Vivaldi: The Four Seasons Etc@Dmitry Sinkovsky/La Voce Strumentale |
http://tower.jp/item/3830571/
Sinkovsky plays and sings Vivaldi
Vivaldi:
The Four Seasons
Cantata RV684 'Cessate, omai cessate' for alto & strings
Gelido in ogni vena (from Il Farnace, RV711)
Dmitry Sinkovsky (Vn, counter Tenor & cond)
La Voce Strumentale:
Maria Krestinskaya, Elena Davidova, Evgeny Sviridov,
Tatiana Fefyakova, Sergei Tishenko (Va, Vn)
Irene Liebau (Vc)
Grigory Krotenko (Cb)
Alexandra Koretenko, Maria Uspenskaya (Cem)
Margret Köll (Baroque Harp)
Luca Pianca (Arch Lute)
ヴィヴァルディ:
・『四季』より「春」 RV 269
・『四季』より「夏」 RV 315
・去れ、むごい思い出よ
~コントラルト、弦と通奏低音のためのカンタータ RV 684
・『四季』より「秋」 RV 293
・身体中を凍った血液が流れ
~歌劇「ファルナーチェ」第2幕第5 場より
・『四季』より「冬」 RV 297
ドミトリー・シンコフスキ(指揮、ヴァイオリン、カウンターテナー)
ラ・ヴォーチェ・ストゥルメンターレ
ロシアのバロック・ヴァイオリニスト、およびカウンターテナーであるシンコフスキは近年になって欧米やオーストラリアで絶大なプレゼンスを誇っているようだ。米国の国民的メゾ・ソプラノ歌手であるジョイス・ディドナートは大ヒットアルバム「ドラマ・クイーンズ」を擁し、その同名のライトオペラのコンサート・プログラムは世界中で生演奏されている。シンコフスキはそのワールドツアーにおける専属パートナーでありコンサートマスターでもあり、ゆく先々で彼の卓越したテクニックとカリスマ性により聴衆を熱狂の渦に巻き込んでいる。なお、シンコフスキは既にnaïveのVivardi Editionからアルバムを2枚(イル・ポモ・ドーロとのVnコン集)リリースしており、演奏価値も歴史的価値も高いと評価されている。
ラ・ヴォーチェ・ストゥルメンターレは、シンコフスキが設立した17~18世紀のレパートリーに特化したピリオド楽団であり、メンバーの多くは欧州、ロシアから参集している。彼らは欧州では既に著名なバロック・オーケストラであり、ボリショイ劇場、国立フィルハーモニーなどモスクワでも有数のホールで定期演奏枠を持っていて、最近ではオランダ、スペイン、フィンランドでも演奏している。2014年からはnaïveのヴィヴァルディ関係のアルバムにおいてコラボレーションを開始している。
ヴィヴァルディの四季は余りにポピュラーな楽曲で今更感は否めない。しかし、この新しい解釈の四季はnaïveにとっては待望の一大イベントとの位置付けのようだ。技術的および音楽的な選択肢を超越し、シンコフスキはこの録音では器楽と声楽の統合を実現するという意思決定をした。この試みに際し、カンタータ「去れ、むごい思い出よ」とファルナーチェからアリア「身体中を凍った血液が流れ」を採用し、これによりアルバム全体のコンセプトに奇抜な捻りを加えることに成功している。
アルバム構成はちょっと変わっていて、春と夏を通しで前半に置き、中央にカンタータを据え、そして秋、アリア、最後に冬を置くという並びだ。この四季は器楽構成が特に大きい。通奏低音にはテオルボの代わりにモダンサイズの大きなコンバスが起用され、そこにバロックハープ、そして念入りなことにチェンバロが2台もフィーチャーされている。どうりで重低域がぐんと伸びているわけだ。そういった現代調の豊かな低域スペクトラムを土台にして重畳されるのがシンコフスキの呪術的なVnで、これはもうなんとも言えない独創的でエキセントリック、いや、もはや破滅的と表現せざるを得ないくらいの独奏部だ。譜面はあってないようなもので、シンコフスキのインプロヴィゼーションが炸裂し縦横に走り回る。亜流と言えば亜流、よく言えば実にクリエイティヴな四季であり、こんなのは前例がない。
もっと驚くのが途中に挿入されるカンタータとアリア。アルバムタイトル=Sinkovsky plays and sings Vivaldiとある通り、アルト声域を歌うのは男性のシンコフスキだ。カウンターテナーの独唱で鑑賞に堪えられる本格的な歌い手は殆どいないが、シンコフスキのこの声と歌心は別格。変態ちっくなVnを辞めてコントラルト専門家として再スタートを切ったらどうだろうか、と言いたいくらい巧い。あー、びっくりしたw
再現芸術としてのバロック・レパートリーとは言えない四季であり、どちらかというと際物に分類すべきアルバムかもしれない。だが、前衛的なnaïveとしてはこれはこれで「あり」なんだろうし、学際的なヴィヴァルディについてはVivaldi Editionの膨大なライブラリから選択してくれ、というメッセージなのかもしれない。
(録音評)
naïve OP30559、通常CD。録音は2014年1月、Moscow Radio Center、プロデューサー・編集マスタリング:Laure Casenave-Péré、バランスエンジニア:Etienne Grosseinとある。録音システムはPyramix、マイク:Neumann M149、DPA 4011A、Neumann TLM170、Schoeps MK21,MK4、ADCはDAD AX24とMergingのHORUS。
立体的三次元に拡がる広大な音場空間にラ・ヴォーチェ・ストゥルメンターレの面々が精密に定位し、そしてその中央でシンコフスキが自由闊達に演奏また歌唱を繰り広げるという構図は2チャンネル・ステレオフォニック方式の教科書のような効果だ。音色としては多少のブリリアンスを加えたフローラルなもので、それはピリオド楽器が本来持っているフレーバーなのかもしれない。シンコフスキのVnも高域にほんの少しキャラクタを付加していてスピード感が演出されていると見える。HORUSの特質なのかもしれないが中高域にかけてのシズル感が全体の品位を一段嵩上げしている。高域のシズル感に耳が奪われ低域が隠される格好となるが、これがブロードに伸びていてチェンバロやバロック・ハープ、リュートの低音弦は意外なほどの極低音を出していることに気が付く。いずれにせよ、音楽的にはド派手、音質的にも少し華美で超Hi-Fiと、なんとも野心的な一枚である。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫