J.S.Bach: English Suite#2 BWV807 Etc@Yulianna Avdeeva |
http://tower.jp/item/4580900/
J.S.Bach:
English Suite No.2 in A minor, BWV807
Ⅰ. Prélude
Ⅱ. Allemande
Ⅲ. Courante
Ⅳ. Sarabande
Ⅴ. Bourrée Ⅰ/Ⅱ
Ⅵ. Gigue
Toccata in D major, BWV912
Overture in the French style in B minor, BWV831
Ⅰ. Ouverture
Ⅱ. Courante
Ⅲ. Gavotte I / II
Ⅳ. Passepied I / II
Ⅴ. Sarabande
Ⅵ. Bourrée I / II
Ⅶ. Gigue
Ⅷ. Echo
Yulianna Avdeeva (Pf)
J.S.バッハ(1685-1750):
・イギリス組曲第2番 イ短調 BWV807
・トッカータ ニ長調 BWV912
・フランス風序曲 ロ短調 BWV831
ユリアンナ・アヴデーエワ(ピアノ)
アヴデーエワとバッハの関係性
ご高尚の通り、ユリアンナ・アヴデーエワは2010年のショパン国際ピアノ・コンペティション(通称ショパン・コンクール)のウィナーである。その後のCDデビュー盤は、日本で著名なDG(ドイツ・グラモフォン)やソニー・クラシカルなどではなく、意外なことに地味なMIRAREからのシューベルト、プロコフィエフ、ショパンの作品集であった。
なぜ、ショパン・コンクールの覇者がバッハと向き合っているのか、だが、MIRAREからの2枚目のアルバムのライナーに彼女自身が書いた解説が掲載されている。ショパンの作風に連なる先達の影響に着目して随分と前からリサイタルのプログラムにはバッハやモーツァルト、リストなどを精力的に取り上げていたという。前作の2枚目ではショパンの他にモーツァルトとリストを収録していたが、ついにこの3枚目にして最も古い時代のバッハにまで辿りついたということになる。
イギリス組曲#2
この組曲は全6作品あり、それぞれの冒頭は決まっていてプレリュードなのだが、その出だしから不穏な感じだ。この作品は、感覚的だが全体のだいたい7割ほどが2声の対位法、その他が主旋律/伴奏がある程度分離したホモフォニーの構造を呈している。ところが、アヴデーエワは対位法部分をほぼほぼ普通にホモフォニーで弾いている。そのため、本来的なフーガ、カノンやリチェルカーレで実践すべき左右対称でパワー・バランスが等しい展開が、相当いびつな格好となり、なんだか落ち着かないのだ。両方が旋律であり和声なのに、左手が伴奏であるとの基軸をひとたび置いてしまうと通奏低音としての弾き方になるのは必定で、そうなれば仕方のないことと言えよう。
以下、音価が少なくて分かり易いと思うので、2楽章アルマンドの冒頭を示す。
ご覧の通り、左右手で時間差を以て主従が入れ替わる格好で旋律が紡がれ、部分的に左右とも旋律をばらばらに同時に刻む。アヴデーエワは左右均等の音量を維持するよう試みているが、問題はその曲想だ。右手は終始ノンレガートで淡々と明媚に刻むが、左手が実にダルなのだ。譜面上は左手に関し特段の指示はないが、すべからくレガートでスラー付きと思しき遅れ気味のトレースとなっている。
但し、終楽章のジーグは対位法表現というより分散和音によるホモフォニーの変形で、部分的には数度のユニゾンでシフトするスケールの集合体。こういった箇所ではアヴデーエワの重厚で精密なロマン派タッチが生きてきて明媚でヴィヴィッド。悪くないのだ。
フランス風序曲 BWV831
次のトッカータも似た傾向で左手が生きていないので割愛。最後のフランス風序曲は原題はOvertureと称するが、オペラの幕前などの意ではなく、舞踏曲を集めた組曲をこう称していたそうだ。このBWV831はフランス風序曲というよりかはクラヴィーア練習曲の第2集と言った方が通りが良いかもしれない。これもまた2声のフーガ。アヴデーエワは少なくともイギリス組曲よりもこちらの方が読み込みが深く、多少なりとも左右の対称性に意識が行っていて等しい音価の配分に腐心している風だ。冒頭のOvertureは多少甘ったるいロマン派解釈であるが悪くはない。ガヴォットの諧謔味も悪くはないが左手がやはり時間軸的には遅れ、また添え物的なトレースだがヴィヴィッドなので聴かされる。最終曲のエコーは右は1声だが、左手が2~3声と分岐する箇所も多く出現する難しい曲。相変わらず左右分離に難儀する風だが、コーダまでなんとか上手くまとめ上げた。
録音評
MIRARE MIR328、通常CD。録音は2017年3月8-10日、ベニューはMIRAREの2枚目と同じでライツターデル(ノイマルクト/ドイツ)、録音担当も2枚目と同じTritonus Musikproduktion GmbHの主宰、Andreas Neubronnerとなる。ピアノもまた2枚目と同じスタインウェイD-275である。個人的にはヤマハCFXを弾いてほしかったが・・。面白いことに音像の定位、音場の展開ともに2枚目のそれとほぼ同じ出来栄えだ。録音の世界における職人芸とはこういった再現性の高さのことを言うのかもしれないと人知れず膝を打った。
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