女が何を思いながら弾いていたかがそこはかとなく分かる一曲。あなたのそばにOp.68-3。これまたロマンティックで美しく、たおやかな曲だ。ニーナ夫人との若い頃の日々を追想した曲ではないだろうか。イリーナのキータッチのなんと霊妙なことか。
抒情小曲集の最後の方は小妖精Op.71-3、ゆりかごの歌Op.68-5。小妖精はやはり現地民謡あるいは舞踊曲に範を取ったものであろうか、細かな分散和音に乗せたトリルを混ぜた煩瑣な上下動の律動がなんとも言えないヴィヴィッドな小曲。そしてゆりかごの歌は、抒情小曲集を締めくくるに相応しい美しく優美な曲。何とも癒されるイリーナの優しく包み込む曲想がなんとも言えない。
歌曲のトランスクリプションから

初めての出逢いOp.52-2はニーナ夫人との出会いの頃を想起して書いたのでは、とされる穏和で素直、シンプルな曲。グリーグが浮かべる満面の笑みが見え透くような写実的な作品。一転し、詩人の心(海の永遠の動きをあなたは知らない)Op.52-3は複雑で陰鬱さが伴う曲。この作品はニーナと知り合って婚約した年に書かれたようで、作曲の動機はニーナとの出会いにあったとグリーグ自身が書き記しているそうだ。ソルヴェイグの歌Op.52-4は誰しもが知るペール・ギュントの第4幕からのピアノ編曲版。
重たくて塞ぎ込むような全体構造だが、最後はグリーグらしくちょっとだけ光を見せて閉じてみせる。愛Op.52-5。分散和音で始まり、主旋律がシンコペーションで繋がれる明媚な曲。これもまたニーナに宛てたメッセージであったと想定される美しいメロディーで、それでいて憂愁な心持も交錯する、ある種の翳りを感じさせる佳作。アルバムの最後を飾るのは、君を愛すOp.41-3、ドイツ語題名=Ich Liebe Dichを採用している。原曲は、心のメロディOp.5-3、歌詞はデンマークの著名作家=アンナセン(=要するに、アンデルセン)の詩が三連符を重ねる形で引用されている。これもニーナへの深い愛情を示す作品なのであろう。イリーナは、アルバム全編を通じてグリーグが生涯にわたり示したニーナ夫人への愛を鍵盤を通じて表現したかったんだろうと思う。とても良い演奏だ。
終りに向かって
冒頭のアリエッタだが、イリーナの音源がないか探したが残念ながら見つからなかった。他で何かないか探したがイリーナのこれに似た美しい音源はそれほどなかった。それでもいくつか以下に列挙しておく。最初のリヒテルの演奏を除き、これらよりもイリーナの演奏は何倍も瞑想的、静謐で良い。
https://youtu.be/_dJ2nNQYl5o
https://youtu.be/1Vswzh8qJ5k
https://youtu.be/lmumTzzTsFs
https://youtu.be/1baFCokeoys
【参考】今まで聴いたイリーナの録音:

















録音評
若林工房 WAKA-4212、通常CD。録音は少し前で、2018年6月14~15日、ベニューはお馴染みの魚津・新川文化ホール(新川=にいかわ)。使用された楽器は、神戸の日本ピアノサービス社から富山まで運搬され持ち込まれたニューヨーク・スタインウェイ1967年製の準ビンテージ品。音は極めて良く、まろび出る夢のような響き。ホールの残響もよく効いていて、かつサウンドステージも奥へ奥へと深く展開する理想の録音。アルバムの曲想コンセプトにきっちりと合わせた音色、音場は出色だ。

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