Thrace - Sunday Morning Sessions@Jean-Guihen Queyras |
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Thrace - Sunday Morning Sessions
1. Frank Leriche: Khamse
2. Sinopoulos: Nihavent Semai
3. Witold Lutoslawski: Sacher Variation
4. Ostad Mohamad Reza Lofti: Zarbi é Shustari
5. Anon: Visite nocturne
6. Anon: I would I were a bird
7. Anon: Sunday morning
8. Bijon & Keyvan Chemirani: Dast é Kyan
9. Jorg Widmann: Étude Digitale
10. Anon: Hasapiko
11. Ross Daly: Karsilama
12. Anon: Dance in 7/8
Jean-Guihen Queyras (Vc)
Bijan Chemirani (zarb drum), Keyvan Chemirani (daf drum)
Sokratis Sinopoulos (lyre)
THRACE(トラキア)の伝統音楽 - サンデー・モーニング・セッションズ
フランク・ルリシュ: ハムサ
S. シノプロス: ニハーヴェント・セマーイー
ルトスワフスキ: ザッハー変奏曲
オスタド・モハメアド・レザ・ロフティ: ザブリとシュスタリ
作曲者不詳(伝承曲/アラビアの歌): Visite nocturne
作曲者不詳(伝承曲): 私が鳥だったら
作曲者不詳(ギリシャの結婚の歌ほか): 日曜日の朝
シェミラーニ兄弟: Dast e Kyan(即興演奏)
イェルク・ヴィトマン: デジタル・エチュード(2015)
作曲者不詳(バルカンの伝承曲): ハサピコ
ロス・ダリー: カルシラマ
トラキアの伝統音楽: 7/8 のダンス
ジャン=ギアン・ケラス(チェロ)
ケイヴァン・シェミラーニ(ザルブ)、ビヤン・シェミラーニ(ダフ)
ソクラティス・シノプロス(リラ)
トラキアについて
Wiki等に詳しいのでそちらに譲るが、少しだけ引用しておく。
Thrace(ラテン語: Thracia、現代ギリシア語: Θράκη, Thráke、ブルガリア語: Тракия, Trakiya、トルコ語: Trakya)は、バルカン半島南東部の歴史的地域名。現在は3か国に分断され、西トラキアがブルガリアの南東部とギリシャ北東部の一部に、東トラキアがトルコのヨーロッパ部分となっている。なお、Thraceは英語でθreɪs(スレイス)と発音するが、日本語ではトラキア。
紀元前、古代ギリシア時代のトラキア(古代ギリシア語で「トラケー」Θράκη Thrākē、ラテン語で「トラキア」Thracia)には、インド・ヨーロッパ語族に属する言語を話すトラキア人と呼ばれる民族が住んでおり、独自の文化が栄えた。彼らは様々な小部族に分かれていたが、南のギリシアから様々な影響を受けて国家を形成することもあった。
東は黒海、南はマルマラ海とエーゲ海で、海によって画される。西はマケドニア地方、北は古代にモエシアと呼ばれていた地域である。
名称、及び主要な都市は以下のとおり。
ブルガリア領 - Тракия (Trakija)
プロヴディフ
スタラ・ザゴラ
ギリシャ領 - Θράκη (Thraki)(東マケドニア・トラキア地方の一部を形成)
アレクサンドルポリ
コモティニ
トルコ領 - Trakya
エディルネ
(イスタンブール)
いずれの国でもトラキアは現在も地域名として用いられており、トルコにはTrakya Üniversitesi(エディルネ)、ギリシャではΔημοκρίτειο Πανεπιστήμιο Θράκης(コモティニ)、ブルガリアではТракийски университет (スタラザゴラ)と3国ともに自国領のトラキア地方の中心地に「トラキア大学」(ギリシアでは「トラキ大学」となる)という名称を持った大学がある。
トラキアは文化的にはヨーロッパと中東を結ぶ線上に位置していた国であり、他民族との交流も盛んだったためか、音楽についてはなんとも言えない異国情緒が漂い、これは今までにあまり経験したことのない聴感の音楽だ。
ルリシュ、シノプロス、ルトスワフスキ、ロフティ
ルリシュは現代作家だが、トラキア伝統音楽の旋律、和声、律動に依拠した作品を書いているようで、このハムサもその一曲。
5拍子で韻を踏むスピード感のあるぞくぞくする作品。リラの独特の燦然たる高域とVcの深い中域とが見事なハーモニーを形成する。
リラを弾くシノプロスが書いたニハーヴェント・セマーイーは暗鬱な短調の曲で翳りの強いモデラートのアリア風作品。7拍子系のドラムがえも言われない民族的郷愁を誘う。
ルトスワフスキはポーランドの近現代作家。ザッハー変奏曲だが、無調性の曖昧な旋律、そして不可思議で不気味な和声で構成される。なお、ザッハーとはスイスの作家・音楽家のパウル・ザッハーのことで、ロストロポーヴィッチが彼へのオマージュとしてルトスワフスキに作曲を委嘱した作品。ポーランドの12音技法作家の作品が、なぜこのトラキアのアルバムに選曲されたのかは謎だ。
ロフティのザブリとシュスタリはトラキア風の暗鬱な旋律が支配、強烈なアチェレランドで無窮動的な上下するメロディを不安定に描いていく。リラが刻む民族楽的な咽ぶ旋律を途中からケラスのVcが引き継いで行く。なんとも切ないVcで、ケラスの表現能力に関し真骨頂が聴かれる。
中間部のアノニマス3曲
アラビアの歌、ダフ・ドラムの重低音が複雑でゆったりとしたリズムを刻んで支えるなか、ケラスのVcが咽びながら中東独特のエキゾチックなメロディを紡いでいく。後半にはカンカンと言ってザルブ・ドラムが参入。「私が鳥だったら」は、ケラスのVcが通奏低音で導入、アダージオくらいの遅さでシノプロスのリラが天国的なまろぶような優しい旋律を重ねていく。このアルバムでは珍しく長調の作品。アルバム名になっているサンデー・モーニングも天国的で明るい曲で、前の「私が鳥・・」の旋律とほぼ同じ。つまり続編の変奏曲といった感じ。但し、テンポはアレグロくらいで律動が生き生きしていて加速度感が強い。
全員がかなりのスウィングを聴かせている。中東の雰囲気なんだが、アフリカのサバンナの匂いも感じられるようなシンプルな和声がずっと続く。
後半の4曲
シェミラーニ兄弟によるDast e Kyanは完全なアドリブで、打撃音だけで演奏される。ダフとザルブ以外にケラスがVcの胴体を叩いているかもしれないが判然としない。
イェルク・ヴィトマンのデジタル・エチュードは2015作曲で新しい。デジタルは符号化方式という意味ではなくて、フランス語では"指の~"という意味だそうだ。なるほど、旋律にならないようなVcのピチカート、あとは胴体を叩いて打楽器のように拍取り、およびドラムパートだけで不可思議な演奏が聴かれる。これはブーレーズへの追悼作品だそうだ。
バルカンの伝承曲のハサピコはどこかで聴いたことのあるメロディだ。これはまさに中東風、バルカン風といえるのであろう。
テンポは速くて中間部からコーダにかけてアチェレランドを効かせて同じメロディとリズムが高速で駆け抜けていく。ロス・ダリーのカルシラマは前の曲と似た雰囲気だが、更に影があってちょっと複雑なリズムを刻むことからクレズマーの要素も入っている気がする。
最後の7/8 のダンスは作者不詳で、地平線まで続く悠久なる大地、砂漠、夜明け、夕暮れなどといった雄大な風景、情景が眼前に現れるような曲で、前半はダンスというか舞曲には思われないラルゴくらいの速度の作品。中間部からは同じ旋律にドラムたちが参加しアレグレットくらいに加速し、これなら確かに舞曲といえるかもしれない。最後に飾るに相応しいトランスするような熱いけれども翳りのある土の匂いがする曲だった。
録音評
Harmonia Mundi HMC902242、通常CD。録音は少し前で、2015年9-10月、とある。音像は大きめに、かつ克明に録られており、こういった民族音楽特有のリアルさ、特に各楽器の擦過音と奏者の息遣いに焦点を合わせた狙い方のようだ。音色は少し暖色系に振っていて温かみが感じられるもの。従ってアンビエントは通常のハルモニア・ムンディの透徹感は後退し、安心してゆるりと聴けるものだ。これまた絶妙な音造りといえる。
しかしながら、ひと言だけ申し添えておく。圧縮メディアにしてiPodなどで聴くと音がかなり痩せて刺激的な擦過音が殊更に耳につく。録音レベルが高いためかとも思うが、最近ではこういったラウドスピーカーとヘッドフォンとでは聴感がまるで違う録音が増加してきた感がある。私の所有機器が古いだけかもしれないが。
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