2015年 06月 12日
Mussorgsky: Pictures at an exhibition@Irina Mejoueva |
若林工房の少し前のリリースで、メジューエワが弾く展覧会の絵、およびラフのプレリュード抜粋から。


http://tower.jp/item/3750667/
Mussorgsky: Pictures at an Exhibition
1.Promenade
2.Gnomus
3.Promenade
4.The Old Castle
5.Promenade
6.Tuileries
7.Bydlo(The Oxen)
8.Promenade
9.Ballet of the Unhatched Chicks
10.Samuel Goldberg and Schmuyle
11.Promenade
12.The Marketplace at Limoges
13.The Catacombs
14.Cum Mortuis in Lingua Mortua
15.Baba Yaga
16.The Great Gate of Kiev
Rachmaninoff:
Fragments in A flat major, posth
Prelude in D minor, posth
Prelude Op.23 No.7, in C minor
Prelude Op.32 No.10, in B minor
Prelude Op.32 No.5, in G minor
Prelude Op.32 No.12, in G-sharp minor
Prelude Op.32 No.13, in D-flat major
Irina Mejoueva(Pf)
ムソルグスキー: 組曲 展覧会の絵
ラフマニノフ:
断片 変イ長調(1917)
プレリュード ニ短調(遺作)
プレリュード ハ短調 作品23の7
プレリュード ロ短調 作品32の10
プレリュード ト長調 作品32の5
プレリュード 嬰ト短調 作品32の12
プレリュード 変ニ長調 作品32の13
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
メジューエワはロシア出身なのでムソルグスキー、とりわけ展覧会の絵は得意中の得意であろうとのスペキュレーションは容易に成り立つ。彼女は展覧会の絵に関しては今までライブ演奏の模様を2回出しているそうだ。けれども腰を落ち着けたセッション録音は一枚も出していなかったので、この盤が展覧会の絵の初の正式録音となるようだ。
そのライブ盤は今まで一度も聴いたことがないので私にとってもメジューエワのこの展覧会の絵は初めて聴く演奏となる。確かにロシア出自の奏者がロシア作家の作品を弾くのであるから相性は抜群だろうし、それは青森出身の一流演奏家が津軽三味線を弾くようなもので、つまりオリジナル主義の最たるものと思われる。
では、結果はどうであったかというと、これが実にあっけらかんと何の衒いもギミックもない男前の展覧会の絵であった。もっともっと微細にディテールを穿ったような用意周到な解釈かと思ったが、蓋を開けてみたら妙なことはせずに真っ直ぐにこちらへ向かってくる演奏を仕掛けてきていた。
但し、一つだけ変則的な箇所があって、それはビドロ。ここは規則的な左打鍵が重く貫かれる箇所で、展覧会の絵の中で最も質量感があって焦燥感および悲哀を感じさせるところ。
どういったわけか、普段は律義であって無意味な冒険をすることを好まないメジューエワには珍しく、小節ごとにテンポを微細に変えてくる。ビドロの前半の譜面を示しておく。楽譜の最初に速度指示が書いてあるが、それは Senpre moderato pesante とのこと。日本語で言うなら、「絶えず 中くらいの速さで 重々しく」となる。実際の演奏では2~3小節ごとに緩急を強めかつ唐突につけて演奏している。ここに示している譜面はビドロの冒頭~中間部だが、青マーカーがインテンポに比較して速い部分、赤マーカーが遅い部分。これを見ると小節内でも音価ごとに重みを微細に変動させていることがわかる。
(右の譜面はクリックで拡大)
それと、テュイルリーがちょっとだけ変わっていて、普通の奏者はガラス球が弾けたような燦然とした煌めきと息を飲むような高速性を誇示するところ、速度表示は守りつつ艶消しのごとく過度に飛翔しない演奏設計としている。ということで、奇を衒った演奏ではなくて骨太かつ当たり前の演奏だったのだ。メジューエワならではの新しい解釈を暗に期待はしていたが、展覧会を録音するにあたり、サーカスの技を弄するようなエキセントリックな芸風には迎合すべきではないという、現在では教職にも身を置く彼女からのメッセージだったのかもしれない。
後半のラフの小品集は、ある意味では展覧会よりも精神力が集中している優れた演奏であり、これこそがメジューエワ、といった詩心に満ちた出来栄えだ。メトネルやスクリャービンといったちょっと解釈の難しい揺れ動く旋律ラインの演奏については彼女の十八番といえ、この小品集もその前例に見事に嵌っている。こういった思索的で難しい作品をやらせると彼女の内声が強く浮き出るように作用して来て良い方向に行く場合が殆どだ。つまり、彼女の神髄が後半のラフにあるということ。さりとて前半の展覧会が不優秀ということはないのだが。
フラグメント(=断章と邦訳)のなんともやるせない理不尽な和声と飛翔感溢れる旋律の跳躍と呟き、そして遺作プレリュードの、重さがあるコード展開なのだが得も言われぬ寂寥感がたまらなく秀逸な旋律。白眉を挙げるのは困難なくらいプレリュード抜粋は素晴らしい。前半の展覧会が中太から太筆で揮毫された豪快な流し文字とするならば、後半のラフでは太い筆から中細あるいは極細の筆に持ち替え、細密かつ丹念、しかし大胆に書かれたマニュスクリプトと比喩できるのである。そして最終の変ニ長調プレリュードでは再び極太の筆に持ち替えて墨痕鮮やかに「男前」で弾き切っている。
この人のピアノはどんな作品であれ、逐一なんらかのメッセージが含まれていて聴くたびに色々と考えさせられてしまうのであった。日本国内のみの活動というのはとても残念で、インターナショナルな舞台で活躍して欲しいと思うのだが、彼女は日本人と結婚して日本人として生きていくことを選択している由、それはそれで我々としては歓迎すべきことなのだろうと思う。
(録音評)
若林工房、WAKA4180、通常CD。録音は2014年9月、新川文化ホール(富山県魚津市)。音質は通常の若林のそれと大きく変動はなく、とても静かな背景から綺麗なスタインウェイがポッと出現するというパターン。メジューエワの上部雑音は殆どなくてとても静謐なのだ。楽器を強打する場面、特に展覧会においては多発するのであるがピーキーで歪っぽい部分はほぼ皆無。最強打鍵をしているに拘わらず混変調が全くないという稀有なこのピアノ演奏はメジューエワの特権ではなかろうか。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫


http://tower.jp/item/3750667/
Mussorgsky: Pictures at an Exhibition
1.Promenade
2.Gnomus
3.Promenade
4.The Old Castle
5.Promenade
6.Tuileries
7.Bydlo(The Oxen)
8.Promenade
9.Ballet of the Unhatched Chicks
10.Samuel Goldberg and Schmuyle
11.Promenade
12.The Marketplace at Limoges
13.The Catacombs
14.Cum Mortuis in Lingua Mortua
15.Baba Yaga
16.The Great Gate of Kiev
Rachmaninoff:
Fragments in A flat major, posth
Prelude in D minor, posth
Prelude Op.23 No.7, in C minor
Prelude Op.32 No.10, in B minor
Prelude Op.32 No.5, in G minor
Prelude Op.32 No.12, in G-sharp minor
Prelude Op.32 No.13, in D-flat major
Irina Mejoueva(Pf)
ムソルグスキー: 組曲 展覧会の絵
ラフマニノフ:
断片 変イ長調(1917)
プレリュード ニ短調(遺作)
プレリュード ハ短調 作品23の7
プレリュード ロ短調 作品32の10
プレリュード ト長調 作品32の5
プレリュード 嬰ト短調 作品32の12
プレリュード 変ニ長調 作品32の13
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
メジューエワはロシア出身なのでムソルグスキー、とりわけ展覧会の絵は得意中の得意であろうとのスペキュレーションは容易に成り立つ。彼女は展覧会の絵に関しては今までライブ演奏の模様を2回出しているそうだ。けれども腰を落ち着けたセッション録音は一枚も出していなかったので、この盤が展覧会の絵の初の正式録音となるようだ。
そのライブ盤は今まで一度も聴いたことがないので私にとってもメジューエワのこの展覧会の絵は初めて聴く演奏となる。確かにロシア出自の奏者がロシア作家の作品を弾くのであるから相性は抜群だろうし、それは青森出身の一流演奏家が津軽三味線を弾くようなもので、つまりオリジナル主義の最たるものと思われる。
では、結果はどうであったかというと、これが実にあっけらかんと何の衒いもギミックもない男前の展覧会の絵であった。もっともっと微細にディテールを穿ったような用意周到な解釈かと思ったが、蓋を開けてみたら妙なことはせずに真っ直ぐにこちらへ向かってくる演奏を仕掛けてきていた。
但し、一つだけ変則的な箇所があって、それはビドロ。ここは規則的な左打鍵が重く貫かれる箇所で、展覧会の絵の中で最も質量感があって焦燥感および悲哀を感じさせるところ。
どういったわけか、普段は律義であって無意味な冒険をすることを好まないメジューエワには珍しく、小節ごとにテンポを微細に変えてくる。ビドロの前半の譜面を示しておく。楽譜の最初に速度指示が書いてあるが、それは Senpre moderato pesante とのこと。日本語で言うなら、「絶えず 中くらいの速さで 重々しく」となる。実際の演奏では2~3小節ごとに緩急を強めかつ唐突につけて演奏している。ここに示している譜面はビドロの冒頭~中間部だが、青マーカーがインテンポに比較して速い部分、赤マーカーが遅い部分。これを見ると小節内でも音価ごとに重みを微細に変動させていることがわかる。(右の譜面はクリックで拡大)
それと、テュイルリーがちょっとだけ変わっていて、普通の奏者はガラス球が弾けたような燦然とした煌めきと息を飲むような高速性を誇示するところ、速度表示は守りつつ艶消しのごとく過度に飛翔しない演奏設計としている。ということで、奇を衒った演奏ではなくて骨太かつ当たり前の演奏だったのだ。メジューエワならではの新しい解釈を暗に期待はしていたが、展覧会を録音するにあたり、サーカスの技を弄するようなエキセントリックな芸風には迎合すべきではないという、現在では教職にも身を置く彼女からのメッセージだったのかもしれない。
後半のラフの小品集は、ある意味では展覧会よりも精神力が集中している優れた演奏であり、これこそがメジューエワ、といった詩心に満ちた出来栄えだ。メトネルやスクリャービンといったちょっと解釈の難しい揺れ動く旋律ラインの演奏については彼女の十八番といえ、この小品集もその前例に見事に嵌っている。こういった思索的で難しい作品をやらせると彼女の内声が強く浮き出るように作用して来て良い方向に行く場合が殆どだ。つまり、彼女の神髄が後半のラフにあるということ。さりとて前半の展覧会が不優秀ということはないのだが。
フラグメント(=断章と邦訳)のなんともやるせない理不尽な和声と飛翔感溢れる旋律の跳躍と呟き、そして遺作プレリュードの、重さがあるコード展開なのだが得も言われぬ寂寥感がたまらなく秀逸な旋律。白眉を挙げるのは困難なくらいプレリュード抜粋は素晴らしい。前半の展覧会が中太から太筆で揮毫された豪快な流し文字とするならば、後半のラフでは太い筆から中細あるいは極細の筆に持ち替え、細密かつ丹念、しかし大胆に書かれたマニュスクリプトと比喩できるのである。そして最終の変ニ長調プレリュードでは再び極太の筆に持ち替えて墨痕鮮やかに「男前」で弾き切っている。
この人のピアノはどんな作品であれ、逐一なんらかのメッセージが含まれていて聴くたびに色々と考えさせられてしまうのであった。日本国内のみの活動というのはとても残念で、インターナショナルな舞台で活躍して欲しいと思うのだが、彼女は日本人と結婚して日本人として生きていくことを選択している由、それはそれで我々としては歓迎すべきことなのだろうと思う。
(録音評)
若林工房、WAKA4180、通常CD。録音は2014年9月、新川文化ホール(富山県魚津市)。音質は通常の若林のそれと大きく変動はなく、とても静かな背景から綺麗なスタインウェイがポッと出現するというパターン。メジューエワの上部雑音は殆どなくてとても静謐なのだ。楽器を強打する場面、特に展覧会においては多発するのであるがピーキーで歪っぽい部分はほぼ皆無。最強打鍵をしているに拘わらず混変調が全くないという稀有なこのピアノ演奏はメジューエワの特権ではなかろうか。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2015-06-12 23:34
| Solo - Pf
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