Grieg: Vn Sonata #2 Etc.@Baiba Skride,Lauma Skride |

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Violin Sonatas & Pieces: Baiba Skride & Lauma Skride
Grieg: Violin Sonata No.2 in G major, Op.13
1. Lento doloroso. Allegro vivace
2. Allegretto tranquillo
3. Allegro animato
Nielsen: Violin Sonata No.2, Op.35 (FS64)
4. Allegro
5. Molto adagio
6. Allegro piacevole
Sibelius: Four Pieces, Op.78
7. Impromptu
8. Romance
9. Religioso
10. Rigaudon
Stenhammar: Sonata in A minor for Violin and Piano, Op.19
11. Allegro con anima
12. Andantino
13. Allegro
Baiba Skride(Vn), Lauma Skride(Pf)
スクリデ姉妹による北欧のソナタと小品集
エドヴァルド・グリーグ(1843-1907): ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Op.13
1. 第1楽章: Lento doloroso. Allegro vivace
2. 第2楽章: Allegretto tranquillo
3. 第3楽章: Allegro animato
カール・ニールセン(1865-1931): ヴァイオリン・ソナタ 第2番 Op.35
4. 第1楽章: Allegro
5. 第2楽章: Molto adagio
6. 第3楽章: Allegro piacevole
ジャン・シベリウス(1865-1957): 4つの小品 Op.78
7. 即興曲
8. ロマンス
9. レリジオーソ
10. リゴードン
ヴィルヘルム・ステンハンマル(1871-1927): ヴァイオリン・ソナタ イ短調 Op.19
11. 第1楽章: Allegro con anima
12. 第2楽章: Andantino
13. 第3楽章: Allegro
バイバ・スクリデ(ヴァイオリン)、ラウマ・スクリデ(ピアノ)
バイバ・スクリデとの出会いは約10年前
バイバ・スクリデを初めて聴いたのは約10年前、ソニーからリリースされたショスタコとヤナーチェクのこのアルバムだった。ゆとりがあって柔軟、そしてまろやかな表現が心地よいことから着目するようになった。次にソニーから出たのが定番のチャイコンで、これはナチュラルで肩肘張らないすっきりとした演奏で、音的には純度が高くて歪感が皆無、かつ、ふくよかさが特徴だった。その後、彼女は暫く録音からは遠ざかり生演奏に没入したようだ。ある日、彼女はソニーではなくてオルフェオからアルバムを出す。移籍した一枚目はブラームスのVnコンで、これもまたふくよかで丸みを帯びた優秀演奏だった。また暫く間が空いてオルフェオから出したのがシューマンのVnコン。滑らかで完璧なレガートを基調として難曲を弾き切っている。
グリーグとニールセンのソナタ
グリーグのソナタ2番は割と有名だろう。厳しい大地と自然に立ち向かう毅然とした心情、清浄な空気感が支配するグリーグの独特の世界観が眼前に現れる。曲の規模としては中規模。1楽章はドラマティックな展開なので長くも感じ、また目まぐるしい転調やディミニッシュ和音の多用などもあって飽きなくて逆にすぐに終わってしまうとの印象も同時に抱く。2楽章は1楽章の主題を継いだ緩徐楽章、センチメンタルなラウマのピアノ伴奏に乗せバイバの切々とした丸いヴィブラートが良く歌う。フィナーレは雰囲気が変わり春の息吹あるいは明るい陽光を想起するような華やいだ旋律とポップな韻律が支配し駆け抜ける。改めてグリーグの作曲能力の高さを再認識する。
ニールセンはこのアルバム中では唯一の不協和音系を含むもので、彼の交響曲などと殆ど同じ手法で書かれた不安定で不可思議系、けれども優しくて訥々とした展開の曲だ。技巧的に多くを要求はしない代わりに複雑に交錯する和声と非和声、途中の内声部に含まれるコンテキストをどう演奏設計するのかが難しそうだ。二人の提示する解釈はニールセンの和声部に着眼したもので、非和声部の不協和音があまり不快には響かない。途中、激しく破綻するような譜面もあるが、純音系のフラジオレット、重音で歪感を極力抑えたりと違和感のないよう工夫しているようだ。目立たないが、ラウムの伴奏ピアノの低音弦がしっかりと下支えするピラミッド効果は安定性を得るのに貢献していると思う。
シベリウスとステンハンマル
シベリウスの4つの小品Op.78は有名な作品で、何度か耳にしていると思う。アンプロンプトゥは直截的にリフレインされる単純な伴奏部が訴求してくる短い作品。ロマンスは優しく切ない旋律が著名で、感傷的で複雑な転調を効果的に用いて詩情を紡いでいく。バイバは詩歌を吟唱するように朗々と弾き進める。レリジオーソは直前のロマンスの短調版という感じで、より陰影が濃くもの悲しい雰囲気。レリジオーソとは元々は宗教的という意味だが転じて厳粛に、敬虔に、という情感を意味する。Op.78の最後を飾るリゴードンは一転して明るく快活な曲で華やいて楽しい雰囲気がよく出ている。なおリゴードンとは元々はフランス語で、ブルターニュやプロヴァンス地方の土着の4拍子系の舞曲をいう。シベリウスにおける2人の演奏設計は陰翳に富んでおり、明媚なパートとアンニュイなパートでのコントラストは鮮やかだ。
ステンハンマルはあまり有名な作家ではないかもしれない。スカンジナヴィアの作家を集めたアルバムで取り上げられていたことから記憶には残っていたが、改めて彼の作風を聴いてみると、素直に表現された情景、情感がすっと心に入ってくる。特段に凝った旋律や尖鋭的な和声を弄さずとも音楽は書けるものだと至極納得。なお、調性指定はイ短調となっているが全編で長調が勝ている印象。1楽章アレグロは明るく弾む3連符を上下にいくつか配置した主題から提示、その後、穏健な分散和音を繰り返しながら長調と短調を交代させながら最終的には明るい調に帰着。この構造をリフレインし最後に大きく転調させ結びとなる。1楽章主題をメランコリックに変形して承継したゆったりした主題で始まる2楽章は緩徐楽章に相当。中間部ではピアノ独奏あるいは伴奏部の活躍が見られ、ラウマの大きく歌う綺麗なピアノが聴かれる。明るくて浮き立つような細動をベースとした旋律で始まるフィナーレ3楽章は長短調を出し入れしつつ変奏をいくつか繰り返して進行。バイバの駆るサルタートあるいはトレモロが精緻で技巧的な中間部を経て、上昇音階、下降音階を素早く交錯させつつドラマティックなトゥッティな迎える。
録音評
Orfeo C913161A、通常CD。録音は2015年9月28日-10月1日ベルリン スタジオ・ブリッツとある。オルフェオらしい穏健で整った音調、突出した解像度の高さは感じられない。しかし、高域にほんの僅かだけブリリアンスが乗っていて全体はすっきり引き締まり、ディテールが綺麗な印象。どっしりと落ち着いたラウマのPf、そしてまろび出るふくよかな球面波のようなバイバのVnが克明に捉えられている。北欧バルト海沿岸諸国の作家が醸す独特の冷涼感と明媚な音楽性が躍動する素晴らしい演奏を、落ち着いた大人の音質で聴くことが可能なこの一枚はお勧めだ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫