Gounod: St.François d'Assise@L.Equilbey/O.C.Paris & Accentus |

https://tower.jp/item/4711815/
Gounod:
Saint Francois d'Assise *
1. La Cellule
2. La Mort
Hymne à Sainte Cécile
Liszt:
Sainte Cécile Légende, S.5
* éditions du festival de musique d'auvers-sur-Oise
- world première recording
Orchestre de Chambre de Paris & Accentus
Laurence Equilbey
Florian Sempey (bar), Stanislas de Barbeyrac (ten)
Deborah Nemtanu(Vn:Hymn)
Karine Deshayes (mezzo-sop:Liszt)
グノー: アッシジの聖フランチェスコ
(1)グノー(1818-1893):アッシジの聖フランチェスコ(世界初録音)
(2)グノー:聖セシリアへの讃歌
(3)リスト(1811-1886):聖セシリアの伝説
スタニスラス・ド・バルベイラク(テノール(1))
フロリアン・センペイ(バリトン(1))
デボラ・ネムタヌ(ソロ・ヴァイオリン(2))
カリーヌ・デエ(メゾ・ソプラノ(3))
パリ室内管弦楽団
アクサントゥス
ロランス・エキルベイ(指揮)
この作品について
アッシジの聖フランチェスコという実在した中世の修道士に関しては他に詳しいので説明は割愛。

この作品は1891年、グノー自身の指揮によりOrchestre de la Société des Concerts du Conservatoire(パリ音楽院管弦楽団)によりGood Friday & Holy Saturday(聖金曜日、聖土曜日)にパリで初演されたという記録が残っている。この時の自筆譜はグノーの肖像画を描いたという友人の画家、Carolus-Duranという人物に贈呈された。画家はその後、豪華に革装を施したうえで保管していたという。その後発見されることはなく、いっときにはそういった作品は実在しなかったのではないかと言う学者もいた。
それから1世紀以上経過したある日、Festival de musique d'Auvers-sur-Oise※1を主宰するピアニスト=Pascal EscandeがCongrégation des Sœurs de la charité de Saint-Louis※2の主幹のSister Nicole Jégoとの対話の中で、当該修道院団体の書庫にグノーの自筆譜のようなものが存在することを示唆される。調査によりそれはアッシジの聖フランチェスコのグノーによる自筆譜であり、パリ初演時に指揮者用のスコアとして使用されたものであることが判明した。なおこの譜面は今尚当団体の所有となっている。
Festival de musique d'Auvers-sur-Oiseを後援するPalazetto Bru-Zane※3は、この自筆譜から完全なオーケストラ・パート譜、歌唱譜を作曲家=Raymond Alessandriniに委嘱して再現させた。これを用いての現代版の初演は、1996年6月20日、Saint-Maclou Cathedral, Pontoise(ポントワースの聖マクルー教会大聖堂)で挙行された。現代版初稿ともいえるこの譜面成立から20年後の2016年、Philharmonie de Paris(パリ・フィルハーモニー)で36th Festival de musique d'Auvers-sur-Oiseの一部として演奏され、ライブ録音されたのがこの盤ということになる。縮訳したが長い道程であった。
※1 邦名=オーヴェル・シュル・オワーズ音楽祭
※2 修道女 Mère Saint-Louis(本名 Marie-Louise-Élisabeth de Lamoignon:1763/10/3-1825/3/4:マリー・ルイーズ・エリザベス・ドゥ・ラモワニョン)が設立した、修道院を中心としたキリスト教系の友愛慈善団体
※3 パラツェット・ブルー・ザーネは、フランス音楽の研究・出版・制作を行う振興団体。活動の実体は「ロマン派フランス音楽センター」。当団体が掲げるミッションは、広義の19世紀(1780~1920年頃)、フランスで生まれ、評価に値するにも拘らず見過ごされてきた作品を研究・発掘すること。拠点はヴェネツィアで、オフィスは1695年建造のパラッツォ(宮殿)内に設置。このパラッツォを修復したのがブルー財団となる。このパラッツォは建造当初はカジノ・ザーネと称し1世紀あまりザーネ家という名門一族が運営する娯楽施設だった。ブルー財団は2007年にこの建造物を買い取って修復、2009年10月にロマン派フランス音楽センターを創設した。
アッシジの聖フランチェスコ
ライナーには時代考証を基に本作品の更に詳細な経緯が掲載されている。これによれば、例の聖金曜日と聖土曜日のconcerts spirituels(コンセール・スリピチュエル)での初演の前年末、グノーが友人のCharles Gayに宛てた手紙の内容が引用され、そこにはアッシジの聖フランチェスコの構想が記されている。
その中でグノーは本作品を二つの情景に分け、いわば二組の音楽的なdiptych(二連祭壇画)を描きたい旨を述べている。一つ目はBartolome Esteban Murillo:Saint Francis of Assisi embracing the crucified Christ(ムリーリョ作:アッシジの聖フランチェスコが十字架に架けられたキリストを抱く図)、二つ目はGiotto di Bondone:The Death of St. Francis(ジョット作:聖フランチェスコの死)だったと思われる。以下写真を拝借して示しておく。


2曲目はLa Mortと名付けられ、フランチェスコのdeath knell=弔鐘、死の床=を表現した重苦しいシーンから始まる。ここはストーリーというよりも上のジョットの絵画から様子は一目瞭然だろう。旅先で病に倒れて衰弱したフランチェスコは故郷のアッシジを再度祝福したい旨を叙述し、滔々と詠唱する。傍らの弟子たちは神への、そしてフランチェスコへの祈りを必死に捧げており、それにフランチェスコはMes fils、ne pleurez pas(私の息子たちよ、泣かないで)と答え、そしてこと切れる。一瞬のパウゼのあと、ハープのアルペジオが独奏ホルンを誘い、突如明転して讃歌の最初の部分をリフレイン、そしてアクセントゥスの女声合唱による天使の歌=Prends ton vol vers les cieux, bienheureux Seraphique!(遠く天国を目指して飛行して行きなさい、祝福すべき熾天使(してんし)の父よ!)と歌い上げる。最後、オケが讃美歌Agneau de Dieu(神の子羊)の残りを全て演奏し曲は静かに閉じる。
聖セシリアへの讃歌
だいたい、グノーはアヴェ・マリアかアヴェ・ヴェルム・コルプスくらいしか知らない。ましてやその他の小品やオペラに関しては殆ど知らず、この曲についてもまったく知らなかった。ところがラストに入るリストの聖セシリアの伝説は知っていて、これがオリジナルかと思っていたらグノーのこれを規範にしてインスパイア作品として書いたものだそうでその方が衝撃だった。このグノーの作品は日本のWebサイトでは殆ど無名で出自などは分からないが、ライナーによると、グノーはMesse solennelle en l'honneur de Sainte Cécile(聖セシリアのための荘厳ミサ ト長調)という宗教曲を書いていて、これが3人のソリスト、フルコーラスとオケを要する長大な作品だったためもう少しコンサイスな作品が欲しく、小規模編成用に書いたものらしい。バリエーションが色々あり、歌唱を伴わない、例えば独奏ヴァイオリン、ハープ、ティンパニと管楽器、または独奏ヴァイオリンとハープ、あるいはリストのこのバージョンの基となったピアノ編曲など・・。演奏は気鋭のデボラ・ネムタヌで、これがまた泣かせるVnソロ。彼女の妹のサラ・ネムタヌの方が有名かもしれないが、姉もどうして柔和でダイナミックなのに優しく包容力のあるVnを弾く。美しいのひとこと。
なお、リストの方は割愛。別の機会に別の演奏があれば取り上げたい。
まとめ
なかなかに数奇な運命を経て我々の耳に今回届いたグノーのオラトリオ最終作だが、かなり良い作品で演奏も良かった。ソリストの面々の情感表現が素晴らしくて聴き惚れるし、パリ室内管のヴァーサタイルな演奏にも快哉を送りたい。
アクセントゥスがコーラスとしてクレジットされてはいるが、出演時間としては男声が2分、女声が3分弱、合計5分程度と露出は極めて少ない。だが、特異な冷涼感とソリッドでドライな異質な芸風で知られるアクセントゥスの関与度合いは寧ろこの程度に留められていて逆に好結果を生んだような気がする。というのは、このような正統派の宗教曲を長尺でコーラスするには彼らの特徴である低いエナジー感と寒色系の描画特性が邪魔をしてうまくなく、こういった作品の場合はローザンヌ、またはサンタ・チェチーリア合唱団あたりが最適と思う。しかし、この音楽祭はフランスの国威発揚の一役を担う催しでもあり、グノー未発見曲の現代版初録音としてはフランス出自のエキルベイ/アクセントゥスに白羽の矢が立ったのは自然な成り行きだったのであろうが。
録音評
naïve V5441、通常CD。録音は2016年6月21~22日、ベニューはフィルハーモニー・ド・パリ(フランス、ライヴ録音とある。録音プロデューサー:Laure Casenave-Péré、バランスエンジニア(トーンマイスター):Thomas Dappeloとある。録音システム:Kali Son、マイク:DPA4006、DPA4003、TLM170、Schoeps、プリアンプとADC:DAD AX24-Horusとある。音質だが、ナイーヴとしては珍しくトラック間でばらつきがあった。1トラック目、アッシジの聖フランチェスコのCelluleは薄い霞がかかったような見通しであまり良い音質ではなく後半のトゥッティではちょっとサチる場面もあった。fレンジ的にも下も上もちょっと圧縮された感じ。ただ、程度は言うほど酷くはないが。ところがLa Mortになると俄然、見通しが良くなり、ティンパニの通りも非常に良く、かつストリングスの上部雑音がリアルかつ空間に浸透するアンビエンスも絶好調。以降、音質は良好でナイーヴの特質である気品に満ちた高域プレゼンスも健在。良い音だ。
La cellule: https://www.youtube.com/watch?v=YgbZfVlr-b8
La mort: https://www.youtube.com/watch?v=X1MPemoemhU
Facebook メイキング画像: https://www.facebook.com/watch/?v=10155440521497227
※音声はミュート状態で開始するようなので解除のこと

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