Tchaikovsky: P-Con#1@Olga Scheps, Carlos Dominguez-Nieto/WDR SO Köln |
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Tchaikovsky:
Piano Concerto No.1 in B flat minor, Op.23
Ⅰ. Allegro non troppo e molto maestoso
Ⅱ. Andantino semplice
Ⅲ. Allegro con fuoco
The Seasons, Op.37b
November (Troika)
December (Christmas)
Chanson triste, Op.40 No. 2
The Nutcracker Suite, Op.71a (Excerpt, Arr.by Mikhail Pletnev)
Ⅰ. March
Ⅱ. Dance of the Sugar Plum Fairy
Ⅲ. Tarantella
Ⅳ. Intermezzo
Ⅴ. Trepak
Ⅵ. Chinese Dance
Ⅶ. Pas de Deux
Olga Scheps (Pf)
Carlos Dominguez-Nieto(Cond)
WDR Sinfonieorchester Köln
チャイコフスキー:
ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調Op.23、
四季』Op.37a
11月:トロイカ
12月:クリスマス
中級程度の12の小品 Op.40より「悲しい歌」
演奏会用組曲 くるみ割り人形(プレトニョフ編曲)
オルガ・シェプス(ピアノ)
カルロス・ドミンゲス=ニエト(指揮)
ケルンWDR交響楽団(協奏曲)
オルガ・シェプスについて
気鋭のピアニスト=オルガ・シェプスにはある種の孤高の美学とポリシーに立脚した演奏スタイルがある。それは、今までの多くの演奏家が目指してきた情感や抑揚といった表現上の演出幅の拡大、つまりテンペラメント、エモーション、エナジーといった楽想記号上の拡大解釈に過ぎた要素を極力切り出し(Carve-out)、必要不可欠かつ無駄のない筋骨だけを敢えて残したうえで作品構造をマッシブに浮かび上がらせようとするものだ。私はこの3枚を聴いてきて、彼女のこの物怖じしない、そして時の流行や流儀に阿(おもね)ることのないアプローチが割と気に入っている。
▶ ショパンの作品集
▶ ラフマニノフの作品集
▶ サティの作品集
チャイコン
オルガは今まで上に示したような独奏Pfのアルバムだけをリリースしてきた。が、演奏会シーンにおいては様々な作家のコンチェルトも弾いてきており、実はそういったオケとの共演でも非常に人気を博してる演奏家なのだ。ということで、このチャイコンはオルガが弾くコンチェルトの初録音となる。
一楽章のPfの導入部。これでこの作品の演奏に係る全体像が決まるといっても過言ではない重要な部分。オルガは実にあっけらかんと強奏で入る。全盛期からの巨匠の演奏、あるいは名演とされる演奏の場合、ここで強烈に掴み、残りの部分を支配する。が、オルガのこれは実に淡々と譜面通り。以下、〇の部分が、大概の演奏家がアゴーギクを使って引き伸ばしを図り、オケもそれに呼応して盛り上げを手助けし、そして聴くものをトランスさせるキーポイントとする箇所。
二楽章は静かで低エナジーかと想像した。確かに低音量だが、弱音部の描き込みがとても細密で実はもの凄い精力が費やされた労作。三楽章フィナーレではギアが入れ替わり、今までの独奏作品とは全く違った表情を見せる。即ちエナジー感が割と強く、それでいて誇張や背伸びがなく極々自然に鍵盤を強打している。しかし決して荒れることなく、激しそうに思える表情の裏にはどこか常に醒めた静的なリリシズムが宿っている。いや、素晴らしいのひとこと。べたつかないチャイコンの今世紀版というと大げさかもしれないが、個人的にはかなり気に入った。
四季の2曲~くるみ割り人形
四季の12曲のうち最もメランコリックなもの、そして最も愉しげなものを選んだ印象。オルガは例によって情感や抑揚は基本的に排除して譜面に忠実に、そして非常に大切なポイントだが、時間軸の揺らぎを最低限に抑制していること。これにより、過度にべたついた曲想、運指、ペダリングによるエモーショナルで乱れた演奏設計に与せず、非常に清潔な演奏を聴かせてくれる。
くるみ割り人形は、ある種のピアノ技巧マニアと言ってよいプレトニョフのオリジナルのピアノ編曲譜となる。譜面はまだ著作権保護の期間内なので見ることはできないが、音を聴く限りでは要求技巧は極めて高く、弾き切るのは困難を極めそうだ。だが、オルガは涼しい風情、つまり静謐かつ冷徹に時間軸方向の律動を守りつつ淡々と弾き進める。破綻は全くなく、音価の多さとその密度は極大と言ってよい。テクニカルで凄い演奏だが、これが非常に楽しいのである。これはオケ版くるみ割り人形をも凌駕するくらいのダイナミックレンジと愉悦に満ちていて、フィナーレでは思わず快哉を叫んだ。
まとめ
ピアノの音の純度、また統制が効いたオケの衒いなさ、そしてエモーションやテンペラメントに過度に流されず温度感を低く保ちつつ音楽性をも具備したという優秀な演奏だ。こういったある意味で原曲、つまり譜面から大きく逸脱せずに、それでもある種の制約の範囲内で自らの表現技巧と個性とを発現させつつ、とりもなおさず一貫性のある音楽を構築するのは素晴らしいと言わざるを得ない。とても良い演奏だった。
PVがあったのでリンク切れまで貼っておく。
チャイコン
くるみ割り人形
録音評
Sony Classical 88985470102、通常CD。録音は2017年5月、8月。ベニューはケルン、フィルハーモニー、およびWDRグローセ・ゼンデザールとある。音質は極めて穏健、ハイファイ基調ではないもののファンダメンタルの帯域内がきっちり整っており、基音から倍音、そしてホール空間を介したアンビエント、リバーブまでもが全てがバランスした素晴らしいピアノ録音。なお、ソニーの形質なんだろうが音調の暗さが感じられ、フローラルな伸びやかさや明るさは恐らく意図的に抑制されている。つまり透徹された大人の録音品質と言える。
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