Debussy: Preludes Book 1,Suite Bergamasque@Vanessa Benelli Mosell |

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C.Debussy:
Préludes Book 1
1. Danseuses de Delphes
2. Voiles
3. Le vent dans la plaine
4. Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
5. Les collines d'Anacapri
6. Des pas sur la neige
7. Ce qu'a vu le vent d'ouest
8. La fille aux cheveux de lin
9. La serenade interrompue
10. La cathedrale engloutie
11. La danse de Puck
12. Minstrels
Suite Bergamasque
1. Prelude
2. Menuet
3. Clair de lune
4. Passepied
Vanessa Benelli Mosell(Pf)
ドビュッシー:
前奏曲集 第1巻
1. デルフィの舞姫
2. ヴェール(帆)
3. 野を渡る風
4. 夕べの大気に漂う音と香り
5. アナカプリの丘
6. 雪の上の足跡
7. 西風の見たもの
8. 亜麻色の髪の乙女
9. とだえたセレナード
10. 沈める寺院
11. パックの踊り
12. ミンストレル
ベルガマスク組曲
1. 前奏曲
2. メヌエット
3. 月の光
4. パスピエ
ヴァネッサ・ベネリ・モーゼル(Pf)
プレリュード 第1巻

#3野を渡る風。題名はベルレーヌのそはやるせなの絶頂(かぎり)なりという詩の「野を渡る風は息を止めて」による。これは揺蕩うが、やや力が籠った雄弁なもの。そして、この曲集の中核と位置付けられる#4の夕べの大気に漂う音と香りは、確かに幽玄さはあるが、ヴァネッサの特質であるパワーと明晰さが特徴となる遊びが全くないタイトでマッシブな音だ。これは、個人的には膝を打った。こういった解釈もありだと思う。
#5アナカプリの丘は、ナポリ湾に浮かぶカプリ島の中の地名。舞曲であるタランテラ、そしてメディタレイニアンの適度な湿潤さ、気持ちの良い海風を表現した明媚な曲。力強くて直進性の強いヴァネッサの形質が遺憾なく発揮されている。これはドビュッシーの従前来の弾き方とは全く異質。
#6雪の上の足跡は静謐で落ち着いた不気味な寂寥感を表する秀逸な標題音楽だが、ヴァネッサは先例とはさほどの差異を見せていない。実に穏当。#7西風の見たもの。和声と非和声が交錯する高難度の曲で、実は解釈も難しい。主旋律が描くラインが明確ではなくて伴奏部に埋没すると訳が分からなくなるという厄介な曲。ヴァネッサの演奏は従来にない高速打鍵、中間部から後半の展開部に向けたアチェレランドが非常に秀逸。彼女のヴィルトゥオージティに側頭部を殴られた感覚に囚われる。
#8亜麻色の髪の乙女はスタンダートで大人しく過ごす。#9とだえたセレナード。苛烈なトレモロと情熱的なイスパニアの風情がなんともテンペラメンタルな名作。なおこれはギターの奏法を模写しているとされるが。ヴァネッサの激しい気性がそのまま表れ、しかしこれはフラメンコ・ギターのような風情で妖艶、これは良い。
この曲集のもう一つの頂点、#10沈める寺院。曲の成り立ちは省略する。ヴァネッサの白眉がここで聴ける。冒頭の入りはスタンダードで沈着。しかし、中間部に向けての不可思議な和声と増四度が混じるダイナミックな展開セクションでの飛翔感、強い打鍵、そして強烈なトゥッティの連打、サスティンを踏みっぱなしにしたオクターブ・ユニゾンがトランスするような妙な快感を惹起する。中間部は緩徐に過ごすがコーダに向けての不穏な左手の連続三連符が抑制気味に入る。ここからヴァネッサは我慢できないのであろう、強めに叩く。しかし最後は綺麗にまとめた。
この順序で録っているとは限らないが、#10を終えて、箍(たが)が外れたのか、実に色彩感豊かに好き放題に叩きまくる。しかし、この高速トリルと上下動、左右手を跨る分散和音、スフォルツァンドの連続にはヴァネッサの神髄が出ている。凄い技巧だ。#11パックの踊り。シェークスピアの戯曲夏の夜の夢に出て来る妖精の様子を模写したもの。最終の#12ミンストレル。コリーウォーグのケークウォークからの転用。このジャジーなテーマを外連味なく陽気に叩きまくるヴァネッサは、やはりパリジェンヌではなくて陽光が明媚なところで育ったイタリア娘と思った瞬間。
ベルガマスク組曲
ダイナミックな主題から始まる#1プレリュードは強く、しなやか。綺麗だがかなり押し出しが強い。霞み棚引くドビュッシー本来の伝統的解釈とは大いに違う。#2メヌエット。珍しくイ短調で、アンダンティーノ指定の3拍子系。メヌエットというよりはサラバンドかガヴォット的な諧謔味のある風情。マルカート主体の主旋律は跳ねるような気持ち良さでヴァネッサの形質に合っている。

これは実像系のフルムーン、ビッグムーンであり、奥ゆかしく朧な月夜ではない。
終曲のパスピエ。最後を飾る曲となるが、ここでヴァネッサは手加減せず、緩みが一切ない譜面のトレースを見せる。普通はもうちょっと抑制気味にエモーションを効かせて咽ぶようなやるせなさを表現するだろうが、彼女はそれが許せないらしく、再び実像系、かつ明媚なキータッチを披歴する。
まとめ

録音評
Decca(Universal Music Italy)、4816552、通常CD。録音は2017年1月16~17日、ベニューはイタリアのプラート。使用したホールや施設名称は記してない。要するにヴァネッサの生まれ故郷=トスカーナのプラートのどこかということだろう。音質はデッカとしてはチャレンジャブルで、残響成分が過多なのだがピアノの音が濃密で、華美な印象がするけれども良く聴き込むと重心が低いという感じだ。ヴァネッサの打鍵がかなり強烈で歪む直前まで克明に録られているが、破綻までは行かない。マイクは適切な距離感だろうが音圧レベルが高くて被る直前で寸止め、という実に味のあるレコーディング。トーンマイスター:Pietro Tagliaferri、ピアノはスタインウェイとだけ表記、調律:Claudio Bussottiとある。

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