Scarlatti: Sonatas Vol.2@Angela Hewitt |

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Domenico Scarlatti: Sonatas Vol.2
01. Sonata in D major Kk491
02. Sonata in D major Kk492
03. Sonata in G major Kk146
04. Sonata in B minor Kk377
05. Sonata in A major Kk24
06. Sonata in E major Kk206
07. Sonata in A major Kk428
08. Sonata in A major Kk429
09. Sonata in G major 'Capriccio' Kk63
10. Sonata in D minor 'Gavota' Kk64
11. Sonata in G minor Kk426
12. Sonata in G major Kk547
13. Sonata in E flat major Kk474
14. Sonata in C minor Kk58
15. Sonata in C major Kk513
16. Sonata in F major Kk82
17. Sonata in F minor Kk481
Angela Hewitt(Pf)
スカルラッティ: ソナタ集 Vol.2
ソナタ ニ長調 Kk491
ソナタ ニ長調 Kk492
ソナタ ト長調 Kk146
ソナタ ロ短調 Kk377
ソナタ イ長調 Kk24
ソナタ ホ長調 Kk206
ソナタ イ長調 Kk428
ソナタ イ長調 Kk429
ソナタ ト長調 カプリッチョ Kk63
ソナタ ニ短調 ガボタ Kk64
ソナタ ト短調 Kk426
ソナタ ト長調 Kk547
ソナタ 変ホ長調 Kk474
ソナタ ハ短調 Kk513
ソナタ ヘ長調 Kk82
ソナタ ヘ短調 Kk481
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ/ファツィオリ)
ドメニコ・スカルラッティについて
スカルラッティ(Domenico Scarlatti:1685/10/26日~1757/7/23)はナポリ出身のクラヴィーア演奏家、作曲家である。

なお、バッハと同じ年生まれの作曲家としてはヘンデルが有名だが、実はスカルラッティもまた同じ年の生まれであり、この年はその後の西洋音楽の橋頭堡を築くこととなる三人が偶然にも同時に生誕したこととなる。
※ 正式には、マリーア・マグダレナ・バールバラ・ハビエル・レオノール・テレサ・アントニア・ホセファ・デ・ブラガンサ( María Magdalena Bárbara Xavier Leonor Teresa Antonia Josefa de Bragança, 1711/12/4~1758/8/27)
クラヴィーア・ソナタについて
このソナタと称される作品群に関しては、その自筆譜は完全に消失しており、現存の楽譜はヴェネツィアとパルマに残存していた筆写譜を基にしている。そのうちヴェネツィア筆写譜は全15冊あって元々はバルバラ王妃の所有物だったとされており、そこには496曲が収められているそうだ。現在となっては厳密な作曲年代と順序は推定であり、あまり定かではない。但し初期のヴェネツィア筆写譜はマリア・バルバラ王女とフェルディナンド王子へ鍵盤楽器の指導を始めた頃に書き始められたものとされる。それは、譜面のテクニカルな要求水準が明らかに低く、王女と王子の訓練に用いられたのではないかと推定される所以である。現在、ラルフ・カークパトリックによるKirkpatrick番号、即ちKkが付されているものが555曲あり、その他、その分類に当たらないものが5~6曲ある。つまり同種の作品は560有余曲あると思えば間違いはなく、それだけでスカルラッティが非常な多産家であったことが分かる。

このアルバムは全部で560余りの曲からヒューイットが選りすぐったもので、第1集は相当な高評価を受けたようだ。これはその続編となり、このあと第3集が出るのかどうかは分からないが・・。
これらはよくよく聴き込んでみるとそれぞれに細密な描写があったりテクニカルに難しい個所もあるが、聴感上はさらさらと引っ掛かりなく流れていく気持ちの良い作品たち。そしてマクロ的にはどれもが似通っていて、最初からテンションを上げて対峙して聴こうとすると疲れて飽きて来る。以下、全曲は無理なので、いくつか拾ってみる。
Kk491~Kk24
ヒューイットによれば前のアルバム同様、ソナタ群をいくつかのグループに分けて編成したという。冒頭の5曲が最初のグループを形成する。Kk491はマーチ調の堂々とした明晰な曲。一部にフーガ様式を使っているが基本はホモフォニーだ。曲は二長調で始まるが、途中で突然のパウゼ、そしてハ長調に転調して舞踏会のダンスのような曲想へと転換。最後は突飛にヘ長調に転調し煩瑣な高速スケールで終焉。こういった巧妙で奇抜な展開はスカルラッティの作品にはしばしば見られる手法らしい。
続くKk491も舞曲をモチーフとしたと思われる曲で雰囲気的にはポルトガルのファンダンゴ、あるいはナポリのタランテラ様式のような気配もする。詳しくないが、ギターのストラミング(弦を掻き鳴らす技法)のような微細な上昇スケールが織り交ぜられる。長調基調に僅かな短調が現れて翳を作る。技巧的には割と難しそうな曲。
Kk146は簡明で割と有名な曲ではないだろうか。ナルシソ・イェペスが10弦ギター用に編曲して弾いていたと記憶する綺麗なアルペジオが特徴。Kk377はロ短調で完全な二部形式で、ちょっとアンニュイな作品。両パートともに対位法により書かれ、左手の旋回する分散和音的なスケール、右は長大な16分音符によるばらばらの対旋律で展開する。Kk24は最初のグループの最終曲。非常に明るくて音数の多い作品。フルオーケストラを模倣した結果、激しい跳躍や左右手の交錯など高い技法を要するとされる。後半はフラメンコを模した熱情的な旋律・和声となる。
Kk63~Kk64
ここからヒューイットが組み立てた三つ目のグループとなる。ここは誰でも弾けそうな(おそらくバルバラ王女の鍵盤練習のために書かれた)曲を集めたそうだ。作家自身が名付けたカプリチオ、及びガヴォタの副題を持つこの2曲は、元々は組曲を形成する用途で書かれたのではないだろうか、と想定されている。ただ、Kk63はアレグロ程度の速足で天国的に明るい曲、Kk64は長調と短調が交錯するちょっとだけアンニュイな明るめの舞曲風の作品。但しどちらもあまり面白くない。
kk513~Kk481
ヒューイットが最もお気に入りというKk82を含む最終グループとなる。Kk513は3部形式だがソナタ形式とは似ても似つかないA-B-Cという独創的な形をしている。作家はこの曲にPastorale、すなわち牧歌的という注釈を加えている。バグパイプの平和で純朴な響きを模倣しているとされる通奏的な旋律が特徴的。中間部は1番目のパートの鏡像旋律を短調展開したような少しアンニュイな曲想。だが、それは長続きせず冒頭の牧歌的な旋律が再現。ちょっと長めのパウゼに続き最終パートが出現。これはどう聴いても前の二つとは連関のない別主題だ。
Kk82は対位法で書かれた微細で優雅、そして威厳のある曲だ。中身はというと舞曲とフーガのコンビネーションで、ヘ長調を中心に上下3度の変異を付けたスケール展開が間歇的に数度繰り返されるところはバッハの管弦楽組曲やオルガン作品でもよく見られる書法。実に深く味わいのある曲。
最終曲はKk381。とても瞑想的でアンニュイ、耽美的で美しい旋律。対位法的な要素も少しあるが基本はホモフォニーで、執拗に打鍵される左手による2~3声の単純和音に支えられた、ちょっと悲しいダイアログ的な右手旋律の丁寧な歌い込みに心打たれる。この作品の背景には、必ずしも順風満帆ではなかったバルバラ王妃およびフェルナンド6世の余生を描いているのではないか、とされている。
まとめ
ヒューイットの駆るファツィオリは非常に美しい音を発しており、こういった純粋正弦波に近い楽器で演奏されたスカルラッティの作品は今まで殆どなかったのではないか。チェンバロしかなかった時代のスカルラッティ自身がこの演奏を聴いたら腰を抜かすのではないだろうか。ヒューイットのテクニックはまさに超絶技巧であることは論を待たない。また作品群に対する考証が十分に行き届いていて解釈も穏当かつ正統的なものであると思われる。スカルラッティというバロック期の巨匠が編み上げてきたクラヴィーア小品集に籠められた喜怒哀楽、またイベリア半島のカルチャー、ポルトガル/スペイン王室からの影響等が聴き取れる貴重なアルバム。
以下、期限切れまで貼っておく:
ハイペリオンの短いプロモーションビデオ
録音評
Hyperion CDA68184、通常CD。録音は2017年1月4~6日、べニューはベートーヴェンザール(ハノーファー)とある。ピュアで静謐なサウンドステージに、美音を発する良く鳴るファツィオリが佇んでいるのが見えるよう。それくらい透徹された定位、及び空間再現が非常に秀逸であり、今までのヒューイットの録音も含め、これほど美しいファツィオリ録音は珍しいと思う。ファツィオリのファン、ヒューイットのファン、またこれを契機にスカルラッティを聴いてみたいという音楽ファンにお薦めの一枚。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫