Brahms: P-Con#1 Etc@Boris Berezovsky, Russian State SO. |

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Brahms: Piano Concerto No.1 in D minor, Op.15
Ⅰ. Maestoso
Ⅱ. Adagio
Ⅲ. Allegro non troppo
Stravinsky: Concerto for Piano & Wind Instruments
Ⅰ. Largo - Allegro - Piu mosso - Maestoso
Ⅱ. Largo - Piu mosso - Tempo Primo
Ⅲ. Allegro - Agitato - Lento - Stringendo
"Evgeny Svetlanov" Russian State Symphony Orchestra
Boris Berezovsky (Pf)
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15
ストラヴィンスキー:ピアノと管楽オーケストラのための協奏曲
ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)、
スヴェトラーノフ記念ロシア国立交響楽団
ボリス・ベレゾフスキーについて
ベレゾフスキーは今までも数多く取り上げてきたのでバイオグラフィーは割愛する。彼は屈強なピアノを弾くロシア系ソリストとしては最右翼で、故ブリジット・エンゲラーとの共演、共作も多かった。以下のサムネイルは今までMusicArenaで取り上げた主要な彼の作品。






ブラームス:Pコン#1 - 驚異の色彩感
ブラームスは生涯で二つのPコンを書いており、今回の#1は紆余曲折を経て完成したごく若い頃の作品。そのためか旋律も和声も粗削りで力感が太く豊かな反面、暗鬱な翳りや屈曲した憂愁美への萌芽も垣間見られる。また、独奏楽器としてのPfが他の多くのヴィルトゥオーゾ作家のPコンとは異なりオーケストレーション上の一つのパートとして溶け合うが如くの目立たない扱いなので、ピアノ伴奏付き交響曲、またはピアノのオブリガート付き交響曲などと揶揄されるところでもある。
一楽章は非常に長い。その冒頭、オケの総奏による絶望的に重苦しいモチーフ(動機)の提示、そしてメランコリックで美しい短調の第一主題からの変奏がとても長く、これはブラームスの他の協奏曲、例えばPコン#2やVnコンでも同様。独奏Pfが第一主題を引っ提げて登場するまでに数十小節を要する。他の多くの演奏だと、ここまでのオケ・パートでかなり飽きてしまうが、この演奏は違っていて実に音数が多く、微細なハーモニーが美しくとても楽しめる。
第一主題を奏でるベレゾフスキーだが、穏当で静謐な弾き始めなのに、はっとするほど耳が惹き付けられる。落ち着いているが強い意志と芯を突く精密なタッチが素晴らしく、ステージ全体を確実にグリップしている。その後は他に例を見ないほど高テンションを保ちつつオケと有機的に絡んでいく。第二主題は独奏Pfによる唐突な提示で、形式的には一種の短いカデンツァだ。シンプルで明媚な、かつ美しく毅然としたこの長調の主題、およびその変奏はベレゾフスキーならではの剛健な打鍵によりオケを従える強い統制力、イニシアチブが感じ取れる。なにせ、この演奏には独立指揮者を立てていない。有体に言えばベレゾフスキーの弾き振りなのだ。この作品の特徴である、独奏Pfがオケに埋没するという弱点が完全克服されており、これは大いなる快挙だ。
二楽章は緩徐楽章で、ここも普通なら飽きる場面。だが、ベレゾフスキーの際立った打鍵圧と超絶技巧に支えられたリーダーシップは強固であり、静かで穏和ながらきりっとしたヴィヴィッド、かつ色彩感豊かな和声展開を示す。音数的にもオケが単に黒子に徹することなく、また逆にPfがオケパートの単なるオブリガートとして隷属することもなく、実に妥当なポートフォリオを保ったアンサンブルだと思う。
終楽章はもともと溌剌としたエナジーに満ちた曲想だが、この演奏の場合、ベレゾフスキーの超絶的かつ滑らか、隙のないソロが非常に秀逸。それに加えこのオケがネーティブで備えていると思われる独特の揺蕩って歌うような音楽性とが相乗して非常にダイナミックだし、明媚な色彩をまとった演奏を繰り広げている。そしてトゥッティからコーダにかけての強烈なアチェレランドは疾駆感がたまらなく、胸がすくような展開。終了直後、盛大なアプローズが鳴って初めてライブ演奏であったことを知る。
ストラヴィンスキー:Pf & Windコン - 前衛的かつ超絶的な空間展開
この作品は初めて聴く。その名の通り、PfとWind Instrumentのための協奏曲である。念のため予めことわっておくが、Wind~とあるのは吹奏楽向け、あるいはブラスバンド向けということではなく、あくまでも管楽器を意味する。それはオーケストラ、即ち管弦楽団の弦楽隊を除いた器楽パートで合奏する協奏曲という意味である。
一楽章、ブラスセクションの重厚で暗く危うい和声で開始。リフレインの直後にPfが参戦、足の速い微細な上下動を繰り返す旋律ラインとトレモロ調の打鍵とが交錯しつつウィンドと絡んで行く。弦楽がないため音の直進性が非常に強く、かつハイスピードなレスポンスだ。中間部以降はほぼ全体が非和声へと変質しとてもデモーニッシュな不協和コード。そうでありながらもウィンドの響き合いが立体的で空間感が心地よい。超高速で剛健なPfを操るベレゾフスキーの支配力が光る。
二楽章はちょっと分かり辛いが緩徐楽章となっている。冒頭は数小節の主題提示で、Pf独奏から静謐に開始。直後、ほぼ純和声に近いウィンドの総奏は厳かな響きで、その後中間部で再度静けさを取り戻し、ジャズっぽいPfの主題を変形したカデンツァを挟みつつ後半へ。静かな分散和音を刻むPfにウィンドの各パートが弱音で絡むバラード調の変奏が展開され淡々とコーダーへと向かう。
三楽章は前とほぼ切れ目なく開始。ここは一楽章と雰囲気の似たデモーニッシュ、かつ勇壮なマーチ風の主題を持つアレグロ、その後は非和声とイレブンス系和声を混ぜ、そして葉煩瑣で複雑なポリリズムを刻むスケルツォ的な展開のアジタートへと突き進む。中間部からはFl等の木管が刺激的にバトルに参戦、Tpの尖鋭な響き、腹にずしりと響くTb、Tubを従えつつ変奏が進む。コーダはごく短く、Pfとウィンドのトゥッティで閉まる。
録音評
MIRARE MIR340、通常CD。録音は2017年4月8日、べニューはTchaikovsky Concert Hall de Moscou(モスクワ音楽院大ホール)とある。ライブ収録であるが音質はセッション録りと同等、いやそれ以上の高S/N、低歪、透明なアンビエントで素晴らしいのひとこと。MIRAREらしいニュートラルで誇張感のない帯域バランス、過度にフォーカスを絞らないPfおよび器楽編成の定位は現実のホールに着座した時と近似し、ほぼ等身大。特筆すべきは左右にも前後にも広大に展開されるサウンドステージのパースペクティブで、2チャンネル・ステレオフォニック方式でありながら立体三次元の深い音場に包まれてしまうという理想的な録音だ。このところどのレーベルでもデジタル録音機材やソフトウェアの最新化、高度化が進展しているようで目を瞠るような収録が多い。が、その中にあっても一つ頭抜けた最先端・超高音質と言える。音楽ファン、オーディオファイルのどちらにもお勧めの一枚。

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