J.S.Bach: Sonatas for Vn & Cem BWV1014-1019@Isabelle Faust,Kristian Bezuidenhout |

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J.S.Bach:
(CD1)
Sonata for Violin & Harpsichord No.1 in B minor, BWV1014
Sonata for Violin & Harpsichord No.2 in A major, BWV1015
Sonata for Violin & Harpsichord No.3 in E major, BWV1016
(CD2)
Sonata for Violin & Harpsichord No.4 in C minor, BWV1017
Sonata for Violin & Harpsichord No.5 in F minor, BWV1018
Sonata for Violin & Harpsichord No.6 in G major, BWV1019
Isabelle Faust (Vn), Kristian Bezuidenhout (Cem)
J.S.バッハ:オブリガート・チェンバロとヴァイオリンのためのソナタ集
[CD1]
第1番 ロ短調 BWV1014
第2番 イ長調 BWV1015
第3番 ホ長調 BWV1016
[CD2]
第4番 ハ短調 BWV1017
第5番 ヘ短調 BWV1018
第6番 ト長調 BWV1019
イザベル・ファウスト(Vn)(ヤコブ・シュタイナー(1658年製))
クリスティアン・ベザイデンホウト(Cem)
ジョン・フィリップス、バークレー(2008年製)
ヨハン・ハインリヒ・グレープナー(ジ・エルダー)、ドレスデン(1722年製)
/トレヴァー・ピノックより貸与
1枚目:BWV1014~1016から

BWV1014、やるせないベザイデンホウトのCemと途中から低域対旋律を深刻に弾くファウストのVnが静かだが何故か悲しい1楽章。なお、これらはバッハ作品中でもちょっと古い形式で、ソナタ・ダ・キエーザ(sonata da chiesa:教会ソナタ様式)という緩−急−緩−急の4楽章形式をとる。2楽章はヴィヴィッドで、ファウストがスリーピング・ビューティーから持ち替えて駆るヤコブ・シュタイナーが直進的に軽やか。3楽章は緩徐楽章、衒いのない抑揚の少ない平和な響き。ノン・ヴィブラートのファウストがなぞるA線があまりに純音でびくっとする。4楽章(Allegro)は急速楽章で、これが耳に残る音数の多い作品。雰囲気がBWV1065(ヴィヴァルディ:調和の幻想Op.3#10番の4台Cem版)に酷似していて、朝の通勤電車内で聴くと午前中いっぱいは後頭葉にリフレインして注意散漫となるので要警戒だ。
BWV1015の3楽章(Andante un poco)は緩徐楽章、これまたやるせない、たとえは悪いが演歌調の旋律で、ファウストの伸びやかでストレートで虚飾のない求道的な表現がたまらない。続く4楽章(Presto)は速足だが完全な長調で屈託、翳も全くなくて日向の印象。暖かくて優しい風合い。これも癖になるので要注意。
BWV1016の1楽章(Adagio Ma Non Tranto)はソナタ・ダ・キエーザの様式によって緩徐楽章。いわゆるアリアの様態を見せる美しく歌うような対位法が聴かれる。主旋律が時間差を伴ってファウストの弦とベザイホウトの鍵盤とで授受されながらさらさらと流れて行く。そして終楽章(Allegro)は急速楽章で、急峻に上下する主旋律を担当するファウストのヤコブ・シュタイナーの低歪な音色が非常に鮮烈、残響がないはずのスタジオにおいてエコーが聴こえるような微細な操弦技法、操弓技法は素晴らしいと言わざるを得ない。
2枚目:BWV1017~1019から

BWV1018の1楽章(Aria)はその名の如くアリアであり、まるで肉声のようなファウストのG線とD線の太くも揺蕩う音に耳が釘付けにされる。こんなに表現力と吸着力に富んだ音なのに実はノン・ヴィブラートであるという事実に考えさせられるところがあった。つまりヴィブラートなどの微細な周波数や音圧の揺らぎは訴求力とは関係しないということ。同曲の終楽章はVivace指定にも拘らずゆったり感と浮遊感を演出した解釈としていてふわふわした感触が心地よい。それは、元々が不可思議系の主題がBach motif(B-A-C-H音型)に類似した不安定かつ非和声であることが原因と考えられる。
最終曲のBWV1019はこの曲集中では異端で、急−緩−急−緩−急の5楽章形式、そして3楽章がチェンバロ独奏という特異な形態。ここはさらさら流れるがどこかで聴いた旋律。だが何回聴いても思い出せなかった。最終の5楽章は前の楽章までとは全く連関性のない曲想。非常に明媚でバロック期かつバッハ作というよりハイドン的な明媚さを持った屈託のない作品。ファウストの弦はここに至り飛翔、跳躍、疾走と自由自在、ベザイデンホウトの精緻かつ大胆な攻めのオブリガートもまた白眉で、音楽を聴く喜びとは何かを改めて教えられた。言うことはない名演だった。
以下、インタビューPV、音声のみの動画ファイルがあった。
例によってリンク切れまで貼っておく:
https://www.youtube.com/watch?v=Lzlqtpa2wSQ
https://www.youtube.com/watch?v=xBpNoQO5Bk8
録音評
Harmonia Mundi HMM902256、通常CD。録音は2016年8月18-24日、テルデックス・スタジオ(ベルリン)。テルデックスの録音は非常に多く、私の手元にも数え切れないほどの名録音がある。その中にあってもこれは音質は非常に良くて、しかも新しい時代の息吹を感じるほどの高解像度なのだがそれを殊更に誇張していなくてナチュラルな質感、すなわち自然な楽器定位、ライブホールと聴き間違えるまでのアンビエントと広大なサウンドステージが構築されているのだ。この盤はファウストのファンは勿論、音に拘りのあるオーディオ・ファイルにもお勧め出来る一枚。

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