2017年 10月 16日
Franck: Sonata for Vn & Pf/Chausson: Concert@I.Faust,A.Melnikov,Salagon Quartet |
Harmonia Mundiの春のリリースから、ファウスト、メルニコフによるフランクVnソナタ、そしてサラゴン・カルテットを加えてのショーソン:コンセールという師弟コンビ名作集。

http://tower.jp/item/4506537/
Franck: Violin Sonata in A major
Ⅰ. Allegro ben moderato
Ⅱ. Allegro
Ⅲ. Recitativo fantasia. Ben moderato
Ⅳ. Allegro poco mosso
Isabelle Faust(Vn), Alexander Melnikov(Pf)
Chausson: Concert in D major for piano, violin and string quartet, Op.21
Ⅰ. Décidé
Ⅱ. Sicilienne
Ⅲ. Grave
Ⅳ. Finale. Très animé
Alexander Melnikov(Pf), Isabelle Faust(Vn)
Salagon Quartet:
Christine Busch(Vn), Lisa Juliane Immer(Vn),
Sebastian Wohlfarth(Va), Gesine Queyras(Vc)
セザール・フランク:
ヴァイオリン・ソナタ イ長調
エルネスト・ショーソン:
コンセール~ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 op.21
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
=1710年製ストラディヴァリウス「ヴュータン」
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ/エラール、1885年頃製)
サラゴン・カルテット
クリスティーヌ・ブッシュ(Vn)、リサ・インマー(Vn)、
セバスティアン・ヴォルフファース(Va)、ジェシーヌ・ケラス(Vc)
ファウストの盤を買うのは久し振りだった。フランクのソナタはVn作品としては非常に著名かつポピュラーなのでファウストはとっくの昔に録音していると思い込んでいたが、意外なことにこれが初めての収録とのこと。というのも、ファウストのフランクVnソナタは10年ほど前にライヴで聴いたことがあり、つまり生演奏で弾くということは既に録音済みなんだろうとの先入観があったのだ。このリサイタルでの印象は今でも鮮明に覚えていて、構図の大きなヴィヴィッドで良い演奏だった。
フランクのVnソナタは様々な人たちの演奏を聴いてきており、今更感はある。この10年でいえばデュメイ/ピリス、シュワルツベルク/アルゲリッチ、ハチャトリアン姉弟、シュタインバッハー/クーレック、リサ・ジェイコブス/コウズメンコ、ルノー・カピュソン/ブニアティシヴィリ、また国内ものでは枝並千花/長尾洋史、千住真理子/藤井一興など、いずれも個性的な演奏で印象に残る。
この盤のフランクだが、10年前のファウストの演奏とは全く違うものだ。すなわち、精緻で温度感が低いけれども、リリカルなプレゼンスに満ち溢れた音楽性が際立つ、極めて優秀な演奏となっている。王子ホールの相方はコレペティであったが、この盤では中堅Pfの急先鋒とみなされ、かつ彼女とは音楽解釈の上でパートナーシップを永らく結んできているメルニコフがエラールを弾くという圧倒的な差異があるので仕方のない面はあるが。加えて、ファウストはストラドのスリーピング・ビューティーに代え、ヴュータンを起用していることでも音色の差異を生み出している要因と言えようか。
冒頭1楽章の入りは静謐で瞑想的なファウストの操弦で始まる。慎重に歩調を確かめるかのようにファウストもメルニコフもゆっくりと、それでいて弾むように歩み寄り、そして一体となって共に滑り出すというイメージだ。慈しむように丁寧に、主題からの変奏を塗り重ねていく。一瞬暗転する展開部の色彩感は格別で、メルニコフが駆るエラールの深々とした低域弦に乗せた中高域部のブリリアンスがフランク特有の浮遊感とともに白眉。
2楽章の冒頭の怒涛のようなPf分散和音は決して荒れることはないが独特のどきどき感が凄い。畳みかけるようなファウストの上昇スケールがアチェレランドを伴って聴く者の胸に迫り来る。中間の展開部での慎重な転調からの急峻な下降スケールはガット弦のうねりが共振して迫力満点、そして間歇的なフラジオレットを織り交ぜながら3楽章へ。
3楽章レチタティーヴォはこの演奏の頂点。ここの入りは音数が少なく、ファウストはノンヴィブラートで主題を細く糸を引くように精密に弾き出す。メルニコフも歩調を合わせるように慎重な歩の進め方。美しいのひとこと。中間での執拗な転調部はこの曲中で唯一テンペラメンタルで荒れ気味な箇所。だがすぐに秩序を取り戻し静謐で瞑想的なアンサンブルに戻る。コーダへ向け美しい主題が再現、最終楽章へ。
華やいだ終楽章では二人の息はぴったり。ファウストは抑制気味にヴィブラートをかけながら純音で美しい主題を紡いでいく。以前から何度も述べている通り、この曲はVnソナタと分類されているが、原題はSonate Pour Violin et Pianoとなっていることから、VnとPfのためのリチェルカーレとカノンともいうべき対位法的な作品だ。両方が対等に掛け合って初めてフランクが構想した音楽になると言えよう。フィナーレにおけるファウストとメルニコフはまさにそれを忠実に実行しており、特にメルニコフの弾く対旋律がくっきりとした内声部を形成し、ファウストの主旋律の輪郭としっかりと対峙しながらも優しく寄り添ってフィナーレへと向かう。
思い起こせばファウストとの出会いは10年前、このショーソン/ジョリベのアルバムだった。そして再びのショーソン。
1楽章の冒頭は力強いシンプルな動機で入り、暗い導入部を経てパストラル調の分かり易い明媚な第1主題が提示される。ヴィブラートを抑制した伸びやかな主旋律はファウストが担う。転調を繰り返すメルニコフのエラールはアンビエントが豊かでサロン風の響き。第2主題はソフィスティケートされた耽美なもので第1主題とは趣が全く異なる。全音音階的な移調を繰り返し浮遊感を演出。中間からは展開部となり、各主題が断片的にかなり自由な形式で変奏されて現れる。このあたりがフランクやドビュッシー的な薫りと言えようか。
2楽章はシチリアの律動によるシシリエンヌと題する短めの可愛らしい曲。主題はファウストの独奏Vnにより提示、次にVcが加わり、トゥッティでは3挺のVnが全て鳴る。Pfはほぼ全編をアルペジオで伴奏域を下支えする。
3楽章は緩徐楽章となっており、Grave指定の暗鬱かつ荘厳なもの。ちょっと変わった作風でほぼ9割が短調進行だが、例により不規則な移調を繰り返す途中には一瞬の光も見える。Vcの重厚な響き、Pfの規則的な三連符がデモーニッシュな雰囲気を倍加させる。
終楽章はヴィヴィッドで勇壮な大規模ソナタ形式の曲。複雑なオブリガートをPfが奏でるなか第1主題を独奏Vn、次いで弦楽4部が絡みつきながら紡いでいく。第2主題はPfが先に提示、それに独奏Vn、そして弦楽2部が追従するパターン。この主題は非和声主体の謎めいたデモーニッシュなものだが、展開部は全音音階が使われて目まぐるしくもあり、飛翔感もありで、このあたりはフランクのソナタの2楽章あたりと似ている。芯の強いファウストの独奏Vnは絶好調で内声部を担う弦楽4部との絡みも有機的でハーモニーが美しい。非常に音圧の強い終盤では1楽章の第1主題が走馬灯のように蘇り、阿鼻叫喚のうちにトゥッティを迎える。
とても聴き応えのする音楽性豊かなアルバムだった。ファウスト、メルニコフ、そしてショーソンのサラゴン・カルテットの面々はそれぞれ素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれた。こういった演奏に巡り合えたことに感謝したい。
なんと10年前の王子ホールでのリサイタルの録画が見つかった。2部構成、例によりリンク切れまで貼っておく。
#終わった直後、勇み足で私が歓声を上げているのが克明に録られていたようだ。恥ずかしい限り・・
このCDの演奏がyoutubeにあった。残念ながら映像はない。演奏だけ、ちらっと聴くならこちら:
Harmonia Mundi HMM902254、通常CD。録音は2016年6月、9月、ベニューはお馴染のテルデックス・スタジオ(ベルリン)。背景が非常に静かでS/Nが極めて高い録音だ。各パートの定位はピンポイントで見晴らしは良く、スタジオ録りであるにもかかわらず音場空間の構築が巧みで、幅こそ中庸だが奥行き方向に深いサウンドステージが展開される。ファウストの駆るヴュータンの渋めのプレゼンス、メルニコフが弾くふくよかで良く鳴るエラールの音色が克明に捉えられているし、ショーソンではサラゴン・カルテットの面々が半円状配置で弾いている姿が見え透くくらい安定した定位、音場が聴かれるのだ。
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http://tower.jp/item/4506537/
Franck: Violin Sonata in A major
Ⅰ. Allegro ben moderato
Ⅱ. Allegro
Ⅲ. Recitativo fantasia. Ben moderato
Ⅳ. Allegro poco mosso
Isabelle Faust(Vn), Alexander Melnikov(Pf)
Chausson: Concert in D major for piano, violin and string quartet, Op.21
Ⅰ. Décidé
Ⅱ. Sicilienne
Ⅲ. Grave
Ⅳ. Finale. Très animé
Alexander Melnikov(Pf), Isabelle Faust(Vn)
Salagon Quartet:
Christine Busch(Vn), Lisa Juliane Immer(Vn),
Sebastian Wohlfarth(Va), Gesine Queyras(Vc)
セザール・フランク:
ヴァイオリン・ソナタ イ長調
エルネスト・ショーソン:
コンセール~ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲 ニ長調 op.21
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
=1710年製ストラディヴァリウス「ヴュータン」
アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ/エラール、1885年頃製)
サラゴン・カルテット
クリスティーヌ・ブッシュ(Vn)、リサ・インマー(Vn)、
セバスティアン・ヴォルフファース(Va)、ジェシーヌ・ケラス(Vc)
フランクのソナタ
ファウストの盤を買うのは久し振りだった。フランクのソナタはVn作品としては非常に著名かつポピュラーなのでファウストはとっくの昔に録音していると思い込んでいたが、意外なことにこれが初めての収録とのこと。というのも、ファウストのフランクVnソナタは10年ほど前にライヴで聴いたことがあり、つまり生演奏で弾くということは既に録音済みなんだろうとの先入観があったのだ。このリサイタルでの印象は今でも鮮明に覚えていて、構図の大きなヴィヴィッドで良い演奏だった。
フランクのVnソナタは様々な人たちの演奏を聴いてきており、今更感はある。この10年でいえばデュメイ/ピリス、シュワルツベルク/アルゲリッチ、ハチャトリアン姉弟、シュタインバッハー/クーレック、リサ・ジェイコブス/コウズメンコ、ルノー・カピュソン/ブニアティシヴィリ、また国内ものでは枝並千花/長尾洋史、千住真理子/藤井一興など、いずれも個性的な演奏で印象に残る。
この盤のフランクだが、10年前のファウストの演奏とは全く違うものだ。すなわち、精緻で温度感が低いけれども、リリカルなプレゼンスに満ち溢れた音楽性が際立つ、極めて優秀な演奏となっている。王子ホールの相方はコレペティであったが、この盤では中堅Pfの急先鋒とみなされ、かつ彼女とは音楽解釈の上でパートナーシップを永らく結んできているメルニコフがエラールを弾くという圧倒的な差異があるので仕方のない面はあるが。加えて、ファウストはストラドのスリーピング・ビューティーに代え、ヴュータンを起用していることでも音色の差異を生み出している要因と言えようか。
冒頭1楽章の入りは静謐で瞑想的なファウストの操弦で始まる。慎重に歩調を確かめるかのようにファウストもメルニコフもゆっくりと、それでいて弾むように歩み寄り、そして一体となって共に滑り出すというイメージだ。慈しむように丁寧に、主題からの変奏を塗り重ねていく。一瞬暗転する展開部の色彩感は格別で、メルニコフが駆るエラールの深々とした低域弦に乗せた中高域部のブリリアンスがフランク特有の浮遊感とともに白眉。
2楽章の冒頭の怒涛のようなPf分散和音は決して荒れることはないが独特のどきどき感が凄い。畳みかけるようなファウストの上昇スケールがアチェレランドを伴って聴く者の胸に迫り来る。中間の展開部での慎重な転調からの急峻な下降スケールはガット弦のうねりが共振して迫力満点、そして間歇的なフラジオレットを織り交ぜながら3楽章へ。
3楽章レチタティーヴォはこの演奏の頂点。ここの入りは音数が少なく、ファウストはノンヴィブラートで主題を細く糸を引くように精密に弾き出す。メルニコフも歩調を合わせるように慎重な歩の進め方。美しいのひとこと。中間での執拗な転調部はこの曲中で唯一テンペラメンタルで荒れ気味な箇所。だがすぐに秩序を取り戻し静謐で瞑想的なアンサンブルに戻る。コーダへ向け美しい主題が再現、最終楽章へ。
華やいだ終楽章では二人の息はぴったり。ファウストは抑制気味にヴィブラートをかけながら純音で美しい主題を紡いでいく。以前から何度も述べている通り、この曲はVnソナタと分類されているが、原題はSonate Pour Violin et Pianoとなっていることから、VnとPfのためのリチェルカーレとカノンともいうべき対位法的な作品だ。両方が対等に掛け合って初めてフランクが構想した音楽になると言えよう。フィナーレにおけるファウストとメルニコフはまさにそれを忠実に実行しており、特にメルニコフの弾く対旋律がくっきりとした内声部を形成し、ファウストの主旋律の輪郭としっかりと対峙しながらも優しく寄り添ってフィナーレへと向かう。
ショーソンのコンセール
思い起こせばファウストとの出会いは10年前、このショーソン/ジョリベのアルバムだった。そして再びのショーソン。
1楽章の冒頭は力強いシンプルな動機で入り、暗い導入部を経てパストラル調の分かり易い明媚な第1主題が提示される。ヴィブラートを抑制した伸びやかな主旋律はファウストが担う。転調を繰り返すメルニコフのエラールはアンビエントが豊かでサロン風の響き。第2主題はソフィスティケートされた耽美なもので第1主題とは趣が全く異なる。全音音階的な移調を繰り返し浮遊感を演出。中間からは展開部となり、各主題が断片的にかなり自由な形式で変奏されて現れる。このあたりがフランクやドビュッシー的な薫りと言えようか。
2楽章はシチリアの律動によるシシリエンヌと題する短めの可愛らしい曲。主題はファウストの独奏Vnにより提示、次にVcが加わり、トゥッティでは3挺のVnが全て鳴る。Pfはほぼ全編をアルペジオで伴奏域を下支えする。
3楽章は緩徐楽章となっており、Grave指定の暗鬱かつ荘厳なもの。ちょっと変わった作風でほぼ9割が短調進行だが、例により不規則な移調を繰り返す途中には一瞬の光も見える。Vcの重厚な響き、Pfの規則的な三連符がデモーニッシュな雰囲気を倍加させる。
終楽章はヴィヴィッドで勇壮な大規模ソナタ形式の曲。複雑なオブリガートをPfが奏でるなか第1主題を独奏Vn、次いで弦楽4部が絡みつきながら紡いでいく。第2主題はPfが先に提示、それに独奏Vn、そして弦楽2部が追従するパターン。この主題は非和声主体の謎めいたデモーニッシュなものだが、展開部は全音音階が使われて目まぐるしくもあり、飛翔感もありで、このあたりはフランクのソナタの2楽章あたりと似ている。芯の強いファウストの独奏Vnは絶好調で内声部を担う弦楽4部との絡みも有機的でハーモニーが美しい。非常に音圧の強い終盤では1楽章の第1主題が走馬灯のように蘇り、阿鼻叫喚のうちにトゥッティを迎える。
とても聴き応えのする音楽性豊かなアルバムだった。ファウスト、メルニコフ、そしてショーソンのサラゴン・カルテットの面々はそれぞれ素晴らしいパフォーマンスを聴かせてくれた。こういった演奏に巡り合えたことに感謝したい。
なんと10年前の王子ホールでのリサイタルの録画が見つかった。2部構成、例によりリンク切れまで貼っておく。
#終わった直後、勇み足で私が歓声を上げているのが克明に録られていたようだ。恥ずかしい限り・・
このCDの演奏がyoutubeにあった。残念ながら映像はない。演奏だけ、ちらっと聴くならこちら:
録音評
Harmonia Mundi HMM902254、通常CD。録音は2016年6月、9月、ベニューはお馴染のテルデックス・スタジオ(ベルリン)。背景が非常に静かでS/Nが極めて高い録音だ。各パートの定位はピンポイントで見晴らしは良く、スタジオ録りであるにもかかわらず音場空間の構築が巧みで、幅こそ中庸だが奥行き方向に深いサウンドステージが展開される。ファウストの駆るヴュータンの渋めのプレゼンス、メルニコフが弾くふくよかで良く鳴るエラールの音色が克明に捉えられているし、ショーソンではサラゴン・カルテットの面々が半円状配置で弾いている姿が見え透くくらい安定した定位、音場が聴かれるのだ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2017-10-16 22:57
| Solo - Vn
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