2015年 07月 01日
Tchaikovsky: Vn-Con@Philippe Quint, Martin Panteleev/Sofia PO. |
前回に引き続き、avanti classicの昨年のリリースから、若きヴィルトゥオーゾ=フィリップ・クイントが弾くチャイコンとアレンスキー。

http://tower.jp/item/3670056/
Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, Op.35
1.Allegro moderato
2.Canzonetta. Andante
3.Finale. Allegro vivacissimo
4.Finale. Allegro vivacissimo(Leopold Auer Version)
Arensky: String Quartet No.2 in A minor, Op.35
5. Moderato
6. Variations sur un theme de P. Tchaikovski. Moderato
7. Finale. Andante sostenuto
Philippe Quint (Vn)
Sofia Philharmonic Orchestra, Martin Panteleev
Arensky Quartet
Philippe Quint(Vn), Lily Francis(Va),
Claudio Bohórquez(Vc), Nicolas Altstaedt(Vc)
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
1. アレグロ・モデラート(カデンツァ:チャイコフスキー)
2. カンツォネッタ。アンダンテ
3. フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァチッシモ(チャイコフスキー原典版)
4. フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァチッシモ(レオポルト・アウアー版)
アレンスキー(1861-1906):弦楽四重奏曲第2番 イ短調 op.35
5. モデラート
6. チャイコフスキーの主題による変奏曲- モデラート
7. フィナーレ- アンダンテ・ソステヌート
フィリップ・クイント(Vn)
マルティン・パンテレーエフ(指揮)、ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団
リリー・フランシス(Va)
クラウディオ・ボルケス(Vc1) ニコラ・アルトシュテット(Vc2)
フィリップ・クイントは日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、欧米では割と有名。彼は1974年、ロシア生まれのアメリカ人Vnソリスト。飛び級でモスクワ音楽院に入り、伝説のヴァイオリニスト=アンドレイ・コルサコフに師事。余談だがアンドレイ・コルサコフは作曲家リムスキー=コルサコフとは遠縁関係だそうだ。A.コルサコフは1991年に45歳という若さで急逝。もし生きていたら間違いなく巨匠になっただろうと言われた逸材。
そのA.コルサコフに学んだあとは渡米しいきなりジュリアードに入る。そこでドロシー・ディレイ、チョーリャン・リン、川崎雅夫らに師事、イツァーク・パールマンやアーノルド・スタインハート(グァルネリSQ)にも学んだ。2001年に発売したデビューCD がグラミー賞にノミネートされ一躍注目を集める。2010年よりストラディヴァリウス協会より貸与された「ルビー」を使用。現在はアメリカを中心に演奏活動を行っておりシカゴ響との長きにわたる共演、ベルリンフィルなど欧州著名オーケストラの定演にも度々登場するなどプレゼンスは日に日に高まっている。
チャイコンの成り立ちに関しては今更ながら特段の解説はしない。演奏としてはいかにもヴィルトゥオーゾという感じの堂々としたものだが独奏旋律に関しては靭性が強いくせに肩肘張ったところがないナチュラル傾向。では、盛り上がりに欠けるのかというとそんなことはなく、たぶん演奏設計が俯瞰的に構築されていてエモーションの絶妙な出し入れが効いているためかダイナミックかつドラマティックでもある。特に第一楽章でのオケとの絡みはなかなか聴き応えする。このソフィア・フィルだが、さすがに旧ソ連の衛星国家だけあってスラヴィックな民族臭をネーティブに発する楽団。いや、マルティン・パンテレーエフの指揮がかなり扇動的でそう感じさせるのかもしれないが。
終楽章が2回収録されているという珍しいパターン。最初はチャイコフスキーの原曲そのものの原典版、次がレオポルト・アウアー版で、原典版より40秒ほど短い。フィルアップの時間が10分ほど余ったので仕方なくアウアー版を埋め草にしたという事情かもしれないが。アウアーはチャイコフスキーが敬愛していたVn奏者にして音楽教職者であり、最初にチャイコンを献呈したが試奏してあまりにも難しかったので演奏不能の曲と貶しまくった挙句、初演も献呈も拒否するという暴挙に出たことで有名。実際のところはそうではなかったという説が昨今有力だが。
その後、一気に人気が高まってきたチャイコンにアウアーが徐々に擦り寄っていき自身もちゃっかり演奏するようになったという。要は、その中で難しいところを端折ったと言われているのがアウアー版の第三楽章。しかし、原典版のスコアを追いながら切り詰められた箇所を確認すると、それは速くて難しいパッセージではなくて、ダルなリフレインをカットしたり、低域弦でローテンションに弾かれる辺りを3度ないし5度高くシフトして派手気味に演出しているものとわかる。何気なく両者を聴き比べても違いはあまり分からないと思う。真剣に聴けば違いは明白で、アウアー版の端折り方は不自然に感じる。調べてみたが手持ちのCDでアウアー版で弾いているのは巨匠時代のハイフェッツ、ミルシテイン、スターンなどで、昔は一般的にはアウアー版が好まれたらしい。しかし、CD時代に録音されたものは例外なく原典版だ(調べ漏れはあるかもしれないが)。
フィリップ・クイントの弾く三楽章は疾駆感が強くて楽しめる演奏。原典版もアウアー版も曲想そのものは同じでありどちらも良い出来栄え。敢えて言うと、原典版はいぶし銀的にゆったり、アウアー版はきらきらとした光沢が乗ってタイト、どっちも捨てがたい。但し、敢えて両方を並べる意義は今一つ希薄な気がするが。
アレンスキーは殆ど聴いたことのない作家。これまでだとルガノのライヴ盤でシュヴァルツベルクが第一Vnを弾いた五重奏曲Op.51くらいか。弦楽四重奏とは通常なら2挺のVn、1挺のVaおよびVcという編成だが、この盤の後半に入る弦楽四重奏曲第2番はちょっと変わっていて、VnとVaが1挺ずつ、そしてVcが2挺という変則だ。アレンスキーという作家はあまり詳しくもないし今の時点でスタディしていないので良く知らずに聴いているのだが、どうやら、旧ロシア時代にリムスキー=コルサコフに師事した人物とのこと。
そして彼は44歳で夭逝する。その後に円熟して確立したであろう自らの作風を世に問うことなく悲劇的な最期を迎えるという作家だった。その後年はチャイコフスキーの作風に傾倒し、そういったインスパイアドを多く書いたらしいが、この四重奏曲もその一つらしいのだ。特段に美しい旋律が現れるわけではなく、そして目が覚めるような鮮やかな和声があるわけではない。だが、哀愁に満ちた深々とした独特の揺蕩う世界がそこにはあって、単にチャイコフスキーへのオマージュとしてだけでは片付けられない音世界がここにある。
以下、輸入元の販促テキストによれば、この作品はチャイコフスキーが没した直後に書き始められたそうで、2楽章には「チャイコフスキーの主題による変奏曲」との副題がダイレクトに付されている。第1主題は歌曲「16の子供のための歌」Op.54「伝説(聖史曲)」とのことで、チャイコフスキー自身もこの楽章を大規模向けに編曲、アレンスキーもここを弦楽オーケストラ向けに編曲しているという具合に、それぞれが拘りがあったメロディーだったようだ。この楽章が特段に感銘的かと問われれば個人的には否という答えになるが、しかし、切々と迫り来るアーティキュレーションがなんとも言えず微妙で心が揺らぐのである。
四重奏のメンバーは相当のキャリアだ。リリー・フランシス=ボルレッティ・ブイトーニ優勝(Va)、クラウディオ・ボルケス=パブロ・カザルス・コンクール優勝(Vc1)、ニコラ・アルトシュテット=BBCニュー・ジェネレーション・アーティスト(Vc2)という布陣。
総論としてはかなり楽しめるアルバムだ。チャイコンでは久々にヴィルトゥオージティを堪能したが、個人的には後半のアレンスキーのクァルテットが非常に面白くて何度も聴き返している最中なのだ。とにかくクイントという人は旨くて唸らせてくれる逸材。そうそう若くはないだろうが今後の活躍は確実と直感したのであった。
(録音評)
avanti classic 5414706-10432、SACDハイブリッド。録音:チャイコフスキー:2013年1月14‐17日/ブルガリア・ホール(ソフィア)、アレンスキー:2013年9月4-5日/シーメンスヴィラ(ベルリン) とある。前半のチャイコンと後半のアレンスキーではベニューも違うし編成もまるで異なることから音質と造作は全然違う。チャイコンだが、小編成作品が殆どのavantiとしてはかなりチャレンジングな内容で、冷たく分析的でナーバスな質感ながら音場が左右前後に広く深く展開し、このオケとソロVnを俯瞰的に捉えている。出来栄えとしてはかなり良い方で、こういったワンポイント的な録り方をしつつも美味で豊潤な要素を曖昧模糊とせずに分離させて収めているところがavantiらしい。後半のアレンスキーは、これはお得意の室内楽小編成であり、過去作品よりも更に抉り出された高解像度が堪らない一品となっている。後半に関してはオーディオ・ファンのかたがたにはリファレンスとして特にお勧めしたい録音となっていて、定位の悪いシステムではおそらく撃沈、かなり厳しいソースである。
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http://tower.jp/item/3670056/
Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, Op.35
1.Allegro moderato
2.Canzonetta. Andante
3.Finale. Allegro vivacissimo
4.Finale. Allegro vivacissimo(Leopold Auer Version)
Arensky: String Quartet No.2 in A minor, Op.35
5. Moderato
6. Variations sur un theme de P. Tchaikovski. Moderato
7. Finale. Andante sostenuto
Philippe Quint (Vn)
Sofia Philharmonic Orchestra, Martin Panteleev
Arensky Quartet
Philippe Quint(Vn), Lily Francis(Va),
Claudio Bohórquez(Vc), Nicolas Altstaedt(Vc)
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
1. アレグロ・モデラート(カデンツァ:チャイコフスキー)
2. カンツォネッタ。アンダンテ
3. フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァチッシモ(チャイコフスキー原典版)
4. フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァチッシモ(レオポルト・アウアー版)
アレンスキー(1861-1906):弦楽四重奏曲第2番 イ短調 op.35
5. モデラート
6. チャイコフスキーの主題による変奏曲- モデラート
7. フィナーレ- アンダンテ・ソステヌート
フィリップ・クイント(Vn)
マルティン・パンテレーエフ(指揮)、ソフィア・フィルハーモニー管弦楽団
リリー・フランシス(Va)
クラウディオ・ボルケス(Vc1) ニコラ・アルトシュテット(Vc2)
フィリップ・クイントは日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、欧米では割と有名。彼は1974年、ロシア生まれのアメリカ人Vnソリスト。飛び級でモスクワ音楽院に入り、伝説のヴァイオリニスト=アンドレイ・コルサコフに師事。余談だがアンドレイ・コルサコフは作曲家リムスキー=コルサコフとは遠縁関係だそうだ。A.コルサコフは1991年に45歳という若さで急逝。もし生きていたら間違いなく巨匠になっただろうと言われた逸材。
そのA.コルサコフに学んだあとは渡米しいきなりジュリアードに入る。そこでドロシー・ディレイ、チョーリャン・リン、川崎雅夫らに師事、イツァーク・パールマンやアーノルド・スタインハート(グァルネリSQ)にも学んだ。2001年に発売したデビューCD がグラミー賞にノミネートされ一躍注目を集める。2010年よりストラディヴァリウス協会より貸与された「ルビー」を使用。現在はアメリカを中心に演奏活動を行っておりシカゴ響との長きにわたる共演、ベルリンフィルなど欧州著名オーケストラの定演にも度々登場するなどプレゼンスは日に日に高まっている。
チャイコンの成り立ちに関しては今更ながら特段の解説はしない。演奏としてはいかにもヴィルトゥオーゾという感じの堂々としたものだが独奏旋律に関しては靭性が強いくせに肩肘張ったところがないナチュラル傾向。では、盛り上がりに欠けるのかというとそんなことはなく、たぶん演奏設計が俯瞰的に構築されていてエモーションの絶妙な出し入れが効いているためかダイナミックかつドラマティックでもある。特に第一楽章でのオケとの絡みはなかなか聴き応えする。このソフィア・フィルだが、さすがに旧ソ連の衛星国家だけあってスラヴィックな民族臭をネーティブに発する楽団。いや、マルティン・パンテレーエフの指揮がかなり扇動的でそう感じさせるのかもしれないが。
終楽章が2回収録されているという珍しいパターン。最初はチャイコフスキーの原曲そのものの原典版、次がレオポルト・アウアー版で、原典版より40秒ほど短い。フィルアップの時間が10分ほど余ったので仕方なくアウアー版を埋め草にしたという事情かもしれないが。アウアーはチャイコフスキーが敬愛していたVn奏者にして音楽教職者であり、最初にチャイコンを献呈したが試奏してあまりにも難しかったので演奏不能の曲と貶しまくった挙句、初演も献呈も拒否するという暴挙に出たことで有名。実際のところはそうではなかったという説が昨今有力だが。
その後、一気に人気が高まってきたチャイコンにアウアーが徐々に擦り寄っていき自身もちゃっかり演奏するようになったという。要は、その中で難しいところを端折ったと言われているのがアウアー版の第三楽章。しかし、原典版のスコアを追いながら切り詰められた箇所を確認すると、それは速くて難しいパッセージではなくて、ダルなリフレインをカットしたり、低域弦でローテンションに弾かれる辺りを3度ないし5度高くシフトして派手気味に演出しているものとわかる。何気なく両者を聴き比べても違いはあまり分からないと思う。真剣に聴けば違いは明白で、アウアー版の端折り方は不自然に感じる。調べてみたが手持ちのCDでアウアー版で弾いているのは巨匠時代のハイフェッツ、ミルシテイン、スターンなどで、昔は一般的にはアウアー版が好まれたらしい。しかし、CD時代に録音されたものは例外なく原典版だ(調べ漏れはあるかもしれないが)。
フィリップ・クイントの弾く三楽章は疾駆感が強くて楽しめる演奏。原典版もアウアー版も曲想そのものは同じでありどちらも良い出来栄え。敢えて言うと、原典版はいぶし銀的にゆったり、アウアー版はきらきらとした光沢が乗ってタイト、どっちも捨てがたい。但し、敢えて両方を並べる意義は今一つ希薄な気がするが。
アレンスキーは殆ど聴いたことのない作家。これまでだとルガノのライヴ盤でシュヴァルツベルクが第一Vnを弾いた五重奏曲Op.51くらいか。弦楽四重奏とは通常なら2挺のVn、1挺のVaおよびVcという編成だが、この盤の後半に入る弦楽四重奏曲第2番はちょっと変わっていて、VnとVaが1挺ずつ、そしてVcが2挺という変則だ。アレンスキーという作家はあまり詳しくもないし今の時点でスタディしていないので良く知らずに聴いているのだが、どうやら、旧ロシア時代にリムスキー=コルサコフに師事した人物とのこと。
そして彼は44歳で夭逝する。その後に円熟して確立したであろう自らの作風を世に問うことなく悲劇的な最期を迎えるという作家だった。その後年はチャイコフスキーの作風に傾倒し、そういったインスパイアドを多く書いたらしいが、この四重奏曲もその一つらしいのだ。特段に美しい旋律が現れるわけではなく、そして目が覚めるような鮮やかな和声があるわけではない。だが、哀愁に満ちた深々とした独特の揺蕩う世界がそこにはあって、単にチャイコフスキーへのオマージュとしてだけでは片付けられない音世界がここにある。
以下、輸入元の販促テキストによれば、この作品はチャイコフスキーが没した直後に書き始められたそうで、2楽章には「チャイコフスキーの主題による変奏曲」との副題がダイレクトに付されている。第1主題は歌曲「16の子供のための歌」Op.54「伝説(聖史曲)」とのことで、チャイコフスキー自身もこの楽章を大規模向けに編曲、アレンスキーもここを弦楽オーケストラ向けに編曲しているという具合に、それぞれが拘りがあったメロディーだったようだ。この楽章が特段に感銘的かと問われれば個人的には否という答えになるが、しかし、切々と迫り来るアーティキュレーションがなんとも言えず微妙で心が揺らぐのである。
四重奏のメンバーは相当のキャリアだ。リリー・フランシス=ボルレッティ・ブイトーニ優勝(Va)、クラウディオ・ボルケス=パブロ・カザルス・コンクール優勝(Vc1)、ニコラ・アルトシュテット=BBCニュー・ジェネレーション・アーティスト(Vc2)という布陣。
総論としてはかなり楽しめるアルバムだ。チャイコンでは久々にヴィルトゥオージティを堪能したが、個人的には後半のアレンスキーのクァルテットが非常に面白くて何度も聴き返している最中なのだ。とにかくクイントという人は旨くて唸らせてくれる逸材。そうそう若くはないだろうが今後の活躍は確実と直感したのであった。
(録音評)
avanti classic 5414706-10432、SACDハイブリッド。録音:チャイコフスキー:2013年1月14‐17日/ブルガリア・ホール(ソフィア)、アレンスキー:2013年9月4-5日/シーメンスヴィラ(ベルリン) とある。前半のチャイコンと後半のアレンスキーではベニューも違うし編成もまるで異なることから音質と造作は全然違う。チャイコンだが、小編成作品が殆どのavantiとしてはかなりチャレンジングな内容で、冷たく分析的でナーバスな質感ながら音場が左右前後に広く深く展開し、このオケとソロVnを俯瞰的に捉えている。出来栄えとしてはかなり良い方で、こういったワンポイント的な録り方をしつつも美味で豊潤な要素を曖昧模糊とせずに分離させて収めているところがavantiらしい。後半のアレンスキーは、これはお得意の室内楽小編成であり、過去作品よりも更に抉り出された高解像度が堪らない一品となっている。後半に関してはオーディオ・ファンのかたがたにはリファレンスとして特にお勧めしたい録音となっていて、定位の悪いシステムではおそらく撃沈、かなり厳しいソースである。
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by primex64
| 2015-07-01 00:12
| Concerto - Vn
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