2016年 06月 10日
Ravel:Valses nobles, Lipatti: Nocturne@Julien Libeer |
最近になって野心的な収録内容と高音質で気を吐くエヴィル・ペンギンからのリリースで、ベルギー出身の新進気鋭ピアニスト、ジュリアン・リベールのデビューアルバム。

http://tower.jp/item/4080855
Lignes Claires
Ravel:
Valses nobles et sentimentales
1.Modere
2.Assez lent
3.Modere
4.Assez anime
5.Presque lent
6.Vif
7.Moins vif
8.Epilogue (lent)
Lipatti:
9.Nocturne
Sonatine pour la main gauche
10.Allegro
11.Andante espressivo
12.Allegro
Ravel:
Le tombeau de Couperin
13.Prelude
14.Fugue
15.Forlane
16.Rigaudon
17.Menuet
18.Toccata
Julien Libeer (Pf)
Lignes claires~光の線
ラヴェル: 高雅で感傷的なワルツ
リパッティ: 夜想曲、左手のためのソナチネ
ラヴェル: クープランの墓
ジュリアン・リベール(ピアノ)
ここに至るまで、ピアノの天才とされるジュリアン・リベール(1987~)が....とても驚くべきことに....世界で広く最も驚嘆すべき才能の持ち主の一人として認識されているにも拘らず、国際的な脚光を浴びることを避け続けてこられた(と、ここでは敢えてそう書く)。勿論、この日本でも彼の名を知っている人は殆どいないか、いてもごく少数だろう。
2010年、彼が22歳の時、彼はベルギーの音楽専門雑誌において“Young musician of the year”(今年の若手音楽家大賞)にノミネートされた。 また彼は前々年度の2008年には既に栄誉あるユベントス・アワードを受賞していた。なお、この賞にはアンデルジェフスキやエマニュエル・パユなど後にスターダムに伸し上がる演奏家たちも名を連ねている。それ以来、彼はPalau de la Musica Catalana(カタルーニャ音楽堂=バルセロナ)、ロンドンのバービカン・ホール、またアムステルダム・コンセルトヘボウのようなステージで演奏して来ていて、その殆どのシリーズで彼は百戦錬磨のヴィルトゥオーゾとみなされてきた(実際にはそれほどのキャリアを積んでいるわけではなかったが・・)。
2012年から彼の支持者としてのパートナーシップをずっと育んできた、あのマリア・ジョアン・ピリスによると「ジュリアンは音楽の真の理解者であり、堅固なアプローチ、および霊妙な音に対峙する確実な才能を有する完璧な演奏家」だそうだ。特徴的なのは、彼はレコーディングでデビューするには28歳まで待つという事情があったとのこと。これは、単なる演奏者として存在するだけなら(若年デビューは)良しとするものの、ただそうであるだけでは十分に満足しない、との彼の独特の信念から来ているという。
彼のデビューとなるこのアルバムのタイトルはLignes Claires※で、輸入元の邦訳は光の線。私としては輝線、あるいは明確な線、という意味だろうと理解している。ライナーによれば、彼はお気に入りの二人の作家、即ちラヴェルの寡黙な感性とリパッティの忘れ得ぬ催眠術的で繊細な音楽性の間を結んでいる輝線※、(=即ち共通点と言いたいのだろう)をこのアルバムで詳らかにしているそうだ。因みに、ディヌ・リパッティ(1917~1950)は自身がピアノの名手として余りに抜きん出ていたため、そのオーラによって早世の天才作曲家という側面が不幸にして薄められていると言える。
※【仏】Lignes Claires、【英】luminous lines
マリア・ジョアン・ピリスがバックアップする、つまり彼女の秘蔵っ子であるとの触れ込みだったので彼女のような理性的で内省的、そしてモデレートなバランス派ピアニストとの先入観でこのデビュー盤に針を降ろしたが、そのような想像はものの数秒のうちに打ち砕かれてしまった。何とも明媚でハイレスポンス、そして深い譜読みと解釈・・。およそ知り得る殆ど全ての形容詞を用いても形容し尽くせぬ有り余る才能、と言っておこう。昨今では女流の台頭が著しく、新進の男性Pfは数の上では割と劣勢を強いられているのだが、彼はgiftedと言ってよいほど素晴らしいピアノを弾く。
しょっぱなの高雅で感傷的なワルツからしてやられてしまう。オーケストラ曲として広く知られている同曲だが実際にはここでリベールが弾いているピアノ独奏譜が原曲であり、オケ版はラヴェル自身の手により後に書かれた編曲版である。色彩感が素晴らしく、そして尖鋭な感性が迸っているとしか表現しようのない新手の解釈だ。聴いていて理屈抜きにわくわくして来るなんて久し振りである。こういったスケールの大きな独奏版を聴いていると、まるでオケ版を聴いているのと完全に錯覚というか倒錯した気分になってくる。音価と音価の間に頭内合成された仮想的な和声がいっぱい出現して来て分厚く響いてくるのだ。
リパッティの作品は初めて聴く。旋律進行や和声が独特であり、現代音楽とまではいかないまでも何となくジャズ的な要素を感じたり、それでいてフランス印象楽に似た上品な飛翔感が織り交ぜられていたりと、かなり前衛的であるのは確か。最後のクープランの墓だが、これが前半の高雅ワルツとはまるで違った静謐な内容で、内声部の描き込みが丹念であり、とても20代の若者の解釈とは思われないのだ。
彼が誰に似ているかという比較はこの際あまり重要な意味はないが、敢えての比喩ということで挙げるなら、壮大で凛々しいダイナミズムを湛えた演奏設計ではコロベイニコフに近い。そして、この軽量・超高速性能を携えたテクニカル面では最高峰の新進女流も及ばないくらいの超絶ぶりを見せつけるメルニコフがコンペティターとなろうか。いずれのピアニストも凄いパフォーマンスを見せつける才能溢れる人たちだが、このリベールは彼らを優に超えていくだけの潜在能力と、あっけらかんとした強い精神力を備えているように聴こえるのだ。
(録音評)
Evil Penguinレーベル、EPRC020、通常CD。録音は2013年8月、2015年8月とある。どれが古いかは分からない。CD-DAながら、音質はこのレーベルらしくてストイックなほどに良好だ。ちょっと硬質だが伸びやかで屈託がなく、そして純度が高い綺麗な音が録れている。ピアノの調律が素晴らしいのか、純音による和音だけでなく通常はちょっと濁ってしまうディミニッシュ系、あるいは不協和音傾向の和音についても、ピーンと張った独特のブリリアンスが感じられて好感する。音場展開は小さめで中央にぽっとピアノの全景が映し出される。そしてリベールの息遣いと上部雑音が仄かに捉えられており臨場感が生々しい。さりとて調音やノイズ処理は完璧で嫌な音は殆どしない。こういった大人のピアノ録音は昨今増えてはいるが、エヴィル・ペンギンが録るとこうなる、という典型例だろう。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/4080855
Lignes Claires
Ravel:
Valses nobles et sentimentales
1.Modere
2.Assez lent
3.Modere
4.Assez anime
5.Presque lent
6.Vif
7.Moins vif
8.Epilogue (lent)
Lipatti:
9.Nocturne
Sonatine pour la main gauche
10.Allegro
11.Andante espressivo
12.Allegro
Ravel:
Le tombeau de Couperin
13.Prelude
14.Fugue
15.Forlane
16.Rigaudon
17.Menuet
18.Toccata
Julien Libeer (Pf)
Lignes claires~光の線
ラヴェル: 高雅で感傷的なワルツ
リパッティ: 夜想曲、左手のためのソナチネ
ラヴェル: クープランの墓
ジュリアン・リベール(ピアノ)
ここに至るまで、ピアノの天才とされるジュリアン・リベール(1987~)が....とても驚くべきことに....世界で広く最も驚嘆すべき才能の持ち主の一人として認識されているにも拘らず、国際的な脚光を浴びることを避け続けてこられた(と、ここでは敢えてそう書く)。勿論、この日本でも彼の名を知っている人は殆どいないか、いてもごく少数だろう。
2010年、彼が22歳の時、彼はベルギーの音楽専門雑誌において“Young musician of the year”(今年の若手音楽家大賞)にノミネートされた。 また彼は前々年度の2008年には既に栄誉あるユベントス・アワードを受賞していた。なお、この賞にはアンデルジェフスキやエマニュエル・パユなど後にスターダムに伸し上がる演奏家たちも名を連ねている。それ以来、彼はPalau de la Musica Catalana(カタルーニャ音楽堂=バルセロナ)、ロンドンのバービカン・ホール、またアムステルダム・コンセルトヘボウのようなステージで演奏して来ていて、その殆どのシリーズで彼は百戦錬磨のヴィルトゥオーゾとみなされてきた(実際にはそれほどのキャリアを積んでいるわけではなかったが・・)。
2012年から彼の支持者としてのパートナーシップをずっと育んできた、あのマリア・ジョアン・ピリスによると「ジュリアンは音楽の真の理解者であり、堅固なアプローチ、および霊妙な音に対峙する確実な才能を有する完璧な演奏家」だそうだ。特徴的なのは、彼はレコーディングでデビューするには28歳まで待つという事情があったとのこと。これは、単なる演奏者として存在するだけなら(若年デビューは)良しとするものの、ただそうであるだけでは十分に満足しない、との彼の独特の信念から来ているという。
彼のデビューとなるこのアルバムのタイトルはLignes Claires※で、輸入元の邦訳は光の線。私としては輝線、あるいは明確な線、という意味だろうと理解している。ライナーによれば、彼はお気に入りの二人の作家、即ちラヴェルの寡黙な感性とリパッティの忘れ得ぬ催眠術的で繊細な音楽性の間を結んでいる輝線※、(=即ち共通点と言いたいのだろう)をこのアルバムで詳らかにしているそうだ。因みに、ディヌ・リパッティ(1917~1950)は自身がピアノの名手として余りに抜きん出ていたため、そのオーラによって早世の天才作曲家という側面が不幸にして薄められていると言える。
※【仏】Lignes Claires、【英】luminous lines
マリア・ジョアン・ピリスがバックアップする、つまり彼女の秘蔵っ子であるとの触れ込みだったので彼女のような理性的で内省的、そしてモデレートなバランス派ピアニストとの先入観でこのデビュー盤に針を降ろしたが、そのような想像はものの数秒のうちに打ち砕かれてしまった。何とも明媚でハイレスポンス、そして深い譜読みと解釈・・。およそ知り得る殆ど全ての形容詞を用いても形容し尽くせぬ有り余る才能、と言っておこう。昨今では女流の台頭が著しく、新進の男性Pfは数の上では割と劣勢を強いられているのだが、彼はgiftedと言ってよいほど素晴らしいピアノを弾く。
しょっぱなの高雅で感傷的なワルツからしてやられてしまう。オーケストラ曲として広く知られている同曲だが実際にはここでリベールが弾いているピアノ独奏譜が原曲であり、オケ版はラヴェル自身の手により後に書かれた編曲版である。色彩感が素晴らしく、そして尖鋭な感性が迸っているとしか表現しようのない新手の解釈だ。聴いていて理屈抜きにわくわくして来るなんて久し振りである。こういったスケールの大きな独奏版を聴いていると、まるでオケ版を聴いているのと完全に錯覚というか倒錯した気分になってくる。音価と音価の間に頭内合成された仮想的な和声がいっぱい出現して来て分厚く響いてくるのだ。
リパッティの作品は初めて聴く。旋律進行や和声が独特であり、現代音楽とまではいかないまでも何となくジャズ的な要素を感じたり、それでいてフランス印象楽に似た上品な飛翔感が織り交ぜられていたりと、かなり前衛的であるのは確か。最後のクープランの墓だが、これが前半の高雅ワルツとはまるで違った静謐な内容で、内声部の描き込みが丹念であり、とても20代の若者の解釈とは思われないのだ。
彼が誰に似ているかという比較はこの際あまり重要な意味はないが、敢えての比喩ということで挙げるなら、壮大で凛々しいダイナミズムを湛えた演奏設計ではコロベイニコフに近い。そして、この軽量・超高速性能を携えたテクニカル面では最高峰の新進女流も及ばないくらいの超絶ぶりを見せつけるメルニコフがコンペティターとなろうか。いずれのピアニストも凄いパフォーマンスを見せつける才能溢れる人たちだが、このリベールは彼らを優に超えていくだけの潜在能力と、あっけらかんとした強い精神力を備えているように聴こえるのだ。
(録音評)
Evil Penguinレーベル、EPRC020、通常CD。録音は2013年8月、2015年8月とある。どれが古いかは分からない。CD-DAながら、音質はこのレーベルらしくてストイックなほどに良好だ。ちょっと硬質だが伸びやかで屈託がなく、そして純度が高い綺麗な音が録れている。ピアノの調律が素晴らしいのか、純音による和音だけでなく通常はちょっと濁ってしまうディミニッシュ系、あるいは不協和音傾向の和音についても、ピーンと張った独特のブリリアンスが感じられて好感する。音場展開は小さめで中央にぽっとピアノの全景が映し出される。そしてリベールの息遣いと上部雑音が仄かに捉えられており臨場感が生々しい。さりとて調音やノイズ処理は完璧で嫌な音は殆どしない。こういった大人のピアノ録音は昨今増えてはいるが、エヴィル・ペンギンが録るとこうなる、という典型例だろう。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2016-06-10 21:33
| Solo - Pf
|
Trackback
|
Comments(0)