2015年 06月 02日
Liszt: Reminescenses de Norma Etc@Vesselin Stanev |
昨年末のRCA Red Sealのリリースで、ヴェッセリン・スタネフという技巧派が弾くリスト中~後期作品集。なお、これはSACDハイブリッド。

http://tower.jp/item/3720746
Liszt:
Années de pèlerinage II (Deuxième année: Italie), S.161
Mephisto Waltz No.1, S.514
Réminiscences de Don Juan, S.418
Réminiscences de Norma, S.394
Vesselin Stanev (Pf)
ヴェッセリン・スタネフ / リスト:ノルマの回想~ピアノ作品集
リスト:
ノルマの回想
ダンテを読んで
メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
ドン・ジョヴァンニの回想
ヴェッセリン・スタネフ(Pf)
現代において「リスト弾き」と明確に呼ばれるピアニストがいるとも思えないが、その昔はそういった冠を被された奏者がそこそこいた。MusicArenaではフランツ・リスト作品の録音を数多く取り上げてきているので常連の方々は、またか・・ とお思いだろうが、ちょっとだけ反芻。
リストのピアノ作品は演奏が物理的・力学的にハードルが高いことは勿論だが、その構造が他のロマン派作家たちとは大きく異なっていて特異、そして求められる内面解釈と音楽の構造設計が更に風変りだ。かなり個性的で奇怪な譜面からはリストの本当の神髄を引き出すことは相当に困難だと思う。こういう便利な世の中になったので先達の色んな演奏を検索してリアルに聴くことができ、昔ほどリスト演奏は難しいとは言えないご時世だろうが、それでも傑出した録音は殆ど出てこない。
もう四半世紀以上前になるが、リストを専門に弾く凄い人たちがいた。色んな演奏家がいたので皆さんがどういった基準で誰を最高のリスト弾きと認識していたかはそれぞれだと思うが、私の場合には、それはフランス・クリダ、アンドレ・ワッツ、ジョルジュ・シフラ、そしてアグスティン・アニエヴァスだった。これと、短命だったがラザール・ベルマンも加えておこうか。MusicArenaでは過去にリスト作品を多く取り上げているので検索してもらうと色々と出てくるので参考にしてほしい。
そして、このヴェッセリン・スタネフだが、商業的にはリスト弾きとしてスタートを切ったようだ。今回取り上げたRCA Red Sealへ吹き込んだ第一弾は超絶技巧練習曲だった。これに関しては買っていないがハイライトがYouTubeに上がっていたので既に聴いていた。そして第二弾としてこのアルバム、即ち、超絶技巧よりかは更に難解と思われるインサイトを内包するノルマの回想/ダンテソナタ/メフィストワルツ/ドン・ジョヴァンニの回想が出たという訳で、超絶技巧よりもこちらを優先して買ったという次第。
ここに及んで著名なこれら4曲の説明は割愛するが、いずれもそれほど音数が多くはない動機と主題、展開部、再現部と、必要以上に膨らませない和声が特徴となる超難曲である。リストの場合には同じピアノ専門作家であったショパンと様々に対比されるのだが、前述のとおりリストは割とシンプルな音価を連ねるが、周波数レンジが極めて広く、かつ俊敏な過渡特性が要求されるのに対し、ショパンは多くの音価を用いて複雑で多面的、しかし周波数レンジはそれほど広くは要求しないしリストほどのハイスピード特性も求められない。この違いはおそらく上半身の体躯の屈強さと広げた時の両手の大きさに由来するものと楽譜からは読み取れる。ハイライト部における両者の譜面上の違いは、常套的なオクターヴ・ユニゾンと幅広なスケール、離散する音価に対する苛烈なスタッカートを特徴としているリストに対し、ショパンは微細な上下動スケールと穏和な分散和音、過度で劇的な転調、移調、そしてトレモロ的な装飾譜やトリルが特徴となる。
リストを完全に弾くための技法はショパンの両エチュードやプレリュード、アンプロンプトゥ、ワルツ、マズルカ集などを習得したとしても得られないというのが私の持論で、リストのためにはリスト特化型の訓練プログラムが必要と思う。加えて、例えば歴史的な詩歌や神話に出てくる逸話を深く読み込む、あるいは日本で言えば短歌や俳句を読む能力を養成するだとかといった言語能力、自然や四季に関する感受性、そしてそれらから派生する総合的な概念構築力が必要と思われるのである。
前置きが長くなったが、結論づけると、現代における凄いリスト弾きがこのスタネフということ。前述のとおり、現代においてはリストの困難な作品をそこそこの完成度で弾くことは可能な環境だ。それはある特定曲に関しては特段に時間をかけて訓練して打ち込めば可能となるのであろうが、そういった特命的な訓練を施した演奏がリスト全般の演奏を可能にするとも思われないのは前述のとおり。そういった普遍性という点においてはスタネフのリスト解釈は今までの栄えあるリスト弾きの風情を踏襲していると言ってよい。
私が聴いたことのあるリスト弾きにはいくつかタイプがある。たとえば、ラザール・ベルマンはタッチが重いけれども超高速性能を維持していて、ソリッドで重金属のような得も言われぬ鈍色を発していた。パワーとスピードが両立したタイプだ。近年になりちょっとだけ話題になったヴォロドスの弾き方はベルマンのこの形質とだいたい似ている。超絶技巧練習曲しか聴いたことはないが小菅優の路線もこちらに近いと思われる。ジョルジュ・シフラは超絶技巧で鳴らした幻の超高速打鍵が特徴できらきらとしたブリリアンスとフローラルな芳香が印象的、だが、独特の歌い方があって分析的に言えば時間軸の揺らぎ=ジッターをうまく利用していた。これと近い、あるいはもうちょっと細くて繊細な音が出ているのがアリス=紗良・オット。もちろん技巧的には比べるべくもなく、オットがシフラ級に成長するにはなお相当年月を要するだろうが。別格なのはワッツとクリダで、どちらも質量感が殆どない軽い打鍵ながら超高速性能を具備していていまだに忘れえない。そして、スタネフの弾き方はクリダに似た軽量ハイスピード、そして外連味がないのに確かな語法を確立していて雄弁なのだ。ということで、このスタネフのリストはとりもなおさず必聴ものということ。
(録音評)
RCA Red Seal(ソニークラシカル)、0888430716421、SACDハイブリッド。録音は2014年5月19-22日、ベニューはお馴染みのベルリン、テルデックス・スタジオ。使用したピアノはハンブルク・スタインウェイと明記があるのはとても珍しい。音質だが、このピアノはNYスタインウェイに劣後することのない極めて優秀な音を出す楽器で、かつ調律も確か。スタネフの打鍵技術のなせる技なのかもしれないが、ダイナミックレンジが広大なリストのこれらの大曲を混変調歪を全く伴わず最初から最後まで弾き終えているのだ。超強打鍵から最弱までリニアリティを保ったまま微視的に聴きこんでも全く破綻がないという、まるでシンセサイザーのような正確な正弦波が描かれていると言っておこう。この盤はSACDレイヤーで聴くべきである。恐ろしく澄明な背景にほんの少しの暗騒音的ノイズが認められるが、それはマイクプリの残留ノイズとスタネフのフィンガー・キー・ノイズの一部と思われる。CDレイヤーで聴くとこれらの暗騒音的なノイズは殆ど聴こえず寧ろ不自然なほどの静寂さだ。このごろのソニーのピアノ録音は優秀だ。
注:このページのジャケット写真とタワレコのリンク先のジャケット写真が異なっているが、私が購入・試聴したのは本ページ上の写真のもの。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

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Années de pèlerinage II (Deuxième année: Italie), S.161
Mephisto Waltz No.1, S.514
Réminiscences de Don Juan, S.418
Réminiscences de Norma, S.394
Vesselin Stanev (Pf)
ヴェッセリン・スタネフ / リスト:ノルマの回想~ピアノ作品集
リスト:
ノルマの回想
ダンテを読んで
メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」
ドン・ジョヴァンニの回想
ヴェッセリン・スタネフ(Pf)
現代において「リスト弾き」と明確に呼ばれるピアニストがいるとも思えないが、その昔はそういった冠を被された奏者がそこそこいた。MusicArenaではフランツ・リスト作品の録音を数多く取り上げてきているので常連の方々は、またか・・ とお思いだろうが、ちょっとだけ反芻。
リストのピアノ作品は演奏が物理的・力学的にハードルが高いことは勿論だが、その構造が他のロマン派作家たちとは大きく異なっていて特異、そして求められる内面解釈と音楽の構造設計が更に風変りだ。かなり個性的で奇怪な譜面からはリストの本当の神髄を引き出すことは相当に困難だと思う。こういう便利な世の中になったので先達の色んな演奏を検索してリアルに聴くことができ、昔ほどリスト演奏は難しいとは言えないご時世だろうが、それでも傑出した録音は殆ど出てこない。
もう四半世紀以上前になるが、リストを専門に弾く凄い人たちがいた。色んな演奏家がいたので皆さんがどういった基準で誰を最高のリスト弾きと認識していたかはそれぞれだと思うが、私の場合には、それはフランス・クリダ、アンドレ・ワッツ、ジョルジュ・シフラ、そしてアグスティン・アニエヴァスだった。これと、短命だったがラザール・ベルマンも加えておこうか。MusicArenaでは過去にリスト作品を多く取り上げているので検索してもらうと色々と出てくるので参考にしてほしい。
そして、このヴェッセリン・スタネフだが、商業的にはリスト弾きとしてスタートを切ったようだ。今回取り上げたRCA Red Sealへ吹き込んだ第一弾は超絶技巧練習曲だった。これに関しては買っていないがハイライトがYouTubeに上がっていたので既に聴いていた。そして第二弾としてこのアルバム、即ち、超絶技巧よりかは更に難解と思われるインサイトを内包するノルマの回想/ダンテソナタ/メフィストワルツ/ドン・ジョヴァンニの回想が出たという訳で、超絶技巧よりもこちらを優先して買ったという次第。
ここに及んで著名なこれら4曲の説明は割愛するが、いずれもそれほど音数が多くはない動機と主題、展開部、再現部と、必要以上に膨らませない和声が特徴となる超難曲である。リストの場合には同じピアノ専門作家であったショパンと様々に対比されるのだが、前述のとおりリストは割とシンプルな音価を連ねるが、周波数レンジが極めて広く、かつ俊敏な過渡特性が要求されるのに対し、ショパンは多くの音価を用いて複雑で多面的、しかし周波数レンジはそれほど広くは要求しないしリストほどのハイスピード特性も求められない。この違いはおそらく上半身の体躯の屈強さと広げた時の両手の大きさに由来するものと楽譜からは読み取れる。ハイライト部における両者の譜面上の違いは、常套的なオクターヴ・ユニゾンと幅広なスケール、離散する音価に対する苛烈なスタッカートを特徴としているリストに対し、ショパンは微細な上下動スケールと穏和な分散和音、過度で劇的な転調、移調、そしてトレモロ的な装飾譜やトリルが特徴となる。
リストを完全に弾くための技法はショパンの両エチュードやプレリュード、アンプロンプトゥ、ワルツ、マズルカ集などを習得したとしても得られないというのが私の持論で、リストのためにはリスト特化型の訓練プログラムが必要と思う。加えて、例えば歴史的な詩歌や神話に出てくる逸話を深く読み込む、あるいは日本で言えば短歌や俳句を読む能力を養成するだとかといった言語能力、自然や四季に関する感受性、そしてそれらから派生する総合的な概念構築力が必要と思われるのである。
前置きが長くなったが、結論づけると、現代における凄いリスト弾きがこのスタネフということ。前述のとおり、現代においてはリストの困難な作品をそこそこの完成度で弾くことは可能な環境だ。それはある特定曲に関しては特段に時間をかけて訓練して打ち込めば可能となるのであろうが、そういった特命的な訓練を施した演奏がリスト全般の演奏を可能にするとも思われないのは前述のとおり。そういった普遍性という点においてはスタネフのリスト解釈は今までの栄えあるリスト弾きの風情を踏襲していると言ってよい。
私が聴いたことのあるリスト弾きにはいくつかタイプがある。たとえば、ラザール・ベルマンはタッチが重いけれども超高速性能を維持していて、ソリッドで重金属のような得も言われぬ鈍色を発していた。パワーとスピードが両立したタイプだ。近年になりちょっとだけ話題になったヴォロドスの弾き方はベルマンのこの形質とだいたい似ている。超絶技巧練習曲しか聴いたことはないが小菅優の路線もこちらに近いと思われる。ジョルジュ・シフラは超絶技巧で鳴らした幻の超高速打鍵が特徴できらきらとしたブリリアンスとフローラルな芳香が印象的、だが、独特の歌い方があって分析的に言えば時間軸の揺らぎ=ジッターをうまく利用していた。これと近い、あるいはもうちょっと細くて繊細な音が出ているのがアリス=紗良・オット。もちろん技巧的には比べるべくもなく、オットがシフラ級に成長するにはなお相当年月を要するだろうが。別格なのはワッツとクリダで、どちらも質量感が殆どない軽い打鍵ながら超高速性能を具備していていまだに忘れえない。そして、スタネフの弾き方はクリダに似た軽量ハイスピード、そして外連味がないのに確かな語法を確立していて雄弁なのだ。ということで、このスタネフのリストはとりもなおさず必聴ものということ。
(録音評)
RCA Red Seal(ソニークラシカル)、0888430716421、SACDハイブリッド。録音は2014年5月19-22日、ベニューはお馴染みのベルリン、テルデックス・スタジオ。使用したピアノはハンブルク・スタインウェイと明記があるのはとても珍しい。音質だが、このピアノはNYスタインウェイに劣後することのない極めて優秀な音を出す楽器で、かつ調律も確か。スタネフの打鍵技術のなせる技なのかもしれないが、ダイナミックレンジが広大なリストのこれらの大曲を混変調歪を全く伴わず最初から最後まで弾き終えているのだ。超強打鍵から最弱までリニアリティを保ったまま微視的に聴きこんでも全く破綻がないという、まるでシンセサイザーのような正確な正弦波が描かれていると言っておこう。この盤はSACDレイヤーで聴くべきである。恐ろしく澄明な背景にほんの少しの暗騒音的ノイズが認められるが、それはマイクプリの残留ノイズとスタネフのフィンガー・キー・ノイズの一部と思われる。CDレイヤーで聴くとこれらの暗騒音的なノイズは殆ど聴こえず寧ろ不自然なほどの静寂さだ。このごろのソニーのピアノ録音は優秀だ。
注:このページのジャケット写真とタワレコのリンク先のジャケット写真が異なっているが、私が購入・試聴したのは本ページ上の写真のもの。
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by primex64
| 2015-06-02 00:13
| Solo - Pf
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