Rachmaninov: P-Con #1 & #2@Khatia Buniatishvili,Paavo Järvi/Czech PO. |
http://tower.jp/item/4443660/
Sergey Rachmaninov:
Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18
Ⅰ. Moderato
- Piu vivo - Allegro - Maestoso(Alla marcia) - Moderato
Ⅱ. Adagio sostenuto
Ⅲ. Allegro scherzando
- Moderato - Allegro scherzando - Presto - Moderato
- Allegro scherzando - Alla breve - Presto - Maestoso - Risoluto
Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30
Ⅰ. Allegro ma non tanto - Allegro molto. Alla breve
Ⅱ. Intermezzo. Adagio - attacca:
Ⅲ. Finale. Alla breve
- Scherzando - Piu vivo - Lento - Tempo I - Vivace
Khatia Buniatishvili (Pf)
Czech Philharmonic Orchestra, Paavo Järvi
セルゲイ・ラフマニノフ
1. ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
2. ピアノ協奏曲第3番ニ短調 作品30
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
パーヴォ・ヤルヴィ指揮
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
カティアの新譜はラフPコン、それもパーヴォ/チェコ・フィルとの共演
カティアの経歴についてはMusicArenaで何度も紹介してきたので割愛する。このところカティアはパーヴォ・ヤルヴィと組む機会が多いと思う。そういえばちょっと前にはN響ライブなどでも共演していたし、何だか怪しい蜜月という感じがしないでもない。それはともかく、今回のラフPコン集は、カティアの2枚目のショパン・アルバム以来、久しぶりのオーケストラ共演録音ということになる。
ラフのこれらのコンチェルトについては、昨今では音楽性を追求し始めたフィギュアスケートの試合でも著名選手により多用されて随分とお馴染みとなっている。フィギュアに使用され始めたのは割と最近のことだが、とりわけPコン2番は映画音楽として古くから使われてきた。代表的なものではビリー・ワイルダー監督作品:七年目の浮気(1955)、最近ではクリント・イーストウッド監督作品:ヒア・アフター(2010)など記憶に残る。一方、3番は2番ほどの人気はなかったが、それでもスコット・ヒックス監督作品:シャイン(1996)で、実在のピアニスト=デイヴィッド・ヘルフゴットに扮する俳優ジェフリー・ラッシュが弾いて(弾く真似をして)話題となった。
Pコン2番
独特の民族的プレゼンスと飛び切りの美音を備えるチェコ・フィルと、ドライで国籍を感じさせない現代的なパーヴォの取り合わせはどうなんだろう、という点、そんな彼らと、大胆で濃厚な彫琢およびアクロバティックな技巧を売りとするカティアはマッチするのであろうか。このアルバムのリリースを目にした時、漠然とそんなことを考えていた。そして、先入観をできるだけ抑えて針を降ろしたが、やはり事前の予感通り、これはなかなかに困難なマリアージュであった。
冒頭の入りはインテンポに聴こえるが、実は結構速い。というか、全体的に一割がた急いだテンポ設定としているようだが、これはパーヴォなのかカティアなのか分からないが、敢えて意図しての策略なんだろう。1楽章の中間部の弱音パートに関してはカティアの特徴となる思索的なスケール展開等が聴かれるが、それ以外はかなりかちゃかちゃと煩い弾き方。良く言えばヴィヴィッドで溌剌とした、悪く言えば荒っぽい演奏だ。2楽章は緩徐部中心にピアノは大人しめ、オケは揺蕩うけれどもどうもパーヴォの意図がちぐはぐというか、設計の一貫性が見えない。各パートを拡大強調してはいるが全体としての繋がり、Pfとの連関性が良く見えない。3楽章はPfオケ双方の丁々発止かと思いきや、Pfを立てる設計としており、オケはアゴーギクを多用して軟弱に揺らぎながらよろよろっと進む印象。カティアのPfは独特の解釈で、例えば主旋律と内声部をそれぞれ左右手で分担する箇所、旋律とトリルなど装飾符の分担については左右で強打点を入れ替え、普通は沈潜して弾かれる伏線部や装飾符を必要以上に浮かび上がらせるという逆コントラストの戦略のようだ。
Pコン3番
3番も、基本的な演奏設計は2番と大きく変わらない。カティアのPfは2番で観察されたトゥッティやカデンツァ前後で現れる内声部の過度の強調、主旋律と副旋律とで意図的に入れ替えた強打点が随所で見られ、かなりエキセントリックな演奏となっている。テンポも速めでカティアの高速打鍵が殊更に目立ち、やはり、かちゃかちゃと煩い。但し、2楽章までは2番に比べて全体的にアンニュイな弱奏部が多いためか、カティアの静謐なレガート基調による打鍵、パーヴォの洞察力・構成力が生きたオケのリードがなされている場面もあり、2番よりかは少しまとまりがある感じ。そして最終楽章のエナジー感は一転して凄まじい。オケの旋律進行や和声の鳴らしかたには統一性や調和感といった観点は殆ど考慮されておらず、特に緩から急、弱から強に振れる箇所でのアインザッツがオケ内、またオケ-Pf間でも微妙にずれ、響きが混濁する。カティアが特異なバランスでもって強打するPfは加減速をひたすらに繰り返し、急き込みながら坂を上り、一気にコーダを迎える。オケのサポートは2番のそれと大差はなくてパーヴォのリードは統率力、構成力を今一つ欠く感は否めない。
例えば、比較としてリーズ/ルイージ/チューリッヒの2~3番を聴くと明確に分かるのだが、これらは音楽としての成り立ち、演奏設計におけるインテグリティが優れたチームワークによって明確に担保されている。すなわち演奏者たちの一貫したインタープリテーションにより作家/作品の意図がこちらに向かって真摯に透過してくる。ところが、このカティアのアルバムの場合、一貫した思想、チームワークは殆ど見られず、カティアの超絶技巧が最前列で披瀝され、高難度パートが殊更に強調されるに終始している。このため、ラフPコンの真髄であるアンニュイで甘美なロマンチシズム、内在する悲壮感などのインティメートな部分をしっとり味わうという風情はないのだ。やはり、全体印象としてはPfに強くフォーカスした派手なスタンドプレー的、いや、Very Special One-time Performance的な演奏設計であることに違いはなく、賛否が分かれるだろう。しかし、セールス的にはかなり高い確率で成功するのではないか、と個人的には見ている。
ソニーのPVらしきものがあったので以下に貼っておく。なお、音はとても悪いのでご注意あれ。また、カティアのその他の動画は随所に多く出ているので検索してご覧下さればと思う。
録音評
Sony Classical 88985402412、通常CD。録音は2016年11月11~12日、べニューは音の良いプラハのルドルフィヌム(ドヴォルザーク・ホール)。音質は最近のソニーらしい暗めの音調で高解像度な録音となっている。カティアの剛健なPfが鮮明に捉えられていて、なおかつオケの個々のパートの分解能もかなり良好。チェコ・フィルのいぶし銀の弦楽隊、木管隊の美音も大いに楽しめる。しかも美しい残響を伴ったホールトーンが豊か。オンマイクのPfに軸足を置いた音量設定と定位だが、オケとのバランスはそれほど悪くはない。但し、全体俯瞰するようなサラウンドなライブ感覚は得られず、精密にトラックダウンされた巧妙なセッション録音といった感じ。Pコン録音としては当世流の手堅い完成度であり、なかなか良い出来栄えだ。また、演奏内容はかなり派手で聴き応えがするので、カティアのファンにとっては垂涎の盤となるのではなかろうか。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫