Schubert: Trout Quintet@Mutter,Trifonov,Hornung |
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Franz Peter Schubert:
1. Piano Quintet in A major, D667 'The Trout'
Ⅰ. Allegro vivace
Ⅱ. Andante
Ⅲ. Scherzo (Presto)
Ⅳ. Thema - Andantino - Variazioni I-V - Allegretto
Ⅴ. Finale (Allegro giusto)
2. Notturno in E flat major for piano trio, D897 (Op.post.148)
3. Ständchen 'Leise flehen meine Lieder' D Min.(Arr.for Vn & Pf)
4. Ave Maria in B Flat Major, D839(Arr.for Vn & Pf)
1: Anne-Sophie Mutter(Vn), Maximilian Hornung(Vc), Roman Patkoló(Cb),
Hwayoon Lee(Va), Daniil Trifonov(Pf)
2: Anne-Sophie Mutter(Vn), Maximilian Hornung(Vc), Daniil Trifonov(Pf)
3~4: Anne-Sophie Mutter(Vn), Daniil Trifonov(Pf)
シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」
アンネ=ゾフィー・ムター、ダニール・トリフォノフ
フランツ・シューベルト(1797-1828):
1. ピアノ五重奏曲 イ長調 D667《ます》
2. ノットゥルノ 変ホ長調 D897(ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための)
3. セレナーデ(歌曲集《白鳥の歌》D957 第4曲)
- ヴァイオリンとピアノのための編曲:エルマン
4. アヴェ・マリア(エレンの歌第3番 D839)
- ヴァイオリンとピアノのための編曲:ハイフェッツ/ヴィルヘルミ
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ダニール・トリフォノフ(ピアノ)
ムター・ヴィルトゥオージ:ファユン・イ(ヴィオラ)
マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)
ロマン・パトコロ(コントラバス)
演奏者について
ムターのアルバムを買うのは実に12年ぶりだ。今回はムターが有望な若者たちを従えて立ち上げたアンサンブル、ムター・ヴィルトゥオージの演奏であるが、その中に気に入ったソリストが名を連ねていた。それはVcのマクシミリアン・ホルヌングで、彼の演奏は一枚だけ、サン=サーンスの小曲とドヴォルザークのVcコンを聴いている。これはその後、欧州圏では非常に高い評価を得た。
それともう一人、未聴なのだが前評判が非常に高く、リストの再来、超絶技巧の鬼才と異名をとるダニール・トリフォノフも入っている。これは良い機会なので是非それを聴いてみなければならない、ということで購入したわけだ。
主要な三人のバイオグラフィーを探したが適当なものがなかった。例によって収集した情報から編集し、備忘録を兼ねて以下にコンパクトに記しておく:
アンネ=ゾフィー・ムター Anne-Sophie Mutter
1963年ドイツ・バーデン州ラインフェルデンス生まれのドイツ人ヴァイオリニスト。1970年、6歳でドイツ青少年音楽コンクール優勝。1974年からスイス・ウィンタートゥール音楽院にてエルナ・ホーニヒベルガー、アイーダ・シュトゥッキに師事。1976年、13歳でルツェルン音楽祭にソリストとして出演。この期間中にヘルベルト・フォン・カラヤンに見いだされ、1977年、ザルツブルク・フィングステン音楽祭(聖霊降臨祭音楽祭)にてカラヤン指揮ベルリン・フィルと共演する。その年及び1978年のザルツブルク音楽祭に連続して出演した。その後、メータ/NYPO、アバド/LSO、ロストロポーヴィチ/NSO(ワシントン)、小澤征爾/BSOなど、著名指揮者/オケとの共演は枚挙にいとまがない。1985年、ロンドン王立アカデミー名誉会員(最年少)。高い演奏技術と優れた音楽性を備える世界的なヴァイオリニストとして継続的に活動する傍ら、後進の指導・育成、また福祉・医療・社会保障分野にも献身的に取り組んでいる。初来日は1981年で、カラヤン指揮ベルリン・フィルと共演。それ以来、日本国内でもカラヤンの秘蔵っ子として知れ渡るようになった。なお私生活では1989年弁護士と結婚、1995年に死別、2002年にはアンドレ・プレヴィンと再婚するも2006年に離婚。
マキシミリアン・ホルヌング Maximiian Hornung
1986年ドイツ・アウクスブルク生まれのドイツ人チェリスト。8歳からチェロを始め、1995年よりエルダー・イサカッゼ、トーマス・グロッセンバウアー、ダヴィッド・ゲリンガスに師事。2005 年、ドイツ音楽コンクールで優勝。室内楽演奏はクリスティアン・テツラフ、リサ・バティアシヴィリ、タベア・ツィマーマン、ミッシャ・マイスキーらと共演。バイエルン放送響、ベルリン放送響、チューリッヒ・トーンハレ、モスクワ・チャイコフスキー交響楽団など世界的なオーケストラ、またダニエル・ハーディング、ベルナルト・ハイティンク、マンフレッド・ホーネックなど著名指揮者と共演。彼はバイエルン放送響の第一首席チェリストだったが2013年にソリストとして独立、アンネ・ゾフィー・ムター/ボルレッティ・ブイトーニ財団より支援を得ている。2011年にはムターと若手ソリストらでケルン、エッセン、バーデン・バーデン音楽祭などに出演。更にニューヨーク・カーネギーホールでもデビュー公演を果たす。2014年8月、サロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団のソリストとしてザルツブルク音楽祭に初出場。2010年、ソニークラシカルと専属契約し、2013年リリースのテヴィンケル指揮バンベルク交響楽団と共演したサン=サーンス(組曲とロマンス)、ドヴォルザークのチェロ協奏曲もエコー賞を獲得(前述を参照)。
ダニール・トリフォノフ Daniil Trifonov
1991年ソ連・ロシア共和国ゴーリキー(現:ニジニー・ノヴゴロド)生まれのロシア人ピアニスト。5歳から音楽を始めた頃には神童と言われ、その後、モスクワ・グネーシン音楽大学に進学、タチヤーナ・ゼリクマンに師事する。なおゼリクマンはエフゲニー・リフシッツなども輩出している。その後、2009年に渡米してクリーヴランド音楽院に学び、セルゲイ・ババヤンに師事した。この頃に感銘を受けたババヤンの技術的アプローチをベースに、トリフォノフは現在の演奏スタイルを確立したとされている。2010年のショパン国際で3位入賞およびマズルカ賞を受章し、直後に輝かしい世界デビューを果たした。ワルシャワにおけるコンクールの後、ドイツ、ポーランド、イタリア、スイスにてコンサート/リサイタルを挙行、2011年の年初には東京でソロ・リサイタル、アントニ・ヴィット指揮ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団と共演(オーチャード・ホール)した。その数か月後、ワレリー・ゲルギエフの招聘によりサンクトペテルブルクPO(マリインスキー劇場)とのデビュー・リサイタルでも大成功を収めた。この年の快進撃は更に続き、ルービンシュタイン国際コンクール1位、その数週間後の第14回チャイコフスキー国際コンクールでも1位を獲得した。
(MusicArena)
ピアノ五重奏曲 イ長調(ます)
今更ベタな曲だがシューベルトの傑作の一つとして現在でもその価値は不変だろう。アンサンブル曲としては全5楽章と長大な作品となっており、この中の4楽章目がいわゆるTrout=鱒(ます)で、これを代表としてこの五重奏曲全体をますと通称するようになったようだ。因みに本作品はドイチェ番号ではD667であるが、この4楽章目には原曲があり、それはD550の鱒(ます、ドイツ語=Die Forelle)作品32という。シューベルトが1817年に書いたピアノ伴奏付きの独唱曲(リート)で、歌詞はシューバルト(Christian Friedrich Daniel Schubart)の寓話的詩歌による。
さて、この演奏だがソナタ形式をとる1楽章の入りから結構厳しめのテンポで精密に刻まれる。動機から前半まではトリフォノフの軽快で緻密なPfが主導権を握って全体構成を象る格好、中盤からはホルヌングのVcとパトコロのCbが主導してドライブ感を演出しているが、ムターの絡み方はレイショナルだ。言い方が適切かどうかは別として、いわゆるムター節はほぼ封印。というか、全5楽章を通じて清冽で淀みのないマッシブな演奏設計となっている。各パートにより変奏が繰り返される長大なこの1楽章は正直言って飽きるが、そこは軽快なテンポとリズミカルな抑揚に支えられあまり辛くは感じない。
2楽章は緩徐楽章に相当し、ムターのVn、ファユン・イのVaが思ったよりソリッドでシュアな展開を示すので湿度感は低い。3楽章スケルツォはどちらかというとムターが出張って来て湿潤に絡もうとするものの元々譜面上のテンポが高速で、曲想自体が跳躍的なためかヴィヴィッド感、ドライ感共に強い。ホルヌングの殆ど質量感のない超絶技巧、はやり上手いと言わざるを得ないムター、そして何より驚くのは正確無比なトリフォノフのPfの呪術的なスケールおよび分散和音の微細さ、巧妙さだ。音数が多過ぎてPfのパート譜が一般と違う特殊な編曲なのではなかろうかと訝るほど。
5楽章は前の4楽章の有名な動機および主題が短く去来する。即ち再現部にこれらの主題などがフラッシュバックして挟まる格好だ。曲の骨格の基本は4楽章スケルツォのようなエネルギッシュな速足のフィナーレだ。全てのパートがほぼほぼ均等にソロをとるシーンが設けられ、わくするフィナーレ、そしてコーダを迎える。
ノットゥルノ変ホ長調D897 以降
シューベルトは後年にピアノ三重奏曲を立て続けに3つ書いている。うち2つが完全なソナタ形式をとるピアノトリオだが、残りの1つがこの単一楽章形式の短い作品、副題をノットゥルノという。ノットゥルノとはいわゆるノクターンのドイツ語表現で邦題は夜想曲。なお、この作品だけがちょっと浮いた存在であり、アダージオ指定ということもあるため他の作品の2楽章、つまり緩徐楽章に充てようという意図があったのではないだろうか。そういった点においてはこのノットゥルノは遺作の一つと言えるかもしれない。
前置きはそれくらいでこの演奏。ムターはホルヌングの意図を尊重しようとしたのか、割と出張らない展開で、ヴィブラートは派手に掛けてはいるが前面には現れず、自らのVnとホルヌングのVcをうまくシナジーさせるように丁寧に歌い込む。Pfがゆったりとしたスケールで入った後のピツィカートが鳥肌もの。その後、展開部となる中間領域に向けて徐々に総奏状態へと入っていくがそれほど出張ることなく、彼女のリーダーとしての自信、余裕と矜持が垣間見られる。
残りのセレナーデ(エルマン版)とアヴェ・マリア(ハイフェッツ/ヴィルヘルミ版)は短めに。そう、もうこの二つはムター節が全開で炸裂するのだ。良い悪いは別として、音色が全体的に湿潤で、上下左右に揺れ動くムターの独特の曲想というか芸風の真骨頂がここでしっかり聴けるのだ。たとえとしては大物演歌歌手が十八番を歌うシーンを想像すれば大きな乖離はないかと思う。もう、独壇場とはこのことでVnというよりかは歌唱に近いVn独奏だ。さすがに当代最高と評価されるVnソリストの弾くスタンダード・ナンバーは流石としか言いようがない。
個人的にはイザベル・ファウストなどのドイツ系Vnに見られるストイックで、そして過度な情感を排除した淡麗で辛口かつ冷涼な演奏が好きだ。だが、たまにはムターのようなべたべたで諄いVnも悪くはないと思い返した次第。
https://youtu.be/e66dp7tBBls
録音評
DG 4797570、通常CD。録音は2017年6月 バーデン=バーデンの祝祭劇場。音質は過去のDGに比べて格段の進歩を遂げていて驚いた。なにせDGを買ったのは数年ぶりでこのところの状況は知らなかったのだ。だが、やはりそこはエミール・ベルリーナで、例えば、4TRKの鱒の中間部、6TRKのノットゥルノの中間部、そして7TRKのセレナーデのやはり同じ中間部のトゥッティで歪が急速に増えて視野狭窄を起こしほぼ破綻しているのがとても残念。あと2~3dB下げれば綺麗に行ったはず。だが、全体を通じてDGとしては健闘した方だと思う。
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