Bohemia: Dvořák,Suk,Janáček@Tamsin Waley-Cohen |
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BOHEMIA Dvořák・Janáček・Suk
Dvořák: Sonata in F Major for Violin & Piano, Op.57 B.106
Ⅰ.Allegro, ma non troppo
Ⅱ.Poco sostenuto
Ⅲ.Allegro molto
Dvořák: 4 Romantic Pieces for Violin & Piano, Op.75 B.150
Ⅰ.Allegro moderato
Ⅱ.Allegro maestoso
Ⅲ.Allegro appassionato
Ⅳ.Larghetto
Suk: Four Pieces for Violin and Piano, Op.17
No.1 Quasi ballata
No.2 Appassionato
No.3 Un poco triste
No.4 Burleska
Janáček: Sonata for Violin & Piano
Ⅰ.Con moto
Ⅱ.Ballada
Ⅲ.Allegretto
Ⅳ.Adagio
Tamsin Waley-Cohen(Vn)、Huw Watkins(Pf)
ボヘミア ~ ドヴォルザーク、ヤナーチェク、スーク
ドヴォルザーク:
ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 Op.57
4つのロマンティックな小品 Op.75
スーク:
4つのロマンティックな小品 Op.17
ヤナーチェク:
ヴァイオリン・ソナタ
タムシン・ウェーリー=コーエン(ヴァイオリン)
ヒュー・ワトキンス(ピアノ)
ドヴォルザークのソナタOp.57、小品Op.75
タムシン・ウェーリー=コーエンとは、3年ほど前にバルトーク/ベンジャミン/クルターク他の作品集で出会った。なかなかに挑戦的かつ骨太のVnを弾く人で、それは印象にずっと残っていたこともあり今回このアルバムを聴いてみることにした。
前半はドヴォルザークのソナタと4つの小品Op.75。ソナタの方はそれほど演奏機会は多くはなく、録音もそんなにはなくて割と地味な作品といえようか。そして、これを以てボヘミアとは言えないだろう。というのは、この作品はドイツ的、もっと端的にスポットで言うとブラームスのピアノ四重奏曲Op.25に作りと雰囲気が酷似している。ドヴォルザークとブラームスは同時代を生きた作家同士であってしかもドヴォルザークから見れば大先輩であるブラームスを敬愛していたし、実際に親交もあった。
ただ、違いをいえば、明るく振る舞うが実際に暗いのがブラームス、暗く演じているが実際に明るい兆しを隠し得ないのがドヴォルザークということか。ともかくこのソナタはドイツ的な様式美を備えた佳曲。タムシンのVnは直進的で美しいというかなんというか、全楽章を通じ虚飾がなくて沁み渡るような直截的なパッションが素晴らしい。
次の4つのロマンティックな小品Op.75は比較的よく弾かれる作品集だろう。第1曲の優しくも儚さを湛えた美しい長調のこの響きはなんだろう、とても女性的で優美なプレゼンスで満たされている。ワトキンスが弾く細かなシンコペーションとタムシンのVnの微細なスケールが秀逸。第2曲は激しくて、これはいわばボヘミアだろう。演奏機会もそこそこある曲で耳に残る激しいダブルストップが特徴。タムシンの冷涼な解釈が素晴らしい。第3曲は一気に緩徐に振れ、華やぎ、そして純和声の穏和な作家のメンタルを書き表している気がするが中間の展開部から暗転してダブルストップで切ない下りは何度聴いても泣かされる。
そして終曲は物悲しいし、そして美しい。ドヴォルザークが彼の長女、そして長男、二女と疫病や偶発的事故で失ったのは1875~1877年にかけてだ。その後、彼は悲しみのなかで名作=スターバト・マーテルを書き上げる。この終曲はそれから10年ほど経過して書かれたとされているが、実はこのスケッチはその悲嘆の時期に書かれていたか、あるいは脳裏にずっと執着していた感情を吐き出したものではないかと思っている。それくらい物悲しい。タムシンの弦のすすり泣きがたまらなく切ないのだ(以下の第4曲5小節以降のVn譜に出てくるダブルストップに着目)。
スーク Op.17
これは、聴き易い現代音楽と分類してしかるべき作品で、ボヘミアの風情を切り取った作りと言えるのではないか。私はボヘミア地方には勿論のこと行ったことがないので、これが当地で伝承されてきた曲想なのかどうかは分からない。しかし、そういった民族的、いや民俗的な音楽は今の世では色々と聴けるため、こういったちょっと燻したような、くすみのある曲をボヘミア風というんだ、と言われれば納得するのだ。第二楽章はその極み。落ち着かない曲の調子、あるいは不安定で明暗が複雑に交錯する旋律や非和声系の伴奏などは、ハンガリーの民俗色が濃いバルトークなどと似ているところがある。タムシンのVn独奏は雄弁だしワトキンスのPfがまた泣かせるエモーション。
ヤナーチェクのVnソナタ
この作品は今回のアルバムの中では最も前衛的で民俗的といえばそう、という作品となっている。1楽章コン・モートは、Vnは調和しない増4度音程と減3度下降を繰り返し、そしてPfは基本調を中心としてトリルを執拗に繰り返しつつ伴奏の役割を果たすというスーパーな役まわり。2楽章バラードは純粋和声に近い綺麗で落ち着く語り口でタムシンが超長時間のスケールを綺麗で歪感皆無の軽いヴィブラートで繋ぐ。
中間部からはちょっと雰囲気が変わり田園風景描写に近い浮き立つ長調、かつ翳りを強くして後半へと向かいエネルギッシュに締まる。3楽章は前楽章とは全く違う作風でデモーニッシュ、そしてどちらかというとポリリズムに類した意外性の拍子と音の妙味が味わえる。終楽章はアダージオ指定で、3楽章のモチーフを持ち越したもので、デモーニッシュさと、ちょっとの意外性を含むスケルツォ的な始まり。途中から1楽章の主題の短い再現が断片的に激しく入り、初めてこの曲が循環形式を踏まえていることを知る。そしてコーダはエモーショナルなVnおよびPfの熱い掛け合いが聴かれる。
録音評
Signum Classics、SIGCD510、通常CD。録音は2017年3月13~15日、ベニューはブリテン・スタジオ(スネイプ・モルティングス、オールドバラ)とある。音質だが、割とナローレンジに聴こえるもので、古風いや古色蒼然とした感じに聴き取れる。だが、よくよく繰り返し聴くと帯域幅は広くはないものの実は100Hzから10kHzまでの領域でのリニアリティは凄いものがあって、これはある種の優秀録音だ。こういう大人の調音を施したCDが主流になれば良いのに、と強く願った1枚だった。
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