2016年 07月 10日
Jean de Brunhoff: Babar et le Père Noël@Natalie Dessay, Shani Diluka |
La Dolce Voltaレーベルの年末のリリースで、童話「ババールとサンタクロース」の朗読+ピアノ演奏付き。つまりこれは音楽CDではなく、CD付き絵本である。

http://tower.jp/item/4122457/
1. Babar et le Père Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Traditionnel: Mon beau sapin
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Edvard Grieg: Marche des trolls(Pièces lyriques Op.54)
2. Babar part à la recherche du Père Noël
Erik Satie: Gymnopédie No.1
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Francis Poulenc: Nocturne No.7
3. Rencontre avec les souris
Claude Debussy: Menuet(Suite bergamasque)
Claude Debussy: La Fille aux Cheveuz de lin(Préludes, livre 1)
4. Rencontre avec les moineaux
Francis Poulenc: Fête des oiseaux(L'Histoire de Babar)
Maurice Ravel: Pavane pour une infante Défunte
5. Enfin une bonne piste: la Bohème
Johannes Brahms: Danse hongroise No.5(arr. Moritz Moszkowski)
6. Rencontre avec Duck
Erik Satie: Gymnopédie No.1
Claude Debussy: Passepied(Suite bergamasque)
Edvard Grieg: Dans l'antre du roi de la montagne(Peer Gynt)
Edvard Grieg: Kobold(Pièces lyriques Op.71)
Claude Debussy: Jardins sous la pluie(Estampes)
7. La caverne du Père Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Georges Bizet: Petit mari, petit femme(Jeux d'enfants)
8. Le Père Noël au pays des éléphants
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Erik Satie: Gnossienne No.1
9. Un beau Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Traditionnel: Mon beau sapin
Shani Diluka: Medley sur la Comptine de Noël et le thème de l'Eléphant
Natalie Dessay(Narr.) and Shani Diluka(Pf), Shani Diluka(Music Direction)
ババールとサンタクロース(ジャン・ド・ブリュノフ著)
1.ババールとサンタクロース
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
伝承曲: Mon beau sapin(私のクリスマスツリー)
サン=サーンス: 象( 動物の謝肉祭より)
グリーグ: こびとの行進(抒情小曲集op.54より)
2.ババールはサンタクロースを探しに行く
サティ: ジムノペディNo.1
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
プーランク: ノクターンNo.7
3.ネズミたちとの出会い
ドビュッシー: メヌエット
ドビュッシー: 亜麻色の髪の乙女
4.スズメたちとの出会い
プーランク: 鳥たちの祭
ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ
5.最後に良い滑降コース:ボヘミア
ブラームス: ハンガリー舞曲No.5
6.デュックとの出会い
サティ: ジムノペディNo.1
ドビュッシー: パスピエ
グリーグ: 山の魔王の宮殿にて(ペール・ギュントより)
グリーグ: 小妖精(抒情小曲集op.71より)
ドビュッシー: 雨の庭
7.サンタの洞窟
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
ビゼー: 小さな旦那様、小さな奥様(子供の遊びより)
8.象の国のサンタ
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
サティ: グノシエンヌNo.1
9.美しいクリスマス
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
伝承曲: Mon beau sapin(私のクリスマスツリー)
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌と象の主題に基づくメドレー
朗読: ナタリー・デセイ
ピアノ: シャニ・ディリュカ
ババール (Babar)とは、フランスの絵本作家=ジャン・ド・ブリュノフ(1899/12/9~1937/10/16)が1931年に初版を発表した幼児向け絵本のベストセラー「ぞうのババール」の主人公で、擬人化された架空の象のことだ。この絵本は全10巻から成っており、その構想はブリュノフの妻セシルが自分の子供たちへの読み聞かせを目的として創作した物語を元にしている。
この絵本のシリーズは欧州では非常に有名であり、日本においてはそれほどではないにしろ日本語版の絵本が複数の出版元から発刊されている。冒頭にも述べたようにこの絵本はCD付きであり、CDには当代きってのオペラ歌手、そしてソプラノの名ソリストとして高名なナタリー・デセイによる朗読が収められている。
豪華なのは朗読だけではなく、その背後には物語に合わせた音楽が設えられており、そちらの方はなんとMirareの売れっ子ピアニスト=シャニ・ディリュカが担当しているのだ。楽曲選定からプロデュースに至るまで彼女が担当したとのことで、これは要注目だ。
タワレコ等のサイトに表示される商品パッケージの外観はCDのように見える。しかし、右の写真にある通り、実際には大型の正方形でずっしりとした装丁であり、CDジャケットよりも二回り以上大きい。中を開くと上質の厚紙にフランス語の手書き文章と鮮やかでユーモラスな絵が描かれている。なお楽曲と録音データを記した四つ折りのシートが一枚挟まっている。


この物語については著者の死後から50年以上経過しているため著作権法上の引用制限等はないので掲載可能だが分量が相当あるため割愛する。興味ある人は検索で容易に出てくるので読んでみてほしい。なお今回入手したものはフランス語版。当地では3~5歳児向けの絵本とされており、これからフランス語を学びたいという人には適した題材ではなかろうか。
「ぞうのババール」シリーズは全10巻だが、その冒頭の1巻「ぞうのババール(こどものころのおはなし)」に関しては、物語に沿った形でプーランクが曲を付けている。「小象ババールの物語 PF129」( L'histoire de Babar, le petit éléphant)がそれで、1945年作曲のピアノと語り手のための音楽物語。 題名だが、子象ババールの物語や子象ババールのお話、また原作と同じ「ぞうのババール」とも呼称する。ここでは、第4場面の挿入音楽で「 鳥たちの祭」がそのプーランクの作品となる。
しかし、その続編に関しては特別な音楽は想定されておらず、ここでの第5巻「ババールとサンタクロース」に関してはシャニ・ディリュカが各年代の著名作品から選曲して場面ごとに音楽をプロデュースした。シャニはこの作品のために一曲だけオリジナル曲を書いていて、それが随所にモチーフとして登場する「クリスマスの歌」という短いユーモラスで楽しげな曲。聴く限り、モーツァルトのきらきら星変奏曲をもじって書いたと思われる平易で親しみ易い主題と和声進行だ。もう一つのモチーフがサン=サーンスの動物の謝肉祭より「象」が選ばれている。原曲における主題はチェロの低音弦でずっしりと重い象の足取りを描写しているのだが、ここではシャニがユーモアに満ちたオーバーアクションとともにピアノの低音弦に置き換えている。
ナタリー・デセイは歌唱が巧いことでは論を待たないが、ナレーターとしても超一流で、多くの登場人物を実に巧みな声帯模写で僅か一人で掛け持ちし、喋り切っている。意味は殆ど分からないにせよ、明晰な発音で語られるフランス語は本当に美しいとうっとり感じ入ってしまう。よくよく聴き込むと、それぞれの登場人物(動物)ごとに喋り方の癖や抑揚を使い分けており、要するに動物の種類や人の個性に合わせて韻を踏んでいるのだ。
シャニの選曲はとてもセンスが良くて、なおかつ誰が聴いたって納得の名曲たちは耳に馴染みがあって、かつ各場面の物語性をアシストあるいは増強する働きが考慮されている。曲目も多く、かつフランス国内向けということでフランス・パリで活躍した作曲家の作品群を中心としてずらりと揃えている。フランス以外ではシャニが個人的に好んでいるグリーグやブラームスの抒情的な小品も組み込まれている。どれもが著名な曲なのでそれぞれの論評は割愛する。一つだけ取り上げるとすると、一番最後に入っているクリスマスの歌と象の主題に基づくメドレー。これは、シャニのオリジナル曲とサン=サーンスの象が同時進行で左右手に分かれて変奏を繰り返し弾かれるという対位法であり、これは一種のフーガなのだ。フーガというと難しいので、「蛙の歌」などの純朴な輪唱を想像したほうがしっくりくるかもしれない。この最終曲を聴いて、三拍子系のサン=サーンスの象と四拍子のきらきら星がなぜか似ていることに初めて気が付いた。
全般的なピアノの弾き方はシャニの通常の純粋音楽のCDと基礎は同じである。しかし、肩肘の力を抜いて鷹揚に構えたものであり、急速なアチェレランドやリタルダンドを多用、またアゴーギクも踊るように激しく付けていて、デセイの語るナレーションの山場に呼応しながら弾いている本人も実に楽しげなのである。この演奏は単に場面ごとの背景音楽に留まらず、物語と一体となった創作表現の一つなのだ。そういった点においては絵本のテキストと楽譜のコラボレーションであると言えようか。このナレーションには音程がない、という一点を除いては、とりもなおさず音楽活動の一つなのだ。
(録音評)
La Dolce Voltaレーベル。録音は2015年8月8-10日、ベニューはスタジオ4'33"とある。音質は極めて優秀で、通常のピアノ伴奏付き歌曲アルバムと遜色はなく、寧ろウィグモアホール・ライブなどに比肩する素晴らしいパースペクティブを備えた一級の録音に仕上がっている。デセイのナレーションが豊かに捉えられているのはもちろん、シャニが弾く暖色系のピアノ、恐らくベヒシュタインだろうが、この楽器の立体感が凄まじくてアクション機構やダンパーの上げ下ろしまで見え透いてしまうほどのスーパー・ディテールには舌を巻くしかない。変わり種のアルバム、いや絵本だが、著名なパーソネルに見合うだけの素晴らしい出来栄えとなっており、たとえフランス語が分からなくても聴いているだけで満足感が得られる。
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http://tower.jp/item/4122457/
1. Babar et le Père Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Traditionnel: Mon beau sapin
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Edvard Grieg: Marche des trolls(Pièces lyriques Op.54)
2. Babar part à la recherche du Père Noël
Erik Satie: Gymnopédie No.1
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Francis Poulenc: Nocturne No.7
3. Rencontre avec les souris
Claude Debussy: Menuet(Suite bergamasque)
Claude Debussy: La Fille aux Cheveuz de lin(Préludes, livre 1)
4. Rencontre avec les moineaux
Francis Poulenc: Fête des oiseaux(L'Histoire de Babar)
Maurice Ravel: Pavane pour une infante Défunte
5. Enfin une bonne piste: la Bohème
Johannes Brahms: Danse hongroise No.5(arr. Moritz Moszkowski)
6. Rencontre avec Duck
Erik Satie: Gymnopédie No.1
Claude Debussy: Passepied(Suite bergamasque)
Edvard Grieg: Dans l'antre du roi de la montagne(Peer Gynt)
Edvard Grieg: Kobold(Pièces lyriques Op.71)
Claude Debussy: Jardins sous la pluie(Estampes)
7. La caverne du Père Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Georges Bizet: Petit mari, petit femme(Jeux d'enfants)
8. Le Père Noël au pays des éléphants
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Erik Satie: Gnossienne No.1
9. Un beau Noël
Shani Diluka: Comptine de Noël
Camille Saint-Saëns: L'Eléphant(Le Carnaval des animaux)
Traditionnel: Mon beau sapin
Shani Diluka: Medley sur la Comptine de Noël et le thème de l'Eléphant
Natalie Dessay(Narr.) and Shani Diluka(Pf), Shani Diluka(Music Direction)
ババールとサンタクロース(ジャン・ド・ブリュノフ著)
1.ババールとサンタクロース
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
伝承曲: Mon beau sapin(私のクリスマスツリー)
サン=サーンス: 象( 動物の謝肉祭より)
グリーグ: こびとの行進(抒情小曲集op.54より)
2.ババールはサンタクロースを探しに行く
サティ: ジムノペディNo.1
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
プーランク: ノクターンNo.7
3.ネズミたちとの出会い
ドビュッシー: メヌエット
ドビュッシー: 亜麻色の髪の乙女
4.スズメたちとの出会い
プーランク: 鳥たちの祭
ラヴェル: 亡き王女のためのパヴァーヌ
5.最後に良い滑降コース:ボヘミア
ブラームス: ハンガリー舞曲No.5
6.デュックとの出会い
サティ: ジムノペディNo.1
ドビュッシー: パスピエ
グリーグ: 山の魔王の宮殿にて(ペール・ギュントより)
グリーグ: 小妖精(抒情小曲集op.71より)
ドビュッシー: 雨の庭
7.サンタの洞窟
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
ビゼー: 小さな旦那様、小さな奥様(子供の遊びより)
8.象の国のサンタ
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
サティ: グノシエンヌNo.1
9.美しいクリスマス
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌
サン=サーンス: 象(動物の謝肉祭より)
伝承曲: Mon beau sapin(私のクリスマスツリー)
シャニ・ディリュカ: クリスマスの歌と象の主題に基づくメドレー
朗読: ナタリー・デセイ
ピアノ: シャニ・ディリュカ
ババール (Babar)とは、フランスの絵本作家=ジャン・ド・ブリュノフ(1899/12/9~1937/10/16)が1931年に初版を発表した幼児向け絵本のベストセラー「ぞうのババール」の主人公で、擬人化された架空の象のことだ。この絵本は全10巻から成っており、その構想はブリュノフの妻セシルが自分の子供たちへの読み聞かせを目的として創作した物語を元にしている。
第1巻:ぞうのババール こどものころのおはなし
はじめて人間の町にやってきたババールは何もかも珍しいものでビックリ。やがてババールは森に帰りぞうの王様になる。
第2巻:ババールのしんこんりょこうのおはなし
大きな気球にのって楽しい新婚旅行にでかけたババールとセレストの行き先には恐ろしい事件が起きます…。
第3巻:おうさまババールのおはなし
新しいぞうの町を作ろうとババールはじめ、みんな一生懸命…。劇場・学校・テニスコートなどが出来ていきます。
第4巻:ババールのこどもたちのおはなし
セレスト王妃にかわいい赤ちゃんが生まれ、王さまババールは大喜び。ある日みんなでピクニックに出かけます。
第5巻:ババールとサンタクロースのおはなし
かわいい子どもたちのために、ババールはサンタクロースを探しに出かけました。ババールのために犬やねずみたちが案内します。
第6巻:ババールといたずらアルチュアール
アルチュールが飛行機の翼に乗って遊んでいると大変。飛行機が動き出してどんどん飛んで行きます。さあどうなるでしょう…というお話。
第7巻:ババールとりのしまへ
とりの国へ招待されたババールと子どもたちは、だちょうの競走を見たり、鳥の背中に乗って遊んだりします。
第8巻:ババールのはくらんかい
ぞうの町にお祭りの日がやってきました。森の中の動物たちがあちこちから集まり、楽しい催しものを始めます。
第9巻:ババールとグリファトンきょうじゅ
ババールのぞうの国に遊びにきたグリファトン先生が地下に川を発見しました。そこで皆で大きな川船をつくることになります。
第10巻:ババールのひっこし
お城についたババールの子どもたちはさっそく探険を始めました。むかしの武器庫や秘密の地下道の入口を見つけたりします。
はじめて人間の町にやってきたババールは何もかも珍しいものでビックリ。やがてババールは森に帰りぞうの王様になる。
第2巻:ババールのしんこんりょこうのおはなし
大きな気球にのって楽しい新婚旅行にでかけたババールとセレストの行き先には恐ろしい事件が起きます…。
第3巻:おうさまババールのおはなし
新しいぞうの町を作ろうとババールはじめ、みんな一生懸命…。劇場・学校・テニスコートなどが出来ていきます。
第4巻:ババールのこどもたちのおはなし
セレスト王妃にかわいい赤ちゃんが生まれ、王さまババールは大喜び。ある日みんなでピクニックに出かけます。
第5巻:ババールとサンタクロースのおはなし
かわいい子どもたちのために、ババールはサンタクロースを探しに出かけました。ババールのために犬やねずみたちが案内します。
第6巻:ババールといたずらアルチュアール
アルチュールが飛行機の翼に乗って遊んでいると大変。飛行機が動き出してどんどん飛んで行きます。さあどうなるでしょう…というお話。
第7巻:ババールとりのしまへ
とりの国へ招待されたババールと子どもたちは、だちょうの競走を見たり、鳥の背中に乗って遊んだりします。
第8巻:ババールのはくらんかい
ぞうの町にお祭りの日がやってきました。森の中の動物たちがあちこちから集まり、楽しい催しものを始めます。
第9巻:ババールとグリファトンきょうじゅ
ババールのぞうの国に遊びにきたグリファトン先生が地下に川を発見しました。そこで皆で大きな川船をつくることになります。
第10巻:ババールのひっこし
お城についたババールの子どもたちはさっそく探険を始めました。むかしの武器庫や秘密の地下道の入口を見つけたりします。
この絵本のシリーズは欧州では非常に有名であり、日本においてはそれほどではないにしろ日本語版の絵本が複数の出版元から発刊されている。冒頭にも述べたようにこの絵本はCD付きであり、CDには当代きってのオペラ歌手、そしてソプラノの名ソリストとして高名なナタリー・デセイによる朗読が収められている。
豪華なのは朗読だけではなく、その背後には物語に合わせた音楽が設えられており、そちらの方はなんとMirareの売れっ子ピアニスト=シャニ・ディリュカが担当しているのだ。楽曲選定からプロデュースに至るまで彼女が担当したとのことで、これは要注目だ。




「ぞうのババール」シリーズは全10巻だが、その冒頭の1巻「ぞうのババール(こどものころのおはなし)」に関しては、物語に沿った形でプーランクが曲を付けている。「小象ババールの物語 PF129」( L'histoire de Babar, le petit éléphant)がそれで、1945年作曲のピアノと語り手のための音楽物語。 題名だが、子象ババールの物語や子象ババールのお話、また原作と同じ「ぞうのババール」とも呼称する。ここでは、第4場面の挿入音楽で「 鳥たちの祭」がそのプーランクの作品となる。
しかし、その続編に関しては特別な音楽は想定されておらず、ここでの第5巻「ババールとサンタクロース」に関してはシャニ・ディリュカが各年代の著名作品から選曲して場面ごとに音楽をプロデュースした。シャニはこの作品のために一曲だけオリジナル曲を書いていて、それが随所にモチーフとして登場する「クリスマスの歌」という短いユーモラスで楽しげな曲。聴く限り、モーツァルトのきらきら星変奏曲をもじって書いたと思われる平易で親しみ易い主題と和声進行だ。もう一つのモチーフがサン=サーンスの動物の謝肉祭より「象」が選ばれている。原曲における主題はチェロの低音弦でずっしりと重い象の足取りを描写しているのだが、ここではシャニがユーモアに満ちたオーバーアクションとともにピアノの低音弦に置き換えている。
ナタリー・デセイは歌唱が巧いことでは論を待たないが、ナレーターとしても超一流で、多くの登場人物を実に巧みな声帯模写で僅か一人で掛け持ちし、喋り切っている。意味は殆ど分からないにせよ、明晰な発音で語られるフランス語は本当に美しいとうっとり感じ入ってしまう。よくよく聴き込むと、それぞれの登場人物(動物)ごとに喋り方の癖や抑揚を使い分けており、要するに動物の種類や人の個性に合わせて韻を踏んでいるのだ。
シャニの選曲はとてもセンスが良くて、なおかつ誰が聴いたって納得の名曲たちは耳に馴染みがあって、かつ各場面の物語性をアシストあるいは増強する働きが考慮されている。曲目も多く、かつフランス国内向けということでフランス・パリで活躍した作曲家の作品群を中心としてずらりと揃えている。フランス以外ではシャニが個人的に好んでいるグリーグやブラームスの抒情的な小品も組み込まれている。どれもが著名な曲なのでそれぞれの論評は割愛する。一つだけ取り上げるとすると、一番最後に入っているクリスマスの歌と象の主題に基づくメドレー。これは、シャニのオリジナル曲とサン=サーンスの象が同時進行で左右手に分かれて変奏を繰り返し弾かれるという対位法であり、これは一種のフーガなのだ。フーガというと難しいので、「蛙の歌」などの純朴な輪唱を想像したほうがしっくりくるかもしれない。この最終曲を聴いて、三拍子系のサン=サーンスの象と四拍子のきらきら星がなぜか似ていることに初めて気が付いた。
全般的なピアノの弾き方はシャニの通常の純粋音楽のCDと基礎は同じである。しかし、肩肘の力を抜いて鷹揚に構えたものであり、急速なアチェレランドやリタルダンドを多用、またアゴーギクも踊るように激しく付けていて、デセイの語るナレーションの山場に呼応しながら弾いている本人も実に楽しげなのである。この演奏は単に場面ごとの背景音楽に留まらず、物語と一体となった創作表現の一つなのだ。そういった点においては絵本のテキストと楽譜のコラボレーションであると言えようか。このナレーションには音程がない、という一点を除いては、とりもなおさず音楽活動の一つなのだ。
(録音評)
La Dolce Voltaレーベル。録音は2015年8月8-10日、ベニューはスタジオ4'33"とある。音質は極めて優秀で、通常のピアノ伴奏付き歌曲アルバムと遜色はなく、寧ろウィグモアホール・ライブなどに比肩する素晴らしいパースペクティブを備えた一級の録音に仕上がっている。デセイのナレーションが豊かに捉えられているのはもちろん、シャニが弾く暖色系のピアノ、恐らくベヒシュタインだろうが、この楽器の立体感が凄まじくてアクション機構やダンパーの上げ下ろしまで見え透いてしまうほどのスーパー・ディテールには舌を巻くしかない。変わり種のアルバム、いや絵本だが、著名なパーソネルに見合うだけの素晴らしい出来栄えとなっており、たとえフランス語が分からなくても聴いているだけで満足感が得られる。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2016-07-10 11:48
| Vocal
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