2015年 11月 13日
Le Corps des Cordes@Charles-Antoine Duflot |
遅ればせながら春のOEHMSの新譜で、新進気鋭Vcソリスト、シャルル=アントワーヌ・デュフロのコンピレーションアルバムから。
http://tower.jp/item/3868990
Le Corps Des Cordes: Charles-Antoine Duflot
D.Ortiz: Recercadas (8) from ‘Trattato de glosas’
I.Mundry: Le Corps des Cordes für Violoncello Solo
J.S.Bach: Cello Suite No.6 in D major, BWV1012
F.Poulenc: Cello Sonata, Op.143
Sebastian Küchler-Blessing (Cem), Ulrich Wedemeier (Lu/Guit),
Matthias Müller (Violone), Murat Coşkun (Perc)
Martin Klett (Pf: Poulenc)
Charles-Antoine Duflot (Vc/piccolo-Vc)
Le Corps des Cordes - 弦の躯
ディエゴ・オルティス:
ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏の装飾論ならびに変奏論から8つのリチェルカーレ
リチェルカーレ1, 4, 3, 16, 5番, パルス5番, リチェルカーレ8番, リチェルカーレ2番
イザベル・ムンドリー(1963-): 弦の躯
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012
前奏曲, アルマンド, クーラント, サラバンド, ガヴォット, 1-2ジーグ
プーランク: チェロ・ソナタ
シャルル=アントワーヌ・デュフロ(Vc&チェロ・ピッコロ)
セバスチャン・キュフラー=ブレッシング(Cem)…1-8
ウルリヒ・ヴェーデマイアー(Lu)…1-8
マティアス・ミュラー(ヴィオローネ)…1-8
ムラート・コシュクン(Perc)…1-8
マルティン・クレット(Pf)…16-19
このチェリストは名前は目にしていたが詳細は知らなかった。今回このアルバムを買って改めてその演奏に触れた次第。シャルル=アントワーヌ・デュフロ:1986年、フランス、セントクエンティン生まれ。1999年パリ開催のUFAM(Union des Femmes Artistes Musiciennes)国際コンクールでの優勝を皮切りに、2009年の国際J&A Beareソロ・バッハ・コンクール(ロンドン)、2010年の国際ベートーヴェン・コンクール(チェコ:フラデツ・ナド・モラヴィチー)、2011年のポーサル音楽賞(ドイツ:リューベック)に入賞。
そして2013年5月のTon und Erklärung – Werkvermittlung in Musik und Wort(Tone and Explanation – Work Mediation in Music and Words)=ハノーヴァーのチェロ・コンクールで優勝している。BDI(ドイツ産業連盟)のドイツ経済文化協会とNDR Kultur(北ドイツ放送)が協業し、この受賞を記念してアルバムを制作、実現したのがこの録音だとのこと。
このアルバムの構成は歴史的序列を任意に並べた重層的なオムニバスとなっている。ディエゴ・オルティスは1500年代のスペイン/イタリアで活躍したルネサンス期の作家で、このリチェルカーレは田園風景の長閑でおおらか、そして敬虔なキリスト信仰を守ってきた民俗的な響きを描写したと思われる土の香りがする音楽。チェンバロやヴィオローネ、太鼓類がフィーチャーされた純朴な初期対位法を踏襲した作品。イメージ的にはサヴァール/エスぺリオン・ヴァンテオンのアルバムと同じで、事実、こちらにもオルティスの作品が収録されている。ここでのデュフロのチェロは小型と思われ、高域の切れが抜群でありながらピーキーにならないのが良いところ。フローラルで屈託ない高速な操弦が幅広に展開される。
ムンドリーは現代作家で、アルバムタイトルともなっているこの曲は、調性が失われる直前の寸止めといった微妙な領域を綱渡りする変わった音楽だ。ここでのデュフロはちょっと翳があるデモーニッシュな音色を放散しており、オルティス作品とはまるで異なった演奏設計だ。
(後半を追記: 11/14)
前半の二曲に関しては、C線以外は金属の単線弦を張ったと考えられるストレートでハイスピードな中高域であったが、次のバッハ無伴奏6番BWV1012については太くて朗々としながらもブリリアンスが抑えられた渋い音色であることからガット弦ではないかと思われる。そして、もともと特殊なのはこの譜面はエクストラのE線を張った小型の5弦チェロ=ヴィオロンチェロ・ピッコロ用に書かれているらしいということ。4弦楽器で弾くことも可能だが、高域弦、特にA線への割り当てが極端に多いため指板のネック部周辺での他の弦との運指が煩瑣となることから一部を除き5弦楽器を用いるのが普通。ガイヤールなど、4弦のピリオド楽器、あるいは大型の現代楽器で弾くテクニシャンも勿論いるにはいるが。デュフロの演奏だが、肩肘を張らないとても素直で聴きやすい演奏。時にスピード感、加速度感が強くて、それでいて溜めについても大き目のルバートを効果的に挿入した構図の大きな演奏設計である。著名な4楽章ガヴォットは出色の出来で、悠然と揺蕩う音たちがとても素敵だ。
最後に位置するプーランクだが、現代楽器に中高域はナイロン弦を張っていると思われ、スピード感と質感が両立したニュートラルなもの。この曲は近現代作品だが調性がしっかりしているので広く愛聴される有名曲。直前の硬い質感のバッハとは異なり鷹揚で自由な作品なのだが、ここでデュフロの懐の深さをまざまざと見せつけられる。この人はどんなジャンルでもそれぞれに合わせたスタイルと確固たる自我を持っていて、このプーランクにあっては強い飛翔感を軸に不協和音に対する処理が巧く、従って聴き応えがする。特に最終楽章の表現幅の大きさと技巧の優秀さは括目もの。冒頭、また最終のトウッティで出現する野太いC線の巻弦の揺動、A線のポルタメントで一気に引き込まれてしまう。また伴奏ピアノを弾くマルティン・クレットも非常に巧く、野心的な対話を仕掛けている。
触れ込みでは弦に拘ったアルバムとなっているとのことだが、実際にはそれほど奇を衒った選択をしているとも思われない。
以下、輸入元の販促文:
弦楽器の歴史を紐解く時、人々は往々にして楽器本体に目を向けますが、使われる4本の弦にも多くのストーリーがあります。彼は曲ごとに、使用する弦を変え、その時代の音楽を丁寧に描き出すことを試みたのです。16世紀の音楽と、バッハの音楽の違い、そして現代の作曲家ムンドリーによる「弦」の強い主張、プーランクでは、チェロだけでなくピアノの弦も加わり、異なった響きを醸し出します。呼吸とともに、自然な弦の振動を味わうこと。これも弦楽器を聴くときの楽しみなのかもしれません。 ナクソス・ジャパン
(録音評)
OEHMS OC765、通常CD。録音は2014年6月2-4日 ハノーファー NDR クライナー・ゼントザールとある。エームズ特有の渋くて太い骨格の音の捉え方であり、加えて塗り重ねのコントラストが深く、かつ漆黒の闇のような静謐な空間への音場展開が出色。なんとも大人の調音であり唸らざるをえない素晴らしい出来栄えだ。これが通常のCD-DAメディアとは信じられない。機材のクレジットは例によってないのであくまでも推測域だが、これはPC録音、即ちPyramixによるもので、ADCはちょっと古い時代の、例えばdCSなど用いている感じがするほど太くて実在感のある音だ。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫
http://tower.jp/item/3868990
Le Corps Des Cordes: Charles-Antoine Duflot
D.Ortiz: Recercadas (8) from ‘Trattato de glosas’
I.Mundry: Le Corps des Cordes für Violoncello Solo
J.S.Bach: Cello Suite No.6 in D major, BWV1012
F.Poulenc: Cello Sonata, Op.143
Sebastian Küchler-Blessing (Cem), Ulrich Wedemeier (Lu/Guit),
Matthias Müller (Violone), Murat Coşkun (Perc)
Martin Klett (Pf: Poulenc)
Charles-Antoine Duflot (Vc/piccolo-Vc)
Le Corps des Cordes - 弦の躯
ディエゴ・オルティス:
ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏の装飾論ならびに変奏論から8つのリチェルカーレ
リチェルカーレ1, 4, 3, 16, 5番, パルス5番, リチェルカーレ8番, リチェルカーレ2番
イザベル・ムンドリー(1963-): 弦の躯
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調BWV1012
前奏曲, アルマンド, クーラント, サラバンド, ガヴォット, 1-2ジーグ
プーランク: チェロ・ソナタ
シャルル=アントワーヌ・デュフロ(Vc&チェロ・ピッコロ)
セバスチャン・キュフラー=ブレッシング(Cem)…1-8
ウルリヒ・ヴェーデマイアー(Lu)…1-8
マティアス・ミュラー(ヴィオローネ)…1-8
ムラート・コシュクン(Perc)…1-8
マルティン・クレット(Pf)…16-19
このチェリストは名前は目にしていたが詳細は知らなかった。今回このアルバムを買って改めてその演奏に触れた次第。シャルル=アントワーヌ・デュフロ:1986年、フランス、セントクエンティン生まれ。1999年パリ開催のUFAM(Union des Femmes Artistes Musiciennes)国際コンクールでの優勝を皮切りに、2009年の国際J&A Beareソロ・バッハ・コンクール(ロンドン)、2010年の国際ベートーヴェン・コンクール(チェコ:フラデツ・ナド・モラヴィチー)、2011年のポーサル音楽賞(ドイツ:リューベック)に入賞。
そして2013年5月のTon und Erklärung – Werkvermittlung in Musik und Wort(Tone and Explanation – Work Mediation in Music and Words)=ハノーヴァーのチェロ・コンクールで優勝している。BDI(ドイツ産業連盟)のドイツ経済文化協会とNDR Kultur(北ドイツ放送)が協業し、この受賞を記念してアルバムを制作、実現したのがこの録音だとのこと。
このアルバムの構成は歴史的序列を任意に並べた重層的なオムニバスとなっている。ディエゴ・オルティスは1500年代のスペイン/イタリアで活躍したルネサンス期の作家で、このリチェルカーレは田園風景の長閑でおおらか、そして敬虔なキリスト信仰を守ってきた民俗的な響きを描写したと思われる土の香りがする音楽。チェンバロやヴィオローネ、太鼓類がフィーチャーされた純朴な初期対位法を踏襲した作品。イメージ的にはサヴァール/エスぺリオン・ヴァンテオンのアルバムと同じで、事実、こちらにもオルティスの作品が収録されている。ここでのデュフロのチェロは小型と思われ、高域の切れが抜群でありながらピーキーにならないのが良いところ。フローラルで屈託ない高速な操弦が幅広に展開される。
ムンドリーは現代作家で、アルバムタイトルともなっているこの曲は、調性が失われる直前の寸止めといった微妙な領域を綱渡りする変わった音楽だ。ここでのデュフロはちょっと翳があるデモーニッシュな音色を放散しており、オルティス作品とはまるで異なった演奏設計だ。
(後半を追記: 11/14)
前半の二曲に関しては、C線以外は金属の単線弦を張ったと考えられるストレートでハイスピードな中高域であったが、次のバッハ無伴奏6番BWV1012については太くて朗々としながらもブリリアンスが抑えられた渋い音色であることからガット弦ではないかと思われる。そして、もともと特殊なのはこの譜面はエクストラのE線を張った小型の5弦チェロ=ヴィオロンチェロ・ピッコロ用に書かれているらしいということ。4弦楽器で弾くことも可能だが、高域弦、特にA線への割り当てが極端に多いため指板のネック部周辺での他の弦との運指が煩瑣となることから一部を除き5弦楽器を用いるのが普通。ガイヤールなど、4弦のピリオド楽器、あるいは大型の現代楽器で弾くテクニシャンも勿論いるにはいるが。デュフロの演奏だが、肩肘を張らないとても素直で聴きやすい演奏。時にスピード感、加速度感が強くて、それでいて溜めについても大き目のルバートを効果的に挿入した構図の大きな演奏設計である。著名な4楽章ガヴォットは出色の出来で、悠然と揺蕩う音たちがとても素敵だ。
最後に位置するプーランクだが、現代楽器に中高域はナイロン弦を張っていると思われ、スピード感と質感が両立したニュートラルなもの。この曲は近現代作品だが調性がしっかりしているので広く愛聴される有名曲。直前の硬い質感のバッハとは異なり鷹揚で自由な作品なのだが、ここでデュフロの懐の深さをまざまざと見せつけられる。この人はどんなジャンルでもそれぞれに合わせたスタイルと確固たる自我を持っていて、このプーランクにあっては強い飛翔感を軸に不協和音に対する処理が巧く、従って聴き応えがする。特に最終楽章の表現幅の大きさと技巧の優秀さは括目もの。冒頭、また最終のトウッティで出現する野太いC線の巻弦の揺動、A線のポルタメントで一気に引き込まれてしまう。また伴奏ピアノを弾くマルティン・クレットも非常に巧く、野心的な対話を仕掛けている。
触れ込みでは弦に拘ったアルバムとなっているとのことだが、実際にはそれほど奇を衒った選択をしているとも思われない。
以下、輸入元の販促文:
弦楽器の歴史を紐解く時、人々は往々にして楽器本体に目を向けますが、使われる4本の弦にも多くのストーリーがあります。彼は曲ごとに、使用する弦を変え、その時代の音楽を丁寧に描き出すことを試みたのです。16世紀の音楽と、バッハの音楽の違い、そして現代の作曲家ムンドリーによる「弦」の強い主張、プーランクでは、チェロだけでなくピアノの弦も加わり、異なった響きを醸し出します。呼吸とともに、自然な弦の振動を味わうこと。これも弦楽器を聴くときの楽しみなのかもしれません。 ナクソス・ジャパン
(録音評)
OEHMS OC765、通常CD。録音は2014年6月2-4日 ハノーファー NDR クライナー・ゼントザールとある。エームズ特有の渋くて太い骨格の音の捉え方であり、加えて塗り重ねのコントラストが深く、かつ漆黒の闇のような静謐な空間への音場展開が出色。なんとも大人の調音であり唸らざるをえない素晴らしい出来栄えだ。これが通常のCD-DAメディアとは信じられない。機材のクレジットは例によってないのであくまでも推測域だが、これはPC録音、即ちPyramixによるもので、ADCはちょっと古い時代の、例えばdCSなど用いている感じがするほど太くて実在感のある音だ。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2015-11-13 00:06
| Solo - Vc
|
Trackback
|
Comments(0)