MusicArena Awards 2016 |
新年度が始まって暫く経ったので恒例により2016年度のAwardsを選定した。昨年度も若手から中堅の録音を中心に聴き、斬新で尖鋭的な演奏に触れることができた。
加えて、録音技術およびトーンマイスターたちの感性の進化という側面からも着目すべき超高音質盤が何枚もあった。2017年度にはどんな演奏/録音に出会えるか、今から楽しみである。
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・2016年度前後にリリースされたCD/SACD(国内盤・輸入盤)
・演奏面/音質面ともに優れたもの
・前衛的な取り組みであると認められるもの
以上の観点から評価して以下の各賞を選考するものとする
▶ 各アワードのジャケット写真をクリックすると詳細ページにリンク
ラフマニノフ :ピアノ協奏曲第1番~第4番 他
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
ファビオ・ルイージ(指揮)
フィルハーモニア・チューリッヒ
レーベル:philharmonia●rec
一流のピアニストに成長したリーズの将来は安泰かと思われる。もちろん、彼女が自らの生きざまとして家庭に入る、などということがなければだが。この年度に彼女がソリストを務めて完成させたラフマニノフの協奏曲全集は色々な意味で価値のある作品となった。フィルハーモニア・チューリッヒのArtist in Residenceを引き受けたこと自体が快哉なのだが、名匠ファビオ・ルイージとのコラボレーションがとても有機的に働いていて総合的に素晴らしい出来栄えだ。ここでの彼女の独奏ピアノは当然に秀逸なのだが、チームとして最高のパフォーマンスを目指すという攻めの姿勢に彼女の成長ぶりが窺えたのは嬉しい限りだ。
アルヴォ・ペルト: パッサカリア、クレド 他
アン・アキコ・マイヤース(Vn)
クリスティアン・ヤルヴィ(指揮)
MDR交響楽団、同合唱団
レーベル:naïve
エストニアの現代作家アルヴォ・ペルトの作品群を同郷であるクリスティアン・ヤルヴィがMDRを率いて演奏したセッション収録盤。なお、このコンサートはペルトをオマージュして開かれた特別のもの。一方、ペルトの知名度は日本でもかなり高まっているので名前を聞いたことのある人も多いのではないか。白眉はペルトの代表作であるクレド。この作品は確かクリスティアンの父親=ネーメ・ヤルヴィが初演を果たした。クリスティアンのこのリードは暖色系の情感を込めつつも冷涼な浮遊感をも追求した演奏で、相当ハイレベルな解釈。フラトレス(ヴァイオリンと弦楽版)は内容的には極めて瞑想的かつ変奏が凝った作りで技巧的。独奏のアン・アキコ・マイヤースの疾駆感のある弦捌きが際立って映える。ソリッドでドライ、尖鋭なVnは彼女の特徴と言えるだろう。
スクリャービン: 24の前奏曲Op.11 他
シュトックハウゼン: クラヴィーア曲Ⅻ "試験"
ヴァネッサ・ベネリ・モーゼル(ピアノ)
レーベル:Decca
ヴァネッサの繰り出すピアニズムの強さと尖鋭さは折り紙付きだが、このスクリャービン、特に24のプレリュード全曲については意外にも穏当かつオーソドックスなアプローチだった。周到に用意された内面の抉り出しが随所で垣間見られ抑制的な解釈が続くが、最後にはやはりヴァネッサならではのエナジーの放散が見られた。白眉はシュトックハウゼンのクラヴィーア曲XII『試験』だった。激烈なアタック、かつ獰猛なスケール展開は手に汗握る展開で、こういった緊迫した演奏は久し振りに聴いた。いずれにせよヴァネッサの魅力が満載の作品集だ。
セーアンセン: 独唱のための"スノーベル" 他
ポール・ヒリヤー(指揮)
デンマーク国立声楽アンサンブル
レーベル:Dacapo
透明で神秘的な世界を描き出すベント・セーアンセンの作風は独特だ。冷涼感と浮遊感、そして抽象性と写実性を兼ね備えた語法で語りかけてくるこのような作家はあまりいない。個人的な解釈だが、日常の刹那における知覚や感覚の容易な消失の繰り返しは、それがやがて永続的な主義思想、経験、知恵、ひいては文化へと昇華するであろう様子・・ある種の矛盾だが・・を歌い上げている気がする。音質については群を抜く超高音質録音で、合唱収録の世界最高峰と言い切ってよい。セーアンセンが描く雪に埋まった白い森が目の前に現れ、スピーカーからはその森の声が聴こえ、そして冷涼な風が吹いてくる。
Lignes claires~光の線
ラヴェル:
高雅で感傷的なワルツ、クープランの墓 他
ジュリアン・リベール(ピアノ)
レーベル:Evil Penguin
ベルギー出身の新進気鋭ピアニスト、ジュリアン・リベールのデビューアルバム。マリア・ジョアン・ピリスの秘蔵っ子との触れ込みで理性的で内省的なバランス派かと思ったが、実は明媚でハイレスポンス、そして尖鋭なのに深い譜読みと解釈をしており、昨今では殆ど見ることのできない有り余る才能なのだ。このところ鮮烈な女流の台頭が相次ぐなか、彼はそういった状況を打破できる数少ない天才と言ってよいほど素晴らしいケイパビリティを持ったピアニストだ。
▶ 最終選考まで残った秀作たち
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