2015年 08月 05日
Fauré: Requiem@Hervé Niquet/Flemish Radio Choir, Brussels PO. |
昨秋に買ってはいたが書くのを忘れていたEvil Penguinレーベルのリリースで、フォーレのレクイエム。演奏はエルヴェ・ニケ率いるフレミッシュ(フランダース)放送合唱団とブリュッセルPOの団員。

http://tower.jp/item/3682794/
Fauré: Requiem, Op.48
Gounod: Ave verum in E flat major
Les sept paroles du Christ sur la croix
Flemish Radio Choir
Member of Brussels Philharmonic Orchestra, Hervé Niquet(Cond)
フォーレ:レクイエム(1893年稿)
グノー:
・アヴェ・ヴェルム
・十字架上のキリストの最後の7つの言葉
エルヴェ・ニケ(指揮)
ブリュッセル・フィルハーモニックのメンバー
フランダース放送合唱団
ニケのプロフィールについては輸入元の販促テキストを参照のこと。
フォーレのレクイエムは好きな曲だがそれほど多くは聴いていないし所蔵も少ない。なお、この作品についてはフォーレ自身が校訂を重ねて来た関係で複数の原版があって、なおかつ後世の研究家や作家がそれぞれに校訂版を書いている関係から聴くにあたってはちょっと整理が必要。これらについてはWikiなどにも解説があるし世のフォーレ好きな人々のサイトにも詳しく載っているのでここではあまり述べないが、少しだけまとめておく。
まず、フォーレ自身の手になると言われる版には第1稿から第3稿まである。第1稿は1887年から書き始められ1888年に初演を迎える。5曲構成であり、奉献唱とリベラ・メは入っていなかった。器楽編成は混声4部+ソロSop、Va+Vc+Cbによる弦楽3部+ソロVn、Hp、Timp、Orgと小さなもの。初演会場となったマドレーヌ寺院を冠しマドレーヌ稿とも呼ばれる。奉献唱とリベラ・メが入っていないので現代においては演奏機会も録音機会もほぼ皆無であろう。
フォーレは初演後にすぐ第2稿に向けた校訂を始め、奉献唱とリベラ・メを加えた。楽器もHr、Tp、Tb、声楽パートにもソロ・バリトンを足し、ほぼほぼ今の形になったのが1893年頃とされ、そのため第2稿は1893年稿とも呼ばれる。第2稿はちょっと事情が複雑で、これは後述する。
第3稿は1890年に一旦完成。だが楽譜出版会社のアメル社がフォーレに対して一般的なオーケストラ編成への書き直しを要求していたらしく、それが日の目を見るのは随分と経った1900年の初演。その直後にパリ万博でも演奏されて大好評だったことから1900年稿とも呼ばる。曲の構成は第2稿と同じだが器楽編成が大幅に拡張され、ソロSop+ソロBar+混声4部合唱に2管編成+弦楽5部+ソロVnと、ロマン派初期~中期管弦楽とほぼ同等のフルオケ規模となった。
前世紀から現在に至るまで、いわゆる巨匠が手掛けてきた有名な演奏や大手レーベルの名演と呼ばれる録音の殆どはこの1900年稿だ。第3稿については出版社が複数あってスコアの種類も多いが、実際の譜面はフォーレ自身の手によるものではなく彼の弟子であったジャン・ロジェ・デュカスが書いたとの見方が近代の研究によって濃厚になったそうだ。まあ、誰の手によって書かれたものでも優れた曲は優れているのだが。
フルオケ版である第3稿がフォーレの直筆ではないとの見方が広まったためかどうかはわからないが、ここ15年ほどで録られたレクイエムは第2稿を採用する傾向が強い。これもいわゆるピリオド・アプローチの一種と言えようか。だが、この第2稿のフォーレ自筆譜は実は紛失して久しく、これが事情を面倒なものにしている。現在第2稿と呼ばれる版は二つある。一つは音楽研究家であり作曲家でもあるジョン・ラターがマドレーヌ稿のパート譜などを基に校訂したラター版(1984年)、もう一つがフォーレに詳しい音楽研究家ジャン=ミシェル・ネクトゥが指揮者のロジェ・ドラージュと一緒に校訂したネクトゥ/ドラージュ版(1988年)である。なお曲自体の造作について、ラター版は第3稿に近いとされているようだが私には違いはよくわからない。いずれにせよフォーレ自身が全てを書いた譜面でないのは事実。
この録音のレクイエムはジョン・ラター校訂稿によるもの。因みに、昨今で印象に残っている録音を挙げておくと、アクセントゥスはネクトゥ/ドラージュ版、コルボ/ローザンヌもネクトゥ/ドラージュ版、ナイジェル・ショート/LSOはジョン・ラター版での演奏であり、いずれも第2稿ということになる。
エルヴェ・ニケは独自解釈により、このレクイエムを最小の器楽編成で演奏している。2プルトのVa+VcにCb×2による弦楽3部+ソロVn、Hr×4、Hp、Timp、Org、そして各6の混声四部合唱で、特筆すべきはSop、Barともにソリストを立てておらず、ピエ・イエズはSop合唱のシンプル・ユニゾンで歌われるというもの。なお奉納唱、リベラ・メにおいてはTenかBasのうちの一人がBar独唱を兼務しているようだ。
解釈はちょっと変わっていて、リズム進行が少し速めで規律正しく淡々と進む。アゴーギク、つまり時間軸方向の偏移を殆ど利用せず、強弱方向の出し入れ、つまりデュナーミクを中心とした情感表出を主として使っている。そういった点では、時間軸制御を巧妙に使って揺蕩うような歌を聴かせる他のレクイエム解釈とは全く異なるアプローチということ。冒頭の入祭唱とキリエではそれほどの違和感はないのだが、奉納唱に入ると時間軸の揺らぎが全くなくあまりに淡々と速足で流していくのでちょっと驚く。ここは前半の山場で、情感豊かに抒情的に歌い込むべきという固定観念が刷り込まれているせいかも知れないが。
ピエ・イエズに関しては前述の通りソロを立てておらずSop全員によるユニゾンで歌われるのが特異なところ。この作品を聴く上での大きな楽しみと、そして演奏どうしを比較するうえでの重要なキーポイントとなるのがこのピエ・イエズのソプラノ独唱。ここの良し悪しが全体の出来を左右するといっても過言ではないのだが、この録音に関してはその楽しみはないし、一般的な比較はしようがない。しかし、何度も聴いているうちにユニゾンも悪くはないと思えてくるところが不思議。次のアニュス・デイは、ニケの演奏設計、及びこのフレミッシュ・ラジオ・コーラスの特徴が最も出たパートと思われる。特に中間部のルクス・エテルナのモチーフ以降、時間的な緩急によらず、ちょっと強調気味のクレッシェンドとデクレッシェンド(ディミヌエンド)を多用し実にヴァイタルなイメージを現出させている。ブリュッセルPOメンバーによるバック・アンサンブルは精緻にして少しソリッド、透徹された弦のソノリティが抜群。小節頭の出だしが完璧に揃っていて非常に清冽な印象だ。
後半に入るグノーの作品は初めて聞いた。グノーはアヴェ・マリアで有名だがこんな歌曲を書いていたとは不勉強だった。この作品はちょっと不思議なハイブリッド系のアカペラ曲で、雰囲気的には中世よりかはルネサンス期~バロック初期の声楽作品の風情が感じられる。例えるのは難しいが、シンプルなホモフォニーやモノフォニーで歌われる箇所は、英国ルネサンスのトマス・タリスやウィリアム・バードのモテット/ミサ、ダウランドの小品集、あるいはもうちょっと新しいところではクープランやド・ララントのルソン・ド・テネブレに近い和声とテキストの歌わせ方だ。また、多声部についてはジョスカン・デ・プレのモテトゥス集に雰囲気が似たところがある。但し上下の旋律分担は対位法とは言い難い中途半端なもの。最も似ているのは、この曲集の冒頭のシベリウスで、冷涼感と寂寥感がなんとも言えない。
エルヴェ・ニケはフェルミッシュ・コーラスを率いてレクイエムのチクルスを開始するそうで、その第1弾がこのアルバム。この後はブラームス、モーツァルト、デザンクロらの作品を録音していくそうだ。今回のフォーレが出色の出来だったので、再びユニークな解釈と出来栄えが期待されるところだ。
(録音評)
Evil Penguin EPRC015、通常CD。録音は、フォーレが2014年4月10-12日、Fragey, Brussels, Belgium、グノーが2013年6月18-21日、Hollands College, Leuven, Belgiumとある。録音機材:マイク=Neumann M150, DPA 4006, BBC Coles 4038, Schoeps MK2H、プリアンプ=Gracedesign M802、88.2kHz 24bit録音。録音・ミキシング・マスタリング担当は Steven Maes for Serendipitous Classicalと記されている。Serendipitous Classicalはクラシック音楽専門のレコーディング・ファームだ。音質は異次元と言っておこう。このごろは素晴らしいCD-DAが多いなか、こんなにも空間感をじょうずに表現したCD-DAは初めてという気がする。
フォーレの方はブリュッセルの街中のFrageyという宮殿様式の複合施設内にあるStudio 4と呼ばれる大型ホールのステージ上で録られており、いわゆる客を入れないライブ形式。透き通った空間にアンビエンスが充満し、なんとも言えない美しい立体音場が展開されている。狙い方としては割とオンマイクだが被るとか逆相定位するなどの不自然な感じはない。一方のグノーはカトリックの教会礼拝堂での録音で、こちらの方は更に透徹された超高音質。かなりのオフマイクかつローレベル設定だが声のビームが一切希釈されることなく素のまま録られている。アカペラ隊の背後には広大で澄明な空間が広がっているのが目に見えるほど透過性の高い録音。Evil Penguinとは変な名前のレーベルで、直訳すれば邪悪人鳥。ま、邪悪は言い過ぎなので意地悪ペンギンとでも言っておこう。ふざけた名前のレーベルだが録音技法と品質は超一級品。
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http://tower.jp/item/3682794/
Fauré: Requiem, Op.48
Gounod: Ave verum in E flat major
Les sept paroles du Christ sur la croix
Flemish Radio Choir
Member of Brussels Philharmonic Orchestra, Hervé Niquet(Cond)
フォーレ:レクイエム(1893年稿)
グノー:
・アヴェ・ヴェルム
・十字架上のキリストの最後の7つの言葉
エルヴェ・ニケ(指揮)
ブリュッセル・フィルハーモニックのメンバー
フランダース放送合唱団
ニケのプロフィールについては輸入元の販促テキストを参照のこと。
エルヴェ・ニケ(指揮)~プロフィール
フランス生まれ。ピアノ、オルガン、合唱指揮を学び、16歳から古楽を研究。17歳で指揮法をピエール・カオに師事、1980年パリ・オペラ座の合唱指揮者に就任。1985年にはモンテカルロ・バレエの開幕に際し、モナコ王女からバレエ作品を委嘱される等、作曲家としても活躍。1987年ルイ王朝時代の有名な演奏協会にちなんだオーケストラ「ル・コンセール・スピリテュエル」を創設。当時のレパートリーを現代に蘇らせた彼らは、世界の主要ホール、音楽祭に招聘されて高い評価を獲得し、日本公演でも大きな話題となりました。チェンバロ、オルガンの名手でもあり、多種多彩な録音を発表、世界中で、指揮者、器楽奏者として演奏会を開催しています。2009年、フランスのロマン派音楽センター(ヴェニスのパラッツェット・ブル・ザーネ)設立に携わり、これがきっかけでフランダース放送合唱団およびブリュッセル・フィルとの関係が始まりました。2011年よりフランダース放送合唱団の首席指揮者を務めています。このフォーレを皮切りに、EVIL PENGUIN RECORDSから、ブラームスやデザンクロらのレクイエムやミサ曲など、5枚の発売される予定となっています。(キングインターナショナル)
フランス生まれ。ピアノ、オルガン、合唱指揮を学び、16歳から古楽を研究。17歳で指揮法をピエール・カオに師事、1980年パリ・オペラ座の合唱指揮者に就任。1985年にはモンテカルロ・バレエの開幕に際し、モナコ王女からバレエ作品を委嘱される等、作曲家としても活躍。1987年ルイ王朝時代の有名な演奏協会にちなんだオーケストラ「ル・コンセール・スピリテュエル」を創設。当時のレパートリーを現代に蘇らせた彼らは、世界の主要ホール、音楽祭に招聘されて高い評価を獲得し、日本公演でも大きな話題となりました。チェンバロ、オルガンの名手でもあり、多種多彩な録音を発表、世界中で、指揮者、器楽奏者として演奏会を開催しています。2009年、フランスのロマン派音楽センター(ヴェニスのパラッツェット・ブル・ザーネ)設立に携わり、これがきっかけでフランダース放送合唱団およびブリュッセル・フィルとの関係が始まりました。2011年よりフランダース放送合唱団の首席指揮者を務めています。このフォーレを皮切りに、EVIL PENGUIN RECORDSから、ブラームスやデザンクロらのレクイエムやミサ曲など、5枚の発売される予定となっています。(キングインターナショナル)
フォーレのレクイエムは好きな曲だがそれほど多くは聴いていないし所蔵も少ない。なお、この作品についてはフォーレ自身が校訂を重ねて来た関係で複数の原版があって、なおかつ後世の研究家や作家がそれぞれに校訂版を書いている関係から聴くにあたってはちょっと整理が必要。これらについてはWikiなどにも解説があるし世のフォーレ好きな人々のサイトにも詳しく載っているのでここではあまり述べないが、少しだけまとめておく。
まず、フォーレ自身の手になると言われる版には第1稿から第3稿まである。第1稿は1887年から書き始められ1888年に初演を迎える。5曲構成であり、奉献唱とリベラ・メは入っていなかった。器楽編成は混声4部+ソロSop、Va+Vc+Cbによる弦楽3部+ソロVn、Hp、Timp、Orgと小さなもの。初演会場となったマドレーヌ寺院を冠しマドレーヌ稿とも呼ばれる。奉献唱とリベラ・メが入っていないので現代においては演奏機会も録音機会もほぼ皆無であろう。
フォーレは初演後にすぐ第2稿に向けた校訂を始め、奉献唱とリベラ・メを加えた。楽器もHr、Tp、Tb、声楽パートにもソロ・バリトンを足し、ほぼほぼ今の形になったのが1893年頃とされ、そのため第2稿は1893年稿とも呼ばれる。第2稿はちょっと事情が複雑で、これは後述する。
第3稿は1890年に一旦完成。だが楽譜出版会社のアメル社がフォーレに対して一般的なオーケストラ編成への書き直しを要求していたらしく、それが日の目を見るのは随分と経った1900年の初演。その直後にパリ万博でも演奏されて大好評だったことから1900年稿とも呼ばる。曲の構成は第2稿と同じだが器楽編成が大幅に拡張され、ソロSop+ソロBar+混声4部合唱に2管編成+弦楽5部+ソロVnと、ロマン派初期~中期管弦楽とほぼ同等のフルオケ規模となった。
前世紀から現在に至るまで、いわゆる巨匠が手掛けてきた有名な演奏や大手レーベルの名演と呼ばれる録音の殆どはこの1900年稿だ。第3稿については出版社が複数あってスコアの種類も多いが、実際の譜面はフォーレ自身の手によるものではなく彼の弟子であったジャン・ロジェ・デュカスが書いたとの見方が近代の研究によって濃厚になったそうだ。まあ、誰の手によって書かれたものでも優れた曲は優れているのだが。
フルオケ版である第3稿がフォーレの直筆ではないとの見方が広まったためかどうかはわからないが、ここ15年ほどで録られたレクイエムは第2稿を採用する傾向が強い。これもいわゆるピリオド・アプローチの一種と言えようか。だが、この第2稿のフォーレ自筆譜は実は紛失して久しく、これが事情を面倒なものにしている。現在第2稿と呼ばれる版は二つある。一つは音楽研究家であり作曲家でもあるジョン・ラターがマドレーヌ稿のパート譜などを基に校訂したラター版(1984年)、もう一つがフォーレに詳しい音楽研究家ジャン=ミシェル・ネクトゥが指揮者のロジェ・ドラージュと一緒に校訂したネクトゥ/ドラージュ版(1988年)である。なお曲自体の造作について、ラター版は第3稿に近いとされているようだが私には違いはよくわからない。いずれにせよフォーレ自身が全てを書いた譜面でないのは事実。
この録音のレクイエムはジョン・ラター校訂稿によるもの。因みに、昨今で印象に残っている録音を挙げておくと、アクセントゥスはネクトゥ/ドラージュ版、コルボ/ローザンヌもネクトゥ/ドラージュ版、ナイジェル・ショート/LSOはジョン・ラター版での演奏であり、いずれも第2稿ということになる。
エルヴェ・ニケは独自解釈により、このレクイエムを最小の器楽編成で演奏している。2プルトのVa+VcにCb×2による弦楽3部+ソロVn、Hr×4、Hp、Timp、Org、そして各6の混声四部合唱で、特筆すべきはSop、Barともにソリストを立てておらず、ピエ・イエズはSop合唱のシンプル・ユニゾンで歌われるというもの。なお奉納唱、リベラ・メにおいてはTenかBasのうちの一人がBar独唱を兼務しているようだ。
解釈はちょっと変わっていて、リズム進行が少し速めで規律正しく淡々と進む。アゴーギク、つまり時間軸方向の偏移を殆ど利用せず、強弱方向の出し入れ、つまりデュナーミクを中心とした情感表出を主として使っている。そういった点では、時間軸制御を巧妙に使って揺蕩うような歌を聴かせる他のレクイエム解釈とは全く異なるアプローチということ。冒頭の入祭唱とキリエではそれほどの違和感はないのだが、奉納唱に入ると時間軸の揺らぎが全くなくあまりに淡々と速足で流していくのでちょっと驚く。ここは前半の山場で、情感豊かに抒情的に歌い込むべきという固定観念が刷り込まれているせいかも知れないが。
ピエ・イエズに関しては前述の通りソロを立てておらずSop全員によるユニゾンで歌われるのが特異なところ。この作品を聴く上での大きな楽しみと、そして演奏どうしを比較するうえでの重要なキーポイントとなるのがこのピエ・イエズのソプラノ独唱。ここの良し悪しが全体の出来を左右するといっても過言ではないのだが、この録音に関してはその楽しみはないし、一般的な比較はしようがない。しかし、何度も聴いているうちにユニゾンも悪くはないと思えてくるところが不思議。次のアニュス・デイは、ニケの演奏設計、及びこのフレミッシュ・ラジオ・コーラスの特徴が最も出たパートと思われる。特に中間部のルクス・エテルナのモチーフ以降、時間的な緩急によらず、ちょっと強調気味のクレッシェンドとデクレッシェンド(ディミヌエンド)を多用し実にヴァイタルなイメージを現出させている。ブリュッセルPOメンバーによるバック・アンサンブルは精緻にして少しソリッド、透徹された弦のソノリティが抜群。小節頭の出だしが完璧に揃っていて非常に清冽な印象だ。
後半に入るグノーの作品は初めて聞いた。グノーはアヴェ・マリアで有名だがこんな歌曲を書いていたとは不勉強だった。この作品はちょっと不思議なハイブリッド系のアカペラ曲で、雰囲気的には中世よりかはルネサンス期~バロック初期の声楽作品の風情が感じられる。例えるのは難しいが、シンプルなホモフォニーやモノフォニーで歌われる箇所は、英国ルネサンスのトマス・タリスやウィリアム・バードのモテット/ミサ、ダウランドの小品集、あるいはもうちょっと新しいところではクープランやド・ララントのルソン・ド・テネブレに近い和声とテキストの歌わせ方だ。また、多声部についてはジョスカン・デ・プレのモテトゥス集に雰囲気が似たところがある。但し上下の旋律分担は対位法とは言い難い中途半端なもの。最も似ているのは、この曲集の冒頭のシベリウスで、冷涼感と寂寥感がなんとも言えない。
エルヴェ・ニケはフェルミッシュ・コーラスを率いてレクイエムのチクルスを開始するそうで、その第1弾がこのアルバム。この後はブラームス、モーツァルト、デザンクロらの作品を録音していくそうだ。今回のフォーレが出色の出来だったので、再びユニークな解釈と出来栄えが期待されるところだ。
(録音評)
Evil Penguin EPRC015、通常CD。録音は、フォーレが2014年4月10-12日、Fragey, Brussels, Belgium、グノーが2013年6月18-21日、Hollands College, Leuven, Belgiumとある。録音機材:マイク=Neumann M150, DPA 4006, BBC Coles 4038, Schoeps MK2H、プリアンプ=Gracedesign M802、88.2kHz 24bit録音。録音・ミキシング・マスタリング担当は Steven Maes for Serendipitous Classicalと記されている。Serendipitous Classicalはクラシック音楽専門のレコーディング・ファームだ。音質は異次元と言っておこう。このごろは素晴らしいCD-DAが多いなか、こんなにも空間感をじょうずに表現したCD-DAは初めてという気がする。
フォーレの方はブリュッセルの街中のFrageyという宮殿様式の複合施設内にあるStudio 4と呼ばれる大型ホールのステージ上で録られており、いわゆる客を入れないライブ形式。透き通った空間にアンビエンスが充満し、なんとも言えない美しい立体音場が展開されている。狙い方としては割とオンマイクだが被るとか逆相定位するなどの不自然な感じはない。一方のグノーはカトリックの教会礼拝堂での録音で、こちらの方は更に透徹された超高音質。かなりのオフマイクかつローレベル設定だが声のビームが一切希釈されることなく素のまま録られている。アカペラ隊の背後には広大で澄明な空間が広がっているのが目に見えるほど透過性の高い録音。Evil Penguinとは変な名前のレーベルで、直訳すれば邪悪人鳥。ま、邪悪は言い過ぎなので意地悪ペンギンとでも言っておこう。ふざけた名前のレーベルだが録音技法と品質は超一級品。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2015-08-05 23:50
| Vocal
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