Ravel & Gershwin: P-Cons@Denis Kozhukhin, Kazuki Yamada/Suisse Romande O. |
https://tower.jp/item/4688916/
Ravel: Piano Concerto in G major
Ⅰ. Allegramente
Ⅱ. Adagio assai
Ⅲ. Presto
Gershwin: Piano Concerto in F major
Ⅰ. Allegro
Ⅱ. Adagio - Andante con moto
Ⅲ. Allegro agitato
Ravel: Piano Concerto in D major (for the left hand)
Denis Kozhukhin (Pf)
Orchestre de la Suisse Romande, Kazuki Yamada
ラヴェル: ピアノ協奏曲 ト長調
ガーシュウィン: ピアノ協奏曲 ヘ調
ラヴェル: 左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
デニス・コジュヒン(ピアノ)
山田和樹(指揮)
スイス・ロマンド管弦楽団
このアルバムについて
草創期のアメリカと円熟のフランス・パリを対比するテーマで組み上げたアルバムは割と多く出ていてポピュラーだ。MusicArenaでも主なところ以下の通り何枚か取り上げてきており秀作が多い。なお、ガーシュウィンとラヴェルは生前に交流があったため、ある時期の互いの作品には連関性と相似性がある。
デニス・コジュヒンについて
適当なバイオグラフィーが見つからなかったので彼の公式ホームページに掲載されていた経歴を基に、稚拙ながら邦訳、抜粋しておく。
デニス・コジュヒン(Denis Kozhukhin, 1986-)
ロシアのニジニー・ノヴゴロド(ソ連時代=ゴーリキー)の音楽一家に生まれる。コジュヒンは5歳から母親の手ほどきでピアノ演奏を学び始めている。幼少期はバラキレフ音楽院でナタリア・フィッシュに師事、2000~2007年にかけてはマドリードのソフィア王妃高等音楽院でドミトリー・バシキーロフ、クラウディオ・マルティネス=メーナーに師事した。
デニス・コジュヒンはイタリアのコモ湖国際ピアノ・アカデミー(International Piano Academy Lake Como)でピアノ教育を終えた。この稀有なエリート教育機関において、フー・ツォン(傅聰)、スタニスラフ・ユデニチ、ペーター・フランクル、ボリス・ベルマン、チャールズ・ローゼン、アンドレアス・シュタイアー、キリル・ゲルシュタインなど錚々たる顔ぶれの教授陣より薫陶を受けた。また、近年になって彼は巨匠ダニエル・バレンボイムの指導を受けている。
2009年、リスボンのヴァンドーム・コンクールでウィナー、リーズ国際コンクール3位。
2010年5月、エリザベート王妃国際音楽コンクールでウィナー。
2011年2月、来日し5公演を行う。東京のリサイタルは音楽の友などで絶賛、NHKが収録・放送。
2012年3月、カザルス音楽祭へデビュー。
2013年、再来日、プロコフィエフのピアノ・ソナタ全曲演奏会を敢行。読売日本交響楽団と共演。
録音はペンタトーンからチャイコフスキー/グリーグのPコン、ブラームスのピアノ作品集をリリースしているがいずれも評価は高かった。しかし、いずれも聴いておらず今回のラヴェル/ガーシュウィンが初めてとなる。
ラヴェル: ピアノ協奏曲ト長調(両手)
1楽章の冒頭は鞭に続きPfのアルペジオと弦で入るが、インテンポより少し遅め。第1主題は慎重に進めるもスタッカートは明確で小節間の刻みは曖昧にしない。Pf独奏はジャズ風のインプロヴィゼーションに類似。第2主題提示は決然としたもので音は鮮明。コジュヒンのPfは急がずゆっくり丹念に、そしてやるせなく描いていく。
その後の展開部はギアが入れ替わり急速アチェレランド/リタルダンドの出し入れが明媚。2楽章は緩徐楽章に相当。但し通常の古典やロマン派の曲とは大いに違い、どちらかというとブルーノート進行に近似したスローなブルースだ。コジュヒンの演奏は白眉。技巧という爪を隠して大いに歌い上げるのだ。
ガーシュウィン: コンチェルト・イン・F
自由闊達で粘性は微塵も感じられないオケはドライでハイスピード、贅肉を削いだリジッドな冒頭楽章の演奏設計としている。対するコジュヒンはとても繊細で抑制気味。この質感に関しては山田、コジュヒンともに申し合わせているものと思料され、両者ともに一体的で融合感のある全体像を聴かせてくれている。この曲はクラシックのP協というよりジャズ・アレンジのガーシュウィンならではの名曲。
2楽章の入りはTpが冒頭を取って、他の金管がゆったり遊ぶという、いかにもビッグバンド・ジャズの趣の緩徐楽章だ。諧謔でゆるりとしたPfソロが入るのは3分後くらい。コジュヒンの音楽センスはジャズにまで及んでいるのがよく分かる。最終楽章はトレモロのPfがとても技巧的で弾くのは難しいと思われる。
やはり金管隊が大活躍のビッグバンドならではの豪壮なフィナーレ。どこか現代のアメリカ大都市に通ずる響きがあるのは当のガーシュウィンも想像だにしていなかったに違いない。
ラヴェル: ピアノ協奏曲ニ長調(左手のための)
この曲の成り立ちについては、過去にこの演奏についてたくさん書いているので参照のこと。普通はオケを背景にピアニストが普通に左右手を使ってピアノ譜をトレースするのだが、この曲は左手の譜面しかない。
それは、ラヴェルがこの作品を献呈した相手が第一次世界大戦で右手を失ってしまった名ピアニスト=P.ヴィトゲンシュタインだったからだ。そのため左手、あるいは片手のためのコンチェルトと称されている。ヴィトゲンシュタイン本人が初演で上手に弾けなくて荒れてしまい、結局二人の交友関係が破断したというのは皮肉だが。
閑話休題、盤石なオケをバックに微細かつ精妙に弾き進めるコジュヒンの技巧には耳を奪われっぱなし。だが、よくよく聴き込むととても柔和、そして弱々しい個所も多く、これは実は10~20代の駆け出しの女流の演奏ではないかとの錯覚を覚える。だがフィナーレは強打と調和の大団円を迎えるのはさすが。
録音評
PENTATONE PTC5186620、SACDハイブリッド。録音は2017年7月、ベニューはVictoria Hall, Geneva, Switzerland(ヴィクトリア・ホール=ジュネーヴ、スイス)とある。最近のペンタトーンは録音レベルが低めでオフ気味、かなり遠くに聴こえるが、音場空間が澄明なので独奏楽器の音像やバックの器楽のそれぞれのプレゼンスはかなり正確に描かれている。この録音もその特徴に沿って録られていて、相当にリアルで傑出した美しい録音だ。特にレンジ感が上下に際立っており、ラヴェルのこの一連の作品で活躍するティンパニとグランカッサの低音域での捕捉は完璧。ラヴェルの両手の終楽章、あるいはConcerto in Fの途中、そして左手の終盤に活躍するグランカッサの衝撃波は耳障りになることなく極々自然にホールトーンを再現している。広大な音楽堂の空間にはこういった疎密波が伝播するのが普通なのだが、それがナチュラルに捉えられていて、そして我が家で再生されるというのはある種の感動をおぼえるのだ。
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