Scriabin: Fantasy in B minor Op.28 Etc@Vladimir Tropp |

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Vladimir Tropp: Russian Recital
Scriabin:
1. Fantaisie in B Minor, Op.28
2. Nocturne in F# Minor, Op.5, No.1
3. Mazurka in C# Minor, Op.3, No.6
Three pieces, Op.45
4. Ⅰ. Feuillet d'Album
5. Ⅱ. Poeme fantasue
6. Ⅲ. Prelude
Medtner:
Three pieces, Op.31 "First Improvisation"
7. Ⅰ. Improvisation
8. Ⅱ. Funeral March
9. Ⅲ. Fairy Tale
Rachmaninov:
10. Variations on a Theme of Corelli in D Minor, Op.42
11. Prelude in C# Minor, Op.3, No.2
Vladimir Tropp (Pf)
ウラジーミル・トロップ: ロシアン・リサイタル
スクリャービン:
幻想曲ロ短調Op.28
夜想曲嬰ヘ短調 Op.5-1
マズルカ嬰ハ短調 Op.3-6
3つの小品 Op.45〔アルバムのページ、詩的幻想曲、前奏曲〕
メトネル:
3つの小品 Op.31《第1即興曲》〔即興曲、葬送行進曲、おとぎ話〕
ラフマニノフ:
コレッリの主題による変奏曲ニ短調 Op.42
前奏曲嬰ハ短調 Op.3-2
ウラジーミル・トロップ(ピアノ)
ウラジーミル・トロップについて
彼はソリストであるとともにグネーシン記念国立音楽大学のピアノ教育者としても高名だが、私はその演奏に触れる機会は今までなかった。今回初めてその録音を手にし、針を降ろしてみた。彼の日本語版バイオグラフィーで適当なものがなかったので、以下、海外サイトから寄せ集めて抜粋しておく。
ウラジーミル・トロップ Vladimir Tropp
1939年、モスクワ生まれのピアニスト/音楽大学教授。幼少期にグネーシン音楽学校(モスクワ)で音楽を学び始め、まもなく権威あるリムスキー・コルサコフ・フェローシップなどの奨学金を授与され、その後は大学院まで進み前代未聞の好成績にて卒業。それ以来、トロップは優れたソリスト、およびグネーシン音楽大学を始めとした音楽教育機関における教育者の両方の肩書で高い評価を得ている。
ソリストとしてはジョルジェ・エネスク国際コンペティション(ブルガリア、ブカレスト)をはじめ、多くの国際コンクールで上位入賞を果たしている。またピアノ教育者として長期に渡り指導・輩出してきた生徒の多くは高名な国際コンペティションにて名誉ある賞を受賞し続けている。現在でもソリストおよびマスタークラス講師として、また各種ピアノ・コンクール審査員として請われ世界中を飛び回る。
このような精力的活動を通じ、母校グネーシン音楽大学を始めとするピアノ教育機関の継続的発展に大いに寄与している。トロップの専門はロシア音楽で、特にスクリャービン、メトネル、ラフマニノフなどを得意としている。現在はチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院ピアノ科主任教授、中央音楽学院(中国・北京)名誉教授。
録音はそれ程多くはないが、Channel Classicsレーベル/ショスタコーヴィッチ、日本のDENONレーベルから3枚/ラフマニノフ、ショパン、チャイコフスキー/スクリャービン、メトネル/Russian Melancholy(グリンカ、ボロディン、ムソルグスキー、ルービンシュタイン、カリンニコフ)が出ている。 (MusicArena 2018)
彼が育てた世界的ソリストは数多く、MusicArenaでも彼の生徒のうち何人かの録音を今までに何度か取り上げて来ている。以下、代表的な生徒の過去録音。特に日本国内を拠点に活躍するイリーナ・メジューエワが有名なところで、彼女の主要な録音はほぼほぼ聴いている。



スクリャービン:幻想曲Op.28~3つの小品Op.45
クリャービンはショパンを敬愛していて、特に初期の作品群にはその影響を聴き取ることが出来る。幻想曲ロ短調はその後の中期の作品であり、メロディアスな部分はショパンからの影響と考えて間違いはないだろう。しかし、それと同時に既にスクリャービン独自の神秘主義的な難解かつ不可思議な和声への萌芽も見られる。
冒頭の短い動機から増4度を経て更に飛躍し長7度へとスケールを拡張した主題提示はショパンからインスパイアされた抒情性と神秘和音の融合と言えようか。展開部から三連譜、シンコペーション、そして変拍子が繰り返し現れドラマティックな進行を示す。後半には対位法的な複数のメロディーラインが外声、内声部を形成しながら複雑に連関し合いコーダへと向かう。トロップの演奏だが、今まで聴いてきたPfソリストの誰よりも緻密かつ静謐、また抑揚と情感表現が複雑かつ豊穣で驚いてしまう。割と良いと思っていたメジューエワのスクリャービンがフラットに感じられるほど師匠トロップの演奏は彫りが深く濃やか。
ノクターン嬰ヘ短調Op.5-1は穏健でありながら深い憂愁を醸す初期の名曲でショパンの影響を受けた代表的なもの。主副の旋律ラインが左右手で離散的に分担されるが、トロップはどちらも偏りや際立ちがないよう周到にバランスさせている。続くマズルカも初期の作品で同様の影響が見られる。韻はショパンほど激しく踏まず割と素直で弾き易そうだが、そうでもない。左手は規則的な分散和音だが、右手は煩瑣な離散的長7度や9度を叩かなければならない。また下の矢印にあるようなアクセント付きのオクターブ・ユニゾンが高音域で多用される。トロップは純朴だが正確に律動を刻んで行く。

メトネル:3つの小品 Op.31
メトネルは日本国内ではあまり知られていなかった作家であり、名を耳にするようになったのは割と最近のことではないだろうか。メトネルの普及に一役買ったのはイリーナの一連の録音、演奏会だったと個人的には思っている。そのイリーナの師匠であるトロップはロシア国内でも屈指のメトネル研究家であり、その神髄と意思を日本で継いでいるのがイリーナと言ってよい。
3つの小品 Op.31(第1即興曲)は三曲から成る。第1曲、インプロヴィゼーション(即興曲)は物悲しい主題を滔々と繰り返す、いわば変奏曲様式の作品で演奏時間は結構長い。途中には前衛的な、あるいはジャズっぽい高速で複雑なクロマティックや煩瑣な非和声、ポリリズムがたくさん登場し、要求技巧も相当に高い。トロップがあまりに巧いのでスキルフルなこれ見よがし感が全くなく、いとも容易にさらりと弾いているように聴こえる。が、実態はそうではない。第2曲、葬送行進曲だが、主題は第1曲から持ってきたものと思われる。これを暗鬱で悲愴な伴奏部に乗せて重厚に展開。第3曲、フェアリーテールは明暗、そして緩急が激しく交錯する可愛らしい曲。
ラフマニノフ:コレッリ変奏曲、前奏曲嬰ハ短調
トロップはモスクワに本部を置くラフマニノフ・ソサエティーのヴァイス・プレジデントでありボードメンバーの一人でもある。彼は前出のメトネルだけではなくスクリャービンやラフマニノフ解釈の第一人者でもある。有名で長大なコレッリ変奏曲に関しては詳細説明は今さら不要だろう。安定の巧さ、そしてぶれない情感、僅かに見え隠れする青白いテンペラメントが彼の人間性というか音楽人としての取り組み姿勢を全て表しているかのようだ。
最終トラックは前奏曲嬰ハ短調Op.3-2。日本では鐘の愛称で親しまれており、かつてフィギュアスケートの浅田真央がフリーの楽曲で使っていたこともある。但し、ラフマニノフの鐘といえば本来はエドガー・アラン・ポーの詩のロシア語訳に基づく合唱交響曲「鐘」Op.35を指す。
前奏曲嬰ハ短調の名演奏は少なくないが、このトロップの演奏はなんとも言えない勁さと高潔さ、そして底知れぬ畏怖の念を抱かせるもの。冒頭の導入部は短く太い低域弦による動機、続いて、あの特徴的で耳に残る主題が鳴り響く。この動機をもって後世の人たちは鐘と形容したのであろう。アジタート指定の中間部は動機に由来するクロマティックな三連符が連打され極めてテンペラメンタルな展開、かつ執拗なsfz(スフォルツァンド)が聴くものの心を鷲掴みにして離さないのだ。
まとめ
トロップの演奏はもう少し早くに聴いておくべきだった。とにかく非常に巧いし音楽としての完成度も高く、ロシア作家たちの解釈はかくあるべきという、ある一つの規範がここにある。全編において作品に対するクールで青白い情熱が通底しており、超絶技巧であるだとかエモーションであるだとか、そういった表面的に発露して来る演奏上の個々のエレメントを云々することがもはや意味をなさないものであることに気付かされる。
録音評
Fondamenta FON1401017、通常CD。録音は少し前で2015年1月28~30日、サル・コロンヌ(パリ)とある。この盤には2枚の媒体が同梱される。一枚は通常聴取を想定したFidelity CD、もう一枚はPCやカー・オーディオ、携帯音楽プレーヤーを想定したMobility CDである。ここでの試聴は主としてFidelity CDを用いた。レンジはそこそこ広いが、それを強調するような極端な演出はなく、穏当なものと言える。背景のアンビエントも良好で自然な広がり。そこそこの距離感で定位するピアノの音が極めて美しく、これはホール自体の音響性能や調律、またマイキングやポストプロセスの秀逸さもあるのだろうが、トロップのキータッチの正確性と歪を生じない打鍵方法にあるように思う。Mobility CDだが、音像が一回り大きくオンマイク気味に聴こえるのと、低域と高域に多少のエンファシスがあって、いわゆるドンシャリ気味に調整してある。これは帯域の狭い機器で聴く場合を想定し、その蒲鉾型の周波数特性をあらかじめ補正するためと考えられる。

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