出嶋屋本店@伊勢佐木町 |
まずはビール
創業は明治38年と横浜でもかなりの老舗だが、いまだかつて暖簾を潜ったことのなかった出嶋屋本店へ。今まで幾度となく店の前は通過していたのであるが、なんとなく縁がなかった。ここは知る人ぞ知る街蕎麦の原点のような店で、昔のスタイルを頑なに守って量的拡大に走らず、そして華美な内外装などの見掛けにも無縁、まるで時間の進みが止まったようだ。
店への到着は13:30頃で、結構混んでいるだろうと思ったが先客はなんとゼロ。森閑とした店内には小さな音で有線放送が流れているのみ。お姐さんがいらっしゃいませ、と宣う声が響き渡る。
ここは残念ながら一流の蕎麦屋のうちには数えられていないしWebを覗いても華々しい話題は出てこない。確かにイセザキモール6丁目は街並み全体が黄昏ている風情だし、客が大挙して訪れるという環境にもない。だが、ここ出嶋屋は大作家・山本周五郎がほぼ毎日、書斎のある本牧から足繁く通っていた古い蕎麦屋なのだ。店側は喧伝しないので知る人は少ないと思うが。
蕎麦前の二品
まずは、ビールにするかどうするか、メニューを眺めるが、日本酒と焼酎以外の表示が一切なく、ビールはなさそうな気配だった。
頼んだ肴は二種で、板わさ、そして家内の蕎麦屋における定点観測品である卵焼き。板わさはすぐに到着。卵焼きが2つ付いているが想定内で、これは作り置きで冷たい。蒲鉾は見た通りで、これは鈴廣の製品らしい。確かに、ぷりぷりした弾力は一級品で味も上品、実に美味しい。そして少量添えられた山葵の粕漬けがぴりっと美味しく、この一流の蒲鉾に合う。
手焼きの卵焼きが暫し待って到着。厨房から出てきてすぐに芳香が漂い始める。目の前に鎮座する小振りながら黄金色に輝くこの卵焼きはどうだろう。塩分が適量より少なめ、そして砂糖がちょっと多めの配分は昭和の卵焼きそのもの。自分が幼い頃、母親が焼いてくれていた卵焼きを想起してしまった。醤油を適量滴下するのも良いが、このままで十分に美味しい。
天ざる
蕎麦前を十二分に堪能したあとに頼んだのは二人とも天ざる。
その蕎麦は、おそらくは抜身を何度か挽いて内部の核の近くまで抉ったものが主体だろう。外殻も内側の甘皮も殆ど入らず、したがって黒ずみもなく緑がかってもおらず、香りとしてはとても微妙で、玄蕎麦の香りは微か。更科粉に近い部分を選別しているんだと思う。それでも、辛めの強い汁に浸して咀嚼して喉から降ろすと蕎麦の風味が確かに攻めて来るのだ。
四半分の茄子はほっくりして青臭さもあって美味しい。そして、一本だけの海老だが、これはたぶん、才巻海老=小型の車海老だろう。旨味が極めて強くてふっくら・ほっこりしていて、かつ独特の甘い風味が鼻を突くのが特徴的なのだ。もちろん、天ぷらは身を含め全部が美味しいが、ミクロに見ると七色に輝く尻尾がかりっと軽く柔らかく、そのまま頂けてしまった。
私たちは横浜に移住してはや30年。それでも知らない店はまだまだある。ここはもうちょっと早くに来ておくべき店だった。まるで昭和の中期にタイムスリップしたかの風情、そして蕎麦の味、もてなし・・。今となっては貴重すぎるし、是非ともずっとずっと続けていって欲しい蕎麦屋。もちろん、今後も継続して訪店し、その豊富な蕎麦前を堪能させていただきたい。
お店データ
出嶋屋本店
横浜市中区伊勢佐木町6-140
電話:045-261-0552
営業:11:00~21:00(LO:21:00)
定休:水曜
最寄:市営BL阪東橋 5分、京急黄金町 5分、JR関内 15分
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