Ysaÿe: Vn Sonatas Op.27@Alina Ibragimova |

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Ysaÿe: Six Sonatas for solo violin Op.27
Sonata No.1 in G minor, for solo violin, Op.27 No.1
Grave: Lento assai
Fugato: Molto moderato
Allegretto poco scherzoso: Amabile
Finale con brio: Allegro fermo
Sonata No.2 in A minor, for solo violin, Op.27 No.2
Obsession "Prelude": Poco vivace
Malinconia: Poco lento
Danse des ombres "Sarabande": Lento
Les furies: Allegro furioso
Sonata No.3 in D minor, for solo violin, Op.27 No.3 "Ballade"
Sonata No.4 in E minor, for solo violin, Op. 27 No.4
Allemanda: Lento maestoso
Sarabande: Quasi lento
Finale: Presto ma non troppo
Sonata No.5 in G major, for solo violin, Op. 27 No.5
L'aurore: Lento assai
Danse rustique: Allegro giocoso molto modera
Sonata No.6 in E major, for solo violin, Op. 27 No.6
Alina Ibragimova (Vn)
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集 Op.27
ソナタ第1番ト短調
ソナタ第2番イ短調
ソナタ第3番ニ短調《バラード》
ソナタ第4番ホ短調
ソナタ第5番ト長調
ソナタ第6番ホ長調
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
もともと高名かつ技巧派のVnソリストであったイザイは、当然のことだろうがVnのための作品を多く書いた。とりわけ、バッハの無伴奏Vnソナタ&パルティータに啓発されて書いたとされる無伴奏ヴァイオリン・ソナタ集が演奏機会が割と多い。今回、イブラギモヴァがこの難曲に挑んだのがこの新譜というわけだ。なお、Vnに特化した人物としてはサラサーテやパガニーニの名が思い浮かぶが、イザイに関しては全般的に演奏機会も録音機会も少なく、とりわけ日本ではVn好きな一部の人たち以外にはそれほど知られている存在ではないと思う。
プレスト・クラシカルのレビューワーであるデイヴィッド・スミスがイブラギモヴァにイザイの作品についてインタビューしたときの模様が出ていた。
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イザイの無伴奏Vnソナタ群は1923年の夏、熱に浮かされたような24時間のうちに基本的なスケッチ(構想)が描きあげられたとされている。それは、何故に200年以上の間、バッハが構築した道程を誰一人として辿ろうとしなかったのか?という疑問に対する回答だった。これらの6つの新しいソナタは、それぞれが当世のVn奏者に献呈されており、そして被献呈者らの演奏スタイルにそれぞれ合わせてカスタマイズされていた。結果として、それぞれの弾き手に対してはかなり困難な課題を提示した。
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一応、以下の通りの被献呈者となっていて、当時著名だったVnのヴィルトゥオーゾが並んでいる。
第1番ト短調=ヨーゼフ・シゲティ
第2番イ短調=ジャック・ティボー
第3番ニ短調=ジョルジェ・エネスク
第4番ホ短調=フリッツ・クライスラー
第5番ト長調=マチュー・クリックボーム
第6番ホ長調=マヌエル・キロガ
イブラギモヴァのこの録音だが、どのソナタも素晴らしくて個々に優劣をつけるのが難しい。その中にあって印象に残るのが5番ト長調。全2楽章形式の変わった構成で、ソナタというよりかは小品を二つ並立させたプレリュードあるいはマズルカ風の作品。瞑想的で難解な和声、無窮動的あるいは反対に内省的で複雑に絡む旋律が特徴となるイザイにあっては比較的簡明でストレート、牧歌的な雰囲気だ。
1楽章はL'aurore(曙光)と題され、速度はレント・アッサイ、伸びやかでポップ、華やいだ曲想は全音音階から来るブリリアンスが基調にある風に思える。イブラギモヴァのグリップは完璧で美しい光景が目に浮かぶような大きな構図の解釈だ。2楽章はDanse rustique(田舎の舞踊)と命名された舞曲的な韻を踏む作品。旋律は割とシンプルでイザイらしくはない。内声部と伴奏部は比較的凝っていて深みのある和声と言えようか。イブラギモヴァが繰り出す超高速の冒頭部とコーダでの卓越・安定した技巧がクローズアップされた演奏。
やはり、白眉としては2番イ短調だろうか。この2番は全4楽章形式で、ディエス・イレ=グレゴリオ聖歌の怒りの日=の旋律を循環形式の主題として横串を刺した構造のソナタ。バッハの無伴奏パルティータ3番を冒頭のモチーフとした1楽章はオブセッション(妄想)と題される不安定でアンニュイな曲。これこそがイザイの真骨頂、しかも正攻法でバッハへのオマージュとして作り上げられた稀有のインスパイア作品なのだが、1楽章の割と早い段階で全体構造を明示的に縮刷している。
2楽章はシシリー風のポリリズム的な韻を踏むマリンコニア(憂鬱)と題される曲で、内声部にディエス・イレが微かに無窮動的・断続的に現れる。ここでのイブラギモヴァの演奏は時に聴き取れないくらいの弱音を正確無比にトレースし、細波のような微細なコルレーニョを駆使して不安を掻き立てて来る。3楽章はサラバンドでDanse des ombres(陰影の踊り)と題し、3拍子リズムを刻む舞曲。ここでのイブラギモヴァのリズム感は素晴らしく、ディエス・イレを長調転調した旋律をピチカートで軽々と楽しく弾いている。4楽章フィナーレの副題はLes friesで、これはギリシャ神話に登場する復讐の女神=蛇の頭髪をもつ三姉妹=を意味する。2拍子系で激しく乱高下する旋律とダブルストップやトリプルストップが激しく交錯する苛烈でエモーショナルな曲。イブラギモヴァの一糸乱れぬ激しい奏法に息を飲む。
(録音評)
Hyperion CDA67993、通常CD。録音は2014年5月12~13日、19~20日、ワイアストン・コンサート・ホール(モンマス)とある。とにかくダイナミックレンジの広い録音で、S/Nも非常に良好。最弱音部も潰れたり埋もれたりせず克明に捉えられている。そのくせオンマイク録音ではなく、寧ろオフマイク気味なのが不思議なところ。ハイぺリオンの通常のフェザータッチの音調とは違っていて図太い艶消し風の堂々たる骨格の音。イブラギモヴァの弦・弓捌きは素晴らしく、その技巧を余さず録音しようとする姿勢が窺える。イザイの求道的な曲想にマッチした音調と言えようか。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫