Paris-Moscou@Christian-Pierre La Marca,Lisé de la Salle |
https://tower.jp/item/4719067/
Fauré:
Pavane, Op.50
Élégie in C minor, Op.24
Saint-Saëns: Mon cœur s'ouvre à ta voix (from Samson et Dalila)
Fauré:
Sicilienne, Op.78
Berceuse, Op.16
Papillon, Op.77
Massenet: Pourquoi me reveiller (from Werther)
Stravinsky: Russian Song (from Mavra)
Rachmaninov: Cello Sonata in G minor, Op.19
Ⅰ. Largo, Allegro moderato
Ⅱ. Allegro scherzando
Ⅲ. Andante
Ⅳ. Allegro mosso
Prokofiev: The Love for Three Oranges: March
Rimsky Korsakov: Flight of the Bumble Bee
Christian-Pierre La Marca(Vc)
Lisé de la Salle(Pf)
Camille Bertault(Vo)(for Rimsky Korsakov)
パリ=モスクワ
1. フォーレ:『パヴァーヌ』Op.50
2. フォーレ:『チェロとピアノためのエレジー』Op.24
3. サン=サーンス:歌劇『サムソンとデリラ』より「あなたの声で心は開く」
4. フォーレ:『シシリエンヌ』Op.78
5. フォーレ:『子守歌』Op.16
6. フォーレ:『蝶々』Op.77
7. マスネ:歌劇『ウェルテル』より「春風よ、なぜ私を目覚ますのか」
8. ストラヴィンスキー:歌劇『マヴラ』より「ロシアの歌」
9-12. ラフマニノフ:『チェロ・ソナタ ト短調』Op.19(全曲)
13. プロコフィエフ:『3つのオレンジへの恋』より「行進曲」
14. リムスキー=コルサコフ:『熊蜂の飛行』
クリスチャン=ピエール・ラ・マルカ(チェロ)
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
カミーユ・ベルトー(ヴォーカル)
このアルバム、及び奏者について
ライナーの翻訳を要約したソニー・ミュージックの販促テキストが秀逸なので、以下に貼っておく。ラ・マルカに関しては初めて取り上げる。リーズに関しては今まで散々取り上げて来たので今更感はあるが、改めて載せておく。
フランスの俊英チェリスト、クリスチャン=ピエール・ラ・マルカのソニー・クラシカルへの4枚目のソロ・アルバムは、美貌のヴィルトゥオーゾ、リーズ・ドゥ・ラ・サールとの共演で、ラフマニノフのチェロ・ソナタをメインに、フランスとロシアの小品が散りばめられています。ラ・マルカはこのアルバムについてこう語っています。「フランスとロシアはお互いに惹かれあってきた国です。その神髄をこのアルバムの中心に置きました。フォーレとラフマニノフという同時代の2人の偉大な作曲家の関係は、まるでショパン(ラフマニノフのチェロ・ソナタに影響を与えました)とシューマン(その歌曲はフォーレにインスピレーションを与えました)とのそれにそっくりで、2人が生きた時代は、爛熟したロマン派のさまざまな思潮が交錯し、新たな音楽語法が生み出された時代を反映しています。この時代に生まれた多様な音楽様式を持つ個性的な作品を探求するべく、このアルバムをレコーディングしたのです」
またリーズ・ドゥ・ラ・サールとは初めてのレコーディングとなりますが、2人は長年世界各地で共演を重ねてきた親密な音楽的パートナーでもあります。「長い間、私とリーズとはお互いの演奏に共通する芸術的なヴィジョンを感じていました。ピアニストの才気活発さ、チェリストの繊細さに、それぞれが惹かれあっていました。そのうちメールでのやり取りが始まり、ようやくカフェで実際に会った時、一瞬にしてお互いのパーソナリティがつながったのを感じました。親しくなるにつれ、舞台での共演の機会が自然に生まれ、何も議論したりすることなく、同じ方向性を向いた音楽を作ることができました。それ以来世界中で何度も共演を重ね、その結果生まれたのがこのアルバムです」(ラ・マルカ)。若い2つの才能の邂逅が生んだ濃密かつ新鮮な音楽的コラボレーションの成果がこのアルバムに息づいています。(ソニー・ミュージック)
Christian-Pierre La Marca - Vc
クリスチャン=ピエール・ラ・マルカ
1983年生まれ。パリ国立高等音楽院でフィリップ・ミューレ教授に師事し、同音楽院を最高位で卒業。引き続き、ケルン音楽大学でフランス・ヘルマーソン教授に師事。レパートリーは、バロック音楽から現代音楽まで幅広く、殊に現代フランスの作曲家(ニコラス・バクリ、ティエリー・エスケシュ等)の曲を精力的に演奏。室内楽にも力を注いでおり、「ダリ・ピアノ・トリオ」を結成、第6回大阪国際室内楽コンクールで優勝。ブリュッセルのエリザベート王妃音楽学校を基点に活動しており、イツァーク・パールマンに招かれてニューヨークでの室内楽ワークショップで共演。さらに小澤征爾の主宰するスイス室内楽アカデミーに2017年選抜され、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールで演奏。そのほかヨーロッパ各地のオーケストラと共演。
Lisé de la Salle - Pf
リーズ・ドゥ・ラ・サール
1988年、フランスのシェルブール生まれ。パリ国立高等音楽院でピエール・レアシュに、2001年からは大学院課程でブルーノ・リグットに師事。そのほか、パスカル・ネミロフスキ、ジュヌヴィエーヴ・ジョワ=デュティーユにも学ぶ。ヨーロッパのコンクールで次々に1位を獲得、2004年にはニューヨークのヤング・コンサート・アーティスツ国際オーディションで優勝し、同年、初の日本ツアーをはじめ、2010~2012年にも来日ツアーを行っている。ソロ・アルバムはnaiveから発売。
なお、リーズはnaïveレーベルの専属アーティスト。今回の録音はソニー・ヨーロッパがnaïve LDLSプロダクションからリース契約して実現。
今回取り上げている作家は、いずれも1800年代後半から1900年代初頭~中盤にかけて活躍したフランス及びロシア出身の人物。前半はフランス、後半はロシア出身の作家の作品となっている。以前のメジューエワのロシアン・アルバムでもこの時代のロシア作家を取り上げていて、そちらで少々解説していた。以下、これを少し手直しして再掲しておく。
このアルバムの作家、特に後半に登場する作家たちが生きた前後のロシアでは、絶対専政に対する根強い不満と長引く財政困窮等により内政混乱が常態化していた。そこかしこで内紛が勃発し労働者たちによる政治ユニオンが林立、その鬩ぎ合いの末にロマノフ朝が倒れ、直後、ボルシェビキが優勢となってスターリンが世界で最初の社会主義国家樹立を果たす。これが世に言うロシア革命であるが、社会主義の名の下のプロレタリアートはこの国が醸造してきた音楽文化の鮮やかな彩りを全て封印し、そして国際社会的にも経済的にも鈍色の鉄のカーテンが引かれる端緒となる。その後は色彩感が極端に抑えられ、どんよりとした恐怖が支配するショスタコーヴィッチの交響曲のみが残るのであった。
ロシア革命の少し前の帝政ロシア時代末期においては西側では余り知られていない様々な才能溢れる作家たち・・・ロシア・アヴァンギャルドというそうだが・・・が出現し、そして実験的だが刺激的で興味深い作品群を多く生み出していた。これは、さながら19世紀末から一次大戦までのフランスにおけるベル・エポックのような妙な活気と独特の気風に溢れた時代でもあったようだ。芸術分野においては、やはり20世紀初頭のフランスにおけるエコール・ド・パリに似た強いエナジーと進取のムーブメントに満ちていた時代だと推測されるのだ。
(MusicArena 2012/11/18)
後半に入る作家たちは、R=コルサコフを除き、いずれもロシア革命もしくは一次大戦の影響からか故郷から出奔し、フランス・パリなどの西欧または米国等で半生を過ごし、その間に優れた作品を多く残した。ラ・マルカがライナーで述べているさまざまな思潮が交錯し、新たな音楽語法が生み出された時代とは、まさにこういったロシアの作家たちがベル・エポックのパリに集まって来て、ロシアとフランスのハイブリッド的気風が醸成された時代を言っているのであろう。
前半:パリ
フォーレ、サン=サーンス、マスネ
このアルバムはパリ代表としてフォーレを重視しているようだ。選曲が周到で、フォーレらしいロマンティックで僅かに屈曲した仄暗さのあるものをじょうずに集めている。パヴァーヌの憂鬱さをしっとりと弾き出すラ・マルカは若手にして翳りを巧く弾くチェリストだ。必要以上に深刻かつ重厚過ぎない質量感にも好感する。エレジーにしても訴求力が強い割には低音弦の歪感が僅少、雑味がないので素直にすっと胸襟から入って来るのだ。中間部からリーズが密やかに主旋律をとるが、なんと優しくてしっとり、そして優美な伴奏であろうか。
サン=サーンス:歌劇サムソンとデリラ「あなたの声で心は開く」だが、原作の筋書き通り、いかにも愛おしいデュオ。VcとPfが一体となった白眉、前半の一つの頂点だ。ここからまたフォーレが三つ。シシリエンヌについてはラ・マルカの弦が多彩で硬軟取り混ぜた色んな声色を聴かせてくれる。ベルセウスのやるせなく優しい主旋律、リーズの紡ぎ出す内声部のそこはかとなさがなんとも精妙。フォーレの最後、パピヨンはたぶんにアクロバティックな作品でVcに要求される技巧は厳しいものがある。しかし、ラ・マルカの弦捌きは盤石。実に楽しいし、リーズの伴奏もポップで華やいでいる。前半最後はマスネの歌劇ウェルテルより「春風よ、なぜ私を目覚ますのか」。ゲーテの歌劇「若きウェルテルの悩み」をほぼ忠実に歌劇化したもの。その中のアリア「オシアンの歌」がこの小品の原曲。悩ましげで起伏の多い曲だが、ラ・マルカの雄弁な歌唱力、下支えするリーズの低音弦の深く沈み込むタッチが印象的。
後半:モスクワ
ストラヴィンスキー、ラフマニノフ、プロコフィエフ、R=コルサコフ
後半のモスクワ代表としてはラフマニノフにフォーカスして作られており、チェロ・ソナタOp.19がこのアルバム全体の背骨にあたる。1901年の作とされ、相前後して著名なPコン#2を完成させている。このしばらくあと、ロシア革命(十月革命)が起きてスターリンの独裁体制が固まったことから祖国を去り、数奇な流浪の生活を送ることとなる。そののち米国移住しコンサート・ピアニストとして再起したが、スイスへ移住。しかし勢力を拡大していたナチスの影響から逃れるため再び渡米。ガンのためビバリーヒルズで逝去。
1楽章は長い。レントからアレグロ・モレラート指定。スラブ的な純朴な主旋律が巡回形式で何度も出現し、複雑な襞を織り込みながら変奏を繰り返す。半音階的スケールと明暗が交錯する和声部が特徴。2楽章はアレグロ指定によるスケルツァンドで三部形式。かなり激しいピチカートとボウが出し入れされるスケルツォ基調だが、決して楽しくなくて思索的でドイツ風ともいえようか。中間部は明転してラ・マルカが悠然と伸びやかに歌うシーンもあるが、例えばシューベルトの歌曲=魔王の動機部のような不安を煽るモチーフが終始つきまとう。この部分のリーズの伴奏は秀逸だ。
3楽章、アンダンテ指定、変ホ長調。リーズの長めの独奏で導入される、緩徐楽章に相当するパート。ラ・マルカの朗々としたカンタービレが印象的。だが、単純な長調ではなく明暗が交錯するラフマニノフらしいやるせない旋律。終楽章はアレグロ指定で明媚な第1主題を持つ割と素直な曲想。演奏時間は1楽章に次いで長く、10分ほどを要する。第2主題も明るい屈託のない旋律が朗々と歌われる。リーズの駆る分散和音と高速スケール、高音部のアルペジオが煌びやかで綺麗。
プロコフィエフ:3つのオレンジへの恋よりマーチ。これは色んな形式のリサイタル/コンサートでも常套的に使われるちょうど良い長さの佳曲。二人とも羽目を外して最大音量で弾いている。最終はバンブル・ビー。かなり変わった趣向で、Pf抜きで女声ボーカルが加わる。歌曲として旋律を歌うわけでなく、言うならば擬声。ラ・マルカが低域の熊蜂の羽音であるならば、カミーユ・ベルトーの擬声は飛翔する大空から俯瞰した大地の様子だ。
まとめ
ラ・マルカは初めて聴いたが、これが柔和ながら非常に耳に浸透してくる素晴らしいVcソリストだ。ここ数年は男子のVcソリストが秀逸でかなり期待感が高い。中年から上に差し掛かるがジャン=ギアン・ケラス、若手ではシャルル=アントワーヌ・デュフロ、ヨハネス・モーザー、ヤン・フォーグラーなどが出て来た。PfやVnは女子の圧勝なのだが、Vcは男子が健闘しているのが実に嬉しいのだ。そして、リーズの成長には目を細めるしかない。本当にじょうずなPfソリストに成長したと思う。
録音評
Sony Classical、19075809622、通常CD。録音はちょっと前で2017年11月5~9日、ベニューはSalle Colonne(サル・コロンヌ)。録音チームはパリのLittle Tribecaで、自前のレーベルとしては私も好きなApartéやevidenceを擁するし、また、naïveもたびたび委託録音しているクラシック専門録音ファームである。今までMusicArenaで取り上げて来た数多くの録音も彼らの手になる。今回、ソニーはここに頼んで正解だったと思われる好印象の出来栄え。音調としては密度は濃くて、従前からのソニーの暗めの色調を踏襲した出来栄えだが、サウンドステージの適度な広がりと親密さ、そして際立つ明晰な音像が素晴らしいのだ。Vc+Pfのデュオ録音としてはかなり素晴らしい出来栄え。
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