Brahms: Vc-Sonatas & Hungarian Dances@A.Tharaud, J.G.Queyras |
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Brahms: Cello Sonatas & Hungarian Dances
Cello Sonata No.1 in E Minor, Op.38
Ⅰ. Allegro non troppo
Ⅱ. Allegretto quasi Menuetto
Ⅲ. Allegro
Cello Sonata No.2 in F major, Op.99
Ⅰ. Allegro vivace
Ⅱ. Adagio affettuoso
Ⅲ. Allegro passionato
Ⅳ. Allegro molto
Hungarian Dances, Excerpt (Transcripted for Cello and Piano)
Book 1:
No.4 in G Minor
No.1 in G Minor
No.5 in F-Sharp Minor
Book 2:
No.7 in A Major
Book 3
No.14 in D Minor
No.11 in D Minor
Alexandre Tharaud (Pf), Jean-Guihen Queyras (Vc)
ジャン=ギアン・ケラス、アレクサンドル・タロー/ブラームス:チェロ・ソナタ、ハンガリー舞曲
ブラームス:
・チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 Op.38
・チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 Op.99
・ハンガリー舞曲より 4,1,5,7,14,11番(ケラス&タロー編曲版)
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)、アレクサンドル・タロー(ピアノ)
演奏者について
この二人は過去にMusicArenaで何度も取り上げていて今更なのだが、バイオグラフィーを改めて以下に載せておく。
ジャン=ギアン・ケラス Jean-Guihen Queyras
モントリオール生まれ。リヨン国立高等音楽院、フライブルク音楽大学、ジュリアード音楽院卒。1990~2001年までアンサンブル・アンテルコンタンポランのソロ・チェロ。カバー範囲はバロック~ロマン派~現代曲まで幅広い。独奏で世界各国の著名オケとの共演が多いが室内楽への取り組みも奥深い。ヴァイトハース(Vn)、ゼペック(Vn)、T.ツィンマーマン(Va)らとアルカント・カルテットを組成し各地で活動。
2015年のファウスト、メルニコフ、カサド/フライブルクBO.とのシューマン・アルバムは超絶的な内容で記憶に深く残る。楽器は1696年ジョフレド・カッパ製(メセナ・ミュジカル・ソシエテ・ジェネラルより貸与)。2002年グレン・グールド国際プロテジェ賞受賞、現在はドイツ・フライブルク音楽大学教授。
アレクサンドル・タロー Alexandre Tharaud
パリ生まれ。パリ国立高等音楽院卒。1989年ミュンヘン国際コンクール第2位。以後ソロ活動を世界各地で展開し、欧米では主要オケとの共演が多く、また欧州の主要音楽祭等にも出演している。現代的なプログラムと伝統的な作品の両方を得意としていおり、独自解釈で尖鋭的なプログラムでも注目されている。ジャン=ギアン・ケラスとのデュオでは2度の来日公演を行って好評を得る。コンサート・ソリストとしてもフランスを中心に各地に招かれ共演し好評を得ている。
優れた企画によるCDは話題となり、MusicArenaでもこのパリをテーマとしたハイセンスなアルバムを取り上げており、現在でもなお要注目のピアニストの一人と認識する。
Vcソナタ#1 ホ短調Op.38:仄暗く生硬な負のエナジーが滲みる好演
ブラームスは生涯に室内楽曲を多数書いている。Pf三重奏~五重奏、弦楽四重奏~六重奏、Cl三重奏~五重奏、各種ソナタ等の多くを手掛けた。その中でVcソナタは二つあって、壮年期の1951年に書いた1番、晩年の1886年に書かれた2番となる。
ブラームスは若年期にVcソナタの構想を練っていたが、紆余曲折があって、それらを収斂させて現在に残されているのが全3楽章からなる1番。一時期存在した緩徐楽章を削除したため3楽章形式となったとされる。
1楽章の冒頭、エナジー感の低い薄暗い穏やかな第1主題がケラスのたっぷり目の弦で紡ぎ始められる。連続して第2主題へ繋がるがこちらはちょっと激しく勁さのある毅然とした悲哀がブラームスらしいと言えばその通り。この2主題を軸に変奏がリフレイン、最後は長調に転調し暗部の中に一点の光を形成してコーダを迎える。
2楽章はちょっと可愛らしい3拍子系のメヌエット。このソナタには緩徐楽章がないので、あるいは少々大人しいここを緩徐楽章の代用として味わうことも可能かと思う。しかし基底にあるのは仄暗さ。徹底した暗部への拘りはブラームスの深層心理からくるものだと思う。タローの軽やかで転がるようなオクターブ奏法、分散和音に載せてケラスが女性的とも思える微細上下する不安げで哀しげなスケールをたっぷり歌う。
3楽章の主題は2楽章主題と類似しているが3拍子系ではない。主題が時間差でVc、Pfで交代しながら演奏されるカノンの技法を使っていてスピード感は感じられるが、ダイナミックレンジ的にはエナジー感が殊更に強まることはない。中間の展開部、及びコーダ部でPf、Vcともに僅かに烈する部分が見られるがそれほどでもない。全体を通じて抑圧的、ストイックな曲想をケラスとタローの二人はきっちり尊重し、やるせなさをじょうずに表現した。
Vcソナタ#2 ヘ長調 Op.99:光と影、動と静のコントラストに息を飲む
1番からは相当年が経過した、恐らく53~4歳の頃の作品。壮年から晩年にかけてのブラームスの作風の共通点が凝縮されている。なお、この曲は2楽章がアダージオ指定の緩徐楽章であり、普通の全4楽章形式。
明媚で溌剌とした第1主題(以下の冒頭の譜面を参照)がタローの動機で起動、ケラスのVcで高らかに歌い始められ、これにブリリアントなタローのPfでオブリガートが重畳され、いかにもフローラル、そして浮き立つ高揚感が白眉だ。第2主題は不明瞭な現れ方をする第1主題の暗転パートのような位置付け。中間部がちょっと変わっていて緩徐部となり、静かに各主題を回想する趣。そこが過ぎると一呼吸あって、再び明媚な第1主題の再現部にかかる。第2主題は再現せず連関性が見いだせないちょっと違う旋律和声を短く響かせえうコーダとなり、突然終わる。
3楽章はアレグロ・パッショナート指定で、割と激しく攻撃的な旋律。4度終止が不安定感を募らせるなんともスリリングな展開となる。だが、そこはブラームスの美味いところで、中間部には緩解させるような仄かで柔らかく憂いパートを用意している。この第2主題から第2主題がゆっくり静かに断片的に再現し始め後半へ変奏を繰り返す、スケルツォ的展開。結局激しいままの冒頭主題を用いてコーダを形成。
4楽章はロンド形式で、諧謔味のある楽しい純朴かつ明るい旋律の主題が基底となっている。これが部分的に暗転しながら長調部分と絡んで進行していく。まさに光と影、ケラスは主旋律と共に低音弦による伴奏部も担うのでちょっと忙し目だが美しい弦捌きに聴き惚れる。どっぷりとしたタローの打鍵、伸びやかなスケールも必聴もの。素晴らしい。
ハンガリー舞曲(抜粋)- センチメンタリズムの極致
このアルバムは二つのVcソナタが中核であり残りはフィルアップと思いきや、これがどうして、凄いのだ。なお世の中にはVc版というのは公式にはなく、この二人が編曲したとある。ヨアヒムのVn版を基にしたかと思ったが調性を見ると原曲のPf連弾版がベースと思われる。但し4番だけ原曲がヘ短調なのに対し本作はト短調となっていて、その理由はわからない。
ケラスもタローもバルカンやハンガリーには所縁はないと思われるのだが、いや、なかなか良いのだ。喩えは悪いが、フランスの格好良い中年紳士が演歌をすすり泣くように、いたくじょうずに歌い上げるふうな一種の良い意味での意外性があったのだ。
冒頭はお決まりで著名な#4から。太く憂愁に満ちたケラスの弦はどこか鄙び、そして擦過による歪を敢えて除去していないので余計に哀しく生々しい。中間部の明転する部分の高域弦が極めてブリリアントで美しいし、またケラスが凄い技巧の持ち主であることも同時に分かる。
#1も仄暗い。ここではタローが主旋律をとる場面が多く、また伴奏パートも高速下降分散スケールが激しく炸裂し凄い・・。もともと超絶技巧の持ち主であるタローから見ればどうということのないパッセージなんだろうが。いとも簡単に、軽量フェザータッチで弾き抜けていく。
#5は言わずもがな、ハンガリー舞曲といえばこれ、と言われる代表曲。ケラスが駆る中低域弦が柔らかく、刺激的なノイズを発せず。とても綺麗な陰翳を作り出している。加えてタローの伴奏Pfが重層的で和声が深い。
#11はハンガリー舞曲の中ではちょっと変わり種。憂鬱だがちょっと明転する部分がユーモラスで楽しい曲で、個人的には割と好きな部類。ここではタローの分散和音、オクターブ・ユニゾンが美しい。訥々と主旋律をトレースするケラスとの相性、息もぴったり。最終トラックを締めるにふさわしい、静謐でメランコリックな選曲と思った。
録音評
Erato 9029572393、通常CD。録音は2017年3月、ベルギー、モンス、サル・アルソニックとある。エラートは現在はワーナー・グループに属する。実は数年前に名門EMIが消滅しワーナーに属することになった。針を降ろした直後の所感としてはEMI時代のブロードでフラット、外連味のない音作りを想起した。優秀な中規模ホールと思われるステージだが、それほどホールトーンを生かしておらず、どちらかというと楽器に集中した狙い方。但しオンマイク気味という意味ではない。音色は多少仄暗い、ブラームスに適した形質としていて、これが実に憎い。この盤は今年の初め、冬にリリースされているが、しかし音楽と音質からすると、今、すなわち秋にこそ向く。ちょっと肌寒くなった夕刻から夜半にかけ、ブラームス特有の低照度のメロディーラインは心に沁みる。
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