2017年 06月 20日
Bloch, Ligeti & Dallapiccola: Suites for solo cello@Natalie Clein |
ハイペリオンから年初にリリースされたナタリー・クラインが弾く独奏チェロ作品集。

http://tower.jp/item/4415895
Bloch, Ligeti & Dallapiccola: Suites for solo cello
E. Bloch: Three suites for unaccompanied cello
Suite No.1 for Violoncello solo
1. Prelude
2. Allegro
3. Canzona
4. Allegro
Suite No.2 for Violoncello solo
5. Prelude
6. Allegro
7. Andante tranquillo
8. Allegro
Suite No.3 for Violoncello solo
9. Allegro deciso
10. Andante
11. Allegro
12. Andante
13. Allegro giocoso
Dallapiccola: Ciaccona, Intermezzo e Adagio
14. Ciaccona: Con larghezza
15. Intermezzo: Allegro, con espressione drastica
16. Adagio
Ligeti: Sonata for Cello solo
17. Dialogo: Adagio, rubato, cantabile
18. Capriccio: Presto con slancio
Natalie Clein (Vc)
ブロッホ、ダラピッコラ、リゲティ:無伴奏チェロのための作品集
ブロッホ: 無伴奏チェロ組曲第1番~第3番
ダラピッコラ: チャッコーナ、インテルメッツォとアダージョ
リゲティ: 無伴奏チェロ・ソナタ
ナタリー・クライン(チェロ)
彼女はEMIからエルガーのVcコンで鮮烈にデビューした。数年前、EMIがソニーに買収される時にハイペリオンへ移籍した。移籍後はコダーイやブルッフ、ブロッホなどユダヤ系の民族音楽をベースとした作品を積極的に取り上げて来ている。このCDはその一連のシリーズの最新盤で、ハイペリオンに移ってからは4枚目のアルバムとなる。
ブロッホは自らの人生の終焉を悟った最晩年、音楽表現の総仕上げの頂点として選択したのは最も単純かつ最も困難な表現手段である無伴奏弦楽器のための曲、つまりここに収録されている3つの無伴奏Vc組曲、ついで2つの無伴奏Vn組曲、そして未完に終わった1つの無伴奏Va組曲だった。なお無伴奏Vc組曲の1~2番はカナダ出身の女流Vc奏者=ザラ・ネルソヴァに献呈されている。
1番だが、おそらくバロック様式に最も近い短くてシンプルな作品。音楽的な起承転結を伴う、割とオーソドックスな4楽章形式だ。因みにこの1番は教会ソナタに範をとったとする解説が多いが、私は教会ソナタがどういったものなのかを知らないので「バロック様式」と記した。1楽章プレリュードは憂鬱なゆっくりした旋律で調性が分かり辛いがイ短調らしい。2楽章アレグロは無窮動的な民族音楽の香りがする速足な曲。3楽章カンツォーナはまたしても憂鬱で緩徐な曲でナタリーの慟哭に似たダブルストップ、弓捌きが秀逸。4楽章アレグロは長調から始まる足早な曲で独特の韻を踏むのが特徴、コーダ部には8分の6拍子の舞曲調となり、これはバロック時代だとジーグに相当する曲想だ。求道的なナタリーの弾きっぷりが白眉。
2番は1番とはまるで違う雰囲気で、かつ旋律と和声構造もかなり複雑。但し形式的には緩・急・緩・急の4楽章形式で、1番と同じ。各楽章はほぼ継ぎ目なしに連続的に弾かれる。一応、有調性音楽であり譜面上ではト短調だがかなり自由な調性、というか途中では無調性に倒れる箇所が多く、かつ非和声の内声が支配的なため重苦しくて暗鬱な雰囲気だ。この曲は演奏が難しそうで、なおかつ聴く側にも一定以上の解釈能力が求められる。
3番は短くてシンプルで、音楽的には分かりやすく、調性はイ短調。但し、急・緩・急・緩・急の5楽章形式。主題は各楽章ともに非常に似たモチーフ(というか全く同じかもしれない)で循環形式とも聴き取れるもの。最終楽章はアレグロ・ジョコーソ(楽しく陽気に)とあって、これは音数の多い舞曲風の速足で明媚な曲。ナタリーの弓捌きが冴えまくる。
ルイージ・ダラピッコラ(1904年2月3日~1975年2月19日)は、イタリアの作曲家だそうで、今までその名や存在、作品も聴いたことはなかった。物の本によれば「抒情詩調の十二音音楽」の作風とのこと。確かにここに収録されている作品はかなり難解だが、十二音技法としてはマイルドな方かもしれない。冒頭のチャッコーナ(シャコンヌに相当か・・)は不可思議なバランスの長調短調とつかない曲だが、不安ばかりを煽るわけではない。インテルメッツォは速度感があってかなり不安を煽る独特の重音、低音弦の鳴らし方に特徴があって耳に付く。最終曲は一転して緩徐で音数が減る。瞑想的で直進的な単音を弾き進むナタリーの語り口が雄弁で引き込まれてしまう。中間部からは更に不安を煽るフラジオレットが効果的に重畳されコーダ部へと向かう。
リゲティの全2楽章からなるこの作品はダラピッコラの作品よりは調性も旋律もはっきりとしていて聴きやすい。しかし、やはりそこはリゲティであり、和声と内声部が非常に前衛的で特異なものだ。一つ目の楽章は緩徐なテンポで堂々と重く進むし途中に効果的に挿入されるピチカートで刻む副旋律が抒情的だ。最後の楽章は無窮動で気忙しい速いテンポの曲。ここでは主題や調性はなかなかはっきりしない。しかし最初の楽章の主題が時々瞬間的にフラッシュバックするので連関性が聴き取れ、非和声なのになぜか秩序が保たれているような気にさせられるのだ。中間部からは音数が増え、あらゆる技法を使って弾き進むナタリーの超絶技巧がショーケース的に提示され、とても楽しい。
ハイペリオンのPVが載っていたが、動画ではなく寂しい感じ。
本CDの収録曲とは違って、クルタークの冷涼な作品をライブで弾いている画像があった。これは凄い映像と演奏だ。このCDあるいはDVDはリリースされるのだろうか? 以下、埋め込みコードが公開されていないのでURLをそのまま貼る。
https://youtu.be/yyNpR3-p5qg?t=1s
Hyperion CDA68155、通常CD。録音はちょっと前で2015年10月5~7日、ベニューはセント・ジョン・ザ・バプティスト教会(ラフトン、エセックス)とある。音質は典型的なハイペリオンのものでモデレートで破綻がない。アンビエント成分は意外と多く含まれ、ナタリーの駆るグァダニーニ「シンプソン」の涸れた美音と、彼女の超絶的かつ整った技巧を余すところなく捉えている。ずっと聴いているとこの楽器が人間の肉声帯域をカバーしており、そして巧みなボウイングで弾かれる弦は声帯が発するレゾナンスととても似ているということに気が付かされるのである。過去の著名な作家の多くがインティメイトな心情を現すための独奏楽器としてVcを起用したという推論には合点が行った。
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http://tower.jp/item/4415895
Bloch, Ligeti & Dallapiccola: Suites for solo cello
E. Bloch: Three suites for unaccompanied cello
Suite No.1 for Violoncello solo
1. Prelude
2. Allegro
3. Canzona
4. Allegro
Suite No.2 for Violoncello solo
5. Prelude
6. Allegro
7. Andante tranquillo
8. Allegro
Suite No.3 for Violoncello solo
9. Allegro deciso
10. Andante
11. Allegro
12. Andante
13. Allegro giocoso
Dallapiccola: Ciaccona, Intermezzo e Adagio
14. Ciaccona: Con larghezza
15. Intermezzo: Allegro, con espressione drastica
16. Adagio
Ligeti: Sonata for Cello solo
17. Dialogo: Adagio, rubato, cantabile
18. Capriccio: Presto con slancio
Natalie Clein (Vc)
ブロッホ、ダラピッコラ、リゲティ:無伴奏チェロのための作品集
ブロッホ: 無伴奏チェロ組曲第1番~第3番
ダラピッコラ: チャッコーナ、インテルメッツォとアダージョ
リゲティ: 無伴奏チェロ・ソナタ
ナタリー・クライン(チェロ)
彼女はEMIからエルガーのVcコンで鮮烈にデビューした。数年前、EMIがソニーに買収される時にハイペリオンへ移籍した。移籍後はコダーイやブルッフ、ブロッホなどユダヤ系の民族音楽をベースとした作品を積極的に取り上げて来ている。このCDはその一連のシリーズの最新盤で、ハイペリオンに移ってからは4枚目のアルバムとなる。
ブロッホの組曲
ブロッホは自らの人生の終焉を悟った最晩年、音楽表現の総仕上げの頂点として選択したのは最も単純かつ最も困難な表現手段である無伴奏弦楽器のための曲、つまりここに収録されている3つの無伴奏Vc組曲、ついで2つの無伴奏Vn組曲、そして未完に終わった1つの無伴奏Va組曲だった。なお無伴奏Vc組曲の1~2番はカナダ出身の女流Vc奏者=ザラ・ネルソヴァに献呈されている。
1番だが、おそらくバロック様式に最も近い短くてシンプルな作品。音楽的な起承転結を伴う、割とオーソドックスな4楽章形式だ。因みにこの1番は教会ソナタに範をとったとする解説が多いが、私は教会ソナタがどういったものなのかを知らないので「バロック様式」と記した。1楽章プレリュードは憂鬱なゆっくりした旋律で調性が分かり辛いがイ短調らしい。2楽章アレグロは無窮動的な民族音楽の香りがする速足な曲。3楽章カンツォーナはまたしても憂鬱で緩徐な曲でナタリーの慟哭に似たダブルストップ、弓捌きが秀逸。4楽章アレグロは長調から始まる足早な曲で独特の韻を踏むのが特徴、コーダ部には8分の6拍子の舞曲調となり、これはバロック時代だとジーグに相当する曲想だ。求道的なナタリーの弾きっぷりが白眉。
2番は1番とはまるで違う雰囲気で、かつ旋律と和声構造もかなり複雑。但し形式的には緩・急・緩・急の4楽章形式で、1番と同じ。各楽章はほぼ継ぎ目なしに連続的に弾かれる。一応、有調性音楽であり譜面上ではト短調だがかなり自由な調性、というか途中では無調性に倒れる箇所が多く、かつ非和声の内声が支配的なため重苦しくて暗鬱な雰囲気だ。この曲は演奏が難しそうで、なおかつ聴く側にも一定以上の解釈能力が求められる。
3番は短くてシンプルで、音楽的には分かりやすく、調性はイ短調。但し、急・緩・急・緩・急の5楽章形式。主題は各楽章ともに非常に似たモチーフ(というか全く同じかもしれない)で循環形式とも聴き取れるもの。最終楽章はアレグロ・ジョコーソ(楽しく陽気に)とあって、これは音数の多い舞曲風の速足で明媚な曲。ナタリーの弓捌きが冴えまくる。
ダラピッコラ、リゲティの作品
ルイージ・ダラピッコラ(1904年2月3日~1975年2月19日)は、イタリアの作曲家だそうで、今までその名や存在、作品も聴いたことはなかった。物の本によれば「抒情詩調の十二音音楽」の作風とのこと。確かにここに収録されている作品はかなり難解だが、十二音技法としてはマイルドな方かもしれない。冒頭のチャッコーナ(シャコンヌに相当か・・)は不可思議なバランスの長調短調とつかない曲だが、不安ばかりを煽るわけではない。インテルメッツォは速度感があってかなり不安を煽る独特の重音、低音弦の鳴らし方に特徴があって耳に付く。最終曲は一転して緩徐で音数が減る。瞑想的で直進的な単音を弾き進むナタリーの語り口が雄弁で引き込まれてしまう。中間部からは更に不安を煽るフラジオレットが効果的に重畳されコーダ部へと向かう。
リゲティの全2楽章からなるこの作品はダラピッコラの作品よりは調性も旋律もはっきりとしていて聴きやすい。しかし、やはりそこはリゲティであり、和声と内声部が非常に前衛的で特異なものだ。一つ目の楽章は緩徐なテンポで堂々と重く進むし途中に効果的に挿入されるピチカートで刻む副旋律が抒情的だ。最後の楽章は無窮動で気忙しい速いテンポの曲。ここでは主題や調性はなかなかはっきりしない。しかし最初の楽章の主題が時々瞬間的にフラッシュバックするので連関性が聴き取れ、非和声なのになぜか秩序が保たれているような気にさせられるのだ。中間部からは音数が増え、あらゆる技法を使って弾き進むナタリーの超絶技巧がショーケース的に提示され、とても楽しい。
ハイペリオンのPVが載っていたが、動画ではなく寂しい感じ。
本CDの収録曲とは違って、クルタークの冷涼な作品をライブで弾いている画像があった。これは凄い映像と演奏だ。このCDあるいはDVDはリリースされるのだろうか? 以下、埋め込みコードが公開されていないのでURLをそのまま貼る。
https://youtu.be/yyNpR3-p5qg?t=1s
録音評
Hyperion CDA68155、通常CD。録音はちょっと前で2015年10月5~7日、ベニューはセント・ジョン・ザ・バプティスト教会(ラフトン、エセックス)とある。音質は典型的なハイペリオンのものでモデレートで破綻がない。アンビエント成分は意外と多く含まれ、ナタリーの駆るグァダニーニ「シンプソン」の涸れた美音と、彼女の超絶的かつ整った技巧を余すところなく捉えている。ずっと聴いているとこの楽器が人間の肉声帯域をカバーしており、そして巧みなボウイングで弾かれる弦は声帯が発するレゾナンスととても似ているということに気が付かされるのである。過去の著名な作家の多くがインティメイトな心情を現すための独奏楽器としてVcを起用したという推論には合点が行った。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2017-06-20 22:29
| Solo - Vc
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