Mozart: Complete Vn-Cons@Isabelle Faust,Giovanni Antonini/Il Giardino Armonico |

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Mozart: Complete Violin Concertos
CD1:
Concerto for violin and orchestra No.1 K207 B flat major
Ⅰ.Allegro moderato
Ⅱ.Adagio
Ⅲ.Presto
Rondo for violin and orchestra K269 (261) B flat major
Concerto for violin and orchestra No.2 K211 D major
Ⅰ.Allegro moderato
Ⅱ.Andante
Ⅲ.Rondeau: Allegro
Concerto for violin and orchestra No.3 K216 G major
Ⅰ.Allegro
Ⅱ.Adagio
Ⅲ.Rondeau: Allegro - Andante - Allegretto
CD2:
Rondo for violin and orchestra K373 C major
Concerto for violin and orchestra No.4 K218 D major
Ⅰ.Allegro
Ⅱ.Andante cantabile
Ⅲ.Rondeau: Andante grazioso - Allegro ma non tr
Adagio for violin and orchestra K261 E major
Concerto for violin and orchestra No.5 K 219 A major
Ⅰ.Allegro aperto - Adagio - Allegro aperto
Ⅱ.Adagio
Ⅲ.Rondeau: Tempo di Menuetto - Allegro - Tempo di Minuetto
Isabelle Faust (Vn), Cadenzas by Andreas Staier
Il Giardino Armonico, Giovanni Antonini
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲(全曲)
[CD1]
・ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調K207
・ロンド 変ロ長調K269(261a)
・ヴァイオリン協奏曲第2 番 ニ長調 K211
・ヴァイオリン協奏曲第3 番ト長調K216 a
[CD2]
・ロンド ハ長調 K373
・ヴァイオリン協奏曲第4 番 ニ長調 K218
・アダージョ ホ長調 K261
・ヴァイオリン協奏曲第5 番 イ長調 K219
【※カデンツァ/すべてアンドレアス・シュタイアー作】
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン/ストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティ」(ガット弦使用))
イル・ジャルディーノ・アルモニコ
ジョヴァンニ・アントニーニ(指揮)
ファウストのアルバムは久し振り
ファウストのCDは前回のシューマンのVnコン以来だから1年半は空いていることになる。ファウストの相方は今回もピリオド・アンサンブル、前回もバロック・オーケストラと、このところ小規模かつ機動性の高いオケと組むことが多いようである。
私個人はモーツァルトに関しては食指が動かない、というか既に卒業した意識がある。なので今回のこれを買った理由はファウストが弾くVnコン全集だったためという以外にはない。これ以外ではムターの全集、クレーメルの全集などが記憶にあるが、曲そのものに思い入れがあるわけではないので聴き返す機会はほぼ皆無。
Vnコン3番
モーツァルトは幼少期からVnの腕が立っていて、かつVnのための作品は小さい頃にはよく書いたが成人した後は殆ど書いていない。その理由は色々と研究はされているが、Vnの名手でありウォルフガングの教師役でもあった父レオポルトの存在をあげる研究者が多いようだ。つまり、Vnはあくまでも父親の専属領域の楽器であり、それを意識してかしないでか疎ましく思い、あるいは反抗心からか以後自身はVa(ヴィオラ)、そして独奏楽器としてはPfに軸足を移していったとされる。
ということもあって、彼が書いたPf用の譜面に比べるとVnの譜面は極端に少ないのが実情だ。その中でまずまず聴けるのは3番、作品として一般にいわれるモーツァルトらしい形質が宿っているのは5番のみといえる。まずは3番だが、予測を大きくは裏切らない好演。イル・ジャルディーノ・アルモニコは色気があるというかアンシェント・イタリアンの薫りが立つ独特の色彩感を発する楽団で、そこにファウストの若竹のような直進的な解釈が割って入る構図はなかなか興味深い対比だ。ストラド・スリーピングビューティーにガット弦を張って太目で柔らかい音で臨んでいるが弓捌きはストイックなままでいわばドイツ的な潔癖さは隠せていない。というか隠す意図はさらさらないのであろうが。
伸びやかで小鳥の囁きのようなパッセージを連ねた1楽章は気持ちよく進む。後半のカデンツァが何となく現代的で変わっていると思ったらライナーにアンドレアス・シュタイアー作と書いてあった。なおシュタイアーはムジクヮ・アンティクア・ケルンで永らくチェンバロを担当してきたクラヴィーアの名手でバッハ、シューベルトなど好演が多い。
緩徐楽章である2楽章はガット弦の効果が絶大で、ファウストのVnはまるで肉声のコントラルトのようだ。最終楽章はヴィヴィッドさを取り戻し、スリーピング・ビューティーが疾駆する。
お洒落でふくよかなイル・ジャルディーノ・アルモニコの揺蕩うバックも優秀。ここまでハイスピードに大胆に駆け抜けるとモーツァルトっぽくないというかもう少し時代が後の作品のように錯覚する。
Vnコン5番
モーツァルトのVnコンとしては最終作品で、前述のとおり最も規模が大きく、かつ形式的にも内容的にも整ったもの。これ以後に書いたVn向け作品は、このアルバムのフィルアップとして入るロンド2曲とアダージオのみ。
ソナタ形式の1楽章は明晰な律動から始まる。雰囲気としては彼の初期の交響曲に聴かれるアンビエントにあふれたサロン向け作品と通じるもの。ファウストの独奏はやはりここでも虚飾を排した野太いほぼノンビブラート基調の直進性の強い旋律。コーダ直前に奏でられるカデンツァはよくあるヨアヒムのものではなくてシュタイアー作の一捻りされたもの。伝統的な単純なダブルストップではなくて分散和音と対位法のエッセンスを取り入れた技巧的なフレーズ。緩徐楽章もソナタ形式で結構長く、やはり彼の初期から中期にかけての交響曲に雰囲気は似ている。独奏部は強く主張することはないもののファウストの存在感はやはり強く、ノンレガートで堂々とゆっくりと歩を進める。ここにもシュタイアーの短めのカデンツァが挿入されて、これは完全な対位法表現が終始ダブルストップを用いて奏でられる。
最終楽章はロンド形式。3拍子系で可愛らしい入りだ。中間部は劇的に暗転し仄暗さと勇壮さを織り交ぜて歌わせる2拍子系のトルコマーチ的な曲想で、これは円熟期のモーツァルトが常套的に使った手法。この頃に既にその形質の萌芽があった証左と思われる。だが、すぐに明媚に転じるかと思いきやまた暗転と、その後の展開は割と不安定な様相を呈する。更に不安を掻き立てるような弦のコル・レーニョは、深い翳りを表現することに効果をあげている。シンプルなカデンツァは後半に非常に短いものが2か所挿入されるが、注意してよく聴かないと分からない。コーダには冒頭主題が短く強く再現、曲は徐々にディミヌエンドして静かに閉じる。
全体を通じ、なるほどファウストの解釈らしいと思わされる精緻でストイックなモーツァルト集だった。加えて、ガット弦の効果は確かにあって、神経質に偏らない骨太の独奏は聴き入るしかない強い説得力だった。イル・ジャルディーノ・アルモニコはとても香しくて技巧的にも素晴らしい楽団と思料され、これは人気を博するのがよくわかる。ドイツの気質とイタリアの気風の融合がうまく図られたじょうずな企画・演出のアルバムと思う。
録音評
Harmonia Mundi HMC902230、通常CD。録音は2015年3月21~23日、2016年2月4~8日とある。ベニューはお馴染みのベルリンのテルデックス・スタジオ。音質はHarmonia Mundi、またファウストのCDとしては異例の暖色系で、よくMIRAREが使う木質系の調音と似ている。よくよく聴くと解像度もレンジも申し分ないのだが、やはりピリオド系のアンサンブル、またファウストもガット弦を張っていることからこうした軟調の作りとしたのではないだろうか。お洒落に、そしてアンビエント豊富に響き渡るこのCDの音作りには膝を打った。こういった音も作れるハルモニアムンディはさすがである。
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