Bach: Toccata & Fugue BWV565 Etc@Minako Tsukatani |
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1. Fantasia and Fugue in G-min. BWV542 (Great) Fantasia
Concerto in D-min. BWV974
After Oboe Concerto in D-min. by Alessandro Marcello
2. Ⅰ.Andante
3. Ⅱ.Adagio
4. Ⅲ.Presto
5. Cantata BWV147 "Herz und Mund und Tat und Leben"
6. Chorale Prelude in D-min. BWV648 "Meine Seele erhebt den Herren"
(Schübler Chorales No.4)
Toccata and Fugue in D-min. BWV565
7. Toccata
8. Fugue
Excerpt from the Notebook for Anna Magdalena Bach
(Notenbüchlein für Anna Magdalena Bach)
9. #26 Aria of the Goldberg Variations G-maj.BWV988/1
10. #7 Minuet in G-maj. BWV Anh.Ⅱ 116
11. #5 Minuet in G-min. BWV Anh.Ⅱ 115
12. #22 Musette in D-maj. BWV Anh.Ⅱ 126
13. #25 Aria "Bist du bei mir" BWV508
14. Fugue G-min. BWV578 (Little)
Concerto G-maj. BWV592
After Prince Johann Ernst of Saxe-Weimar: Violin Concerto in G-maj.
15. Ⅰ.Allegro assai
16. Ⅱ.Grave
17. Ⅲ.Presto
Prelude and Fugue in D-min. BWV539
18. Prelude
19. Fugue
20. Fantasia and Fugue in G-min. BWV542 (Great) Fugue
Minako Tsukatani(Org - Franz Caspar Schnitzer Organ, 1646/1725)
1. 幻想曲 ト短調 BWV 542/1
~幻想曲とフーガ ト短調《大フーガ》BWV542より
2. 協奏曲 ニ短調 BWV974(原曲:マルチェッロのオーボエ協奏曲)
3. 主よ、人の望みの喜びよ BWV147
4. コラール《わが魂は主をあがめ》BWV648
5. トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565
《アンナ・マグダレーナの音楽帳》より5篇
6. ゴルトベルク変奏曲のアリア BWV988/1
7. メヌエット ト長調 BWV Anh.116
8. メヌエット ト短調 BWV Anh.115
9. ミュゼット ニ長調 BWV Anh.126
10. アリア《あなたがそばにいれば》BWV508
11. 小フーガ ト短調 BWV 578
12. 協奏曲 ト長調 BWV592
(原曲:ザクセン=ヴァイマール公エルンストのヴァイオリン協奏曲)
13. 前奏曲とフーガ ニ短調 BWV539
14. 大フーガ ト短調 BWV542/2
~幻想曲とフーガ ト短調《大フーガ》BWV542より
塚谷水無子(パイプオルガン:フランツ・シュニットガー・オルガン)
塚谷水無子さん、このアルバムについて
塚谷さんはFBフレンドで、彼女のアクティビティはタイムラインを通じて頻繁に目にしている。なんだか親し気に物を言うのは気が引けるが、彼女の素晴らしい音楽性と勤勉さには頭が下がり、またオルガン演奏家としての将来にも大いに嘱望している。そんなことを言いつつ不義理なのだが、彼女のアルバムはそんなに多くは聴いていない。
最初に耳にしたのはポジティフ・オルガンによるゴルトベルク。非常に鮮烈だった。最小数のストップと各パイプの飾らない直接音が突き刺さる隠しようのない厳しい条件下での霊妙なゴルトベルクであった。次いで印象に残るのはNun Komm、そしてピアノによるシルヴェストロフの作品集だった。
このアルバムのライナー中扉には、塚谷さんの師匠、故ジャック・ファン・オールトメルセンに捧げると記してある。用いられた楽器は、アムステルダム郊外のアルクマールにある聖ローレンス教会のシュニットガー・オルガン。ということは、ヘルムート・ヴァルヒャの最後のオルガン全集(アルヒーフ)に用いられた楽器(+ストラスブールのジルバーマンも併用)だ。この楽器で最も鮮烈な印象だったのはフーガの技法で、ヴァルヒャが繰り出す重厚な総奏(専門家はプレヌムという)から霊妙なプリンシパルまでが克明に刻まれていた。
なお、このオルガンはフランツ・カスパー・シュニットガーの名を冠してはいるが、初代の楽器はヤコブス・ファン・ハーゲルベールの手により1645年ないし1646年に建造されたとされ、その後1725年にシュニットガーがリビルド(再建造または改修)したもの。
大フーガの前半・ファンタジア~トッカータとフーガBWV565
入りは大フーガの前半=ファンタジア(幻想曲)。こういった長い曲は礼拝の前と後で分割して弾かれる習慣があったそうで、どうもそれに倣ったらしい。塚谷さんのこの演奏は、ゴルトベルクなどを聴いて想像していたようなリジッドで静謐なファンタジアではなく、かなりエモーショナルで豪壮、そしてテンペラメンタルな展開でちょっと驚いた。
続く協奏曲はチェンバロのための作品として広く認知されている、原曲をマルチェッロのオーボエ協奏曲から取った静かで瞑想的な小規模な協奏曲で、巧妙なストップ選択によりオーボエや弦楽3部を模したレジストレーションが聴きどころ。次の主よ、人の望みの喜びよはレイショナルで過度な情感表現を籠めない淡々とした構成だが、このオルガンと礼拝堂の高さが分かるような総奏では金襴緞子の音のシャワーを浴びるような感覚が得られる。
そして、BWV565。冒頭ファンタジアと同様これまたエキセントリックな入りのトッカータである。塚谷さんは同曲をハーレムのミューラー・オルガンでも録っているようだがそちらは未聴、比較はできない。強烈で揺らぎの大きなアゴーギク、突然訪れる長めのパウゼに自然減衰して空間に消えゆく総奏の余韻・・。では全部がそうかというとそうではなくて、フーガに入るとシンプルなプリンシパルを主軸に主・副旋律を対峙させた静謐な歩の進め方。コーダに向かってはシュニットガーの豪壮で質量感のある総奏が蘇り、トランスするような、つまり求道的な恍惚感を誘うのだ。これはいい・・。
アンナ・マグダレーナの音楽帳より抜粋の5題
このアンナ・マグダレーナの音楽帳に関しては、ライナーの塚谷さんの解説が詳しくて分かり易い。どれもが耳に馴染み、一度は聴いたことのある小品たちではないだろうか。特に、冒頭はゴルトベルクのアリアとほぼ同じものだが、塚谷さんの分析によれば妻が弾くことを想定して様々な小変更が施されているとのことだ。オーボエを模したと思われるストップによる冒頭の主題提示にはほっこりさせられる。
メヌエット2題とミュゼットは慣例的にはバッハの作品と一応みなされているが、BWV番号にAnh(Anhang)が付されている通り補遺の扱いである。また、Ⅱ分類は、works of dubious authenticity=真正性が疑わしい作品という扱いで実際の出自については確実ではないとの解釈が妥当。メヌエット2題はいずれにせよ可愛らしい曲、ミュゼットは諧謔味のある快活で速足の曲。
Notebookからの最後はアリアあなたがそばにいればBWV508で、歌唱を模したリード管の切々とした歌いが夢心地の名曲。ここでは塚谷さんの妙技を味わおう。
小フーガ~大フーガの後半
余りにも著名な小フーガについては特段述べることはないが、塚谷さんは軽いアゴーギクを付けながら細身のフルー管を駆って精妙な入りを見せる。その後は畳みかけるように音数を増すレジストレーションとし、重厚なコーダを迎える。
協奏曲BWV592の原曲はザクセン=ヴァイマール公エルンスト作のヴァイオリン協奏曲。オルガンで管弦楽パートと通奏低音、Vn独奏部を再現させた佳曲。塚谷さんは柔らかめのストップを選んで優しく弾き進める。
前奏曲とフーガ ニ短調BWV539は無伴奏VnソナタBWV1001とドッペルで、出自の前後ははっきりしないそうだ。無伴奏Vnの仮想的和声がオルガン版ではリアルな和声となって現れる。Vnを聴いてからOrgを聴くと一種の答え合わせになるという妙味がある。前奏曲は主として総奏のストップ、フーガは一転して静謐で落ち着いたプリンシパル単体で演奏され、純朴だが実に味がある。
そして大フーガの後半が演奏されこのアルバムは閉じられる。総奏が鳴り響くまさに音粒のシャワー、激しいペダルワークによる通奏低音の煩瑣でスパンの広大な上下動は聴くものの心を鷲掴みにし左右に強く揺り動かすのである。時間軸をずらしたいくつもの旋律の塗り重ねが色々な角度から光を透過し、絵巻物を投影するという対位法の権化のような作品。これをこのシュニットガーで紡ぐ塚谷さんの運指はまさに超絶技巧。
録音評
キングレコード KICC-1374、通常CD。録音は2017年3月27~28日、ベニューは聖ローレンス教会、アルクマール、オランダ(Laurencekerk, Arkmaar)。録音担当はDaniël van Horssen(DMP-records)とある。DMPとは、ジャズ系超Hi-FiのSACDで名を馳せ、オーディオファイルから信奉されるあのレーベルのことではなく、オランダにあるクラシック専門レコーディング・ファームのようだ。
音質は極めて優秀。しかし過度なエッジ追求型ではなく空間感と奥行き方向のパースペクティブに秀でた音場型の収録と言える。印象的にはかなりオフマイクで、礼拝堂の中央ちょっと後ろ辺りにメインマイク、その前方とかなり後方にノイズマイクを配しているのではないか。各パイプやホールの特定個所にフォーカスを定めるようなことは極力排し、全体バランスの中で収録された理性的かつ大人の調音と言えよう。
惜しむらくはこれはハイレゾ、特にSACDで聴いてみたかった音源である。塚谷さんの超絶技巧が冴え渡る大フーガはシュニットガーの強点を全て出し切った演奏ゆえ、この広大な空間での演奏を超解像度の音粒とともに共有したかった。たぶん、前述のとおり5.0音源分はばらばらに録っているはずなので出そうと思えば出せるはずなのだが。
しかし、これは凄い演奏ならびに録音である。国内レーベルからリリースされたCDとしては異例の超高音質であり、演奏はオーソドックスな構築法を範としつつ、前衛的で闊達な情感表現を籠めたものとなっていて、バッハ作品ファンはもとよりオーディオファイルにも是非お勧めの一枚。
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